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里なび研修会in石川県珠洲市 [2011年11月24日(Thu)]
11月23日(水)に、「珠洲市で平成23年度里なび研修会in石川県珠洲市〜能登の里山里海を活かした地域づくりに向けて」が開催されました。尚、里なびというのは、里地里山保全に取り組む人の為の情報を発信する取り組みです。都市と農村の人材交流、保全の為の専門家紹介、ボランティア希望者への保全団体や研修会の紹介、研修会の実施など、里地里山保全に関心を持つ人々の為の活動を行っています。

今回の研修会のプログラムは、以下の通りになります。
1. 珠洲の里山と生物を見に行こう(オプションプログラム)
2. 生物多様性保全活動促進法と地域連携保全活動計画について:里地ネットワーク事務局長 竹田純一氏
3. 文化的景観と里山里海の保全:広島大学大学院教授 中越信和氏
4. 珠洲の里山保全のあり方:NPO能登半島おらっちゃの里山里海 北風八紘氏
5. 「朱鷺が舞う能登半島」をめざして:能登建設株式会社取締役業務部長 入田明大氏
6. 地域連携保全活動 計画策定に向けて(意見交換)


1. 珠洲の里山と生物を見に行こう(オプションプログラム)
午前は希望者を対象に、NPO法人おらっちゃの里山里海が管理する味噌池ビオトープの見学を行いました。ここは、耕作放棄地から成る約5ヘクタールの敷地内に、ビオトープ水田、クワイやソバの定植、ミツバチの巣箱設置、牛や山羊の放牧などを行い、様々な保全活動を行うビオトープです。ビオトープ創出以来、全国的にも希少種である大型ゲンゴロウ類を始めとした様々な水生生物が確認されており、2011年現在ではゲンゴロウやガムシ、オオコオイムシなどの水生昆虫が30種以上、トンボ33種、カエル7種が確認されています。
ここでは保全や放牧の取り組みと成果を説明しながら、ビオトープとその周辺を案内します。ビオトープを一通り案内した後には、ビオトープの生き物観察を行いました。参加者には網を持って貰い、実際に水の中を掬って貰いました。既に冬寸前ということもあり生き物の数は少なかったのですが、それでもメダカ、ドジョウ、ギンヤンマ幼虫、クロスジギンヤンマ幼虫、キイトトンボ幼虫、クロイトトンボ属幼虫、ヒメゲンゴロウ、オオミズスマシ、コガシラミズムシ、ツチガエル、ニホンアカガエル、ツチガエルのオタマジャクシなどの水生生物類が採集されました。参加者は、普段は見慣れない生き物に驚きの様子ですが、もっと暖かい時期にはこの数倍の生き物が採れることを説明すると、更に驚いているようでした。



2. 生物多様性保全活動促進法と地域連携保全活動計画について:里地ネットワーク事務局長 竹田純一氏
午後からは、里なび研修会の講演開始です。開会の挨拶を終え、まずは里地ネットワーク事務局長の竹田純一氏の講演から始まりました。竹田氏は、平成23年10月より施行された「生物多様性地域連携促進法」のあらましについて解説を行いました。この法律の背景には、生物多様性の危機や、生物多様性への社会的関心の高まり、更に生物多様性に関する国家戦略や地域戦略策定の動き、地域での生物多様性保全活動の広がりなどがあります。これらを地域主体で円滑に進め、その為の地域連携保全活動を促進する為、「生物多様性地域連携促進法」が定められました。
更に竹田氏は、地域連携保全活動の流れを環境省の「里地里山保全再生計画策定の手引き」を元に説明を行いました。


3. 文化的景観と里山里海の保全:広島大学大学院教授 中越信和氏
広島大学大学院教授の中越信和氏は、環境省里地里山保全・活用検討会議・委員を務め、広島大学大学院国際協力研究科の教授を務めています。中越氏は「文化的景観に関する国内外の動向」「里地里山の生態学」「里地里山を保全する試み」「里海の重要文化的景観への指定と今後の方向性」という流れで、解説を行いました。
「文化的景観に関する国内外の動向」という箇所では、ドイツなどで設置されている生物圏保護区、自然公園、景観保護区の例を挙げ、次に日本国内で行われる環境省の「21世紀環境立国戦略」「SATOYAMAイニシアティブ」など、里山というキーワードに触れました。「里地里山の生態学」という箇所では西日本型の景観構造(二次林・二次草原優勢)、藤堂府県別景観構成、里地里山の分布、二次林植生によるブロック分類などに触れながら、里山景観における資源と循環について説明を行いました。
「里地里山を保全する試み」では、樹木調査や伐採した樹木のチップ化とペレットストーブ燃焼体験、ワークショップなどの取り組みなど、里地里山保全の実例とその結果を紹介しました。
最後に「里海の重要文化的景観への指定と今後の方向性」では里地里山保全のまとめを行いました。ここでは「能登地方の里地里山里海を文化的景観と認識し、保全の対象とする(文化)、地域住民と石川県環境部里山創生室の協働による文化的景観の整備(里山の拡大解釈)、生物多様性地域戦略の策定、とくに題2の危機の克服(生物多様性)、「地域産業、環境基金、NPO支援、自然エネルギーの産業利用(地域経済)、エコツーリズムなどの開発と定住目標化(社会)、里海の重要文化的景観指定の獲得(差別化)」という項目を挙げ、能登半島での里地里山保全への提言が盛り込まれました。

4. 珠洲の里山保全のあり方:NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海 北風八紘氏
NPOおらっちゃの理事を務める北風氏は、NPOおらっちゃが珠洲で行う里山保全の取り組みを紹介しました。能登の里山荒廃や過疎高齢化などの課題、世界農業遺産(GIAHS)認定の流れを背景にNPOおらっちゃ設立の経緯を説明しました。北風氏はNPOおらっちゃが現在取り組んでいる「おらっちゃの里山市場」(地元の農家による農産物直売の市場)、多様性保全推進事業(ビオトープ創出と活用、希少水生生物の調査など)、NPOグリーンウェーブと連携しての植林活動について説明を行い、人材や地域、企業、大学など多様な団体の連携の為にNPOおらっちゃが果たす役割の説明を行いました。


5. 「朱鷺が舞う能登半島」をめざして:能登建設株式会社 取締役業務部長 入田明大氏
能登建設は、珠洲に拠点を持つ建設会社です。能登建設は地域社会貢献や環境美化の理念遂行の為にISO9001ISO14001いしかわ版里山づくりISO認証を取得しました。具体的な活動として、8月の創業記念日及び10月の第4土曜日をボランティアの日と定め、全社員が環境保全の為、ボランティア活動を行っています。
入田氏は、「里山の生きものを守り育てる活動(ビオトープの草刈り)、「里山の森つくり活動」(マツタケ山の再生を目指す活動)、「生物多様性についての研修会」(里山里海自然学校での研修会)、「里海づくり活動」「道路美化清掃活動」(清掃活動)など、能登建設がこれまでに取り組んできたボランティア活動の紹介を行い、過疎高齢化や里山荒廃など能登半島が抱える現状と問題への取り組みの姿勢を説明しました。

6. 地域連携保全活動 計画策定に向けて(意見交換)
最後に、竹田氏、中越氏、北風氏、入田氏ら講演発表者により、今回の研修会を総括する為のディスカッションが行われました。能登建設の入田氏は会社のボランティア活動に触れつつ「里山、ボランティアのイメージはまだ一般には浸透していない」ことを課題として挙げました。中越氏は、生物多様性や里地里山の保全を推進する上で、中央から離れた能登半島という土地柄は非常に有利であると述べました。更に、今日までの保全の為の議論や実例を基に、「保全の仕組みは既にある、次は保全の為の仕掛けが必要」と述べました。


今回の里なび研修会では、石川県内は勿論のこと、秋田県、京都府、広島県など遠方からの出席者もあり、多方面からの議論が出来ました。里地里山保全の取り組みは全国で広がりつつあります。更に多くの人に里地里山保全の理解を広め、活動を軌道に乗せる為にも、私達は今回の研修会を活かしていきたいと思います。
11月いきものマイスターの講義:市民による生き物調査の意義 [2011年11月15日(Tue)]
11月になり、冷え込む日も増えてきました。野外を出歩いても、生き物の姿は少なくなってきたようです。11月12日(土)に、日本自然保護協会(NACS−J)の高川晋一氏を講師に招き、いきものマイスターの講義を行いました。講義の前半では日本自然保護協会の取り組み紹介を、後半ではいきものマイスターの拠点である、里山里海自然学校の活動紹介を行いました。


1. 里やまの生物多様性保全と市民の役割:高川晋一(財)日本自然保護協会
日本自然保護協会の高川氏は自然保護協会の取り組みとして、里山保全、市民参加による生物調査の意義についての講義を行いました。高川氏は里山について「人の伝統的な利用・管理により作り上げられた環境」「森林・ため池・水田・水路・畑・「草地など、異質で多様な環境がモザイク状に存在」「多様な動植物のすみか」と説明し、里山が人の手により管理される多様な景観を含むと共に生物多様性を支える重要な環境であること、また食糧などの生活に欠かせない資源(生態系サービス)を提供する大事な役目を持つことについて触れました。一方で日本の絶滅危惧種の集中するホットスポットの半分近くが里山であるように、地球規模で生物多様性の危機が深刻な問題とされる今、里山の保全は生物多様性の保全の上でも極めて重要です。

一方、里山の生物保全は容易ではありません。ここで高川氏は、里山保全の困難さについて3つの問題を挙げました。
1つ目として、国土の4割から6割を占める里山は、その殆どが私有地であることを挙げました。多数の地権者の事情が絡むこと、また地権者が不明な場合もあることから、規制は勿論、調査による現状把握すら困難です。
2つ目として、里山に必要な攪乱について挙げました。日本の自然は遷移が早く、放置された土地は草地から森林へと遷移しますが、里山では人による管理が自然攪乱の役割を代行することにより遷移がリセットされ、環境が安定します。結果、攪乱により安定した環境に適応した生き物が今日の身近な里山生物となりましたが、里山の荒廃が相次ぐ今日では里山生物が大きな危機を迎えてしまったのです。
3つ目として、社会や経済の構造変化の問題を挙げました。エネルギー革命や流通の発達は現代人の生活を里山から遠ざけてしまいました。農業だけで生活が成り立たない現状や過疎高齢化による後継者不足もまた深刻です。こうした社会や経済の構造変化は現代人の生活を一変させてしまい、里山管理の放棄を招きます。高川氏は、生物多様性保全の為の制度の不足についても指摘しました。


里山の保全は生物多様性の保全を行う上で極めて重要でありながら、その課題は容易ではありません。こうした現状を踏まえ、保全の為に私達に出来る取り組みとして、高川氏は「知る」(保全状況を把握し、調査データを蓄積する)、「アクション」(調査結果から保全計画を立て、実行する)、「体制づくり」(市民を巻き込んだ仕組み作り)、「根本原因への対応」(行政、町作りなど市民生活レベルでの対応)の4つを挙げました。

こうした市民参加の保全活動の意義に触れた上で、高川氏は現在の世界的な保全活動の動き(生物多様性条約、COP10など)について触れた上で、日本自然保護協会が現在取り組む「モニタリングサイト1000里地調査」について触れました。これは市民を中心とした調査地点を全国に設け、生物多様性の変化を把握する為に調査データを蓄積する為の取り組みです。現在、調査地は195地点に及びます。このモニタリングサイト1000の調査により、愛媛など複数の地域では外来種であるアライグマの分布状況が初めて明らかになると共に、ナガサキアゲハの分布域北上事例(原因として、地球温暖化が疑われている)も明らかになったとのことです。市民による調査は時として重要な発見をもたらす他、参加する市民に対しても地域の自然や魅力への気づきをもたらし、意識向上にも繋がります。以上のように、私達の日常生活が保全に貢献し、市民が主役となる保全を実現することは、大きな意味を持つでしょう。



2. 自然学校の保全林見学
この日は天気が比較的穏やかだったことから、ここで野外講義の時間を設け、里山里海自然学校の管理する保全林の見学をすることにしました。この保全林は地域の方から借り受けて保全活動や実習、調査などを行うフィールドです。この保全林は、本来であれば内陸性とされるアカマツで構成されていることが特徴です。
自然学校が管理を始める前は放置されて荒れていましたが、自然学校が間伐や地かきなどで保全林を整備したところ、現在では食用となるキノコも増えつつあります。地域の小学校や中学校の授業案内などで、何度かこのブログでも紹介していますが、2期生がこの保全林を歩くのは今回が初めてです。保全林について1つ1つ解説を行いながら、林道を1周してみました。
既に生き物の少ない季節ですが、この日の保全林ではヌメリイグチ、ホコリタケ、トキイロラッパタケ、野生のエノキタケなどのキノコが見られました。保全林に隣接する溜め池ではサンショウモという珍しい水生シダ植物(環境省絶滅危惧T類・石川県準絶滅危惧)が見られました。日によってはクサガメがよくひなたぼっこをしているという説明に、受講生らも興味津々でした。



3. 能登半島里山里海自然学校の活動紹介
最後に、里山里海自然学校の活動紹介の講義がありました。世界遺産に登録される一方で過疎高齢化による里山放棄が進む能登の里山ですが、現在では自然学校が拠点としている金沢大学能登学舎で、「大気観測・能登スーパーサイト」(中国からの黄砂などを観測)、「能登里山マイスター養成プログラム」(能登の地域人材を育成)、能登いきものマイスター養成講座、里山里海アクティビティなどの取り組みなど、幾つものプログラムが進行中です。

里山里海自然学校も、こうした取り組みの1つです。ここでは自然学校の多様性保全推進事業、里山保全の普及・啓発活動(能登のキノコ資源探索、能登のキノコ山再生プロジェクトなど)や水田の生き物調査に触れた上で、田んぼの生き物調査報告会やビオトープの維持管理活動、地域の連携などについての説明がありました。
最後に、能登を拠点にした地域と大学、NPOなどの連携による取り組みをまとめ、この日の講義は終わりです。次回、12月の講義では鳥の野外観察などを行う予定です。