ヤブカンゾウ [2011年06月30日(Thu)]
ヤブカンゾウの花が咲き始めました。万葉歌では、わすれぐさ(原文表記は萱草)として詠まれています。中国の『文選』巻第53「養生論」に、「萱草ハ憂ヲ忘レシム」とあり、この漢籍に基づいて、当時、カンゾウ(わすれぐさ)を身に付けると憂苦を忘れるという俗信があったようです。 【歌】 忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため (大伴旅人 B-334) 【口語訳】 忘れ草を わたしの下紐に付ける 香具山の 古い京を 忘れるために この歌は、旅人が大宰帥(府の長官)として赴任していた時(すでに60を過ぎていた)の歌です。この歌の前には、大宰府の役人の歌が載せられています。まず、都から戻って来た大宰少弐小野老は、 【歌】 あをによし 奈良の都は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり (B-328) 【口語訳】 (あをによし) 奈良の都は 咲く花が 爛漫たるように 今真っ盛りでした と歌い、防人佑大伴四綱は、 【歌】 藤波の 花は盛りに なりにけり 奈良の都を 思ほすや君 (B-330) 【口語訳】 藤の花は 今満開に なりました 奈良の都を 恋しく思われますか帥 と旅人に歌いかけます。それらに答えて旅人の歌が続くわけですが、まず、 【歌】 我が盛り またをちめやも ほとほとに 奈良の都を 見ずかなりなむ (B-331) 【口語訳】 私の元気だった頃が また戻って来ることがあろうか ひょっとして 奈良の都を 見ずに終わるのではなかろうか と歌い、続いて最初に掲載した「わすれぐさ」の歌が詠まれています。あの懐かしい香具山が忘れられなくて、苦しくて仕方がないから、忘れ草を下紐に付けると歌っています。都を遠く離れた九州の地にあり(ここで妻を亡くしている)、望郷の念止み難く詠まれたものとみられています。なお、旅人はその後大納言に昇進して都に帰りますが、その翌年には亡くなっています。 忘れ草については、旅人の子家持の次のような歌があります。 【歌】 忘れ草 我が下紐に 付けたれど 醜の醜草 言にしありけり (C-727) 【口語訳】 忘れ草を 下着の紐に 着けてはみたが 阿呆のあほくさ 名ばかりでした これは、後に家持の正妻となる坂上大嬢に贈った歌で、「忘れ草は名ばかりで、恋の苦しさを忘れさせてくれず効果がなかった」と詠んでいます。 ビオトープ池周囲に植えたヤブカンゾウです(後方には今朝開花した白いハスの花が写っています)。 |
Posted by
katakago
at 06:49