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NO・1483中東で目立ち始めた民族主義的傾向 [2010年01月15日(Fri)]
 イスラエルがトルコの大使を侮辱する、という問題が発生し、そのことが、トルコの与野党支持者たちを結束させる、という現象を生み出したことが、伝えられてきている。
 そもそもの、ダニ・アヤロン・イスラエル外務次官の非礼の原因は、トルコで放映されている、テレビ・ドラマが原因だった。簡単に言ってしまえば、ガザでのイスラエル軍の非人道的な行動を、非難する内容のものだ。
 しかし、それは相当ダニ・アヤロン・イスラエル外務次官にとっては、不愉快なことであったのであろう。その結果が非礼事件であり、イスラエルとトルコは過去に例のない程の危機的な状況に陥った。
 結果的には、イスラエル側が文書で謝罪し、トルコ政府はそれを受け入れた、ということで一件落着したようだが、双方の不満は今後も、くすぶり続けるだろう。トルコの人権団体は、詫びに来るバラク国防相を、逮捕しろと叫んでみたり、イスラエルのツビ・リブニ女史は「トルコはどっち寄りなのかはっきりしろ。」と、全く理性的でない発言をしている。
トルコは中立的立場を維持し、イスラエルとアラブ・イランとの仲介役を、果たそうとしているのだから、どちら寄りかを鮮明にするはずがないのだ。
 トルコもイスラエルも、お互いが感情的になり、民族意識が表面化してきている。その二国だけではなく、アルジェリアでも民族派とイスラム主義者たちが接近し、外国軍の駐留の動きに、反対する行動を取り始めている。
 イエメンでも同様に、イスラム学者たちを中心に、外国軍の駐留に反対する動きが、起こり始めている。イランでも科学者の爆殺事件をきっかけに、体制派と反体制派が、久しぶりに葬儀に参加している。
 その流れのなかで、アハマド・ネジャド大統領は科学者の爆殺事件について、シオニストの手口だと非難している。彼はまた、西側諸国が中東諸国を占領する気だ、とも警告している。
 一見、脈絡がなさそうに見える、これらの断片的な情報も、こうして集めてみると、その底辺に共通する流れが、あるように思える。つまり、中東諸国のなかではいま、イスラム主義の動きとだぶった形で、民族主義の動きが、活発化してきているのではないかということだ。
そして、その傾向は、次第に強まっていくのではないかと思われる。その流れの方向の先には、新たな現象、出来事が姿を現してくるということであろう。今のうちから、それを予測しておくべきではないのか。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:30 | この記事のURL
NO・1482イラン科学者爆殺の怪 [2010年01月15日(Fri)]
 1月12日の朝、イランの物理学の科学者マスウード・アリー・ムハンマド教授が、自宅から出勤しようと思って玄関を出、車に乗る段階で近くにあったオートバイに積んであった爆弾が爆発して、死亡するという事件が起こり、イランとアメリカとの間で非難合戦が起こっている。
 イラン政府はこの爆殺を、アメリカ・イスラエルによるものだ、と非難している。マスウード・アリー・ムハンマド教授が、物理学の科学者であったことから、アメリカ・イスラエルは、彼を爆殺したのだとしている。
その結果、「イランの核開発を遅らせようとしたのだ。」というイラン政府の説明には、ある程度の説得力があろう。しかし、彼は核開発に直接関係する、部門の専門家ではなかったということだ。
 他方、アメリカ側はマスウード・アリー・ムハンマド教授が、ムサビ大統領候補の支持者であり、大学でも改革派を支持の立場を、示していたことから、今回の爆殺の犠牲になったのだ、と説明している。
 これだけでは、誰が犯人なのかは、決定付けることはできない。しかし、あるいは、と思わせる情報が出てき始めている。それは、ハタミ師とラフサンジャニ師が、今回の爆殺事件について、犯人像を明らかにはしていないが、微妙な発言をしているのだ。
 両師は今回の爆殺事件が起こることによって、政府派と反政府派との間で、対立が激化し、流血が増すだろうと予測している。ハタミ氏は「手の汚れたものが今回のテロを起こした。その者たちはイランの敵だ。」と語っている。
 ラフサンジャニ師は「臆病なテロリズムだ。新たな緊張の時代の始まりだ。」と語っている。イラン国内で流血衝突が増加していって喜ぶのは、政府派でも反政府派でもあるまい。つまり、「外部の手が関わっていた。」とハタミ師は言いたいのであろうか。
 ラフサンジャニ師の発言は、もう一歩踏み込んでいるかもしれない。それは彼が「臆病な」という表現を用いていることに起因する。つまりブッシュ大統領が常々口にしていた「臆病者」という表現は、イランがアメリカを非難するときにも、使われていたのだ。
 もう一つの判断の材料になるであろうと思われることは、これまでイラン政府が反政府側の人間を、爆弾で暗殺したと思われるケースが、皆無だということだ。真相はまだ分からないし、将来も明らかにならないかもしれない。現段階でできる推測を書いてみた。
Posted by 佐々木 良昭 at 01:09 | この記事のURL
NO・1481ガザのトンネルをめぐるファトワ [2010年01月15日(Fri)]
 イスラム教の法学者のなかで、最も権威あると認められた人物は、国家によってムフテイに指名される。そして、彼にはファトワ(宗教裁定)を下す権限が与えられる。従って、アラブ・イスラム諸国にはそれぞれ、ムフテイが存在する。
 いま、このムフテイの発出するファトワをめぐって、きわめて難しい状況が生まれている。それは、ガザの密輸用トンネルを、パレスチナ自治政府のムフテイが、違法だとするファトワを出したのだ。
 このファトワを出したイスラム学者は、パレスチナ自治政府お抱えのムフテイで、彼の名前はシェイク・ムハンマド・ビン・サルマン・アルジャメアという人物だ。
 シェイク・アルジャメアは、ガザのトンネルが違法だとする根拠として、武器を搬入していること、食料、医薬品もさることながら、アルコールや麻薬も、持ち込まれていることを挙げている。
そして、このトンネルを掘らせ、密輸をさせている金持ちたちは、トンネル密輸で死亡した人たちの遺族に対して、しかるべき補償をする義務がある、とも述べている。独身の死亡者の遺族には9000ドル、家庭持ちの場合は11000ドルとしている。
ちなみに、このトンネル・ビジネスで犠牲になった人たちの数は、300人を超えているとシェイク・アルジャメアは語っている。パレスチナ自治政府のサイトによれば、エジプト政府が密輸活動を阻止するために、トンネルに毒ガスを流して死亡させた数が、犠牲者54人のうち36人だということだ。
シェイク・アルジャメアが、このトンネル・ビジネスに反対している、最も大きな理由は、トンネルから武器が密輸され、その武器でガザ戦争が起こり、結果的に多くの犠牲者が出たからだということだ。
確かにそうではあろう。しかし、同時にガザ地区は閉鎖されており、食料も医薬品も燃料も、正式なルートでは入らないようになっている。従って、密輸トンネルはガザ住民にとっては、唯一の生命線になっていることも事実だ。信じがたいのだがそのトンネルの数は、何百本もあるということだ。
この密輸トンネルを、ファトワで禁止とする、ムフテイの言い分もわからないではないが、それでは彼は、ガザ住民の必要な食料、医薬品、燃料に加え、破壊された家屋再建のための建築材料などをどうしろというのだろうか。
ガザのハマースと敵対関係にある、パレスチナ自治政府は、ガザの住民の生活が困窮したほうが、ハマースの支持者が減るとして、このようなファトワを出させたのではないのか、とも疑いたくもなるのだが。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:38 | この記事のURL
NO・1480バラク国防相のトルコ訪問関係改善が目的か [2010年01月14日(Thu)]
 イスラエルとトルコとの関係は、既にご報告したとおり、相当悪化している。つい最近は、トルコのテレビ番組「狼の谷」をめぐり、イスラエルのダニ・アヤロン外務次官が、在イスラエル・トルコ大使を呼びつけ、クレームをつけた。
 その時の処遇が、極めて非友好的なものであったといわれている。ダニ・アヤロン外務次官は、訪問したトルコ大使と握手せずに、低いテーブルを挟み、自分の椅子は背が高く、トルコ大使には背の低い椅子に、座らせたということだ。
つまり、ダニ・アヤロン外務次官は、トルコ大使を見下すような位置で、対面したということだ。そして、テーブルの上には、通常は両国の国旗が置かれるのだが、このときは、イスラエルの国旗だけが、置かれていたということだ。
トルコ側が腹を立て、大使の召還を言い始め、険悪な状況になっている。そしてダニ・アヤロン外務次官の対応の裏には、アビグドル・リーバーマン外相の、意図があったといわれている。
アビグドル・リーバーマン外相は、イスラエルとトルコとの関係を、悪化させることを望んでおり、今回のイスラエル・トルコ関係の悪化への動きは、彼がダニ・アヤロン外務次官を、けしかけた結果なのだ、とトルコ側は見ている。
他方、バラク国防大臣はトルコとの関係が、イスラエルの安全上重要であることを熟知しており、今回の事態を重く見、トルコ訪問を思い立ったのだといわれている。
トルコ側はいまの状況下でも、バラク国防大臣を歓迎するだろう、とイスラエルのハアレツ紙は予測している。バラク国防大臣以外にも、ベン・エリエゼル労働大臣も、トルコとの関係を安定したものに、修復したいと望んでいるようだ。
このバラク国防大臣のトルコ訪問が、どのような形になるかが、今後の中東全域の状況に、大きく響いてくるのではないか。イスラエル側の動きにも、問題はあるが、トルコもあまりイスラエルに厳しく対応することは、両国にとって得策ではあるまいし、中東各国にとっても、利益にはならないのではないか。
トルコはあくまでも、イスラエルとイラン・アラブとの仲介役としての、役割を果たしていこうとするのであれば、攻めばかりではない、イスラエルへの対応も、必要なのではないか。
Posted by 佐々木 良昭 at 01:29 | この記事のURL
NO・1479イスラエルがトルコに噛み付き中東緊張度増す [2010年01月12日(Tue)]
 案の定というか、トルコのレバノンとの連携が、イスラエルを不安に追いこんでしまったようだ。イスラエルのダニ・ヤロン外相は、トルコがその気なら戦争も辞さず、という強硬論をぶっている。
 同時期に、幾つものイスラエルに対する警戒論と、敵対論が顔を出している。例えば、サウジアラビアはこれ以上、イスラエルが入植地を拡大することは、放置できないと語り、シリアのアサド大統領とイランのモッタキ外相との会談では、両国が連帯して敵に立ち向かうと語っている。
 それ以外にも、トルコのエルドアン首相はイスラエルの政策が、世界平和にとって脅威だと語っている。彼はまた、イスラエル軍機のレバノン領空侵犯も、非難している。
エルドアン首相はシリアのアサド大統領に対して、レバノンを訪問し正常な関係にすべきだ、とアドバイスしてもいる。そのことは、シリアとレバノンがより結束を強めるべきだ、という意味であろう。
 イスラエルはこうした、トルコを中心とした中東各国の動きに対し、ハマースは戦争を望んでいると非難し、トルコのテレビ番組「オオカミの谷」を非難している。この番組は確か、イスラエルのパレスチナに対する、非人道的な行為を非難する、内容のものであったと思う。
 エジプトもようやく重い腰を上げ、アブルゲイト外相がイスラエルに対し、ガザ攻撃をするなと警告を発しているし、イスラエル側が構築を計画している、ガザのエジプトとの壁建設に反対してもいる。
 一方、バチカンは中東地域の、キリスト教徒の実態を討議してもいる。バチカンはトルコとの、特別な関係を模索してもいるのだ。
 これら一連の新たな動きは、中東地域でいま、過去になかったような、激変が起ころうとしているということを、示しているのではないのか。
Posted by 佐々木 良昭 at 17:23 | この記事のURL
NO・1478微妙なハリーリ・レバノン首相のトルコ訪問 [2010年01月11日(Mon)]
 レバノンのハリーリ首相がトルコの首都アンカラを訪問した。それ自体は別に驚くほどのことではないのだが、そこで話し合われ、合意されたことが、今後、中東地域に大きな変化をもたらす、可能性を秘めている。
 ハリーリ首相のトルコ訪問で話し合われた内容は、ビザ問題、当然のことながら相互の通商問題、観光問題活性化が含まれている。つまり、シリアやリビアなどと並んで、レバノンもトルコとの間で、ビザの相互免除に合意したのだ。
 このことは、トルコとレバノン双方の、テロリストも自由に相手国に入れる、あるいは逃げ込める、ということを含んでいる、極めて危険なことでもあろう。
述べるまでもなく、レバノンはイランの支援を受ける、ヘズブラの存在する国であり、トルコは他方で、イスラエル人やユダヤ人にとって、最も安全で快適な旅行が出来る、数少ない近隣の国の一つだ。そのことをトルコとレバノンは、十分わかって合意したとすれば、それはそれで、大きな変化ということになろう。
第二の合意事項は、トルコとレバノンの互防衛協定だ。これはビザの相互免除よりも、もっとデリケートな合意であろう。少なくとも、これでイスラエルは、トルコが完全にアラブ側、イスラム・サイドに移行した、と判断するのではないか。
 トルコにしてみれば、トルコの外交力で、アラブ周辺諸国と特別な関係を構築し、次いで、イスラエルとアラブとの、和平に向けた努力をしていき、トルコの手で中東和平を、実現したいということであろう。
 しかし、トルコが考えているように、一気に攻めることがいま得策なのか、あるいは、じわじわと進めていくのが正解なのか、判断が非情に難いところだ。イスラエルをあまり追い詰める結果にならなければ、トルコの和平実現の思惑は成功しようが。
 そこで、トルコとイスラエル双方にとって、信頼される国が、両者の立場を説明し、仲介者(トルコはイスラエルとのイラン、パレスチナ、シリア、レバノンなどとの、仲介役を勤めようと考えている)の仲介役を、すべきなのであろう。
 以前、イスラエルを訪問した折に、個人的にトルコの意図を、イスラエル側の人に説明してきたが、日本のような国こそが、それをやるべきではないのか。そうしなければ、トルコの善意は、結果的に全く反対の結論を、引き出すことになりかねないのだ。
 トルコはいま、着々と旧オスマン帝国の版図の国々との、特別な関係を構築しつつある。そのことは、イスラエルにとっては、トルコの極めてデリケートな変化であろう。その感情はエジプトにとっても、同じではないか。
Posted by 佐々木 良昭 at 21:50 | この記事のURL
NO・1477マリキーの首相の判断ミスがイラクに内乱を招くか [2010年01月11日(Mon)]
 今年3月7日に、イラクでは統一地方選挙が、実施される予定になっている。しかし、あるいはこの選挙が、イラク国内の大混乱によって、延期されるかもしれない、という可能性が生まれてきている。
 それは、イラクのスンニー派の有力候補の政党が、イラクの法律委員会によって、選挙に参加できなくなりそうな、雲生きになってきたからだ。同委員会の委員長である、アリー・ファイサル・アッラーミー氏が、スンニー派の候補者である、サラーハ・アルモトラク氏の立候補と、彼の政党からの立候補を、禁止するむねの発表を行ったからだ。
アリー・ファイサル・アッラーミー氏によれば、同党は旧バアス党の系列だということだ。バアス党の政治活動は現在、イラクでは禁止されていることから、ある意味では当然であろうか。
しかし、このアリー・ファイサル・アッラーミー氏の主張に対して、サラーハ・アルモトラク氏は、アリー・ファイサル・アッラーミー氏は、バアス党政権時代に、軍の将校だったと反論している。
問題は、このスンニー派の重鎮が、イラク・スンニー派の間で、最も人気のあるアンバル県の、ファルージャ出身者であり、マリキー政権に対し、痛烈な批判を、繰り返してきている。これまでも、彼の政党は選挙に参加するごとに、好結果を出し続けてきているのだ。
そうなると、問題は彼個人が、あるいは彼の政党から、立候補できないという問題だけでは済まず、スンニー派イラク人が、反マリキーで立ち上がる危険性が、出てきたということだ。
サラーハ・アルモトラク氏はこの問題を国連にまで、持ち込むと意気込んでいるが、その前に、イラク国内で暴発する可能性の方、が高いのではないか。アメリカがイラクからの撤退を始めたいま、このスンニー派の党の選挙参加をめぐる問題が、とんでもない足かせになるかもしれない。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:16 | この記事のURL
NO・1476エジプトに不利な二つの出来事 [2010年01月10日(Sun)]
 最近になって、エジプトに関わるあまりうれしくないニュースが、二つ伝わってきている。それは、ガザのパレスチナ住民と、エジプトとの関係が悪化しているというものと、1月7日に起こったエジプト国内の、コプト教徒襲撃事件のニュースだ。
 ガザのパレスチナ住民と、エジプトとの関係が悪化しているのは、エジプト側が多分、イスラエルの要請もあってか、ガザとエジプトとの国境地帯に、パレスチナ側が秘密トンネルを掘り、エジプトからあらゆる物資を密輸しているため、これを阻止する鉄板を打ち込む、工事を始めたためだ。
 イスラエルにしてみれば、ガザのパレスチナ人が地下トンネルを掘り、そのトンネルを通じて、食料から医薬品、建設資材から武器までも、ガザ地区に搬入していることは見逃せないのだ。このトンネルを閉鎖するために、イスラエルはこれまで、何度となく空爆を、実施してきている。
 しかし、空爆だけでは完全に密輸を止めることができず、エジプト側に圧力をかけて、密輸阻止努力をさせたということだ。これはパレスチナ人にしてみれば、死活問題であるだけに、なんとしても止めさせなければならないということになり、エジプトとガザのパレスチナ人との間で、大きな問題になってきている。
 エジプト政府による、ガザ国境に鉄板を打ち込む工事は、ガザのパレスチナ住民を、窮地に追い込むものだとして、イラン政府は激しく非難しているし、エジプト国内でも、反対の声が上がっている。
 このことに加え、ガザのパレスチナ住民に対する、支援物資のエジプト側からの搬入に対し、エジプト政府がガザ・ゲートの通過を、認めなかったことから、エジプトとガザのパレスチナ人との間で、対立が生まれ衝突まで起こしている。
 結果的に、エジプト軍の兵士が死亡し、パレスチナ人も35人が負傷している。当然この成り行きのなかで、ガザに援助物資を贈ろうとしていた、イギリスやトルコの慈善団体は、エジプト政府に対し抗議している。エジプトはガザへの援助物資の搬入問題で、世界中の耳目を集め、悪役になったということだ。
 もう一つのエジプトにとって不都合なニュースは、エジプト国内でコプト・キリスト教徒に対する、襲撃事件が起きたことであろう。コプト・キリスト教徒は他のキリスト教徒とは異なり、クリスマスを1月に祝うが、そのクリスマスのミサのために、エジプトの南部都市ルクソールに近いナジ・ハンマーデイで、1月7日の深夜に教会に集まっていた人たちを狙った、テロ事件が起きたのだ。
 述べるまでもなく、結果は6人が死亡し、多数が負傷するという、悲惨なものだった。この事件は、世界のキリスト教徒にとって、ショッキングなものであったろう。なかでも、アメリカに在住するコプト・キリスト教徒にとっては、放置できない問題であったろう。
 エジプト政府はこのテロ事件と、イスラム原理主義者との関連は無い、あくまでも以前に起こったコプト・キリスト教徒による、12歳のムスリム少女レイプ事件に対する復讐としているが、それが事実のなか、その背景には何があるのか、ということになろう。
この問題は、イスラム原理主義者による犯行とする方が、わかりやすい説明だったかもしれない。それを、エジプト政府があえて否定したということは、その裏に何かがあるということであろうか。
 エジプト政府がガザ地区への、援助物資搬入の中心的人物である、イギリスのギャロウエイ氏を追放したが、そのことも今後、問題化していくのではないか。この援助活動に参加していたトルコも、エジプトに対して厳しい批判を行っている。
 エジプトはアメリカからはコプト・キリスト教徒襲撃事件で、トルコやヨーロッパからは、ガザ問題で槍玉に挙げられるのではないか。もちろん、アラブ諸国からも、エジプトのガザ対応では、不快感を抱かれよう。そして、それはエジプトがイスラエルに対して、なんら反論できない立場にある、ということの証明であり、エジプトのアラブ世界での指導力は、弱まるばかりではないか。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:55 | この記事のURL
NO・1475外交官との対話イスラエル・イラン関係が危ない [2010年01月08日(Fri)]
 
 あるアラブの国に赴任している友人の外交官は、極めて優秀だ。こちらが持っている情報のなかで、不明なものを彼に話すと、たちどころに答えが返ってくる。しかも、その答えのほとんどは、私にとって納得のいくものだ。
 したがって、彼との話し合いは、有益であると同時に、愉快でもある。その彼が突然電話してきて、会おうということになり、昼食を共にした。そこでも話題はエジプト、リビア、パレスチナ、サウジアラビア、イラン、イエメン、トルコ、ヨルダン、スーダンなど多岐に及んだ。
 そのなかで、少し気になる話があったので、ご紹介しておこう。それは、イスラエルがイランを、攻撃するのではないかという話だ。だいぶ前には、私以外にもその話を口にする人が、少なくなかったが、最近では、可能性さえ語らなくなっている。
 しかし、最近になって再度書き始めているように、イスラエルとイランとの関係は、再度緊張の度を高めている。しかも、それは両国だけの間だけではなく、周辺諸国も巻き込んだ形に、拡大してきているのだ。
 したがって、もし何かが起こり始めれば、周辺諸国にも危害は及ぶことになり、しかも、それを阻止するのは、同時に幾つもの国々や、組織を相手にしなければならないだけに、容易ではあるまい。
 湾岸諸国はその危険を、十分に分かっている。なかでも小国であるバハレーンやカタールなどは、自国のシーア派国民の割合も多いことから、真剣に情勢を分析しているし、イランとの関係調整も行っている。
 イスラルは何度も書いてきたように、極めてナーバスな心理状態になっており、限界を超えた行動に出る、可能性は高まってきている、と判断すべきであろう。自己防衛本能が過剰に働き、イスラエルが単独でも、行動に出る可能性が、否定できなくなってきているのではないか。
 イラン国内も、外国の関与が激しくなってきたとし、ジャーナリストの逮捕や、デモ参加者に対する裁判での、死刑判決の声が拡大してきている。つまり、双方がある種の心理的、異常な状態に陥り始めてきているということだ。
 友人は2月の後半が、一番緊張が高まるのではないでしょうか、と真顔で語っていた。私もその可能性を否定することはできない。大事に至ることがないに、越したことはないが、どうやら状況は、大事に至る可能性の方が、高まっているのではないか。その状況対応する準備が、日本にはあるのだろうか。
Posted by 佐々木 良昭 at 16:44 | この記事のURL
NO・1474軍事連携は危険回避チャンスを潰さないか [2010年01月07日(Thu)]
 昨年末に、ハマースがイランとの、軍事連帯を宣言した。つまり、イランがイスラエルによって攻撃された場合、ハマースはイスラエル攻撃を、行うというものだ。同時に、ハマースとシリアとの間でも、似たような宣言がなされている。
 次いで、ハマースとヘズブラとの間でも、相互にイスラエルから攻撃を受けた場合には、イスラエル攻撃を断行する、という発表がなされている。
加えて、シリアとヘズブラとの間でも、似たような内容の発表があった。簡単に言えば、ヘズブラ、ハマース、シリアはそのいずれかが、イスラエルによって攻撃された場合、直ちに反イスラエルで、行動を起こすということだ。
 そして、イランが攻撃を受けた場合にも同様に、ハマースやヘズブラ、シリアが軍事行動に出るということだ。
 そのような軍事的連帯の発表は、一見勇ましく、頼りになりそうに思えるのだが、実際はそうでもあるまい。本来であれば、小規模で済むはずの戦闘行動が、拡大してしまう可能性が大きいからだ。
 シリア、イラン、ヘズブラ、ハマースという各国各組織の軍事的、防衛上の連帯は、抑止力になるというよりも、戦闘の被害を最小限でとどめる効果や、平和的解決の足かせになってしまう、危険性もあることを、忘れるわけにはいくまい。
 イスラエルが不安を高めていることから、あるいはイランに対する攻撃を実行するのではないか、という予測が出ているが、それに対抗する意味で、こうした共同防衛、連帯の発表が、出されたのであろう。
 しかし、実際にはイスラエルに対する、抑止力というよりも、中東全体が戦争に巻き込まれる、だから米欧に抑止してくれ、和平の仲介をもっと真剣にやって欲しい、という意味ではないか。
そうだとすれば、もう少し穏やかな表現を、使うべきではないのか。強気な発言は、結果的に自分の望む結果とは、全く反対の結果を生み出すことも、あることを忘れてはなるまい。
Posted by 佐々木 良昭 at 16:50 | この記事のURL