たまに、全日本の速報から [2012年09月08日(Sat)]
全日本手をつなぐ育成会の9月3日付の速報から
はじめにの部分をそのまま紹介します。 6月20日に成立した障害者総合支援法では、施設従事者等は障害者の意思決定支援に配慮するように求めており、事業者団体の「日本知的障害者福祉協会」などではそれに備えての研修会なども始まっています。 7月2日付けの「速報No53」では、知的障害者にとっての意思決定支援の大切さや、国の法制化への動きなどについて紹介してきましたが、今回は機関紙「手をつなぐ」8 月号の特集なども参考にしながら、意思決定支援の在り方や制度実現に向けての取り組みなどについて述べてみたいと思います。 知的障害のある人たちは概して判断能力が乏しく、自分の思いや考えをまとめ、表出することが困難だとされています。そうした中で、より「本人らしい」意思決定をするには外からの押し付けや代行ではなく、その人の有する潜在的な力を引き出すためのエンパワメントをきちんと行ない、決定に結び付けて行くことが肝要でありましょう。そこにこそ支援の本義があると思いますし、その意味では日本の成年後見制度等に見られるような「代行決定」とは距離感があります。 その上で、エンパワメントには、何故、知的障害のある人たちは意思決定が困難なのか、その背景にあるものを知ることが不可欠となりますが、一般的には次のようなことが背景にあるとされています。 ○抽象的なことへの理解が困難 ○創造性や先を予測することが苦手 ○情報、知識、経験が不足 ○自分の気持を表現する方法が育っていない ○自己主張しない、控えめ ○他人の気持ちを推し量ることを美徳とする日本文化等 こうしたことを踏まえた上で、本人たちのエンパワメントを行ない、意思決定へとつなげていくことになりますが、そのためには以下のような考えや実践が必要とされています。 ○どんなに障害が重くても、本人には「これがいい」、「これがしたい」という意思がある。 ○支援者は表面的な言葉の奥にある本人の思いを汲み取り、実現や満足に繋げていくための力を養う。 ○毎日の生活における丁寧なやり取りと、一人ひとりの思いを汲んだ支援を繰り返すことが意思決定支援に繋がっていく。 ○信頼と安心が意思決定支援の前提。本人と支援者による「妥協型」ではなく、「協調型」の意思決定支援が本人に信頼や安心をもたらしていく。 ○本人を熟知し、個別な支援を行なうための関係者によるカンファレンス。 ○分かりやすい情報の提供。 ○意思決定支援には「家族支援」も不可欠で、両者はクルマの両輪の関係。 ○障害者への意思決定支援こそが「共生社会」実現への原動力であり、支援者には「共生」の哲学が求められる。 日本においては意思決定支援へのイメージが固まっておらず、何か特別なことをやらなければならないといった意見もありますが、決してそうではなく、本人のことをよく知るためのカンファレンスをしっかりやることや、寄り添いの姿勢を強め、本人に向き合っていくことによって、より「本人らしい」意思決定への支援のあり方が見えてくるのではないでしょうか。要は「どんなに重度な障害者にも意思があること」、「エンパワメントによって可能な限り本人の意思を引き出すこと」、「両者の間に信頼と安心の関係をつくっていくこと」などを自らに問いかけ、行動して行くところに期待される意思決定支援があるように思えてなりません。 ここで、障害者の意思決定支援では先進とされる英国の「意思決定能力法」について概略を紹介します。同法は英国の成年後見制度と連携するものとして2005 年に制定されたもので、日本におけるこれからの制度化を考える上で大いに参考になるものと思われます。ポイントは次の通りです。 ○知的障害者等、判断能力が不十分な人たちの意思決定支援を基軸とした法律で、エンパワメントの理念の下、意思決定支援を受けながら社会生活を継続できるように工夫されている。 ○その上で、どのように支援しても本人が意思決定できないときにだけ代行決定を行ない、その際も本人の意向を限りなく反映させた代行決定を行なうよう法的に要求している。 ○同法の趣旨を具体的に実行するために、人権保障機関の「保護裁判所」や行政機関の「後見庁」、さらには第三者代弁人の「IMCA」(Independent Mental Capacity Advocate)等の体制整備も行なわれている。 ○英国の成年後見制度は日本のように「代行決定ありき」ではなく、可能な限り本人が自分で決めることができるよう「意思決定支援」に力を入れている。 最後に、意思決定支援の制度実現に向けての対応について述べたいと思います。意思決定支援は国連の障害者権利条約にもうたわれているように、知的障害者や発達障害者等にとっては人権に関わる根幹の問題でもあり、「健康で文化的な最低限の生活」を実質化するためにも公的なサービスとして提供すべきだと考えています。このため、行政をはじめ研究者や関係団体(実務者等)、さらには障害者本人やその家族等で検討組織をつくり、幅広い議論を行なうことが不可欠であります。その際の論点を次のよう整理していますが、育成会ではこのためのワーキンググループをつくり、既に検討を開始していることはこれまでも伝えてきました。会員の皆さん方の幅広いご意見も期待しています。 <制度面の論点> ○現行の成年後見制度は意思決定支援より代行決定を重視していないか。 ○本人が意思決定しやすい環境整備(多様な経験や分かりやすい情報提供など)が不足していないか。 ○保護者や家族への支援が不十分なことが「親による代行決定」を引き起こしていないか。 <支援面の論点> ○障害のある人を「意思を持つ一人の男性・女性」として受け止めているか。 ○障害のある人が安心して意思決定できるような、指導的でない寄り添い型の支援ができているか。 ○情報の提供、統合(保持・活用)、意思の表出にいたる一連の流れを個々の特性に応じエンパワメントできているか。 <教育面・家庭面の論点> ○子供のころから年齢に応じた「選ぶ」経験ができる教育環境になっているか。 ○家庭だけで問題を抱えないよう、学校や相談支援、保護者間のつながり(支援の輪)などができているか。 ○家庭内が安心して自分の気持ちを出すことができる雰囲気になっているか。 ――――理事長 北 原 守 具体的な意思決定支援をつかりだしていくことが 次の育成会運動のひとつです。【KB】 |
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大阪手をつなぐ育成会
at 00:40