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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


第3の道 [2010年06月10日(Thu)]
菅新政権のキーワードとして、「第3の道」が注目されているようです。私のところにもいくつか取材がきています。

調べてみたところ、菅さんの公式サイトの2009年11月22日「今日の一言」で、最近、経済における「第3の道」を考えていると書いたのが最初のようです。

第1の道にあたるのは、「80年代以降、投資効果に低い公共事業に巨額の財政をつぎこんだのが経済の低迷の原因」。

第2の道にあたるのが、「小泉・竹中路線は、リストラなどによる各企業の競争力の強化が社会全体の生産性向上になると考えたが失業を増加させ、社会全体としての経済成長につながらなかったのが失敗の原因」。

それでは過去の失敗を繰り返さない経済運営における「第三の道」は何か。現在、深く考慮中。


2009年12月16日のmsn産経ニュースに掲載された「菅VS竹中論争」でも、第1、第2の道を批判しながら第3の道を主張しています。

ですから、そういう第一の道は破綻(はたん)したと。次に率直に申し上げて小泉・竹中路線といわれているのは、今言われたように、例えばカルロス・ゴーンが来て、日産、正確な数字は別として1万人の労働者をですね、半分ほどリストラすると。確かに5000人の日産は高い生産性になったかもしれないけど、リストラされた5000人が新たな、完全雇用で新たなところで同じような効率高いところで仕事ができればいいんですが、結果として失業状態になり、低賃金であえぐようなことになれば、マクロとしては成長はしていないわけです。ですから私は一企業の日産はリストラできても、国は国民をリストラできないんだから、必ずしも個別の企業が競争力を高めることが、それを全部やったら、イコール、マクロ的な成長になるとはかぎらない。それは完全雇用の下ではなるかもしれません。

そこで第三の道ということで今、この間の経済政策とか雇用政策で常に打ち出しているのは、雇用が新しい需要を生む。例えば介護などは雇用が増えることでイコール、サービスを増やすことになる。あるいは同じ費用でも1兆円で1兆円しか効果がないというのが今の経済財政の官僚のみなさんの計算なんですが、おかしいではないかと。1兆円でやっぱり11兆円ぐらい生み出すような知恵があるはずだ。それから規制について、抑圧されたと言われましたけど、私の言い方で言えば、社会ルールを変えることによって、規制を弱くする場合もあるし、強くする場合もありますが、それによって新しい需要なり、そういうものが特に環境分野で生まれてくる。ですから私はどうも竹中さんが言われるですね、供給サイドを強めればそれでマクロ的にもよくなるという考えは第二の道として失敗したというのが私の見方ですが、いかがですか。
出所

経済政策論としては、ケインジアンの小野善康阪大教授の理論が基礎にあることは明らかです。小野善康『不況のメカニズム』中公新書、など。

しかし、90年代にイギリスのブレア首相からヨーロッパ各国の中道左派、さらにアメリカのクリントン大統領にまで広がった本来の第3の道(提唱者は社会学者のギデンス)は、経済政策だけでなく政策全体の基本的理念でした。

菅さんも、財政、経済に加えて社会保障を一体として考えると言っているので、是非、包括的な政策理念まで展開させてほしいと思います。

そこで問題になるのは、ヨーロッパの第3の道は、伝統的社会民主主義の大きな政府の考え方を、新自由主義の考え方を受け入れて根本的に再構築したものだったということです。ブレアなど、サッチャーの息子とまで呼ばれました。

私自身は、第3の道を、サッチャーやレーガンらの「粗野な新自由主義」に対比して「成熟した新自由主義」と呼んでいます。

菅さんの第3の道が、社会民主主義的なものになるのか、新自由主義の考え方を大胆に取り入れた本来の第3の道になるのかが注目点です。日本の政治的文脈では、小泉路線を正面から再評価することはできないとしても、ヨーロッパ的な第一の道である社会民主主義に戻るのでは、竹中さんの批判ないし危惧が的中してしまうことになります。

この点で、ギデンス、渡辺聡子『日本の新たな「第三の道」』ダイヤモンド社、2009年、が必読文献です。副題が、「市場主義改革と福祉改革の同時推進」となっているように、依然として「日本には自由競争を制限するさまざまなシステムが存在し、市場原理が機能していない領域が多い」という認識が前提にあります。

私自身も、日本はさらに自由主義的改革を推進すべきだと考えています。

一つ期待できる兆候は、菅さんのもう一つのキーワードが「最小不幸社会」だということです。つまり、政府がやるべきことは共通の不幸(貧困、病気、戦争など)を最小にすることであり、より積極的に幸福を追求する局面では、政府は介入せずに個々人が自分の価値観で自由に追求するのがいい、という考え方です。

その意味で、単なる大きな政府とは一味違いそうです。

菅政権が本格政権になるためにも、政権の基本理念が必要だと思います。明日の所信表明演説でその兆しがみられるかどうか注目したいと思います。

奇兵隊内閣 [2010年06月08日(Tue)]
菅新政権と民主党執行部の顔ぶれが決まりました。

菅新総理は、内閣の呼び名を聞かれて、「奇兵隊内閣」と答えました。自分もそうだが、普通のサラリーマンや自営業者の息子たち(娘たちがあまりいないのが弱いところですが)が志さえあれば政治の世界でも活躍できるということを示している、ということをかなりの力を込めて言いました。ここには菅さんの感慨が強くこもっていたと思います。ちょっとこみ上げるものを抑えているような感じすらしました。

幸か不幸か、鳩山さんと小沢さんの系統の人には元自民党や二世議員が多かったので、二人の辞任でそういう人たちが減って、民主党オリジナルメンバーが主体となった、もっとも民主党らしい内閣ができることになりました。菅さんはたしかに、その象徴です。官房長官を仙谷さんにし、幹事長を枝野さんにし、政調を復活させて政調会長を玄葉さんにしたことには、菅さんの覚悟が伺えます。

日曜日の朝に菅さんにお祝いの電話をしたときには、(脱小沢で)それほど事を構えようとしたわけではないと言ってましたが、脱小沢という以上に、民主党として本来の勝負をかけるうえで覚悟の人事だったということだと思います。

昨年8月30日の総選挙による政権交代から8か月で首相が替わってしまいましたが、民主党に投票した有権者が期待したものは、実は今回の菅新政権のようなものだったと思います。

もちろん、だからと言って菅新政権が機能するかどうかは別問題です。

仙谷さんの言葉によれば、「仕事好き」が集まった内閣だということなので、良くも悪くも民主党の本当の実力が出ることになります。

それがきちんとした成果を上げられれば、日本における二大政党制は完全に軌道に乗るでしょう。自民党も、民主党批判だけで政権に復帰できるという甘い期待を捨てざるをえなくなるでしょう(標的のツートップが辞職してしまって、本当に残念そうですね)。

菅新政権が、7月の参議院選挙で過半数を大きく割るようだと、また小沢さんが復活して政界再編というような筋の悪い話が浮上してしまいます。

政界再編ごっこ自体が飯より好きという人たちの出番はもうそろそろ終わりにして、政権としてきちんとした活動をして成果を上げることで競うような政治へとバージョンアップさせたいものだと思います。

その意味で、菅新政権の成否、当面は参議院選挙の結果には民主党だけでなく、政治改革以来の日本政治の命運がかかっているといっても過言ではありません。

菅さんの大勝負 [2010年06月05日(Sat)]
昨日4日に菅さんが新首相に指名されましたが、その後の動きを見ると、予想以上に腹をくくって勝負に出ていると思います。

小沢執行部が残した4日に即組閣という無理なスケジュールを蹴飛ばし、週明けまで人事を延ばしたのが象徴的です。もちろん、その前に、「小沢氏にはしばらく静かにしていてもらうのがいい」という発言があったわけですが。

2003年の民主党と自由党との合併から最近までは、小沢氏と意識的に友好関係を演出してきていただけに、首相になってからも徐々に独自色を出していくのかと思っていましたが、旧民主党のオリジナル・メンバー(仙石さん、枝野さん、玄葉さん、など)で中核を固めて正面から勝負するという決断をしたようですね。

小沢さんも、小沢グループも9月までの選挙管理内閣だという突き放し方をして怒りを露わにしているようですが、この方が菅さんらしいし、国民にも理解されやすいと思います。

ただ、この戦略が正しいかどうかは、当面の政権運営と参議院選挙の結果次第ということになります。

与党で何とか56議席以上確保できれば、非改選66議席と合わせて122の過半数を確保することになります。少なくとも、社民党の数議席を足して過半数なら、政権は安定すると思います。

大きく過半数を割った場合には、衆議院でさらに8議席の勢力と連携して3分の2の再議決を可能にするか、参議院でさらに連携相手を確保するかしないと、法案をすべて潰されるという危機に直面します。

自民党以外の諸党は、一致団結して民主党政権を追い込み、解散総選挙で一挙に政界再編に持ち込むか、単独で民主党と組んで与党に入るかの両にらみだと思います。

その帰趨も、大きくは、菅新政権への支持と参議院選挙での民主党の結果によって左右されるでしょう。

結局は参議院選挙に勝負をかけるしか活路はないわけで、それだけに、民主党のオリジナル・メンバーで心置きなく勝負をかけるというのはいい選択だと思います。それでダメなら悔いも残らないでしょう。投票日も、首相交代があったわけですから、2週間くらい延ばして、十分国民に訴える時間を確保すればいいと思います。

ところで、小沢さん自身は、9月の代表選挙に直系の候補(と言っても田中真紀子氏や原口氏くらいしかいないですが)を立てるか、それで負ければ、一新会を引きつれて離党してちゃぶ台をひっくりかえす、などということが語られています。

この辺になると、小沢さんという人の発想は予想できません。意外と、感情的な行き違いから無謀な決断をしてしまうところがあるようですし、側近を名乗る人たちが自分たちの利害でそれを煽るところもあるので。

参考までに、先日紹介した細川元総理の日記から、小沢氏の行動パターンを紹介しておきましょう。1993年12月16日の日記で、小沢氏が武村官房長官を辞めさせろと迫ってきた時のことを細川さんは次のように書いています。

(小沢氏が)腹を立てるのもわからぬではないが、(武村氏の)更迭にYESかNOか、心中を悩ませて申し訳ないが、その返事があるまで自分は休ませて貰うと、いかにも小沢氏らしきもの言いなり。

小沢氏につきては予て、今日の政界の中で傑出した戦略を持ち、それを実行する力量を持ち合わせたる人物と評価しおるも、本日は別人の感あり。人間誰しも感情の起伏あるものなれど、この天下の非常の時に誰が当面の敵かもわからぬようでは困りものなり。(中略)

その後、電話で羽田氏と話すも、小沢氏の言動に驚き且つ持て余したる趣なり。いずれにしても、羽田氏からも小沢氏に通じてみるとのことなり。武村、園田、田中(秀征)氏を公邸に招き、事の経緯を説明。確かロマン・ローランは「人間の感情の4分の3は子供っぽいものだ」と言いしが、3者の感想は、我が儘な子供が押入れに入りて出てこぬが如き話なりというものなり。(230-231ページ)


さて、菅さんは細川さんのように、小沢氏を捌いていけるのでしょうか。細川さんの場合は、政治改革法案を通すまでは辛抱して捌いたけれども、それが終わったらもう辟易して辞任したということのようですが。

ツートップの辞任 [2010年06月02日(Wed)]
ようやく、鳩山首相と小沢幹事長のツートップが辞任を決意しました。ほぼあきらめていただけに、まずはよかったと思います。やはり最後は、民主党全体のことを考えた小沢氏の決断だったのでしょう。

次は菅直人氏のようですが、一時的に人気を上げることを考えず、着実な政権運営を始めてほしいものです。特に、鳩山政権の失敗の原因をきちんと踏まえるべきです。

まずは、司令塔として機能する官邸体制の構築です。

党の方も、政務調査会を復活させて、幹事長が無任所大臣として閣内に入る形で政府与党の一元化の本来の構想に立ち戻るべきです。

こうした体制だけでなく、数人でよいので、政権としての基本戦略を考え実行するグループを形成することが不可欠です。政治学でも、core executive が注目されています。

そろそろ官僚排除から官僚活用に転換することも不可欠でしょう。

政権交代以前には、当然これくらいのことは考えていると思っていましたが、鳩山政権をみるとそれとは程遠い実態だったようです。今度はこうした政権としての最低限の核が形成されることを期待します。

毎日のスクープ [2010年05月10日(Mon)]
10日付けの毎日新聞1面トップで、普天間問題でルース駐日米大使が小沢幹事長と4月上旬に極秘に会談していたことを報じました。しかも、小沢氏側から漏れた(漏らした?)情報のようです。

ルース大使は次のように言ったと小沢氏が語ったということです。

鳩山首相は信用できない。岡田克也外相じゃ話がまとまらない。北沢俊美防衛相じゃ話にならない。

毎日の記事によると、その後、小沢氏は鳩山首相からの会談申し入れにも難色を示すなど、「普天間問題から一段と距離を置き、首相に厳しいシグナルを送る」という姿勢だということです。

小沢氏は鳩山首相には見切りをつけた感じですね。とはいえ、鳩山首相が辞任すればカネの問題で共通する小沢氏も辞任せざるをえなくなる。というわけで、

参院選の勝利が困難になろうとも、結局は「小鳩」体制で突き進むしかないとの判断を固めているようだ。

「参院選で敗れても(公明党や新党との)新たな連携構築ができれば(9月の民主党)代表選への道筋がつく」。ある側近はこう漏らした。


というのが毎日の解説です。小沢氏は参院選を禊にして首相を狙っているということのようです。

私の現時点での直感的判断は、もはや小沢、鳩山抜きの体制(ポスト小鳩体制)に転換するしかないというものです。

しかし、大きな問題が二つあります。一つは、首相は自分から辞めると言わない限り誰にもやめさせられない、ということです。幹事長も鳩山代表にしか解任できません。とすれば、鳩山首相が自ら辞めることで小沢幹事長も辞めさせるというシナリオですが、鳩山首相にそこまでの決断力があるかどうかです。

もう一つは、機能するポスト小鳩体制が構築できるかどうかです。菅、仙石、岡田、前原、原口、etc. のような民主党リーダーたちが自分の権力欲よりも民主党(政権)の利益を優先する行動が取れるかどうかにかかってきます。この点でも、これまでの民主党の歴史をみると悲観的にならざるをえません。

政権に責任をもつ与党という立場を徹底的に自覚することによって、リーダーたちがこれまでの行動様式を転換できるかどうか。これが民主党が二大政党に相応しい実態を獲得できるかどうかの試金石でしょう。
大臣の経営能力 [2010年05月06日(Thu)]
普天間飛行場問題、本当に何の当てもなかったんですね。首相、官房長官を中心に、官邸がほとんど機能していないことが誰の目にも明らかになりました。

菅、仙石、岡田などの主要閣僚も官邸を支える姿勢のようには見えません。政権の中枢は空洞化しているというか、存在していないということでしょう。

そういうなかで、各大臣(ないし政務3役)が孤独に頑張っているということでしょうか。そして、官僚もある程度新政権に順応してきており、大臣と官僚との関係が3つの類型がでてきているそうです。(「官僚を使いこなせない「素人大臣」―民主党「政治主導」の出鱈目」、『選択』2010年5月号)

@官僚が政策立案に関与し、政治家をうまく使う「積極的官僚主導」。経産省が代表例のようです。

A関与を半ばあきらめ、被害を最小限にしようとする「消極的官僚主導」。外務省が代表例だそうです。財務省も@よりはAに近い感じですね。聞くところによると、菅財務大臣は官邸に常駐で、ほとんど財務省には顔を出さないそうですし。

B官僚排除で空回りする「独裁的政治主導」。総務省、厚生労働省、国土交通省などだそうです。見事に、河村名古屋市長のお友達の大臣がそろっていますが、多分、偶然ではないでしょう。河村市長の場合は、そもそも関心や意欲すらないので、何とか頑張ろうとしている3大臣の方がまだまともですが。

『選択』の別の論文によれば、イギリスで今春、官僚たちのグループが「善い政府」と題する提言を発表し、過去20年の政治主導の「悪政」を批判し、その原因を4つ指摘しているそうです。

@専門知識のない政治家が官僚より優位に立つ
A首相官邸が何にでも首を突っ込む
B政治家やメディアが何でも政治問題化する
Cその結果、不必要で準備不足の法律が山のように成立する


サッチャー政権やブレア政権のもとではいかにもありそうな問題点ですが、日本はまだそこまでもいってないのが現状です。政治主導にはこのような弊害が伴うことを認識しつつ、まずはこうした弊害が出るくらいにまで政治主導を定着させるべき段階だということです。

まちがっても、かつてのような官僚主導にもどそう、などという誘惑に乗せられてはいけません。そろそろそういう議論も出つつあるようなので。

とはいえ、それまで政策分野や行政経営の素人だった政治家が突然大臣を務めるということは、政権交代のある民主主義では今後も避けられないだけに、大臣の行政経営能力をどのように養成するかという問題は重大問題です。

イギリスでも、2008年10月に会計検査院の「Good Government」という報告書が出され、2009年6月には下院行政特別委員会報告「Good Government 」が出されてこの問題が議論されているようです。

下院報告書のなかで、会計検査院長は次のように述べています。

指導力が本当に重要だと言うこと、そして政治的指導力だけでなく経営的指導力も重要だと言うことに完全に同意します。この二つは噛み合って機能する必要があります。

それに続けて報告書は次のように論じています。

これまでの調査で我々は、多くの政治家たちが、巨大組織を指導するような経験を持たないまま政府に入るという状況のもとで、大臣にその省を有効に指導する能力を身に付けさせるためにはどうしたらよいかに関心を持ってきた。たとえば、『統治のスキル』という調査において、大臣のための特別研修を行うと言うアイデアを検討した。

イギリスですらこういう状況ですから、民主党もめげずに頑張って欲しいと思います。恥だと思わずに、「大臣の研修」はすぐにでもやったらどうでしょうか。特に首相は至急に。
民主党政権の活路 [2010年03月20日(Sat)]
昨日夕方、週刊現代の記者さんから、民主党政権の現状について取材を受けました。学生時代に私の本を読んでくれていたということで、話しやすかったです。

名古屋市の事にかかりっきりになっているうちに、民主党政権はかなりひどい状況になってしまっています。取材を機会に振り返ってみました。

民主党政権誕生の意義としては、第一に、はじめて有権者が投票によって直接に政権を選んだことが挙げられます。「政権交代のある民主主義」への移行ということで、8月30日自体によって実現したといえます。これは明治維新以来の歴史の中で画期的な意義を持つというのが私の評価です。

もう一つの意義は、政治主導の政権運営、新しい政官関係を実現することです。これについては、政権の基本方針として政治主導に取り組み始めたこと自体は大きな功績ですが、問題は、かなり機械的に官僚を排除しているために、政務三役が調整も含めて過超負担で機能不全になっていることです。ある大臣などは、役人や他の副大臣、政務官も信頼できず、仕事を抱え込んで過労死を心配されているという話も聞きました。

官僚を使いこなしながらの成熟した政治主導を習得するためには時間がかかるのは当然なので、長い目で見守ることが必要ですが、それにしても、そろそろ官僚との関係も修復していくべきだと思います。

以上のような功績を前提に、民主党政権が現在のような窮地に立ちいたっている原因を考えると、小沢一郎幹事長が内閣に入らなかったことが重大な問題だったと思います。『日本改造計画』でも書いてあるように、幹事長が無任所大臣として内閣に入れば、党の主要リーダーはすべて内閣にいるので、内閣イコール党の幹部会になり、文字通りの政府与党一元化が実現します。そうなれば、党の政務調査会を廃止する必要もなく、党の政策案と内閣の政策案の両方を基礎にして内閣=党幹部会の決定がなされることになります。

こういう体制を初めから組んでいれば、党の政務調査会を廃止する必要もなかったはずです。政策と陳情を切り離すという無理もやる必要はなかったでしょう。

とはいえ、小沢さんとしては、西松建設問題の渦中で、内閣に入ることを嫌ったのだと思います。公式日程に縛られることを極端に嫌う小沢さんの性格も障害になったのでしょう。

このボタンの掛け違いが、政治主導、政府与党一元化の体制をかなり歪めてしまい、民主党政権が分散化してしまったと思います。

もう一つの問題は、そうした体制の問題と重なって、小沢、鳩山、菅、仙石という民主党の中心的リーダーたちが戦略的、政策的に一体となって政権を運営するという人間関係が成立せず、鳩山が倒れたら誰が次の総理だというような疑心暗鬼が広まってしまったということです。

まず必要なことは、こうした中心的リーダーたちの間で、感情的な要素はわきに置いて、政治的に一体となって鳩山政権を支えるという合意を形成することだと思います。誰がその音頭をとれるのかは私にはわかりませんが、誰かがやるしかないでしょう。

そういう中軸さえ構築されるなら、308の衆議院議席は4年間は決して崩れませんし、参議院の議席も引き抜きでもはや半数に達したようですし、公明党が民主党に近づいているので、7月の参議院選挙で大敗しても多数派確保は可能なはずです。

ということは、2013年8月までは民主党政権は続くということです。政権の中軸さえ形成されるなら、そして、思いつきでなくきちんとした専門家を集めて政策を練るなら、十分支持を集めるだけの成果は挙げられると思います。

昨年までは次の総選挙で大敗必至と言われていたイギリス労働党のブラウン政権が、今年5月の総選挙を控えて保守党とほぼイーブンの状況まで追い上げてきたことがいい例だと思います。

自民党はもっと深刻ですが、いずれにしても、危機を正面から認識し、正面からそれに対応する戦略を立てて、歯を食いしばってそれを実行していくという人材が民主党にも不足しているのでしょう。

それが、依然として小沢一郎という政治家が必要とされる理由だと思います。

名古屋市政の現在の混乱も、そうした人材の欠如によるものだと思います。
説明責任 [2010年02月10日(Wed)]
8日の定例記者会見で、小沢一郎氏は「説明責任」について次のように述べたそうです。

現実に強制捜査を受け、あらゆる捜査の対象となり、2度(検察側に)事情の説明をした。これ以上の説明はないんじゃないか。(『朝日』2月9日付)

私自身は、今回の小沢問題については、検察のやり方に批判的ですし、刑事責任に関する限り、小沢氏の発言の気持ちは理解できます。

しかし、結果としてここまでの政治問題にされてしまっている以上、政治家として政治的な説明責任を果たすことは不可欠になっていることは否定できません。

以前にも紹介したとおり、小沢氏が秘書の養成も含め、小さい政党を運営するくらいの政治資金を使ってきたというのは事実のようです。そうであるなら、どこからどれだけの資金を集め、どのように使ってきたかを大筋だけでも説明したうえで、政治的評価を国民に委ねるくらいの開き直りがほしいと思います。

検察に新しい材料を提供するという恐れもあるかもしれませんが、どうせ、この間の捜査でかなりの情報を検察は把握したでしょうから(それでも不起訴になった)、その範囲でもある程度の説明は可能だと思います。

自民党をあえて離党し、野党暮らしを続けながら政権交代を実現したわけですから、かなりの政治資金が必要だっただろうことは疑いありません。民主党の政権獲得にとっては、鳩山家の途方もない資産と、小沢氏の巨額の政治資金が不可欠だったことは明らかです。

犯罪にならない限りでのこうした事情を、政治家が率直に説明し、マスコミもむやみに煽らずに冷静に報道、解説し、国民も問題をきちんと受け止めるようになる日が来てほしいものです。

ところで、今日10日付で、「反小沢の急先鋒」とされ、不自然に閣僚からはずされていた枝野幸男氏が行政刷新大臣に任命されました。首相補佐官の予定だったのを、急遽このタイミングで大臣にするというのは、鳩山さんもなかなかやりますね。

小沢問題の政治的解決の模索はまだまだ続きそうです。
民主党内権力闘争 [2010年02月02日(Tue)]
2月1日付けの毎日、中日などの朝刊で、枝野幸男氏と前原誠司氏が小沢一郎幹事長の進退に言及したという報道がありました。

私自身は、検察とマスコミによるつるし上げに近い小沢問題の展開には批判的ですし、小沢一郎という政治家が民主党による政権交代に果たした決定的な役割を高く評価していますが、同時に、小沢氏の政治資金の不透明さ、説明不足についての疑念も共有しています。

それだけに、民主党内が小沢擁護に一元化されるのは不健全だと感じざるをえません。検察やマスコミのやりすぎを利用することになりかねないので、非常にやりにくいとは思いますが、枝野氏や前原氏が小沢氏の進退問題に言及したのは、民主党内に健全な権力闘争が存在していることを示すものとして評価したいと思います。

枝野氏は誰が見ても、最近まで小沢批判によって露骨に政府ポストから外されていただけに、権力闘争はきれいごとではありませんが、自民党の歴史を見ても、党内の権力闘争が一定の自浄作用を持つことは明らかです。

2月1日付け毎日の世論調査結果によると、小沢幹事長について、「辞任すべきだ」が76%、「辞任する必要はない」が18%です。

検察の捜査については、「適切だ」が71%、「適切でない」が21%、ということで、世論が小沢氏に厳しい見方をしていることは明らかです。

他方で、政党支持率では、民主党支持が12月の35%から30%に落ちたものの、自民党支持は16%のままで変わらず、支持政党なしが33%から39%に増えたという結果でした。

さて、こういう状況で、民主党は小沢問題を国民が納得する仕方で解決することができるのかどうか(小沢氏が辞任しないとしても国民にどのような説明をするのか、辞めるとしてもどのような辞め方をし、やめた後の行動がどうなるのか、などが問題です)。

民主党政権が長期政権になるかどうかの試金石です。民主党政治家には、次の総理や大臣というような自分の利害だけでなく、民主党という政党をどうしていくのかという中長期戦略に基づいた行動を取って欲しいと思います。
渡部恒三 [2010年01月11日(Mon)]
民主党のなかで、ほとんど唯一、小沢一郎氏に対等に物が言える人でしょう。その渡部恒三氏が、明確な小沢批判に踏み切ったようです。

民主党内での力関係を大きく変動させる可能性を孕んでいると思います。

自民党が消滅し、膨張した民主党を二つに割って二大政党を作るという構想も、今や荒唐無稽ではないかもしれません。

*****

民主党の渡部恒三元衆院副議長が22日、時事通信社のインタビューで語った主な内容は次の通り。

 −24日で政権交代から100日になる。
 残念ながら(鳩山由紀夫首相は2010年度予算編成で)国民に優柔不断な印象を与えてしまった。沖縄(の米軍普天間飛行場移設)問題でさすがという決断をすれば、何とか持ち直す。
 −衆院選マニフェスト(政権公約)を一部変更することになった。
 選挙の公約を百パーセント実現した内閣なんてない。首相が通常国会できちんと分かりやすく説明すれば大丈夫だ。
 −普天間移設問題ではどのような決断が求められるか。
 政権が代わったからといって国と国の約束をほごにしては、日本は世界の中で生きていけない。十分に米国と話し合い、納得の上でやることだ。
 −連立相手の意見にも配慮すべきでは。
 国民は民主党を圧倒的に勝たせてくれた。民主党内閣だ。(社民、国民新両党の)閣僚は謙虚に自分らの立場を考え、外交や安全保障についてあまり強い発言は遠慮してもらいたい。
 −来年夏の参院選後は連立を解消するのか。
 ついてくる以上は、どうぞと言うしかない。出ていくのを追いかける必要はないが、切るようなことはしない。
 −小沢一郎幹事長の党運営をどう見るか。
 (首相より)圧倒的に小沢君の方が力がある。(民主党議員のうち)130人は兵隊みたいに何でもついていく。大政翼賛会だ。政治家は間違っていると言ってくれる者がいないと間違う。その点はかわいそうだ。 
 −小沢氏は予算編成で重点要望を提出した。
 あれほど物々しく(副幹事長らを)子分みたいに連れて行って、大げさなことをやる必要はなかった。 
 −全国土地改良事業団体連合会が自民党からの参院選候補擁立を見直す方針を示した。
 (政権は)代わって新しくなったのに、政治は戻って古くなっている。国民の税金を選挙のために付ける、付けないと言うこと自体が許せない。
 −この状態は続くか。
 続かない。国会議員も今はじっとしているが、いずれ「国民の代表だ」と責任を感じて行動する時がくる。議員は侍だ。兵隊じゃない。わたしは若い議員に期待している。そんなに時間がかからないうちに、必ず良識を取り戻す。
 −自民党は復活するか。
 なくなってしまうんじゃないか。自民党議員のほとんどは政権党でなければ生きていけない。ぞろぞろ(離党して)来るだろう。衆院はいらないが、参院は二、三十人は受け入れていい。自民党がなくなったときは、民主党を二つに割って二大政党をつくるしかない。一党独裁では絶対に駄目だ。(2009/12/22-19:34)

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 民主党の渡部恒三元衆院副議長は8日、福島市で開かれた内外情勢調査会の講演で、藤井裕久前財務相から「心身ともに疲れてしまった」と電話で伝えられたことを明らかにした。渡部氏は「普通なら『体が悪い』と言う。しゅうとにいじめられたんだなと思った」と語り、小沢一郎幹事長との確執が藤井氏辞任の原因との見方を示した。

 渡部氏は指導力不足が指摘される鳩山由紀夫首相についても「後ろにおっかないしゅうと様がいて、ちょっとかわいそうな、気が利かない嫁さんみたいになっている」と語った。 (2010/01/08-20:56)