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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


強い市長 [2011年02月25日(Fri)]

アトランタの24日、最終日です。

やはり2006年12月に設立され、CH2M HILL社への一括委託で始めた新市であるジョンズ・クリーク市(約7万人)のマイク・ボドカー市長と昼食を食べながら1時間余り話しました。写真を撮るのを忘れるほどだったので、ホームページの写真を載せておきました。

今回の市長は、制度的にも「強市長制」を取っている自治体だということもあり、非常にエネルギッシュな人で、1時間以上、マシンガンのようにしゃべりまくってくれました。

強市長制とは、市長はほかの議員(6人)と同じく1票持つと同時に、拒否権をももっているほか、シティマネジャーを任命するのも単独でできる権限があるというものだそうです。市長の拒否権を覆すためには、5票必要です。

ボドカ―氏は、公認会計士の資格を持ち、コンサルタント会社の共同経営者ということで、年俸は2万5千ドルとやはりパートタイムの市長ですが、本業と市長とで使う時間は半分ずつというかなり本格的な市長でした。

ちなみに、政治を本職とするという意味での職業政治家(professional politician)という言葉はアメリカ人にとっては否定的な言葉で、フルタイムの政治家というのはそうではないということでした。彼自身も、本業で所得を得ながら、しかし時間的にはフルタイムでやっているという自負がある感じです。また、市長はプロではないが、本業ではプロだという言い方もしていました。

このように専門職などで高給を得ているだろう人たちがパートタイムの公職に就くという習慣が広くあるのがアメリカだと思いますが、その動機は何なのかを聞いたところ、自分の街を変えたい、良くしたいという気持ちだという答えでした。(彼自身も、職業政治家になる気はまったくないということでした。)

ここでも、議決の規定数である4人以上で市長や議員が集まることは禁止されているそうで、このことは特に透明性のために重要だと力説していました。4人以上集まる場合は、市に関することは話さないと宣言するか、誰でも傍聴できるように事前に予告する必要があるそうです。

現実には、4人以上集まることはほとんどなく、少人数で個別にあって協議するそうです。

トータル・アウトソーシングについては、当然ながら高い評価で、特に新市を設立する場合にはこれしかないんじゃないかという意見でした。また、伝統的な市でも、部門単位での民間委託はかなり広がっているということでした。

シティマネジャーの選択が重要ではないかと質問したら、まさにそうで、特に多くのシティマネジャーは民間委託に消極的なので、民間委託に「開かれた」姿勢をもっていることを重視して面談したそうです。今のシティマネジャーは初代(暫定を除く)のままで、満足しているということでした。

それと、ジョンズクリークも昨年からCH2M HILL1社でなく、部門毎に数社と契約する方式に転換したそうです。しかし、ミルトンとは違って、部長を直接雇用せず、シティマネジャーが全体をマネージするという方式です。

CH社には引き続いてコミュニティ開発部門と公共事業部門を委託し、消防や警察は直営、sの他はほかの企業に委託という形のようで、現在は235人の公務員がいるということです。

どうも、1社との契約を分割して数社にするというのがトレンドになっていると言ってよさそうです。ボドカー市長の説明ではっきりしたのは、1社だとどの部門で余剰を生み出しているかがわからないので、部門ごとに分割して競争させて一番安い企業を使おうという狙いだということです。

彼によれば、1社時代に比べて300万ドル(約2億5千万円)ほど安くなったそうです。たしか、全体の財政は7500億ドルということなので、かなりの違いになりますね。

不況による財政状況の深刻化もありますが、やはりとにかく税金や政府は小さく抑えたいという風土が大きな要因だと感じました。

これは予算編成に関して質問した時にも感じました。

財政部長とシティマネジャーとで各部長の要望を聞きながら予算原案をつくり、それを市長や議員が検討、修正するという方式は同じですが、市長や議員が新しい事業を提案したりすることはないのかと聞いたところ、そもそも新しい事業を増やさないということが大きな目的だという答えでした。

自治体は税率上限までチャーターに書き込んであるように、最小限の税金で不可欠のサービスを提供するということが基本という考え方が前提にあるわけです。日本のように、国の交付金や補助金をあてにして、議員も職員も民間団体もとくかく事業を増やそうと争っているところの感覚で質問するとかみ合いません。

部の編成を見ても、コミュニティ開発、コミュニティ関係(広報広聴、市民参加など)、財政、人的資源、公共事業ということで非常にシンプルです。

教育は別に教育区という単機能の自治体があります。

福祉関係などは、州や連邦政府で民主党が政権を持ったときに拡大するということなのでしょう。自治体レベルでほとんどのニーズに応えようとする日本の自治体とはかなり性格が異なるという理解が必要だと思います。

***

ところで、ボドカー市長は非常にありがたい情報を一つくれました。それは、理性財団(Reason Foundation)が民間委託について詳細な研究や報告を出しているということです。

さっそく検索してみたら、『民間委託報告2010年』という詳細な報告が、地方政府、州政府、連邦政府それぞれについて出されたばかりでした。

そして、ジョージア州の5つの新しい市のトータル・アウトソーシングの事例はずっと注目されていることが分かりました。

そこでの記述でも、新市を作るときには、1から公務員を雇って組織を作るのは大変なので、1民間企業に包括委託するのがベストだったが、市の側の力量がつくにつれて、数社に分割して委託したり、一部を直営にしたりして、それぞれがよりよい方法を模索ししているというのが最近の状況だということです。

調査の最終日としては、なかなか収穫がありました。
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