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農家自身が伝える、田んぼの生き物と地域の農業の繋がり [2012年10月09日(Tue)]
2012年10月7日(日)に、輪島市三井町市ノ坂の里山での里山歩き「まるやま組」が開催されました。いきものマイスターの受講生である新井寛さんが、いきものマイスターの課題として今回のまるやま組で、水田の生き物の観察会を実施しましたので、報告させて頂きます。

まるやま組は、いきものマイスター1期生である萩野由紀さんご家族が中心になって、輪島市三井町市ノ坂の里山、通称「円山」で月1回実施されている里山歩きです。円山は1991年から殆どの圃場が放棄されていましたが、2009年には環境モニタリングサイト1000の一般サイトとして、地域住民と植物の専門家である金沢大学の伊藤浩二氏による植物調査が開始されました。更に、新井さんはこの年に輪島市に移住して就農して稲作を始めています。2010年からはまるやま組が始まり、先述の植物調査もまるやま組に合わせて実施されるようになりました。
尚、いきものマイスターは過去にもまるやま組で講義をしていますので、こちらこちらをご覧下さい。

新井さんはまるやまで、無農薬・無施肥・不耕起による環境配慮、食の安全を重視した拘りの米作りを実施して、消費者からの評判を呼んでいます。新井さんは環境配慮や食の安全を消費者に伝える為に、自身のホームページ「無農薬玄米輪島エコ自然農園」とブログにおいて、自身の水田とそこに棲む生き物のことを発信するようになり、自分の水田の紹介の為に生き物のことをもっとしっかりと知って発信する為に、今年度のいきものマイスターを受講して下さることになりました。
新井さんは今回、農家の立場から田んぼの生き物と地域の農業との繋がりを伝える為に、いきものマイスターの課題として田んぼの生き物の観察会を実施しました。


参加者同士の簡単な自己紹介の後、最初には毎回実施されている伊藤浩二氏の案内によるまるやまの植物観察が実施されました。植物観察会では参加者が1人5種を目標として、まるやまのコース内の植物(花・種・実があるものに限定)を集めます。集められた植物は並べられて、伊藤氏が名前と生態について説明して下さいます。この日は20種ほどの植物が集まりました。伊藤氏は、秋らしい植物が集まったこと、11月以降は今回の半分くらいに植物の種数も減少するだろうと説明して下さいました。
まるやま組2012年10月_20121007_75.JPG

尚、この時説明して頂いた植物としては、アケビ、オヤマボクチ、ツリガネニンジン、シロバナイヌタデ、アキノキリンソウ、ヒヨドリバナ、オトコエシなどでした。

植物観察が終わり、いよいよ新井さんの案内による水田の生き物観察会開始です。稲刈りの為に水田の水は殆ど抜かれていますが、水田周辺の水路には水が残り、水田の生き物が多数集まっています。参加者は、今回の為に用意されたたも網や容器を持って、生き物を掬い採ります。ドジョウ、メダカなどの魚、ヒメゲンゴロウ、マツモムシ、オオコオイムシなどの水田に棲む水生昆虫が多数集まりました。更には、全国は勿論のこと、能登でも最近は少なくなったゲンゴロウガムシのような大型の水生昆虫も見つかりました。体長が4センチにも及ぶゲンゴロウは特に迫力満点です。

まるやま組2012年10月_20121007_159.JPG

集められた水田の生き物については、今回の為に用意した資料を元に新井さんが説明を行いました。新井さんは生き物が入った容器を見やすく並べて、資料の写真を見せながら、1種1種丁寧に説明をして下さいました。自分の田んぼで採れた生き物を伝えたいという熱意が籠った説明に対して、参加者からの熱心な質問や意見が相次ぎました。特に今回の観察会で顕著だったのは、生き物への関心は勿論ですが、それ以上に「消費者へのアピールには、何をしていますか?」「水田を始めたことで、生き物は増えましたか?」「米作りと水田の関係について知りたい」「生き物に対する、水田や水路の役割について知りたい」などの、新井さんの田んぼについての質問や意見が非常に多かったことです。これは従来行われてきたような、生き物の専門家による観察会では実現出来ないでしょう。今回の観察会では、課題の為にアンケートも実施しました。アンケートでも、やはり新井さんの田んぼに対する関心の高さや、新井さんの真摯な説明に対する感想が多く寄せられました。
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今回の観察会は、今まで実施されてきたどんな観察会よりも、田んぼに対して関心を持って貰えたことと思います。

尚、この日に見られた生き物はゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、コツブゲンゴロウ、ガムシ、ヒメガムシ、オオコオイムシ、マツモムシ、コミズムシ類、オニヤンマ幼虫、アカハライモリ、ドジョウ、メダカなどでした。

観察会の後は、みんなが楽しみにしていた食事です。この日の食事は、コンロや机を持ち込んで、野外でとりました。食卓には、まるやま組で栽培したエンドウ豆、「ごじる」という郷土料理、更にはビールまで振舞われました。

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食事の後には、この日に参加して下さった金沢大学の鈴木克徳教授に、ご自身が専門とされているESDについて講義をして頂きました。ESDとはEducation for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)のことを指し、各国の政府や国連、更に日本では民間による取り組みが進められています。聞き慣れない言葉でちょっと難しそうですが、鈴木先生はESDについて身近な例を挙げて説明して下さいました。特に、私達の子供達の為に、持続可能で公正な社会を作ることの大切さを例に、(1)子供達に、身の回りの文化や自然を伝える、(2)知識の詰め込みではなく、自分で考える力をつける、(3)実践力を見につける、というごく当たり前で分かりやすい具体的な目的を挙げて下さいました。
更に、地域の人達がその価値に気付かず暮らしている能登は、東京から見れば地域同士、地域と環境との繋がりが今も生き続けている、実に贅沢な地域であると話して下さいました。
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あっという間の1日でしたが、子供にとっても大人にとっても、良く遊び良く学んだ1日になりました。水田が身近な生き物の棲み場所であることを知り、味わって地の食材の美味しさを知り、最後には大学の先生による出張授業までと、至れり尽くせりの実に贅沢な1日です。地元の農家、公務員、研究者など層を問わず多様な人が集まるまるやま組らしい、実に多彩なプログラムです。
皆様も、機会があれば是非まるやま組に参加してみて下さい。