がん患者の心の苦悩・うつ・自殺予防
=(13)死に逝くがん患者は「わたし」意識の再構築、「安らぎ」「生きる意味付け」を求める
がんになると、「何らかの軸、それが死生観や人生観だと思うのだが、そう
いうものがないと溺れてしまうのだろう」「独自の人生観を「マイ哲学」で築
いていた人間は、死を前にしても堂々たるものだった。」といっています。
ただし、宗教団体に向かうということではなく、「自分の目で考えることが
一番大事である」という患者さんの言葉があるということでした。
こういうテーマは「スピリチャルケア」という研究領域があります。
末期ガンという不治の病を負い、死の危機に置かれた患者の闘病記等を検討
したところ、死の危機に直面した人の多くが宗教的なものへの関心を示すとい
います。ただし、特定の教団や開祖への関心ではないといいます。
「スピリチャリティの本質は、科学性・客観性・論理性を超えたもので、死
に直面して抱える問題の解決に向けて覚醒することが明らかになった。特に、
死という危機は既存の「わたし」意識を崩壊させて、それまでの人生計画・将
来の希望・自己像などを崩壊・破壊・分裂・喪失させてしまう。そこで新たな
「わたし」意識を再構築しなくてはならない。「わたし」意識の再構築のため
に宗教への関心が起きている。宗教への関心の中心は、崩壊した「わたし」意
識の回復である。宗教への関心は入信ではなく、むしろ「わたし」意識の癒し
の問題である。死に逝く人は教団・教義・礼典・教祖などには、ほとんど関心
を示していない。顕著なことは、宗教が示している「安らぎ」「生きる意味付
け」「怒りの対象」である。これらのものは、宗教が提供してきたもので、キ
リスト教・仏教・神道などに共通したものである。宗教の種類やその組織的教
義的内容には、これらの人達は無関心である。」(窪寺俊之「死に逝く人のス
ピリチャリティ覚醒の研究」日本ホスピス・在宅ケア研究会発行「スピリチャ
ルケア第2集」49頁)
死を意識したがん患者さんは,,「自分」とか「生きる意味」に関心を示すが上記のとおりである。と
すれば、次の特徴があることになるだろう。
- 患者が宗教に関心を示すものは、教団・教義・礼典・教祖などではなく、
「わたし」意識の再構築、「安らぎ」「生きる意味付け」「怒りの対象」など
である。
- そうだとすると、がん患者のスピリチャルケアを支援する医者、カウンセ
ラーは、こういう問題について支援できる人でないといけない。自分の死生観
を持つが、それを押し付けるのではない人。
- 傾聴型だけでもなく、治ることを前提とした心理療法でもないだろう。
特殊領域であり、スピリチャルなことに詳しい人でないと難しいだろう。
宗教者も可能性があるが、こういうテーマに深い医師、カウンセラー、隣人、家族が適任かもしれない。
- 患者さんによっては探求する時間は長くはない。半年から1年の短期かもしれない。
これは難しい。こういう支援ができる医師、カウンセラー、ボランティア、
宗教者はこれまでは少なかったのだろう。だから、現在まで、がん患者がスピリチャルケアが
されていないと繰り返し指摘されているのだろう。
しかし、スピリチャルケアがされないと、患者は魂の苦しみにあえぎ、うつとな
り治療意欲を失い、自殺の危険さえもたらす。スピリチャルケアのできる人を
育成しなければならない。また、本人自身ができることが多い領域であると思う。
マインドフルネス心理療法ががん患者のスピリチャルケアに適用されたとい
う文献をみていないが、今後、とりくむべきテーマである。マインドフルネス
心理療法は禅の哲学に似た自己観が背景にあるので、
「わたし」意識の再構築、「安らぎ」「生きる意味付け」についてがん患者さ
んに援助できるだろう。過去、未来を前提としない「絶対現在」しかないとい
うときの「わたし」とは何か。生きているとか死ぬとかするものなのか。そう
いう探求をしていくのであるから、緊急には間に合わないかもしれない。高齢
になったら、やがては、迎えるのが明白であるのだから、少し早くからこうい
う問題に取り組みはじめておくのがいいのだろう。
(続く)
病院に入院中の患者さんの自殺防止