きょうのなぜ?:常用漢字はどう決まる? 書けなくても読める漢字追加
社会生活(しゃかいせいかつ)で使(つか)う漢字(かんじ)の目安(めやす)となる「常用漢字(じょうようかんじ)」が昨年(さくねん)、29年(ねん)ぶりに改定(かいてい)され、1945字(じ)から2136字(じ)に増(ふ)えました。パソコンや携帯電話(けいたいでんわ)などの情報機器(じょうほうきき)が普及(ふきゅう)したため、「書(か)けなくても読(よ)める漢字(かんじ)」が増(ふ)えたからです。【篠口純子(しのぐちじゅんこ)】
◇携帯(けいたい)・パソコン普及(ふきゅう)に対応(たいおう)
今回(こんかい)、常用漢字(じょうようかんじ)には百(ひゃく)九十六字(じ)が加(くわ)わり、五字削(じけず)られて、全部(ぜんぶ)で二千百(せんひゃく)三十六字(じ)になりました。文化庁(ぶんかちょう)(国(くに)の役所(やくしょ))の中(なか)に設(もう)けられた「文化審議会国語分科会(ぶんかしんぎかいこくごぶんかかい)」の報告(ほうこく)に基(もと)づいたものです。国語分科会(こくごぶんかかい)の会長(かいちょう)で、聖徳大学教授(せいとくだいがくきょうじゅ)の林史典(はやしちかふみ)さんは「見直(みなお)しの一番(いちばん)の目的(もくてき)は、情報化時代(じょうほうかじだい)への対応(たいおう)です」と話(はな)します。
パソコンで変換(へんかん)すれば、手(て)で書(か)けなくても使(つか)える字(じ)が増(ふ)えました。情報機器(じょうほうきき)の発達(はったつ)で漢字(かんじ)の使(つか)い方(かた)が変(か)わったので、それに合(あ)わせた漢字表(かんじひょう)にするため、見直(みなお)されました。
大学教授(だいがくきょうじゅ)、作家(さっか)などが集(あつ)まった分科会(ぶんかかい)の漢字小委員会(かんじしょういいんかい)が大(おお)まかな案(あん)を作(つく)り、話(はな)し合(あ)いました。林(はやし)さんは「社会(しゃかい)で使(つか)われる漢字(かんじ)を決(き)めるのですから、社会(しゃかい)で漢字(かんじ)がどのように使(つか)われているのか、その実態(じったい)を正確(せいかく)にとらえるのに苦労(くろう)しました」と話(はな)します。
◇漢字(かんじ)に順位(じゅんい)をつけた
ふだんの生活(せいかつ)でよく使(つか)われる漢字(かんじ)を知(し)るため、本(ほん)八百(ぴゃく)六十冊(さつ)、全国紙(ぜんこくし)二紙(し)を二か月分(げつぶん)、さらにウェブサイトも調(しら)べました。よく使(つか)われる漢字(かんじ)に順位(じゅんい)をつけ、一位(い)から三五〇〇位(い)までの一字一字(いちじいちじ)を検討(けんとう)しました。
その結果(けっか)、順位(じゅんい)が高(たか)くても、人名(じんめい)や地名(ちめい)にしか使(つか)われない漢字(かんじ)は除(のぞ)きました。例(たと)えば、「伊(い)」や「之(これ)」。しかし、「藤(ふじ)」は「藤色(ふじいろ)」「葛藤(かっとう)」で使(つか)われるため、追加(ついか)しました。文化庁文化部国語課(ぶんかちょうぶんかぶこくごか)の国語調査官(こくごちょうさかん)、武田康宏(たけだやすひろ)さんは「固有名詞(こゆうめいし)に使(つか)われる漢字(かんじ)は入(い)れませんが、例外(れいがい)として、都道府県名(とどうふけんめい)に使(つか)われる漢字(かんじ)を入(い)れました」と話(はな)します。
これまで岡山県(おかやまけん)の「岡(おか)」、鹿児島県(かごしまけん)の「鹿(しか)」、熊本県(くまもとけん)の「熊(くま)」は常用漢字(じょうようかんじ)ではありませんでした。今回(こんかい)ようやく入(はい)りました。また、自分(じぶん)を指(さ)す「俺(おれ)」は「学校(がっこう)で教(おし)えにくい」という意見(いけん)がありましたが、よく使(つか)われる漢字(かんじ)であるため、入(はい)りました。
一方(いっぽう)、削(けず)られたのは▽勺(しゃく)(容積(ようせき)や面積(めんせき)の単位(たんい))▽匁(もんめ)(重(おも)さの単位(たんい))▽錘(すい)▽銑(せん)▽脹(ちょう)−−の五字(じ)。使(つか)うことが少(すく)なくなったからです。
◇小学校(しょうがっこう)で習(なら)う字(じ)は変(か)わらない
原案(げんあん)を作(つく)ってから二回(かい)、広(ひろ)く国民(こくみん)の意見(いけん)を求(もと)めました。障害者団体(しょうがいしゃだんたい)から「障害(しょうがい)」の「害(がい)」は否定的(ひていてき)なイメージがあるため、「障碍(しょうがい)」と書(か)けるようにと要望(ようぼう)がありましたが、追加(ついか)されませんでした。ただ、今後改(こんごあらた)めて検討(けんとう)するそうです。
小学校(しょうがっこう)で習(なら)う漢字(かんじ)は、今(いま)まで通(どお)り一〇〇六字(じ)。中学校卒業(ちゅうがっこうそつぎょう)までに「だいたいの常用漢字(じょうようかんじ)を読(よ)めるように」、高校卒業(こうこうそつぎょう)までに「おもな常用漢字(じょうようかんじ)が書(か)けるように」なることが求(もと)められています。
武田(たけだ)さんは「すべてを手(て)で書(か)ける必要(ひつよう)はないし、求(もと)めてもいません。ただ、社会(しゃかい)で使(つか)われている漢字(かんじ)の九七%が常用漢字(じょうようかんじ)です。知(し)っていると便利(べんり)です」と話(はな)しています。
■ミニ知識(ちしき)
◇元々(もともと)は当用漢字(とうようかんじ)
戦後間(せんごま)もない1946年(ねん)、1850字(じ)をまとめた「当用漢字(とうようかんじ)」が作(つく)られました。常用漢字(じょうようかんじ)との大(おお)きな違(ちが)いは、制限(せいげん)の意味合(いみあ)いが強(つよ)いことです。
「法令(ほうれい)、公用文書(こうようぶんしょ)、新聞(しんぶん)および一般社会(いっぱんしゃかい)で使(つか)う漢字(かんじ)の範囲(はんい)を示(しめ)した。当用漢字表(とうようかんじひょう)の字(じ)で表(あらわ)せないことばは、別(べつ)のことばにかえるか、かな書(が)きにする」と決(き)められていました。例(たと)えば、「魚(さかな)」は「うお」としか読(よ)めず、さかなと書(か)く場合(ばあい)はひらがなで書(か)いていました。しかし、生活(せいかつ)や言葉(ことば)も変化(へんか)したため、制限色(せいげんしょく)の強(つよ)い当用漢字(とうようかんじ)は見直(みなお)され、1981年(ねん)に常用漢字(じょうようかんじ)ができました。
「法令(ほうれい)、公用文書(こうようぶんしょ)、新聞(しんぶん)、雑誌(ざっし)、放送(ほうそう)など、一般社会(いっぱんしゃかい)で用(もち)いる場合(ばあい)の効率的(こうりつてき)で共通性(きょうつうせい)の高(たか)い漢字(かんじ)を収(おさ)め、分(わ)かりやすく、通(つう)じやすい文章(ぶんしょう)を書(か)き表(あらわ)すための漢字使用(かんじしよう)の目安(めやす)となることを目指(めざ)した」としています。制限(せいげん)を弱(よわ)め、あくまで目安(めやす)としました。当用漢字(とうようかんじ)に95字追加(じついか)した1945字(じ)でした。
◇人名用(じんめいよう)の漢字(かんじ)は?
生(う)まれた子(こ)どもの名前(なまえ)に使(つか)える漢字(かんじ)は、「人名用漢字(じんめいようかんじ)」として法律(ほうりつ)で決(き)められています。名前(なまえ)に使(つか)える文字(もじ)は人名用漢字以外(じんめいようかんじいがい)に、常用漢字(じょうようかんじ)、ひらがな、カタカナをふくみます。人名用漢字(じんめいようかんじ)は2004年(ねん)に488字(じ)が加(くわ)わったばかりですが、今回(こんかい)の常用漢字(じょうようかんじ)の 改定(かいてい)で増(ふ)え、名前(なまえ)に 使(つか)える漢字(かんじ)は 全部(ぜんぶ)で2997字(じ)になりました。
人名用漢字(じんめいようかんじ)も時代(じだい)の流(なが)れによって変(か)わります。「遼(りょう)」は1981年(ねん)、「昴(すばる)」「颯(そう)」は90年(ねん)、「狼(おおかみ)」は2004年(ねん)に追加(ついか)されました。決(き)められた漢字以外(かんじいがい)は役所(やくしょ)で受(う)けつけてもらえません。ただ読(よ)み方(かた)は自由(じゆう)なので、当(あ)て字(じ)が使(つか)われることも多(おお)いようです。
◇一点(てん)か二点(てん)か
新(あたら)しい常用漢字(じょうようかんじ)を見(み)ると、追加(ついか)された「謎(なぞ)」「遜(そん)」「遡(そ)」の部首(ぶしゅ)のしんにゅうは、点(てん)が二(ふた)つあります。これまでの常用漢字(じょうようかんじ)では一(ひと)つでした。パソコンが普及(ふきゅう)し、「二点(てん)しんにゅう」が増(ふ)えたからです。ただ、手(て)で書(か)く時(とき)は、一点(てん)の形(かたち)で書(か)くことが望(のぞ)ましいとされています。
◇お話(はなし)を聞(き)いた人(ひと)
文化庁文化部国語課(ぶんかちょうぶんかぶこくごか) 武田康宏(たけだやすひろ)さん、聖徳大学(せいとくだいがく) 林史典教授(はやしちかふみきょうじゅ)
毎日小学生新聞 2011年5月1日