• もっと見る

〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


リコール詳報 [2010年11月25日(Thu)]
今日の朝刊トップは軒並み「リコール不成立」でした。しかし予想通り、河村氏の政治的思惑だけで行われた署名運動について、市民がみんな一生懸命にやったのに残念だ、というウエットな論調でしか報道できない記者たちの情けない有様が目立ちました。

名古屋市の有権者は180万人くらいだと思いますが、35万はその一部であり、しかも規定数に届かなかった以上不成立は当然のことです。ルールに基づいて勝敗を決めるのが民主主義であり、一部の人の感情に流されるのは民主主義でも何でもありません。

「民意」といいますが、少数の民意、規定数に届かない民意が実現しないのはあたりまえです。ひょっとして、少数の民意も含めて、すべての民意が実現するのが民主主義だとでも思っているのでしょうか。民主主義とは、多くの民意のなかから、ルールに基づいて一つの民意を選択することです(もちろん時限付きですが)。

しかも、来年4月にはその民意を問う市会議員選挙が予定されているわけで、今回の議会リコールの不成立は民主主義と何の関係もありません。河村戦略が失敗したという自己都合だけです。

今、報道機関がまずやるべきことは、ルールに照らして、署名集めと審査の両方に問題があったのかどうかをきちんと事実に基づいて検証することです。

無効署名(約11万)の内訳です。

@選挙人名簿に登録されていない 39%(43,818人)
A収集方法に問題がある 21%(22,990人)
B本人が署名していない 15%(16,787人)
C署名が重複している 9%(10,082人)
D署名簿の不備 7%(7,631人)
E必要記載事項や押印がない 4%(4,593人)
Fその他 5%(5,910人)


これらはいずれも署名集めの側の問題です。特に重大なのは、「署名していない」と郵送調査で回答した人が、最終的に922人に上ったことです。誰が偽造したのか、徹底して捜査すべきです。明らかな犯罪ですから。

過去の直接請求に比べて無効率が高いから、選管の審査が問題だという短絡が目立ちますが、私が指摘してきたように、署名集めの側が空前のいいかげんさでルール感覚が欠如していたことの結果かもしれないとなぜ考えないのでしょうか。

もう一点、現在の地方自治法のルールが厳しすぎる、という指摘も多いですが、そしてそれに私も同意しますが、そのことと現在のルールでやった署名運動を成立させるべきかどうかとはまったく関係ありません。

もう少しケジメのある報道ができないと、河村氏みたいにマスコミを通じて「庶民」をあおることだけうまいというポピュリストに簡単に利用されてしまうでしょう。個々の記者の定見のなさという問題と、河村に乗っておいた方がよさそうだという上部の打算の両方によるものでしょうが、そろそろバランスを回復しないとやばいと思いますよ。
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
コメント
今回のことが、河村氏の実態が知られていく転機になればいいのですが。
Posted by:ウシロ  at 2010年11月27日(Sat) 22:42
議会解散が正しいかどうかという以前の大前提として、
「市民が選んだ市議を任期満了前に失職させる」
という重大な事項について、軽々しいノリで署名活動
していたということが、腹立たしい。
支援団体の連中は要するに「1000人位の偽装署名は問題にならない」
と言ってるわけだから、こんな人たちに民主主義や法を語って欲しくないですね。
Posted by:1区民  at 2010年11月27日(Sat) 07:52