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NO・992ユーラシア情報ネットワークのフォーラムのご案内 [2008年04月30日(Wed)]
東京財団では来る5月13日に佐々木良昭主任研究員をパネリストに向かえ下記フォーラムを開催いたします。是非ご参加お申し込みください。

<東京財団フォーラムのご案内>

【日時】5月13日(火)18:00〜20:00

【会場】日本財団ビル2階 大会議室

【テーマ】「ユーラシア情勢をめぐる米露の協力と対立の構図」

対テロ問題や中東和平で歩み寄りを見せる米露ですが、米国が進めるMD計画やNATOの拡大では対立の様相を見せるなど、ユーラシア地域を舞台に米露の協力と対立の動きが活発化しています。
これが意味するところはなにか、また、日本とって今後どのような影響があるかについて東京財団ユーラシア情報ネットワークのメンバーが分析します。

【スピーカー】
佐々木良昭(東京財団主任研究員)<中東>
畔蒜泰助(東京財団研究員)<ロシア>
渡部恒雄(東京財団客員研究員)<米国>
【モデレーター】
関山健(東京財団研究員兼プログラム・オフィサー)

【参加申し込み】
下記、東京財団ホームページのからお申し込みください。

5月13日参加申し込みフォームへ
Posted by 佐々木 良昭 at 09:56 | この記事のURL
4月30日        お知らせ [2008年04月29日(Tue)]
 現地からも出来るだけ書くように努力しますが、海外出張のため中東TODAYを4月30日から5月7日まで休みます。

 5月1日2日と中央アジアの国トルクメニスタンで国際教育会議が開催されます。小生がご招待を受け参加することになりました。

 会議では日本の教育史の簡単な説明をしようと思います。講演の内容はおよそ以下の通りです。

:漢字の伝播とひらがなカタカナの発明。
:古事記、日本書紀、
:源氏物語(女性の作家)
:諸外国との識字率の比較。
:寺子屋
:教育勅語
:戦後の教育(長所と欠点)
:教育に必要なこと。
Posted by 佐々木 良昭 at 23:37 | この記事のURL
NO・991ホット・サマーになるか中東地域各国 [2008年04月29日(Tue)]
 今後の世界がどうなっていくのかという話を、地域研究をしている友人たちと話し合った。そのなかで、お互いが自分の研究地域の近未来について、自由に意見を述べ合った。
 中東について聞かれたときに私が答えたのは、中東地域も世界経済の一部を構成しており、他の地域と共通した未来に向かっているというものだった。
 そして、それは中東各国が既に、経済的混乱期に突入している、というものであり、その経済的混乱は産油国、非産油国の別なく起こっていくだろう、というものだった。
 非産油国はおしなべて、現在インフレが昂じており、パンを始めとした基礎食品の価格が高騰し、食生活にも事欠くような状態が、起こっているのだ。しかも、それは輸入物価の高騰が主な原因であることから、政治的に簡単に解決できる性質のものではないのだ。
 したがって、非産油国は国内的にいずれも、不安定化に向かっていくことが予想される。国によっては、それが体制打倒にまでも、繋がるかもしれない。エジプトの場合には、ムバーラク大統領が次男に、大統領職を継ぐことが、難しい状況になってきている。
ヨルダンやシリア、イエメンなどでも、国内の不満が高まっている。それ以外の国々でも、同様の傾向が見られる。大衆が革命を起こすのは、イデオロギーよるのではなく、パンの不足によるのであり、そのパンの不足がいま、中東地域の各国では現実化しているのだ。
産油国の場合、その国のナショナルと呼ばれる元々の国民は、豊かな生活をエンジョイしているが、その元々の国民あるいは第一級の国民は、国内人口の15パーセントから20パーセントしか占めていないため、そのことから来る不安が、第一級国民の間では広がっているのだ。
サウジアラビアの場合には、他の湾岸諸国に比べ、自国民の人口が多いことから、自国民の間でも不満が高まっているのだ。サウジアラビア人の中から、イスラム原理主義者が多数誕生している原因のひとつは、経済的不平等にあるということは見逃せない。
世界的な物価高騰の中で、二級国民(外国から移住して国籍を取得した人たちなど)や外国からの出稼ぎ者たちは、インフレに苦しんでいるのだ。そうした人たちが暴動を起こす、可能性が高まっているのだ。暴動には至らないまでも、故意に事故を起こしたり、災害を起こす危険性が、見え隠れしているのが、最近の産油国の実態だ。
以前に報告したアラブ首長国連邦の、ドバイで起こった幾つかの事故の場合、よく考えてみると、故意に起こされた可能性が高いのだ。しかも、その事故については、イランやアルカーイダ、イスラム原理主義者による犯行、という簡単な説明が付けられやすい。
これらの事故の真相究明を行われずに、そうした決まり文句で、事故の原因に対する説明行われ、片付けられる状態が続く場合、事故が起こる原因の究明はなされないことになる。そして遂には、暴発の事態に至る危険性があるのだ。
中東諸国に駐在する人たち、そしてビジネスや観光で出かける人たちは、十分にそのことを頭に入れておく必要があろう。世界がひとつに繋がっている現代では、例外の国はないと思ったほうがいいだろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 14:24 | この記事のURL
NO・990イスラエル・シリア二つの相対立する動き [2008年04月26日(Sat)]
 前回の中東TODAYで、イスラエルがトルコを介し、シリアにゴラン高原の返還を申し出た、というニュースをお伝えしたが、それを実行に移すことは、決して容易なことではない、ということをご説明した。
 この問題の困難な部分は、イスラエルによってもシリアにとっても、軍事的な側面よりも政治的、心理的な側面にあろう。
イスラエルは1967年戦争で占領した、シナイ半島のエジプト領に持っていたキミット入植地を、キャンプ・デービッド合意後に返還している。この返還をめぐっては、入植者のイスラエル人とイスラエル軍が、激しい衝突を起こしている。
しかし、結果的にはエジプトが国家として成熟していたために、この返還はその後問題を生み出していない。もし問題が残っているとすれば、キミット入植地を追い出された、イスラエル国民の政府に対する不信感であろう。
次いで返還されたガザの入植地は、その後もイスラエルにパレスチナとの間に、平和な状態を生み出すことはなく、かえって対立が激化されるという、イスラエル政府や国民の期待とは、全く異なる状態を生み出して久しい。
もし、ゴラン高原が返還された場合、どのような状況が生まれてくるのであろうか。この場合一番問題なのは、シリアのアサド大統領体制が弱体化し、場合によっては打倒されるということだ。
アサド大統領体制が打倒されれば、その後に誕生するシリアの体制は、現在のマイノリテイであるアラーウイ派(イスラム教シーア派系の異端派)政権ではなく、ムスリム同胞団を中心とした、スンニー派の体制ということになろう。シリアではスンニー派ムスリムが、90パーセントに近い割合を占めており、しかも、そのスンニー派ムスリムをリードしている勢力は、イスラム強硬派(一般的には穏健派といわれているがそうではない)ムスリム同胞団なのだ。
もし、イスラエルがゴラン高原を返還し、シリアとの間に平和条約を結んだとしても、アサド大統領体制後のシリア政府は、この合意を反故にし、イスラエルとの敵対関係を再開する危険性があろう。
アサド大統領体制が継続できたとしても、シリアのイスラム原理主義者や他のアラブからのイスラム原理主義者が、ゴラン高原からイスラエルに対し、ゲリラ攻撃を仕掛けてくる危険性もあろう。
イスラエル国民はゴラン高原をシリアに返還したことで、国家に対する不信感をつのらせると共に、シリアからのゲリラ攻撃に対する、不安を強めていくことになろう。
そうなれば、イスラエル国内では強硬派が主流になっていく可能性が、非常に高くなっていくということだ。それ以前に、ゴラン高原の返還が本格的な問題となっていった段階で、イスラエル国民の間では強硬派政党支持の、傾向が強まっていくものと思われる。
では何故そのようなことが想定されるなかで、ゴラン高原の返還が、このタイミングでイスラエル政府から提案されたのであろうか。そのことの真意を分析する上で興味深いのは、シリアの核開発に関する公聴会が、アメリカ議会で取り上げ討議される、というニュースが流されたことだ。
この公聴会では北朝鮮の情報、資料を交え、アメリカがシリアの核開発を、確かなものとして解説したということだ。アメリカが提示する実物写真と、コンピューターで作られた画像とが一体となって、世界中にシリアの核開発が確かなものであり、危険なものであるという印象を、強めることに成功したものと思われる。
結果的には、イスラエルにはゴラン高原をシリアに返還する意思がある、という平和攻勢は、このシリアの核に対する脅威をより強力に印象付け、シリアが危険な国家であるという認識を強めたものと思われる。
それとは対照的に、イスラエルが平和愛好の国家であるという印象を、世界中に抱かせる効果を生み出したということではないか。その先に見え隠れするのは、イスラエルによる、シリアに対する軍事攻撃を、容認する世界的な世論が構築されていくのではないか。
こうしたイスラエルの出方と、それを支持するアメリカに対し、シリアを始めとするアラブ諸国は、ますます不信感と反発感情を抱いていく危険性があるのではないか。中東地域における平和に対する期待と幻想は、まだまだ抱くべきではない、ということなのかもしれない。
Posted by 佐々木 良昭 at 11:41 | この記事のURL
NO・989イスラエルはゴラン返還意思ありというが [2008年04月25日(Fri)]
 トルコがイスラエルとシリアとの緊張関係を仲介し、何とかこれまで戦争が起こる事態を防いできている。それはトルコの外交努力に対し、敬意を払うに値することであろう。
 そのトルコに対するイスラエルとシリアの評価は、当然のことながら高いものと思われる。イスラエルもシリアも強気の発言を繰り返し、明日にでも戦争が始まりそうな場面が、これまで何度となく繰り返されてきているのだ。
 しかし、ここに来てイスラエルが、1967年戦争(第三次中東戦争)で占領したシリアのゴラン高原地区を、返還する意思があると言い出した。単純に考えれば、トルコの外交努力が実を結び、遂にイスラエルとシリアとの間に、和平が成立すると期待したいのだがそうでもなさそうだ。
 確かに、イスラエル政府もトルコ政府もシリア政府も、イスラエルがゴラン高原をシリアに返還する意思のあることを確認している。イスラエルがトルコに対して、その意向を正式に伝え、トルコがイスラエルの意向をシリアに伝えているのだ。
 しかし、ゴラン高原返還にはまだまだ高いハードルがありそうだ。今回イスラエルはゴラン高原返還の条件として、シリアがパレスチナのハマースやレバノンのヘズブラといった、テロリスト・グループに対する支援を止めることを上げている。
加えて、ダマスカスに居住しているハマースのリーダーであるハーリド・ミシャアルを国外追放すること、イランと距離を置くこと、そして、イスラエルとの間に和平条約を結ぶこと、などを要求している。
もし、シリアがこのイスラエルの条件を飲んだ場合、アサド大統領体制は一瞬にして打倒されるのではないか。シリアのアサド大統領体制が存在していられるのは、あくまでもアラブの大義を守り続ける、唯一のアラブの国家という錦の御旗が建っているからであろう。
イスラエル側も、ゴラン高原には13万人の入植者が、1967年の第三次中東戦争勝利以来、つまり占領が始まったとき以来居住しているのだ。それを何処に移住させるのか、決して簡単なことではあるまい。ゴラン高原では既にイスラエル産のワインが生産され、世界的にも知られる銘柄として、輸出されているのだ。
単純に考えて、もしイスラエルがシリアに対し、ゴラン高原を返還するのであれば、ゴラン高原の代替地となりうるのは、ヨルダンア川西岸地区であろう。つまり、イスラエルがシリアとの和平を成立させるためには、パレスチナ人を西岸地区から追放しなければならないということだ。
ゴラン高原の入植者をゴラン高原にそのまま居住させて、返還するという妥協案も検討されては来たが、なかなかそうは行くまい。それは、ゴラン高原から追放されたシリア人が多数いるからだ。
イスラエルがシリアに対し、1967年以来、占領し続けてきたゴラン高原を返還する意思があるというニュースは、中東の平和を、新しい中東の時代を期待させるのだが、それは容易ではないということだ。
実現に向けての交渉が始まったとしても、これから何年もの歳月を必要としよう。それですらも、ゴラン高原の返還は実現しないかもしれない。
Posted by 佐々木 良昭 at 08:09 | この記事のURL
NO・988アブドッラーU国王のブッシュ大統領へのアドバイス [2008年04月24日(Thu)]
 ヨルダンのアブドッラーU国王がアメリカを訪問し、ブッシュ大統領に対し、意外なアドバイスをする予定だ、というニュースが流された。
 このニュースによれば、アブドッラーU国王は、ブッシュ大統領に対し「中東訪問を取り止めろ」とアドバイスするというのだ。
 アブドッラーU国王はその理由について、もしアメリカに新たな中東和平の考えがないのであれば、ブッシュ大統領は中東を訪問しないほうがいい、ということだ。
つまり、パレスチナとイスラエルとの間で、和平への前向きな合意が生まれる可能性がないのであれば、ブッシュ大統領が中東訪問をすることは、かえってアメリカとイスラエルに対する敵意をつのらせ、アメリカと親しい関係にあるアラブ諸国を、苦しい立場に追いやることになるということであろう。
イスラエルはパレスチナ自治政府との間に、今年中の和平合意を口にしているが、他方では入植地を拡大し、ガザの封鎖を継続している。この状況を見ている限り、何処にも和平の兆しが見えないということであろう。
それにしてもヨルダンのアブドッラーU国王がブッシュ大統領に対して、用事も目的も無いのに「中東に来るな」と言うということは、非常に希なことであろう。
その希なことを、アブドッラーU国王が言うということは、ヨルダン国民の不満が高まっているということであろう。
ヨルダンはイスラム同胞団の活動が活発な国であり、多くのパレスチナ難民を抱えていることに加え、ヨルダンの国籍を取得したパレスチナ人の、最も多いアラブの国でもある。
そうした状況下にあるヨルダンを始めとした、親米アラブ諸国をブッシュ大統領が歴訪するということは、これら親米アラブ諸国の国民の不満に、火をつけて回るような危険極まりないことだ、ということであろう。
ブッシュ大統領がこれらの親米アラブ諸国を歴訪するとなれば、当然、イランに対する対応も話し合われることになろう。たとえ、ブッシュ大統領の発言が、威嚇だけに過ぎないとしても、ブッシュ大統領は立場上、「イラン対する軍事攻撃も辞さない。」と語らざるを得ないだろう。
その発言は、アラブの反体制派の大衆を激怒させることになろう。だからこそ、アブドッラーU国王はブッシュ大統領に対し、敢て言い難い「中東を訪問するな」という意見をアドバイスするということであろう。
現在のアラブ世界の状況は、それだけ厳しくなっているということなのだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:08 | この記事のURL
NO・987サウジアラビアがレバノンへの外国関与を警告 [2008年04月23日(Wed)]
 サウジアラビアのアブドッラー国王が、レバノン問題に関して発言をしている。その内容は、レバノンに対する外国の関与があり、レバノンは昨年11月以来、大統領不在の状態が続いていると指摘している。
 これは、明言を避けてはいるものの、イランを指した発言であり、イランによるレバノンのヘズブラに対する支援が、レバノン国内政治の混乱を、巻き起こしているのだということだ。
 ヘズブラについては、シリアもまた深く関与している。このため、レバノンのイラスム教徒は、シーア派イスラム教徒と、スンニー派イスラム教徒に割れていることに加え、キリスト教各派もまた、独自の政治路線に固執している。
 このサウジアラビアのアブドッラー国王の発言が、今の時期に出てきたということは、サウジアラビアがイランによる、アラブ各国のシーア派に対する支援を、危険な動きとして認めたからであろう。
 そのことはイラン、イラク、レバノンという、シーア派のアラブ諸国内連帯を、生み出す危険性もはらんでいると、サウジアラビアは見ているためだ。この発言の裏には、アメリカのイランに対する危険視が、大きく関ってもいよう。
 したがって、アメリカがイランに対し、何らかの行動を起こすような場合、サウジアラビアもその動きを、支援することになる可能性が高くなってきた、ということの表れではないか。
Posted by 佐々木 良昭 at 01:40 | この記事のURL
NO・986ムバーラク大統領の仏独訪問 [2008年04月22日(Tue)]
 エジプトのムバーラク大統領が、フランスとドイツを訪問することが発表された。アブルゲイト外相が語るところによれば、フランスを最初に訪問しサルコジ大統領と会談し、次いでドイツを訪問しメルケル首相と会談する予定だ。
 アブルゲイト外相の説明によれば、地中海周辺諸国の連帯問題をめぐる意見交換や、ムバーラク大統領によるパレスチナ、レバノン問題に関する説明がなされるようだ。パレスチナ問題については、まずハマースとイスラエルとの緊張緩和が、話し合いの中心となろうということだ。
 これが公式のエジプト政府による、ムバーラク大統領のフランス・ドイツ訪問に関する説明だが、もうひとつ説明されていない目的があるものと思われる。これまで、何度もうわさになり、最近ではそのことをマスコミで取り上げたために、ジャーナリストが投獄されるということが起こっている。
 その秘密の目的とは、ムバーラク大統領の健康診断と病気治療だ。これまでも、ドイツの病院で治療が行われてきたといわれている。今回はエジプト国内でパンの値上げをめぐるゼネストの後だけに、少し治療期間が長引くかもしれない。
 もし治療期間を長引かせることが出来たとすれば、それはエジプト国内問題が沈静化してきているということであろうが、同時にその場合には、ムバーラク大統領の健康問題が気にかかる。いずれにしても、判断が難しい状況ということのようだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:24 | この記事のURL
NO・985人口問題で不安を抱えるアラブ首長国 [2008年04月22日(Tue)]
 アラブ首長国連邦は、7つの首長国が一体となって、構成された連邦国家だ。7つの国といっても、それぞれは面積が小さく人口も少ない。
 そもそもこれらの首長国は、元はといえばペルシャ湾の真珠採りや、インド洋を挟んだ交易を、主な仕事として生活してきた地域だ。なかには海賊をやっていた、と主張する専門家もいるが、もちろん全員が海賊で、生計を立てていたわけではない。
 その元はといえば貧しかった、これらの首長国のなかの最大の面積を持つ、アブダビ首長国で石油が発見され、アブダビのシェイク・ザーイド・ビン・スルタン・アール・ナヒヤーン首長が、他の首長国を一体化させ、アラブ首長国連邦を構成した。今になって思えばこの決断は、大英断だったといえよう。
人口の少ないこれらの首長国が、ばらばらのままで今日に至っていたら、どのようなどんでん返しが起こっていたかわからない。外国からの介入に対して、全く抵抗力を持ち得なかっただろう。
現実に、いまその問題がアラブ首長国連邦のなかで、現実化してきている。外国からの労働者の受け入れで、人口構成は完全に逆転し、自国民の人口が2006年末の段階で、560万人のうちの15・4パーセントを占めたに過ぎなかった。つまり五分の一にも達していないのだ。
最近になって、人口構成問題が顕在化してきたのは、外人労働者が低賃金で働かされていること、労働災害の補償がないことなどから、道路封鎖をしたり、路上強盗をしたり、暴動を起こすケースが増えてきているのだ。
以前にも報告したが、ドバイで起こった幾つかのケースは、単なる事故ではなく、こうした外人労働者たちによる、犯罪であった可能性が高いと、アラブ首長国連邦政府の人たちも、最近になって受け止め始めているのであろう。
問題は、これらの外人出稼ぎ労働者たちの、待遇改善要求だけではない。アメリカやヨーロッパの人権団体が、次第にアラブ首長国連邦の外人出稼ぎ労働者に対する待遇をめぐり、アラブ首長国連邦に対し非難をはじめているのだ。
加えて、外人労働者が増加した結果、国内では英語の通じる範囲のほうがが広がり、アラビア語がおろそかになり始めているのだ。英語を話すインドからの出稼ぎ者の割合が、外人出稼ぎ者全体の42・5パーセントを占めるに至っているのだ。
これまでも、アラブ首長国連邦の母親たちが、フィリピン人のメイドに子供の世話を任せ切りにしていることから、子供たちが自分たちの母語であるアラビア語ではなく、英語だけでしか話さなくなり、アラビア語が話せなくなっているという指摘があった。
アラブ首長国連邦の治安担当者などは、このような状態が今後も続けば、体制不安に繋がる危険性が高いと指摘している。アブダビの首長(アラブ首長国連邦大統領)は「産めよ、増やせよ」の掛け声を国民に向けて発したほどだ。
このアラブ首長国連邦が直面する不安は、人口が少なく巨額な国家収入がある石油産出国のクウエイトや、膨大なガスの埋蔵量を誇るカタールなどでも、同じ状況にあるようだ。そうであるとすれば、近い将来、日本人ビジネスマンも他の外人出稼ぎ労働者同様に、厳しい居住制限や出入国制限を受ける可能性があろう。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:06 | この記事のURL
NO・984カーター元大統領の努力は水泡?あるいは? [2008年04月20日(Sun)]
 アメリカの元大統領カーター氏が、パレスチナのハマース組織とコンタクトを取り、遂にシリアの首都ダマスカスで、ハマースのリーダーであるハーリド・ミシャアル氏と会談した。
 カーター氏とハーリド・ミシャアル氏との会談は、先週2度に及んだようだ。その内容については、ハマース側がかん口令を敷き、マスコミにもほとんど情報が伝わっていないようだ。
 それは受け止め方によっては、全く進展がなかったからだとも取れるし、また別の受け止め方をすれば、非常にデリケートな問題が話し合われ、現段階で公表することが、ことの成功を邪魔しかねないからだとも考えられる。
 想像するに、このカーター・ミシャアル会談は、今後のパレスチナ・イスラエル関係に大きな変化をもたらすかもしれない。問題はカーター氏がミシャアル氏との会談を踏まえ、どうイスラエル側を説得するかにかかっていよう。
 カーター氏はイスラエル説得を成功させるために、ハマース側とは現在パレスチナ側に人質になっている、イスラエル兵シャリト氏の釈放を、交渉のメイン・テーマのひとつに据えていたようだ。
 しかし、ハマース側は簡単には、カーター氏の説得を受け入れていないようだ。ハマース側に言わせれば、現在イスラエルの刑務所には、10000人のパレスチナ人が投獄されているが、それを放置したままで、シャリト氏を釈放することは出来ないということであろう。
 もし、釈放がイスラエル・パレスチナの双方から行われるとなれば、マルワーン・バルグーテイ氏の釈放も、交渉の遡上に乗ろう。それは、マハムード・アッバース議長らファタハ幹部にとっては、すこぶる不都合なことだ。
 カーター氏はハマースに対し、無条件でミサイル攻撃を停止するようにも、呼びかけたようだが、これも簡単ではあるまい。あまりにも多くのガザの住民が犠牲にあっているいま、たとえハマースの幹部が、カータ−氏の提案を受け入れたとしても、若い戦闘員たちは素直には従うまい。
 それでもハマース幹部もイスラエルも、カーター氏の努力は平和を生み出す小さな可能性であることを、認識しているようだ。それは、ハマースの幹部がシリアのダマスカスに出向いて、ハーリド・ミシャアル氏らと話し合うことになったことから推測される。
 他方、イスラエル側もオルメルト首相は別としても、イシャイ副首相がカーター氏の持ち寄る、ハーリド・ミシャアル氏との会談内容を、聞くことになっている。オルメルト首相がカーター氏を会わない理由は、彼がカーター氏と会えば、ハマースとの取引を考慮していると、受け止められかねないからだということのようだ。
 エジプト政府は、ハマースを認めないような発言をしながらも、これまで援助を送り、説得を続けてきている。イスラエルのリブニ外相が、カタールの国際会議に参加したことなどを総合して考えると、カーター氏の平和構築の努力は、平和への可能性を感じさせる、一条の光かもしれない。そうあって欲しいものだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 23:18 | この記事のURL
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