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NO4307  『緊張度を増すトルコ・イラク国境』 [2016年11月03日(Thu)]
いま中東で最も危険な動きは、トルコとイラクの国境をめぐる、問題であろう。イラクのアバデイ首相は、もし、トルコ軍が越境してくるなら、応戦すると語り、それはトルコの分裂に、繋がると警告している。

トルコ側のエルドアン大統領の、強気な発言はあるが、最近になって、トルコの外相や副首相防衛相などは、緊張を緩和させる内容の、発言をし始めている。それは冷静に考えれば、当然分かることであろう。

トルコ側に言わせれば、あくまでも国境地帯の安全を、守ることが目的であり、イラクに軍事侵攻をすることは、目的ではないというのだが、イラク側はそのままトルコ軍が、居座ることを警戒しているのだ。

そもそも、このイラクとトルコの緊張は、イラクの領土内のバシカに、トルコ軍がキャンプを、設置したことに始まる、トルコ側はあくまでも、イラク側の要請にもとづく、イラク軍兵士の訓練のためのものだ、というのだが、それは、マリキー政権の時代の話であり、現在のアバデイ首相の、要請によるものではないのだ。

トルコがイラクに、軍事侵攻しそうな気配にあるのは、トルコの南東部のシロピを拠点とするPKK(クルド労働党)がイラク領土内に拠、点を持つようになれば、PKKは越境攻撃してくる可能性が高まり、トルコにとっては非常に、対応が難しくなるからだ。

PKK側がイラクからトルコ領内に、越境攻撃を加えてくる度に、トルコ軍はイラクの顔色を伺いながら、イラクに越境しPKKを、攻撃しなければならなくなるからだ。

加えて、モースルが陥落した後、イラクのシーア派が強化され、それがイラク国内はもとより、トルコにも飛び火してくる、危険性があるからだ。イラクのシーア派とトルコの反政府勢力が、結託する危険性もあろう。

トルコはシリアとの国境に、長大な防衛壁を構築しているが、その完成は来年だといわれている。その費用は膨大な金額になっていよう。加えて、イラクとの戦闘が始まれば、これも膨大な戦費を、必要とするということだ。

それは、そうでなくとも苦しい、トルコの財政を窮迫させることになろう。トルコの観光はいま、相当なダメージを受けており、加えて農産品の輸出も、ままならない状態にある。西側諸国はトルコ政府の発表とは異なり、次第にトルコを問題視し始め、取引を縮小させてもいる。

エルドアン大統領がイラクのアバデイ首相の、強気な発言に激怒し、軍を動かすことになれば、たとえ勝利することが出来たとしても、相当の犠牲を伴うということではないのか。

ギュレン派つぶしの関係で、将校以上の軍幹部の多くが更迭され、首を切られ、投獄されている。これではまともな作戦計画は、立てられまい。空軍のパイロットも然りであり、何処まで有効な空爆が、成功するか疑問だ。

軍に幹部がいなくなるということは、まともな作戦計画を立てられない、ということなのだから、イラクとの戦闘で敗北する可能性が、高いということであろう。つい最近、日本に来た元軍人が語るところによれば、軍人の間のエルドアン大統領に対する不満は、表面には出ていないが、相当なレベルに達している、ということだ。

あるトルコの学者は、トルコ軍がイラクに軍事侵攻すれば、トルコ兵の流す血で、湖が出来ようと語ったということだ。それだけトルコ軍のイラク侵攻は、危険性が高いということであろう。

同時に、トルコ国民のエルドアン大統領に対する、怒りが暴発する危険性も高いのだ。つまり、いまのトルコは、幾つもの時限爆弾を、抱えた状態にあるということだ。
Posted by 佐々木 良昭 at 10:37 | この記事のURL