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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


アーミテージ、ナイ [2011年09月10日(Sat)]
アーミテージ、ナイ、春原剛『日米同盟VS.中国・北朝鮮』文春新書、2010年12月。

昨日紹介したケビン・メアの本と同様、アメリカの対日政策の中心人物たちの考え方がよくわかる本でした。アーミテージ、ナイ両氏と親しい春原さんが非常にうまく彼らの発言を引き出しています。

知日派の二大巨頭の発言とはいえ、アメリカがなぜ中国ではなく日本との同盟を戦略的に重視するかということが説得的に説明されています。特に、在日米軍の存在自体がアメリカの抑止力が信頼できることの最大の根拠となっていることが明言されています。(鳩山さんが普天間基地の県外移設をあきらめた時に、抑止力のことがこれまでよくわかっていなかったと言ったのはこのことでしょう。)

かつての西ベルリンに数千人の米軍が駐留していたことが、アメリカが決してベルリンを放棄しない保障だったことも引き合いに出されています。

中国の今後、北朝鮮崩壊のシナリオ、日本の核武装などについてもきわめて率直な意見が示されています。日本の政治家のどのような言動に危惧を感じるかもよくわかりました。

総じて、アメリカは日本に対して決して過剰な要求をしているわけではないということが明らかになっています。

もう一点興味深かったのは、アメリカにおける政治主導の実像が対日政策に即してよく分かったことです。官僚機構がきちんと情報やアイデアを蓄積しており、政治家は官僚機構に乗ってそれらを活用しているということです。しかも、両氏のような政治家ではない外部からの政治任命の専門家が、両者をつなぐうえで非常に重要な役割を果たしているわけです。

それと対照的に、日本では、政治家は意思決定からはずれているというのが両氏の認識です。

日本では政治家を意思決定プロセスに関わらせるシステムになっていない。・・・・・・政治家にきちんとした情報やインテリジェンスをブリーフする方法すら確立されていない。政治家に対する機密保護法も整備されていない。(278ページ)

要するに、漏れる恐れが高いので日本の政治家には安全保障関係の情報を伝えることもできないというわけです。

日本の官僚とアメリカの官僚や政治任命の専門家との間で日米関係は仕切られてきた(ただし、アメリカでは政治家が最終判断をする)というのが従来の実態だったわけですが、日本でも政治家が実質的な決定権を持ちつつ官僚を活用するシステムを作ると同時に、アメリカの政治任命の専門家や政治家と率直な議論ができるだけの信頼関係を作れる日本の政治家の育成が重要だということでしょう。

いずれにしても、何事も、当事者の直接の発言を聞くことは重要ですね。
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