新書 テキヤはどこからやってくるのか? [2014年08月31日(Sun)]
厚 香苗 (著)
「テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る」(光文社新書) ¥ 760(税抜き) 陽のあたる場所から ちょっと引っ込んでいるような、 そんな社会的ポジションを 保ってきた日本の露店商の、仕事と伝承。 浮かれた気分の人びとが集まるところには、どこからともなく商人がやってくる。 ヤキソバを焼くソースの匂いや派手な色彩の露店は、私たちをいつもとは違う心持ちにしてくれる。 そんな祝祭空間で生計を立てている露店商たちが本書の主人公である。(「はじめに」より) 主な舞台は東京の下町。そのあたりでは伝統的な露店商を「テキヤさん」と呼んでいる。 「親分子分関係」や「なわばり」など、独特の慣行を持つ彼ら・彼女らはどのように生き、生計を立て、商売を営んでいるのか――。 「陽のあたる場所からちょっと引っ込んでいるような社会的ポジション」を保ってきた人たちの、仕事と伝承を考察。 目次です。 はじめに 【第一章】 露店商いの地域性 【第二章】 近世の露店商 【第三章】 近代化と露店 ―― 明治から第二次世界大戦まで 【第四章】 第二次世界大戦後の混乱と露店商 ―― 敗戦後の混乱期 【第五章】 露店商いをめぐる世相解説 ―― 一九六〇年代以降 おわりに 朝日新聞掲載の三浦しをんさんの書評です 洗練された相互扶助のシステム 神社の縁日などで露店を連ね、綿あめやタコ焼きを売る「テキヤさん」。わくわくするようなムードを運んできてくれる、お祭りには欠かせない存在である。 かれらはいったい、どこからお祭りにやってくるのか。映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんもテキヤさんで、全国を旅している。そのイメージもあり、お祭りを追って旅から旅の毎日を送っているのかなと思っていたのだが、実はかれらは、基本的には近所(十二、三キロ圏内)から来ていたのだ! 著者は実際にテキヤに同行し、関係者に取材をして、テキヤの縄張りやしきたりを調査する。また、近世・近代の文献や絵画を調べ、テキヤのあいだにどういう信仰や言い伝えがあるのかひもといていく。外部からはなかなか見えにくく、明文化されにくい、テキヤの日常や風習に見事に迫った一冊だ。 縁日で、神社の境内のどこにどんな露店を配置するかを、だれが指示しているのか。縄張り以外の場所へ行って商売するときは、地元のテキヤにどう挨拶(あいさつ)し、どこに泊まればいいのか。非常に洗練された、テキヤ間の相互扶助的なシステムが構築されていることがわかる。西国、東国、沖縄とで、それぞれ微妙にテキヤの慣習がちがうらしいというのも、興味深い。いろんな地域の縁日に行って、ちがいを見わけられるか試みたくなってくる(素人にはむずかしそうだが)。 露店は家族経営で、女性も一緒になって働く。テキヤ界で、女性がどういう立ち位置にあるのかに光を当てたのも、本書の非常に重要な部分だろう。著者は取材対象者との距離感が適切で、それゆえに相手から信頼され、公正で充実した研究として結実したのだと思う。 テキヤさんの生活や伝統を知ることができ、その存在にますます魅力を感じた。今年の夏祭りが楽しみだ。 どうぞ【KB】 |
Posted by
大阪手をつなぐ育成会
at 00:45