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NO・1771「湾岸諸国で広がる麻薬禍」 [2010年10月02日(Sat)]
 ヨルダン・タイムズが先日、湾岸諸国のなかで、麻薬が蔓延している、というニュースを報じた。その記事によれば、ピル状の麻薬が、大量にサウジアラビアで、摘発されたということだった。
それは、想像を絶する量であったことで、ニュースが私の頭から、離れなかったのだ。確か400万錠以上だったと思う。それがサウジアラビアのなかで、さばかれているということは、相当数の常用者がいる、ということではないのか。
多分に、最初は頭痛に特効があるとか、疲労回復にいい、とかといった触れ込みで広がり、ついには、中毒になっているのではないか。何処の国でも、麻薬がはびこる手順は、同じようなものであろう。
問題は、サウジアラビアでは一般人には、アルコールが手に入らない、ということだ。密輸のアルコールは、相当量あるようなのだが、それは高価であり、しかも、宗教的な抵抗感や、社会的な体裁もあり、一般の人たちはなかなか口にしよう、とは思わないのであろう。
しかし、麻薬については、イスラム教でも宗派によっては、精神の統一とか、アッラーに近づく手段として、容認されている場合もある。また、サウジアラビアの隣国であるイエメンでは、カート(ガートとも発音する)が、一般的に用いられている。
カートとは木の若い葉であり、これを大量に口に含み、気長に噛んでいると、次第にリラックスしてくるというものだ。言ってみれば、軽い麻薬性のものなのであろう。こうしたものが許されているということは、麻薬に対する抵抗感が、アルコールに対するよりも相当緩い、ということなのではないか。
ピル状の麻薬のほかには、ハッシッシの流入も、馬鹿にならないのではないか。ハッシッシは中東全域で普及し、何か催事があれば、ハッシッシを供するのが、主催者の力量といった判断が、なされている地域もある。先日、エジプトではハッシシの品不足が、社会問題化している、という話がニュースとして、伝えられていた。
サウジアラビアはイスラム教の教えが、厳しく守られている、と一般的には思われているが、実際はそうでもない。金持ちの多くは、密輸のアルコールを自宅にストックしているし、今回ご紹介したように、麻薬類も大量に、持ち込まれているのだ。
これといった娯楽が認められない、アルコールもだめとなれば、若者は我慢の限界に、達するのかもしれない。その結果が、麻薬に手を出す、ということではないか。しかし、それはサウジアラビアを始めとする、湾岸諸国にとって、将来への可能性を断つことに、繋がる危険な現象であろう。何か若者向けの、新しい対応方策が、必要ではないのか。
Posted by 佐々木 良昭 at 23:12 | この記事のURL
NO・1770「エルバラダイ氏の政治改革の夢は夢で終わったか?」 [2010年10月02日(Sat)]
 エジプトに民主主義を持ち込もうとして、自身が大統領に立候補できる道を探り、活動を展開してきた元IAEAの事務局長、ムハンマド・エルバラダイ氏の大いなる夢は、どうも夢で終わりそうな気配になってきた。
彼はまず、明確にではないが自身が来年の大統領選挙に、立候補するという前提での、動きをはじめた。そのためには、彼が立候補できる、環境を作る必要があると考え、選挙に関わる憲法の、改革を目指した。
憲法の改変を実現するために、彼は国民の支持署名を、集める作戦に出た。携帯電話やパソコンを通じての呼びかけに、多くの国民が賛同し、たちまちにして、70万人程度の署名を、集めることに成功した。
それは時間の問題で、100万人を突破するだろう、とも予測されていた。多くの若者やインテリが、彼のこの提案を、支持してくれたからだった。それは、この作戦では、誰も逮捕されることも、暴力を受けることも無いからだ。つまり犠牲を蒙る可能性が、無かったからかもしれない。
また新手の作戦であったために、新しいもの好きのエジプト人から、格好がいいとして、受け入れられたのかもしれない。もちろん野党の幾つかは、彼を踏み台にして、憲法を改正し、自党の立場を強くしようとも、考えたのであろう。
もう一つ彼が考えた作戦は、近く行われる国会議員選挙を、ボイコットすることだった。国民が、そして次回の国会議員選挙をボイコットすれば、世界は署名運動と合わせ、エジプトの国内政治が、大きく変わろうとしていることを取り上げ、その動きを支援してくれる、と考えたのかもしれない。
しかし、ムハンマド・エルバラダイ氏が考えるほど、エジプトの政治風土は甘くなかった。エジプトの最大野党であるムスリム同胞団は、それまで、ムハンマド・エルバラダイ氏と共同歩調をとっていたのだが、このムハンマド・エルバラダイ氏の、選挙ボイコットの呼びかけには、賛成しなかった。
ムスリム同胞団ばかりではなく、エジプトの最大野党三党が、揃って選挙ボイコットをしないことを、明らかにしたのだ。アラブ民族主義者のナセル党、そして穏健派のワフド党、左翼のタガンムウ党がそれだ。
ムスリム同胞団を加えて、主要野党4党がこうした動きに出たのは、当然であろう。ムスリム同胞団は現在、非合法とされながらも、88議席を獲得している。この議席を放棄する気はなかろう。(選挙によって選出される議席数454、総数518議席)
それどころか、ムハンマド・エルバラダイ氏が、ムバーラク体制を非難してくれ、行動を起こしてくれたことによって、政府与党はあまり明らかな選挙妨害は、出来なくなるだろう、と考えているのかもしれない。そうであるとすれば、ムスリム同胞団は次回選挙で、議席数を伸ばすことが、期待できよう。
結局気が付いてみると、ムハンマド・エルバラダイ氏を支持してくれたのは、弱小2政党だけであったということだ。彼は主要野党にとって、エジプトの次回国会議員選挙の、いいジャンピング・パッドに、過ぎなかったということかもしれない。
Posted by 佐々木 良昭 at 00:36 | この記事のURL
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