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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


官邸崩壊 [2010年01月08日(Fri)]
「官邸崩壊」というのは、ジャーナリストの上杉隆さんがかつて安部内閣について書いた本のタイトルです。

その上杉さんによれば、鳩山官邸の状況はかなりひどい状況のようです。

党は別として、官邸は予想以上にひどいという印象ですね。官邸を取材するようになって10年くらい経ちますが、その経験からいうと、安部官邸の最初の頃に似ているなと思っていたんですがね。しかし、それよりもひどい状況で。(『SIGHT』2010年冬号、86ページ)

官邸がまったく機能していないんです。もっと問題なのは、機能不全を起していることに気づいていないことです。

具体的に言ってしまうと、平野官房長官の能力不足です。彼は野党時代のメディア対策や国会運営の経験を、そのまま官邸に持っていってしまったんですね。何が違うかというと、野党の役員室長での経験なんて、ちっちゃな話なんですよ。国家を背負う与党はスケールが全然違うわけですよ。
(87ページ)

他方、上杉さんは小沢一郎に対する評価は高い。

小沢さんにとっての真の意味での「政権交代」とは、これからの4年間で予算編成を3回以上やって、自ら作った予算案の決算まで行うというサイクルを完遂させた段階で初めて達成したとみなすんじゃないかと思います。

それに加えて、予算の総組み換えという革命的な編成をすることで、霞ヶ関の質を抜本的に変える。そうすれば、業界各種団体にぶらさがっている官僚も族議員も消えて、早い話がこれまで自民党政権を支えてきた政治構造を完全に潰せる。

官僚のほうだって、自分が生き残るためにはもう民主党につきますよ。省益といったって、それは自分の利益の延長にある話ですから。

民主党政権は8年、場合によっては12年、16年続く可能性が高い。
(96ページ)

要するに、小沢一郎が仕切る民主党政権は長期化することが確実だが、官邸は崩壊状況だということです。

上杉さんの処方箋は、@官房長官を代える、A国家戦略局を立ち上げて、官房長官権限を変える、というものです。

より原理的にいえば、小沢幹事長が無任所大臣として閣内に入り、基本政策閣僚委員会などにも出席して政策の基本も仕切るというのが本来の政府与党一元化のはずです。小沢氏も『日本改造計画』ではこういう構想を描いていたわけですから。

そうは言っても、小沢氏は「実務」以外のめんどうな儀式が極端に嫌いという人のようなので、当面は政府連立与党首脳会議のような形で一元化の努力をするしかないでしょう。

それはそれとして、官邸が機能する体制を整えるというのは、自民党時代も含めて日本政治の未解決の課題だと思います。だから、鳩山官邸がひどいとしても、すぐに政権が崩壊するわけでもないでしょう

しかし、最低でも小泉内閣時代の小泉−竹中ラインのような機能する基軸を確立することは不可欠です。おそらく菅さんがキーパーソンでしょう。当初希望していたように菅さんが官房長官になるか、国家戦略室が従来の官房長官の政策的司令塔の役割を担うものになっていたら、鳩山−菅を軸に官邸はもっと強化されていた可能性があります。

上杉さんは、「どうもある時期に、小沢幹事長サイドから、内閣に深くコミットしなければ、『次は菅首相』だと人参をぶら下げられたらしいんです」という証言も紹介しています。(『中央公論』2010年1月号、96ページ)

だとしても、菅さんも財務大臣になったわけですから、鳩山内閣に本格的にコミットして鳩菅枢軸を再構築するしかないでしょう。そのうえで官邸の強化策も緊急に必要だと思います。

民主党政権は個々の大臣が頑張ればできる課題については成果を挙げていますが、普天間基地の問題をはじめ、政府と党が一体となって取り組むべき戦略的課題に関しては迷走しているようにしか見えないからです。
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