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PTSD、トラウマの神経生理学的特徴 [2008年08月11日(Mon)]

PTSD、トラウマの神経生理学的特徴とマインドフルネス心理療法

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)も薬物療法だけでは完治しない人がいる。いくつかの脳神経領域に変調があって薬物療法が効果がない人や心理的な柔軟性に問題があって治りにくい人がいる。そこで、さらに新しい心理療法を試みるのであるが、神経生理学的な特徴を理解しておくことは治療方針や動機づけに役立つ。

PTSD患者の前部帯状回、海馬、前頭前野に特徴

 PTSDの患者には前部帯状回(内側前頭前野)、海馬、前頭前野に特徴がみられる。
     「表8.5は、PTSD患者の脳局所体積の研究をメタ解析したKarlら(2006)の主な知見をまとめたものである。未成年と成人で異なるところもあるが、簡略化すれば、これらの知見のうち、海馬、前部帯状回、前頭前野の3つの部位の体積の小ささがとくに注目されてきたものである。
     海馬と前頭前野はエピソード記憶と意味記憶の符号化と検索に携わっていることから、その体積減少は陳述記憶システムの相対的劣性を生じやすい基盤となる。PTSD患者に認められた記憶と前頭葉機能に関する障害の多くもこれに関連しているものと解釈できる。 また、前部帯状回は扁桃体を調節することによる条件付けの消去に関与しているので、その体積減少はいったん恐怖体験によって条件付けられた反応を容易に消去できない基盤となる。」(参考書213頁)
 情動記憶システムは外的刺激の情動的価値(有害/無害)に関する情報を習得・貯蔵する潜在的記憶過程である。このシステムでは扁桃体が中心的な役割をになっている(208頁)。陳述記憶システムは、記憶内容が意識に上る記憶システムで海馬が中心的な役割を果たしている(210頁)。記憶の符号化(登録のこと)は海馬がにない、検索、想起は前頭前野背外側部がになっている。

    (参考書)「PTSDと解離性障害にみる記憶と自己の多重性」西川隆(大阪府立大学総合リハビリテーション学部)(「精神の脳科学」加藤忠史編、東京大学出版会、2008)。

治療方針=前頭前野の活性化

 多くの研究によって、PTSDの場合、扁桃体が興奮して内側前頭前野(前部帯状回)が低い活性度 を示す。「しかしながら内側前頭前野と扁桃体のどちらの機能異常がより一次的であるのかは引き 続き検討が必要である」(689頁、上記注2)とするものの、どちらかというと、前頭前野の機 能不全(制御が不十分)のようである。
     「PTSD患者を対象とした脳画像研究の結果では内側前頭前野と扁桃体は一方の活性が高いと他方 の活性が低いという相反関係にあることが示唆された。動物実験の結果では内側前頭前野は恐怖の 消去に関わることが明らかにされている。したがってPTSDの病態を消去の失敗と捉えるならば、内 側前頭前野の機能不全が一次的原因となっている可能性がある。」(690頁、上記注2)
 こうした神経生理学的特徴を理解すると治療方針がたつ。神経生理学的フュージョン(連合)を 推測して、そこに心理療法的介入を試みる。パニック障害の広場恐怖も同様であろう。
 内側前頭前野の機能不全、すなわち、抑制機能の活性度が低いのであるから、抑制スキルを活性 化させることが主な治療方針となる。薬物療法でそれがうまく効かない場合でも、マインドフルネ ス心理療法で行う。「注意集中の訓練」「無評価で観察」「不快事象の受容」「不要刺激の解放」 などのトレーニングをして、意識的、無意識レベルの両方の「非機能的行動に連合させることの解 消」を行なうトレーニングをすることによって前頭前野の抑制機能を向上させることになる。
 PTSDにはフラッシュバック、悪夢のような単に心理的とは言えない症状がある。パニック発作も 就寝中に発作が起きる場合もあることから、これも単に心理的な問題であるよりは脳神経生理学的 な亢進があるとみられる。こういう場合、こういう発作の起きる頻度が少なくならないとエクスポ ージャー法を実行することはむずかしい。まずその責任部位の亢進がしずまるような対策(薬物療 法、心理療法)が治療方針となる。マインドフルネス心理療法では、呼吸法や運動に意識を集中す るトレーニング、非機能的な行動に移ることを抑制するトレーニングをすることが問題部位の機能 を向上させる機序は明確ではない(注4)ものの、基礎的なトレーニングを実行していると悪夢やフラッシュ バックの起きる回数が減少してくる。このようなトレーニングによって海馬や前頭前野に変化が起 きると推測される。
 次に第二の段階にはいる。基礎的なトレーニングで直接経験への無評価の観察、不快事象の受容 、不要刺激の解放などの基礎的スキルが習得され、発作的な症状が起きなくなって自信ができた段 階に至ってから、回避するものへのエクスポージャーを試みる。
 こうした治療に必要であるのは内側前頭前野の向上のトレーニングである。すなわち、呼吸法を 行いながら従来回避していたものに直面する。身体は反応するが無評価で観察を続ける。呼吸法を 行いながら「大丈夫だ」と繰り返しとなえながら長時間、呼吸法の中で無評価で観察し、やがて身 体反応が変化していくのを自覚する。これを何度も試みる。相当、マインドフルネスとアクセプタ ンスの基礎的トレーニング(注3)を行なってからでないとむずかしい。
    (注)
    • (3)構造化された自己洞察瞑想療法のプログラムの場合、セッション1から10までを修了し た後にトラウマにエクスポージャーする方法を試みる。軽い場合には途中でも自信ができてエクス ポージャー法を試みることができる場合もある。
    • (4) 「ストレスとはなんだろう」( 杉晴夫氏、講談社)によれば、大脳皮質には多くの抑制性のニューロンが眠っている。 「眠った神経連絡路」が目覚めてしまったのが、PTSDの種々の症状であり、これを治療するマインドフルネス心理療法の技法が効果のある理由も説明がつく。臨床をかさねてからそれをまとめたい。可塑性ある部位(反復性増強)を廃用性萎縮に追い込むのがマインドフルネス心理療法の種々の技法であるという仮説でトレーニングする。これは、うつ病、非定型うつ病、パニック障害、社交不安障害なども同様である。 「眠った神経連絡路」を眼ざまさせてしまった患者の亢進部位を抑制のトレーニングによって廃用性萎縮に追い込み、使用頻度が低いために抑制機能が低下していた眼窩前頭前野、背外側前頭前野などの適切使用による可塑性を形成する。これが、マインドフルネス心理療法の神経生理学的な有用性の根拠である。
Posted by MF総研/大田 at 12:03 | パニック障害・PTSD | この記事のURL