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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


打倒ベルルスコーニの模索 [2011年03月09日(Wed)]
ローマの8日火曜日ですが、今日は二人の上院議員と一人の下院議員から話を聞きました。パーピさんが途中まで付き添ってくれ、資料のコピーも手配してくれました。イタリアは人間関係がないと何も進まない国なので、助かります。

下の写真は、上院の正面、本会議場の内部です。夜の8時過ぎで、一旦閉まっていたのですが、モナコ上院議員が日本から来てるからというと、衛視が開けてくれました。写真を撮るのも見ないことにするということで。






午後3時からは、マリーナ・セレーナ下院議員(上の写真)から聞きました。1960年生まれで、若い時から共産党の活動家で、2006年には左翼民主党下院議員団の副団長代理になり、2009年には民主党副議長になっています。

選挙制度や統治機構の改革案について話してくれ、関係資料も渡してくれました。選挙制度については、フランス型の2回投票の小選挙区制に一部比例部分を残した制度を現在は提案しているようです。

2005年末にベルルスコーニが急遽導入した現行の制度は、比例代表制で政党に投票したうえで、下院では全国集計で、上院では州ごとの集計で相対第一党に55%の議席を割り当てるというかなり乱暴な制度です。2006年総選挙では、全国集計でわずか2万4千票差でベルルスコーニが負けてしまい、数え直せといって負けを認めず大騒ぎになったことがあります。

話を聞いた議員さんたちが口をそろえていうのは、個々の議員が党の書記長から名簿に載せてもらって当選したという感覚になり、選挙区の有権者から選ばれたことを根拠にした自律性が持てないのでよくないということです。ベルルスコーニとしては、議員団をコントロールするのが狙いだったのでしょう。

そのあと4時45分からパルディ上院議員(上の写真)から話を聞き、8時からはモナコ上院議員(話に夢中で写真を取り忘れました)と夕食を食べながらじっくり話ました。

モナコさんは、プローディ政権の時代の97、8年に日本に招待し、オリーブの木についての講演旅行をしてもらったことがあり、ここでもお互い年を取ったなあという話になりました。彼は長く下院議員をやったあと、上院議員になっていました。

民主党の中枢にかなり近い感じで、これまでで一番政局について突っ込んだ話を聞くことができました。

たとえば、あえて民主党単独で2008年総選挙を戦ったベルトローニはほぼ政治生命をなくした感じで、中道左派のなかでは、やはり政党連合を形成して戦わなければベルルスコーニには勝てないという状況認識が主流になっているようです。

たしかに、政権をとったあとの内紛という問題もありますが、ベルルスコーニを一旦倒すためには政党連合を形成せざるをえないということでしょう。

その政党連合の相手としては、左は共産主義再建党に加わったあとプーリアの州知事になったヴェンドラから、中道連合のカジーニ、さらには北部同盟のボッシまでが想定されているそうです。カジーニは最終的にはベルルスコーニ後のの中道右派のトップになることを目指している野心家ですが、元首相のダレーマが連携を働きかけているようです。ダレーマは、現在の民主党書記長のベルサーニの後見役ですが、他党とのパイプがあって連合交渉の中心のようです。

驚くのは、北部同盟とも交渉をしているということです。特にナンバー2のマローニと近いようです。実際、94年には、ベルルスコーニ内閣から北部同盟を離反させ、8か月で倒閣に成功した前例があります。

ただ、北部同盟は、90年代末にボッシが脳溢血で倒れたことがあり、ベルルスコーニからかなりの経済的援助を公私ともに受けていることと、政治文化の共通性もあり、なかなか中道左派とは組まないようです。しかし、ベルルスコーニ後のことを考えて、一旦は反ベルルスコーニ連合に加わる可能性もゼロではありません。

中道左派連合をどう再構築するか、最近はダレーマは新しい「オリーブの木」を作ろうという提案をしているようですが、この問題に加えて、ベルルスコーニ、ないしその後継者のトレモンティに対抗でいきるような首相候補を見つけられるかという問題があります。

ベルサーニは大臣経験も豊富な有能な政治家ですが、カリスマ性がないという問題があるそうです。ヴェンドラは人気は高いのですが、左過ぎて中道票が逃げるという問題があります。

ダレーマは中道連合のカジーニを首相候補にすることを考えているということでした。モナコさんによれば、ダレーマは徹底した現実主義者で、左翼は30%前後以上の票は取れないので、勝つためにはとにかく連合相手を見つけるしかないという考え方で一貫しているそうです。プローディさんたち、特にパリージさんはそれに非常に批判的だそうです。

以上のように、いかにして多様な勢力を結集して選挙に勝つか(代表性)の問題と、いかにして機能する政権を作るか(統治可能性)の二律背反に悩みながら戦略を考えていることが良く分かります。これには単純明快な答えはありません。

日本は15年かかってようやく選挙に勝つという課題はクリアしたわけですが、統治可能性の問題でイタリア以上の深刻な混迷に陥っているのが現状です。ですから、代表性と統治可能性の二律背反にようやくこれから本格的に向き合うことになるでしょう。

それとセットの問題として、選挙制度の在り方、首相の指導力強化のための制度整備、小選挙区制型の民主主義のもとでの国会の在り方、特に二院制の問題など、制度改革の課題も山積です。イタリアでは左右ともにかなり制度改革の提案を蓄積してきていますが、日本ではほとんど取り組まれていません。

イタリアも日本も、今後10年の政治的課題は大体明らかになってきたと思いますが、それに取り組む体制は日本は民主党、自民党ともにやはり頼りないですね。ベルルスコーニ問題がないだけ助かりますが、それも第二の小泉のような人が出てこないとも限りません。

やはり、ベルルスコーニ研究をやるべきでしょうか。
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