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田んぼの生き物調査報告会(2) [2012年06月21日(Thu)]
前回のブログでは、いきものマイスターが6月16日(土)に実施した「田んぼの生き物調査報告会」の最初の発表について報告しました。今回は引き続き、調査報告会後半の発表と意見交換の模様についてお伝えします。


(2)野々江の水田環境の変化と希少植物の分布の関係〜『不耕起V溝直播水田に着目して』:伊藤浩二(金沢大学)
NPOおらっちゃの赤石に続いて、金沢大学のスタッフで水田植物の専門家である伊藤浩二氏による、農業法人の水田の植物の分布についての発表です。尚、伊藤氏による植物調査の取り組みは、2012年4月15日の北國新聞でも紹介されています。
2012年野々江報告会_20120616_21_01.JPG


伊藤氏は昨年の報告会でも、野々江の植物調査の結果について報告しています。伊藤氏は昨年度の報告内容のおさらいとして、調査を行った野々江の水田には希少な植物が生育していること、直播水田と慣行水田では雑草の種組成が異なること、同じ水田内でも畔の周りと水田の内側では雑草の量も種も異なること、特に直播水田の畔周辺には、大型ゲンゴロウ類が産卵に利用する雑草であるイボクサなどが多いことを話しました。
今回の報告会では、最初に不耕起V溝直播水田(以下、直播水田と呼称)についての基礎的な説明を行いました。直播水田が現在能登でも増加していること、直播水田の特性(深水管理、中干しがない、入水開始が6月、冬に耕起と代掻き、播種前に圃場を乾燥させる、箱剤の不使用、除草剤は入水前など)を説明しました。更に、今回の調査で確認された希少種(ミズオオバコなど)について触れながら、野々江で確認された植物が46種に及ぶことを説明しました。

伊藤氏は、今年度の調査で判明したこととして野々江の圃場内では農法が同じでも水田によって植物の量も種類も異なることを挙げました。同じ農法にも関わらずこのような違いが生じる理由について、過去の水路の位置に関係しているのでは、との説明を行いました。

野々江の圃場には希少な植物が分布していることが明らかになりましたが、たとえ希少植物でも農家にとっては雑草であり、厄介者です。そこで伊藤氏は、この雑草と「良い具合・良い加減」に共存出来る方法として、能登の里山の生き物と人が上手に共存することを提案しました。上手に生物多様性を地域資源として活用することで、能登の人々の長年の営みにより続いてきた能登の里山を、能登の次世代に伝えていくことも可能となるかもしれません。
http://www.pref.ishikawa.lg.jp/sizen/kankyo/3.html

参加者からは、野々江の水田植物の種数についてや、溜め池との距離による圃場の植生の影響についての質問がありました。

(3)イネ株上の昆虫相の比較:小路晋作(金沢大学)
最後に、農業害虫などを研究している小路(こうじ)晋作氏により、野々江の圃場の稲株上の昆虫やクモ類についての報告がありました。小路氏は、水管理の違い、そして水田における苗箱施用殺虫剤(育苗箱の苗に使用される農薬)が水田の害虫・益虫・ただの虫の数に及ぼす影響を明らかにする研究を行っており、今回の発表ではその途中経過の報告を行いました。
2012年野々江報告会_20120616_39_01.JPG

小路氏は水田環境が日本の陸地面積の約6.8%を占める湿地性生物の重要な生息地であることを踏まえた上で、日本の水田には500〜1000種以上がの節足動物の種数が生息していることを説明しました。水田で暮らす生き物は、様々な要因に影響を受けています。クモ類は農業害虫に対する重要な天敵として知られており、水田にも多く棲んでいます。そのクモは害虫だけではなく、害虫でも益虫でもない「ただの虫」も含む多くの昆虫を食べて暮らしていることから、天敵であるクモを支える為に「ただの虫」も重要となります。今回の調査でも稲株上で採集された生き物(昆虫・クモ類)のうち54%がトビムシ、33%がはユスリカ類(幼虫はアカムシと呼ばれ、水生。蚊に近い仲間だが、吸血はしない)などのハエ目のような、ただの虫です。水田の水管理も、湿地を好む水生生物にとって重要です。水田が乾きすぎれば、水田に棲むトビムシやユスリカに影響を与え、それらを捕食するクモなどにも影響します。畔草や周辺の草地もまた水田生物が利用します。耕起や堆肥、農薬などの農作業も影響します。
今回の報告では、苗箱施用剤の残効期間中である7月上旬までには害虫・益虫・ただの虫など様々な生き物がこの薬に影響を受けることから、初夏に出現する水田生物の多様性に影響を及ぼす恐れがあることを説明しました。この研究はまだ途中である為に現在、小路氏は更に水田の生き物の分類群同士の関係などを明らかにする為に分析を続けています。

_DSC0017_01.JPG

今回の報告会には地域の方々約20名がお越しになり、私達の報告をお聞き頂きました。自分達の農業が地域の生物多様性を支えている事実は地域の方々にも新鮮なお話だったようで、興味を持って頂けたようで、会場からは多くの質問や意見が寄せられました。
今回の調査の為に圃場を提供して下さった農事組合法人きずなの方々からは、省力化の為に始めた農業であったが今回の結果を興味深く考えており、今では各地の顧客から自分達の水田に興味を持って貰えていると話して下さいました。
今回の結果をもっと広く知って欲しいとの要望もありましたが、直播農法がどこでも出来る農法ではないこと、10年単位の長期間の影響なども見極める必要があることなどから、今回の結果をお知らせする為には誤解を生まないように注意してお知らせする必要があります。


地域の生物多様性を支える能登の農業が農業遺産として地域の為に活用される為にも、今後も能登の生き物と農業との関わりを明らかにしていく必要があるでしょう。
田んぼの生き物調査報告会(1) [2012年06月16日(Sat)]
2012年6月16日(土)、「田んぼの生き物調査報告会」を実施しました。
2010年からいきものマイスタースタッフと金沢大学のスタッフが珠洲の水田で生物の調査させて頂きました。2010年度の調査結果は調査報告会という形で、お世話になった農業法人や地域の方に向けて説明を行いました。今回は、2011年度の調査結果を報告させて頂くと同時に、参加者と私達研究者による意見交換を行いました。同時に、いきものマイスター受講生には講義として参加して頂きました。

以下は、今回の発表会のプログラムです。

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主催:金沢大学「里山里海プロジェクト」
共催:NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海
(1)農法による水田内の水生生物相の違い:赤石大輔(NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海)
(2)野々江の水田環境の変化と希少植物の分布の関係〜『不耕起V溝直播水田に着目して』:伊藤浩二(金沢大学)
(3)イネ株上の昆虫相の比較:小路晋作(金沢大学)
司会:赤石大輔(NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海)
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(1)農法による水田内の水生生物相の違い:赤石大輔(NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海)
始めに、いきものマイスタースタッフであり、いきものマイスターの母体団体の1つであるNPO法人能登半島おらっちゃの里山里海の研究員である赤石大輔が、水田で実施した水生生物、特にゲンゴロウなど水生昆虫の調査についての報告です。最初の発表ということもあり、赤石は調査報告の背景にある、能登の里山についての説明を行いました。

能登の里山里海は伝統的な農業によって育まれた文化、景観、生物多様性の価値を認められたことにより、2011年に国連食糧農業機関(FAO)によりGIAHS(世界農業遺産)に認定されました。これを受けて能登の4市4町(珠洲市、輪島市、七尾市、羽咋市、能登町、穴水町、中能登町、志賀町)は能登地域GIAHS推進協議会を作り、GIAHSの活用に向けた活動を開始しました。一方で、能登に暮らす地域住民らGIAHSの認定について実感が薄く、そもそも何が「世界農業遺産」であるのか理解も不足しています。珠洲市の場合、揚げ浜式塩田や炭焼きなどの伝統技術、「あえのこと」や「よばれ」と呼ばれる神事や慣習、溜め池など里山の営みによって保たれてきた生物多様性のような、珠洲の農業遺産と呼べるものが幾つが存在しますが、能登の農業従事者は現在では平均70歳であり、農業の存続には大きな課題が存在します。里山の利用保全と持続可能な地域作りは必要です。そこで私達は、GIAHSにも盛り込まれている、農業によって育まれた能登の生物多様性に注目しました。

能登の里山は農林業の場であると同時に、地域の生物多様性を支える存在でもあります。里山生物は、人の活動により里山が維持されることで、里山に棲み続けることが可能となります。しかし圃場整備や農薬使用などの効率化が進んだ圃場は、里山生物にとって利用しにくい環境になりつつあります。石川県では現在、農地の生物多様性を保全する為に、圃場整備をした圃場などの周辺にビオトープを作る試みが行われています。こうしたビオトープでは、かつて能登の里山で普通に見られたメダカやゲンゴロウ、カエルやトンボなどの生き物が見られますが、ビオトープの維持管理は農家の負担となり、容易ではありません。ビオトープではなく、本来の農地による生き物の保全は出来ないのでしょうか?

そこで、いきものマイスターと金沢大学は珠洲市で行われている直播農法の水田に注目し、調査を開始しました。調査を行ったのは、珠洲市の農業法人が所有する圃場です。この圃場では現在、従来からの農法による水田(以下、慣行水田と呼称します)に加えて不耕起V溝直播という方法の水田(以下、直播水田と呼称します)が広がっています。この方法は育苗や田植えの手間を必要としない為、農作業の省力化が可能であり、能登でも少しずつ普及が進んでいます。
更に水管理も一般の水田と異なり、多くの水田で行われている中干し(過剰分けつなどを防ぐ為、夏期の一時期に田の水を抜くこと)をしないことも特徴です。この中干しによる生き物への影響に注目したいきものマイスターは、直播水田と慣行水田の生き物の調査を行いました。更に今回の調査では、一部の慣行水田の内側に畦を盛って「江」と呼ばれる水路を作りました。これは中干しの時期にも水が溜まるようにして、生き物の避難場所となるように作ったもので、トキの棲める水田作りを推奨している佐渡の取り組みを参考にしたものです。

江.jpg

こちらが江の写真です。

調査ではプランターの底を抜いて作成した枠を1水田につき20か所に設置して、市販の金魚網による枠の中の水生生物の掬い取りを行いました。これは調査道具と調査面積を統一することで、水田ごとの調査結果の比較を可能にする為です。
調査では、直播水田は慣行水田に比べて希少種(大型ゲンゴロウ類)、普通種(ヒメゲンゴロウ、ゴマフガムシなど)共に個体数が多いという結果が出ました。江には中干し時期にも生き物が見られる効果がありましたが、夏期の強い日差しや水不足の為に水が干上がることも多くなりました。ある程度の保全効果は見られたものの、江を作り管理する手間の大変さや、直播水田による効果が十分であることを考慮すると、江は必ずしも必要ではないとも考えられました。

直播水田では希少種、普通種共に個体数が増加する結果が得られました。直播水田で全ての生き物を保全することは出来ませんが、能登の溜め池や水田を利用する生き物の一部でも保全が出来るのであれば、それは十分な効果と言えるでしょう。

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現在、「農事組合法人きずな」は減農薬や無農薬による米を「奥能登ゲンゴロウ米」というブランド名で販売しています。これは全国で希少種となっているゲンゴロウが棲める水田で作った、安心して食べられる美味しいお米であることをアピールしたものであり、地域の生物多様性が農作物の付加価値となる一例です。今では購入者から、田んぼを見てみたいとの声も届いているとのことです。

伊藤浩二氏と小路晋作氏による発表、発表終了後の意見交換については、次回のブログで報告します。