7月18日(月)、東京の広尾で開催されたフェアトレード・シンポジウムの様子を見学してきましたので、ここで報告致します。
日時:2011年7月18日(月)
場所:JICA(東京都渋谷区広尾4-2-24)
主催:JICA地球広場
http://www.jica.go.jp/hiroba/index.html
【プログラム】
13時 開場 フェアトレード商品販売
14時 大野敦氏(立命館大学准教授)
基調講演「フェアトレードは貧困削減に役立つのか」
14時30分 植田貴子氏(特定活動非営利法人シャプラニール=市民による海外協力の会)
フェアトレードの事例(フェアトレード団体の活動、成果、課題)
14時50分 北澤肯氏(フェアトレード・リソースセンター代表)
日本におけるフェアトレードの動き、ラベルの必要性など
15時10分 山田尚史氏(JETRO途上国貿易開発部途上国貿易開発課主幹)
JETROのフェアトレードとの関わり
15時25分 古屋欣子氏(JICA産業開発・公共政策部)
JICAのフェアトレードとの関わり
15時40分〜16時 休憩
フェアトレード商品販売
16時 佐藤寛氏(アジア経済研究所)
パネルディスカッションの趣旨説明及び問題提起
16時10分〜17時30分 パネルディスカッション
フェアトレードとは?http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E6%AD%A3%E5%8F%96%E5%BC%95
フェアトレードとは、発展途上国な(特にアジアやアフリカなど)どの原料や製品を適正価格で購入することにより、立場の弱い途上国の労働者や生産者の生活改善や自立を目指す取り組みです。国際的フェアトレード・ネットワークFINEでは、フェアトレードを以下のように定義しています。
「フェアトレードは、対話、透明性、敬意を基盤とし、より公平な条件下で国際貿易を行うことを目指す貿易パートナーシップである。特に「南」の弱い立場にある生産者や労働者に対し、より良い貿易条件を提供し、かつ彼らの権利を守ることにより、フェアトレードは持続可能な発展に貢献する。フェアトレード団体は(消費者に支持されることによって)、生産者の支援、啓発活動、および従来の国際貿易のルールと慣行を変える運動に積極的に取り組む事を約束する(フェアトレード・ラベル・ジャパンHPより)。」
http://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/fairtrade/
現在のグローバルな貿易が格差を拡大させると考えからフェアトレードは、こうした経済の南北問題を解消するオルタナティブ・トレード(もう1つの貿易の形)として始まった背景もあります。フェアトレードでは(1)生産者からの直接買い付け(2)透明で長期的な貿易関係の構築(3)最低保障価格(4)社会プレミアムの支払いを通した開発・技術協力、という4つの原則(ブラウン 1993)が求められます。
講演の様子会場にはフェアトレード団体のブースが設けられ、講演開始前の1時間と休憩時間にはフェアトレード市が設けられました。出店しているのは、フェアトレードを専門にする団体から、途上国支援の一環としてフェアトレードを行っている団体までと、多様な17の団体です。ここではフェアトレード製品を直に手に取って見ると共に、フェアトレード活動について詳しい話を聞くことが出来ます。フェアトレード初心者にとっても、講演前にフェアトレードについて予習出来る良い機会です。
開場1時間後の14時から、フェアトレードについての識者らによる講演が始まりました。立命館大学の大野敦准教授は、研究者の立場からフェアトレードが世界経済の中でどのような役割を担っているかについて解説しました。世界の貿易のうちフェアトレードが占める割合は極めて低いものの、イギリスやスイスにおけるコーヒーやバナナなど、一部商品については大きなシェアを占めている事実について言及がなされました。今後のフェアトレードの展開について、供給に対して需要が不足する現実や、「倫理的な消費者」の拡大の可能性などの問題提起がなされました。
http://www.shaplaneer.org/news/index.html
「特定活動非営利法人シャプラニール=市民による海外協力の会」はバングラディシュとネパール、インドを対象に、ストリートチルドレン、児童労働者、老人、寡婦や障害者など社会から取り残された人々への支援活動を行う団体です。現地のNPO団体をパートナー団体として、衣服や手工芸品、石鹸などのフェアトレード製品を積極的に行っています。シャプラニールの植田貴子氏は、特に夫の暴力・出稼ぎに行った夫の仕送り拒否などの深刻な事例、売春せざるを得ない女性の現状など、先に述べた人々の境遇の厳しさに触れながら、そうした人々が自立を求めてフェアトレード製品としての石鹸作りに至る過程に触れました。一方で現地からの「もっと仕事がないと生活が厳しい」との切実な声が上がる一方でフェアトレード製品の売れ行きの伸び悩みに触れ、フェアトレードの難しさにも言及しました。
その他、フェアトレード・リソースセンター代表の北澤肯氏はフェアトレードの世界的な流れについて解説を行いました。日本よりフェアトレードが普及する欧米ではキリスト教社会、倫理的行動、植民地時代への反省や償い、市民運動、CSRなどが原動力になっていることを説明しました。JETRO(日本貿易振興機構)の山田尚史氏はフェアトレード支援についての話をしました。JETROはフェアトレードをビジネスとしての将来性を審査するポイントとして、「ニーズの有無」「計画性の有無」「事業者の能力と熱意」「現地社会への寄与」という基準について述べました。JICAの古屋欣子は、大分県で始まった一村一品運動を参考にしたマラウィの一村一品運動に対する支援の事例などを紹介しました。
最後に、パネルディスカッションが行われました。社会学者の佐藤寛の司会の元、フェアトレードラベルによる認証の是非を問う議論、フェアトレード製品という規格化しにくい製品に対してラベル認証を行うことのジレンマなどについて盛んな議論が行われました。
フェアトレードという言葉そのものを知らない人も多く、フェアトレードの認知度は決して高いとはいえません。しかし当日の会場は満席に近く、関心を持つ層は確実に増えているようです。各フェアトレード団体では、女性が多く目立ちました。大野准教授の講演でも、フェアトレードに関心を持つのは、30代から40代の女性が多いことが言及されていましたが、実際にフェアトレードで流通する製品には手工芸品など女性向けの製品が多く見られたことも、こうした事情を反映しているものと思われます。フェアトレード団体のブースでは、製品と共に具体的な支援の事例や、現地の問題を伝えるチラシや展示物が多く見受けられました。フェアトレードは先進国と途上国の間の取引が主とされていますが、フィリピン国内では富裕層と貧困層との間でもフェアトレードが行われているという話もあります。貧困問題や格差問題という図式は、今日の農村や里山の問題になぞらえることも可能です。里山という一度は顧みられなくなった地域の資源、そして農業という資源を明確な収入と雇用に結び付けることは今日の里山の問題を解決するには不可欠の要素であり、フェアトレードという取り組みからは、私達里山保全と研究に従事する立場にとっても、学ぶべきことは大変多いと言えます。
見学席には、学生と見受けられる20代前後の参加者が多く見られました。実際、各地の大学にはフェアトレードの団体が見られます。このことは、フェアトレードという取り組みに対する若者らの関心の高さを示しているといえます。世界の森林破壊の問題を考える時には途上国の貧困や人口増加などの問題を無視出来ないように、環境問題を考えるには社会問題を素通りすることは出来ません。田舎暮らしや農業を志して能登のような田舎に移住する人には、こうした世界的な環境問題や貧困問題への関心を持つ人が少なくありません。フェアトレードと私達の取り組む里山の諸問題は規模が大きく異なりますが、里山が環境問題であると同時に社会問題である以上、こうした世界的な社会問題への取り組みを知ることもまた必要でしょう。