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読後雑感「本日は、お日柄もよく」 [2016年12月18日(Sun)]
 「本日は、お日柄もよく」というフレーズは、結婚式における祝辞における常套句である。主賓の挨拶、または友人によるテーブルスピーチでも、挨拶の導入部分で使われるフレーズである。最近は、昔のように大きな結婚式は催されず、パーティ形式が増えてきた。したがって、あまり格式ばった祝辞はなくなったが、少なくても主賓や恩師の祝辞では、このフレーズが省略されるケースはあまりない。そして、これらの挨拶は、おしなべて詰まらなく退屈な挨拶が多い。ある結婚式での主賓挨拶があまりにも退屈で、主人公が居眠りしてしまいスープに顔をダイビングさせてしまうシーンから始まるのが、この「本日は、お日柄もよく」という原田マハの書いた小説である。

 結婚式の主賓挨拶は、実に詰まらない内容であることが少なくない。勿論、主賓挨拶だからあまりくだけてはいけないだろうし、かといって教訓的な内容がまるっきりなくても、ひんしゅくを買ってしまう。だから、ほどよいユーモアを交えながらも、新しい門出を迎える2人の秘密のエピソードなんかを紹介して、祝福のメッセージを伝えるのがよい。しかし、たいていの主賓は堅苦しい挨拶をするものである。この主人公のような失態を演じる事はないだろうが、居眠りしたくなるのも道理である。主人公はこの失態を通して、伝説のスピーチライターと出会い、師と仰ぎ弟子入りすることになる。

 世の中にスピーチライターなる職業というか、スピーチを指導教育することを生業とする人がいるとは、今の今まで知らなかった。このスピーチライターの名人のてほどきを受けながら、主人公はいろんなことを学んだり、気付かされたりするのであるが、それはスピーチの技術だけではない。話すということの本質的な部分をも学ぶことになる。つまり、言葉というものが持つ「力」というものである。話者が紡ぎだす言葉には、聴く者の心を、そして魂を揺さぶるような力がある。たかがスピーチ、されどスピーチである。聴く者の考え方、認識、時には生き方さえも変えるような力があるのだ。主人公は、このスピーチライターとの出会いと関わりにより、スピーチの大切さとその持つエネルギーを実感することになる。

 この小説の中でも、人の心を打ちその人の人生さえも左右するような素晴らしいスピーチが紹介されている。現実においても、ゲチスバーグにおけるリンカーン大統領の民主主義の原則を述べた「カバメント、オブザピープル、バイザピープル、フォアザピープル」というスピーチ、または「イエス・ウィ・キャン」というオバマ大統領のスピーチは、世の中をひっくり返すくらいの強烈なインパクトがあった。このように、スピーチというものは、世界の動きさえも左右させてしまうパワーを秘めている。米国民は昔から政治家のスピーチに注目して、その内容だけでなく話し方や訴える力をも評価していたのだろう。結婚式だけでなく、告別式において霊前で亡き友人に贈る弔辞にも、魂を揺さぶられるほど感動するケースも多々あると、小説の中で紹介している。

 会社においても、朝礼におけるスピーチから始まり、様々な場面でスピーチがある。教育指導、研修の場面でもスピーチの優劣が社員の成長に大きく関わっている。社員の心に響かないようなスピーチは、意味が無い。ともすれば、結婚式でするような退屈で居眠りしたくなるようなスピーチをくどくどとする例が少なくない。人々の心の奥にまで届き、感動を与えるようなスピーチをしたいものである。その為には、単なるセンテンス(文章)ではなくて、コンテキスト(文脈を持った文)としてのスピーチでありたいし、なによりもストーリー性を持ったスピーチにしなくてはならない。いくら美辞麗句を羅列したとしても、そこに物語性がなければ、聴く者の魂まで訴えることはできないのである。

 この小説では、若い女性がスピーチの大切さを認識し、精神的にも大きく成長し、自立して行く姿が描かれている。そこには恋愛模様や家族の関係性の大切さも描かれている。ストーリーも面白いし、わくわくさせる展開で読む人を飽きさせない。スピーチをするのが楽しくなるような気がするし、逆にスピーチの難しさを再認識させられるかもしれない。いずれにしても、言葉というのはものすごいパワーを持っていて、言霊と言われるように、言葉として発した瞬間から魂を持つものである。これからも社員教育の場面、結婚式の祝辞、告別式の弔辞、市民活動の講演、様々な場面で極上のスピーチが求められる。この小説で記されているように、聞く者の魂を揺さぶることが出来るよう、全精霊を傾けて、ストーリー性が溢れる、感動のスピーチをしたいものである。そんなことを常に心がけなければならないと、深く気付かせてもらった素晴らしい小説だった。
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