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精神科医、カウンセラーは謙虚でありたい [2008年02月26日(火)]

精神科医、カウンセラーは謙虚でありたい

 =「精神科医は信用できるか」(12)

 「あわの診療所」の所長、精神科医の粟野菊雄氏が大学で講演した講義の内容でカウンセラーの資質にふれている。粟野氏は、具体的な症例を説明した後、「症例から学ぶ大切なこと」として4つ、あげられた。

本末転倒に注意

 第三のポイントを注目したい。粟野医師の言葉を(a)(b)の、二つにわける。
    「(3)本末転倒に注意
     (a)”治療者”として人に対するときには、”患者を、自分の信奉する理論や、自分の得意とする治療技法の中に閉じ込める傾向がある”ということを忘れてはいけません。治療者が患者の症状のどこかに、自分の信奉する治療技法に当てはまる部分を見つけるのは容易なことです。それが何時の間にか、患者の存在全体をそれらの中に押し込めて、

    (b)患者を操作する全能者として、治療者が患者の前に立つことがあります。しかし、治療者が全能者であるわけはありません。」(1)

 精神科医やカウンセラーがカウンセリング、心理療法を行なう場合の注意点である。和田氏と同じような指摘をされている。  
  • (a)自分の信仰、好き嫌い、偏見におしこめる
     (a)は、研究者やカウンセラーが自分で信じるもの、好きなもの、先入見、偏見をもっていて、 患者を、その中に押し込めるような手法をいい、それでは「心のゆがみ」があることになるだろう。そういう傾向が他者と直接ぶつかりあう環境にある場合、心の病気になる傾向や他者を苦しめる傾向があり、それに自覚がないような人は、よきカウンセラーになれないだろう。自分の認知のゆがみに自覚がなければ、苦悩する人のゆがみを指摘して治癒への援助をできないからであろう。
     田畑氏の言葉にも同様のことがあって、次のような自己洞察が要求されているというのと同じような資質であろう。
       「カウンセラーは、「暗々裡に・・・してしまう自分」という無意識的心情の水準にまで掘り下げて、透徹した理解や認識をもっていると言えます。すべてのすぐれたカウンセラーは、この点に関してはっきりとした理解や認識をしている人であると言えるのです。」(2)
     これは、自分の説の絶対視、偏見などは、本人にはそのままでは自覚されにくいということであり、そういう偏った傾向に自分が陥っていないかを指導者との対話を参考にして常に自己洞察していることであろう。カウンセラーも、そういう固定観念におちないようにしていることに敏感で、意識できるような資質を持たねばならないのであろう。
     「無意識的心情の水準にまで掘り下げて」というのは、一般の人では自覚しにくい偏見、誤解、先入見などに敏感で、意識できるような資質といえるであろう。偏見、先入見を指導者から指摘されて、自分でも常に、そういう固定観念におちないように自己洞察の生活を送るといってよい。
     こういう自分の信や固定観念などに基づいて、知らず知らず、それにあてはめてものごとを見る人は、カウンセラーにはふさわしくないわけである。

  • (b)全能者として立つ
    (b)は「患者を操作する全能者として、治療者が患者の前に立つ」「治療者が全能者であるわけはありません」ということであるが、これは、自分の能力について過信し、他者を見下すような傲慢な心になりがち、といってよいであろうか。頭のよい者は、知性、学問によって、すべてをわかったつもりになっている人が多いように見える。たとえば、学者が、実践者を否定、批判することが多い。学者が、実践者、患者の前で、全能者としてふるまっているように感じられることがある。そういう傾向が、研究者にあって、あたかも、自分がすべてを理解している全能者であるかのごとくふるまう傾向があるのではないか。また、理解と実践とは相当の違いがある。
     自分の苦の解決は簡単である。指導者に従って実行するうちに自分の苦は軽減する。しかし、カウンセリングは、他者の救済であるから、通常は、他者が経験する多くの苦を理解した者が行う。自分だけの苦の体験だけでは、カウンセラーにはなれない。誰も全能ではない。自分が全能者の立場に立ちたくなる心理が働くかもしれないが、人々の苦は広く、深く、クライアントに全能者として立ってはならない。そのクライアントを長くひきとめて、その将来の人生にかかわっていくことがカウンセリングの目標でもない。カウンセリングを行うならば、心の病気について、十分勉強すればよい。勉強しないで、推測してはいけない。
 信、先入見、偏見などに押し込める自覚されにくい心、全能者として振舞う心がある人は、よき心理療法者、カウンセラーにはなれない、と粟野氏はいうのであろう。そういう心が、自分を苦しめ、他者を苦しめるとして、自覚し発現させないようになるべく心がける。そういうことに自覚ないカウンセラーでは、苦しむクライアントを本当には援助できないからであろう。自戒したい。 (注)(1)粟野菊雄「精神医学の基礎知識」(『教育』第38号、龍谷大学教育
    学会、2003年)、32頁。
   (2)水島恵一・岡堂哲雄・田畑治編「カウンセリングを学ぶ」有斐閣、
    1998年、57頁。


書籍紹介「精神科医は信用できるか」
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 23:32 | 自殺防止は医者以外も | この記事のURL