ヒヨドリバナ [2011年06月06日(Mon)]
ヒヨドリバナ(キク科)は、万葉歌の題詞に出てくる「さはあららぎ」(原文は澤蘭と表記)に当たると考えられています。巻19の4268番歌の題詞と歌を以下に示します。 【題詞】 天皇・太后共に 大納言藤原家に幸せる日に、もみてる沢蘭一株抜き取り、内侍佐々貴山君に持たしめ、大納言藤原卿と陪従の大夫等とに遣し賜ふ 御歌一首 【歌】 この里は 継ぎて霜や置く 夏の野に 我が見し草は もみちたりけり (孝謙天皇) 【口語訳】 この里は 年中霜が置くのだろうか わたしが見た草は こんなに色づいていたよ 題詞には、孝謙天皇と皇太后光明子とが大納言藤原仲麻呂の家に行幸した時に、天皇が「もみじした沢蘭」の歌を仲麻呂たちに賜ったとあります。季節に先駆けて紅葉した(おめでたいこと)沢蘭に事寄せて、大納言家をほめた歌とみられています。「継ぎて霜や置く」は、霜は、木や草を色づかせると考えられていました。 当時の人は、写真のような植物を見て、紅葉していると見たようです。『萬葉集釈注』(1998年刊行)には、「一種の病葉(わくらば)であるらしい」と書かれています。ところで、イギリスの科学雑誌Nature(2003.4.24)掲載の論文によると、紅葉しているとみられた葉の状態は、実は植物ウイルスに感染して生じた病斑で、その原因ウイルスはヒヨドリバナ葉脈黄化ウイルス(EpYVV)であることが実験により明らかにされています(コナジラミを媒介にして感染)。そしてこの論文には、『万葉集』のこの記載(題詞)は、植物ウイルス病に関する世界最古の記録であると述べられています(論文のタイトルは、The earliest recorded plant virus disease)。千二百数十年も前に歌に詠まれていた現象が、植物ウイルス病に関する最も古い記録であったのは、大変興味深いことです。 2枚目の写真は、手前が感染葉で後ろが健全葉 |
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katakago
at 09:51