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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


愛西市の行政改革 [2009年10月20日(Tue)]
 自治体ネタの三連発になりますが、昨日は愛西市の「行政改革推進委員会」に出席しました(私が会長なので欠席できません)。愛西市は2005年4月に4町村が合併してできた新しい市で、人口は6万7千人ほどです。市長選挙でのマニフェスト討論会の司会を務めたのが縁で、初代の八木市長の当選とともに一緒に仕事をさせていただいてきたので、私の愛西市との関わりも4年ほどになります。

 市民フォーラム21・NPOセンターとして開発してきた政策マーケティング、まちづくり指標、ロジック・モデル、協働型マネジメント・サイクルなどの行政経営の仕組みをフルセットで導入してもらっています。愛西市の特徴は、政策マーケティングで選ばれたまちづくりの理念の第一位が「なごみ」、第二位が「ゆとり」だったことに象徴されています。

 自然環境と住みよさが魅力のまちですが、無理に経済発展を追求するのではなく、なごみとゆとりをキーワードにしたまちづくりを住民多数が望んでいるだけに、ゆったりとした雰囲気です。

 おかげで、約200億円の一般会計収入は地方交付税や国・県支出金に大きく依存していますが、そのうち法人税が地方税収入のたった4%しかないので、愛知県の自治体が被っているトヨタ・ショックによる税収激減もなかったという、喜ぶべきか、悲しむべきかわからない状況です。

 今日紹介したいのは、2007年に3年間の期間で策定しフォローしてきた「愛西市行政改革第1期推進計画(通称、集中改革プラン)」のユニークな点です。それは、ほとんどの自治体の集中改革プランは総務省にいわれて作ったおざなりなもので、人員の削減、民間委託、指定管理者制度、各種補助金の見直し、外郭団体改革などの「手段」は書いてあるのに、肝心の3年後の成果目標が明記されていないのと対比すると明瞭です。つまり、愛西市の集中改革プランは、3年後と10年後(第1次総合計画の最終年)に関して、@公債費比率(借金の割合)、A経常収支比率(財政の硬直性)、B基金残高(貯金)の三つのマクロ財政指標の数値目標を設定したのです。

 もともと、「計画」においては、期限と数値目標こそが重要であって、そのために何をやるかは「手段」にすぎません。ですから、手段をどれだけ盛り込んであっても、期限と数値目標がなければ計画として機能しません。財政破綻しない保障にはなりません。また、成果の状況を見ながら、手段は不断に見直さなければなりません(多くの自治体の計画では目標が不明確なまま、手段を固定してしまっています)。

 しかし、愛西市は、三つの指標を絶えず点検して数値目標を堅持する限り、絶対に財政破綻しない仕組みなのです(計画策定当時は、夕張市の財政破綻が話題でした)。もちろん、持続可能な財政だけが至上目的ではなく、財政を健全に保ちながら、別に総合計画に盛り込んだ「生活課題」の「まちづくり指標」の数値目標を達成していくことが市政運営の二本柱になります。

 ちなみに、@公債費比率の2005年度の数値は5・2%で、3年後の目標が8・8%以内、10年後の目標が12・0%以内、A経常収支比率の05年度の数値は83・2%で、3年後の目標が85・0%以内、10年後の目標が92・0%以内、B基金残高の05年度の数値は63億円で、3年後の目標が52億円以上、10年後の目標が30億円以上でした。

 それぞれの指標の08年度決算の数値は、@5・0%、A84・6%、B101億円で、きちんと目標を達成しています。すばらしいですね。拍手

 こうした数値目標を設定することについては、当初は市幹部や職員の皆さんとずいぶん議論しましたが、特に財政課長さんがコミットしてくれて実現しました。財政課長としては目標設定は大変である一方で、毎年のマクロ財政をコントロールする強力なツールになることを理解されたのだと思います。もちろん、行政改革推進委員会の委員さんたちは、「そんなもの民間なら当然のことだ」という意見をはじめ、全員が賛成でした。

 こうした明確な目標があると、目標の達成状況に照らして「手段」(行財政改革のさまざまな取り組み)が議論できるので、昨日の委員会の約2時間の議論も実のあるものになったと思います。

 来年1月には、2010年度からの第2期計画の詰めの議論をする予定です。
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