第3の道
[2010年06月10日(Thu)]
菅新政権のキーワードとして、「第3の道」が注目されているようです。私のところにもいくつか取材がきています。
調べてみたところ、菅さんの公式サイトの2009年11月22日「今日の一言」で、最近、経済における「第3の道」を考えていると書いたのが最初のようです。
第1の道にあたるのは、「80年代以降、投資効果に低い公共事業に巨額の財政をつぎこんだのが経済の低迷の原因」。
第2の道にあたるのが、「小泉・竹中路線は、リストラなどによる各企業の競争力の強化が社会全体の生産性向上になると考えたが失業を増加させ、社会全体としての経済成長につながらなかったのが失敗の原因」。
それでは過去の失敗を繰り返さない経済運営における「第三の道」は何か。現在、深く考慮中。
2009年12月16日のmsn産経ニュースに掲載された「菅VS竹中論争」でも、第1、第2の道を批判しながら第3の道を主張しています。
ですから、そういう第一の道は破綻(はたん)したと。次に率直に申し上げて小泉・竹中路線といわれているのは、今言われたように、例えばカルロス・ゴーンが来て、日産、正確な数字は別として1万人の労働者をですね、半分ほどリストラすると。確かに5000人の日産は高い生産性になったかもしれないけど、リストラされた5000人が新たな、完全雇用で新たなところで同じような効率高いところで仕事ができればいいんですが、結果として失業状態になり、低賃金であえぐようなことになれば、マクロとしては成長はしていないわけです。ですから私は一企業の日産はリストラできても、国は国民をリストラできないんだから、必ずしも個別の企業が競争力を高めることが、それを全部やったら、イコール、マクロ的な成長になるとはかぎらない。それは完全雇用の下ではなるかもしれません。
そこで第三の道ということで今、この間の経済政策とか雇用政策で常に打ち出しているのは、雇用が新しい需要を生む。例えば介護などは雇用が増えることでイコール、サービスを増やすことになる。あるいは同じ費用でも1兆円で1兆円しか効果がないというのが今の経済財政の官僚のみなさんの計算なんですが、おかしいではないかと。1兆円でやっぱり11兆円ぐらい生み出すような知恵があるはずだ。それから規制について、抑圧されたと言われましたけど、私の言い方で言えば、社会ルールを変えることによって、規制を弱くする場合もあるし、強くする場合もありますが、それによって新しい需要なり、そういうものが特に環境分野で生まれてくる。ですから私はどうも竹中さんが言われるですね、供給サイドを強めればそれでマクロ的にもよくなるという考えは第二の道として失敗したというのが私の見方ですが、いかがですか。(出所)
経済政策論としては、ケインジアンの小野善康阪大教授の理論が基礎にあることは明らかです。小野善康『不況のメカニズム』中公新書、など。
しかし、90年代にイギリスのブレア首相からヨーロッパ各国の中道左派、さらにアメリカのクリントン大統領にまで広がった本来の第3の道(提唱者は社会学者のギデンス)は、経済政策だけでなく政策全体の基本的理念でした。
菅さんも、財政、経済に加えて社会保障を一体として考えると言っているので、是非、包括的な政策理念まで展開させてほしいと思います。
そこで問題になるのは、ヨーロッパの第3の道は、伝統的社会民主主義の大きな政府の考え方を、新自由主義の考え方を受け入れて根本的に再構築したものだったということです。ブレアなど、サッチャーの息子とまで呼ばれました。
私自身は、第3の道を、サッチャーやレーガンらの「粗野な新自由主義」に対比して「成熟した新自由主義」と呼んでいます。
菅さんの第3の道が、社会民主主義的なものになるのか、新自由主義の考え方を大胆に取り入れた本来の第3の道になるのかが注目点です。日本の政治的文脈では、小泉路線を正面から再評価することはできないとしても、ヨーロッパ的な第一の道である社会民主主義に戻るのでは、竹中さんの批判ないし危惧が的中してしまうことになります。
この点で、ギデンス、渡辺聡子『日本の新たな「第三の道」』ダイヤモンド社、2009年、が必読文献です。副題が、「市場主義改革と福祉改革の同時推進」となっているように、依然として「日本には自由競争を制限するさまざまなシステムが存在し、市場原理が機能していない領域が多い」という認識が前提にあります。
私自身も、日本はさらに自由主義的改革を推進すべきだと考えています。
一つ期待できる兆候は、菅さんのもう一つのキーワードが「最小不幸社会」だということです。つまり、政府がやるべきことは共通の不幸(貧困、病気、戦争など)を最小にすることであり、より積極的に幸福を追求する局面では、政府は介入せずに個々人が自分の価値観で自由に追求するのがいい、という考え方です。
その意味で、単なる大きな政府とは一味違いそうです。
菅政権が本格政権になるためにも、政権の基本理念が必要だと思います。明日の所信表明演説でその兆しがみられるかどうか注目したいと思います。
調べてみたところ、菅さんの公式サイトの2009年11月22日「今日の一言」で、最近、経済における「第3の道」を考えていると書いたのが最初のようです。
第1の道にあたるのは、「80年代以降、投資効果に低い公共事業に巨額の財政をつぎこんだのが経済の低迷の原因」。
第2の道にあたるのが、「小泉・竹中路線は、リストラなどによる各企業の競争力の強化が社会全体の生産性向上になると考えたが失業を増加させ、社会全体としての経済成長につながらなかったのが失敗の原因」。
それでは過去の失敗を繰り返さない経済運営における「第三の道」は何か。現在、深く考慮中。
2009年12月16日のmsn産経ニュースに掲載された「菅VS竹中論争」でも、第1、第2の道を批判しながら第3の道を主張しています。
ですから、そういう第一の道は破綻(はたん)したと。次に率直に申し上げて小泉・竹中路線といわれているのは、今言われたように、例えばカルロス・ゴーンが来て、日産、正確な数字は別として1万人の労働者をですね、半分ほどリストラすると。確かに5000人の日産は高い生産性になったかもしれないけど、リストラされた5000人が新たな、完全雇用で新たなところで同じような効率高いところで仕事ができればいいんですが、結果として失業状態になり、低賃金であえぐようなことになれば、マクロとしては成長はしていないわけです。ですから私は一企業の日産はリストラできても、国は国民をリストラできないんだから、必ずしも個別の企業が競争力を高めることが、それを全部やったら、イコール、マクロ的な成長になるとはかぎらない。それは完全雇用の下ではなるかもしれません。
そこで第三の道ということで今、この間の経済政策とか雇用政策で常に打ち出しているのは、雇用が新しい需要を生む。例えば介護などは雇用が増えることでイコール、サービスを増やすことになる。あるいは同じ費用でも1兆円で1兆円しか効果がないというのが今の経済財政の官僚のみなさんの計算なんですが、おかしいではないかと。1兆円でやっぱり11兆円ぐらい生み出すような知恵があるはずだ。それから規制について、抑圧されたと言われましたけど、私の言い方で言えば、社会ルールを変えることによって、規制を弱くする場合もあるし、強くする場合もありますが、それによって新しい需要なり、そういうものが特に環境分野で生まれてくる。ですから私はどうも竹中さんが言われるですね、供給サイドを強めればそれでマクロ的にもよくなるという考えは第二の道として失敗したというのが私の見方ですが、いかがですか。(出所)
経済政策論としては、ケインジアンの小野善康阪大教授の理論が基礎にあることは明らかです。小野善康『不況のメカニズム』中公新書、など。
しかし、90年代にイギリスのブレア首相からヨーロッパ各国の中道左派、さらにアメリカのクリントン大統領にまで広がった本来の第3の道(提唱者は社会学者のギデンス)は、経済政策だけでなく政策全体の基本的理念でした。
菅さんも、財政、経済に加えて社会保障を一体として考えると言っているので、是非、包括的な政策理念まで展開させてほしいと思います。
そこで問題になるのは、ヨーロッパの第3の道は、伝統的社会民主主義の大きな政府の考え方を、新自由主義の考え方を受け入れて根本的に再構築したものだったということです。ブレアなど、サッチャーの息子とまで呼ばれました。
私自身は、第3の道を、サッチャーやレーガンらの「粗野な新自由主義」に対比して「成熟した新自由主義」と呼んでいます。
菅さんの第3の道が、社会民主主義的なものになるのか、新自由主義の考え方を大胆に取り入れた本来の第3の道になるのかが注目点です。日本の政治的文脈では、小泉路線を正面から再評価することはできないとしても、ヨーロッパ的な第一の道である社会民主主義に戻るのでは、竹中さんの批判ないし危惧が的中してしまうことになります。
この点で、ギデンス、渡辺聡子『日本の新たな「第三の道」』ダイヤモンド社、2009年、が必読文献です。副題が、「市場主義改革と福祉改革の同時推進」となっているように、依然として「日本には自由競争を制限するさまざまなシステムが存在し、市場原理が機能していない領域が多い」という認識が前提にあります。
私自身も、日本はさらに自由主義的改革を推進すべきだと考えています。
一つ期待できる兆候は、菅さんのもう一つのキーワードが「最小不幸社会」だということです。つまり、政府がやるべきことは共通の不幸(貧困、病気、戦争など)を最小にすることであり、より積極的に幸福を追求する局面では、政府は介入せずに個々人が自分の価値観で自由に追求するのがいい、という考え方です。
その意味で、単なる大きな政府とは一味違いそうです。
菅政権が本格政権になるためにも、政権の基本理念が必要だと思います。明日の所信表明演説でその兆しがみられるかどうか注目したいと思います。