保全林の生物多様性 [2012年05月25日(Fri)]
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能登いきものマイスター養成事業の母体の1つである、「NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海」は、保全林と呼ばれる雑木林を管理しています。この保全林は、いきものマイスターの野外実習でも、利用しています。3期生の皆さんにも、実習で保全林を見て貰いたいと思います。
雑木林の樹木や落ち葉は、かつては貴重な燃料や材木として利用されていました。適度な伐採は樹木の世代交代による林の若返りを促進します。地掻きにより適度に片づけられた地面には、食用となるキノコも生えます。しかし里山資源に依存しない今日では、こうした雑木林が放置されています。放置された雑木林では、伐採されず老木化した樹木が過密にひしめき合って光も差さない為、動植物にとって棲み辛い環境になります。 NPOおらっちゃが管理する保全林も、かつては放置されて荒れていましたが、今ではNPOおらっちゃのボランティア「里山里海メイト」らと共に保全活動に取り組み、間伐や地掻きに励んだ結果、生き物豊かな雑木林として再生されました。保全だけではなく、資源としての利用も行われています。伐採した樹木の薪としての利用や、椎茸の原木栽培など、かつての里山でごく普通に行われていた取り組みも行われています。 実習の為、またお客様を案内する為に私達は何度も保全林を訪れていますが、今でも訪れるたびに、新たな発見に驚かされています。保全林にはアカマツを始め、ヒサカキ、ヒノキアスナロ(石川県の県木。能登では、アテと呼ばれる。)、コシアブラ、スダジイ、カシワ、ウワミズザクラ、ネズ(別名、ネズミサシ)、アケビなどの樹木が見られます。野草ではタチツボスミレ、シュンラン、ノミノフスマ、ミソハギ、オオバノトンボソウ、ニガナ、エゾタンポポなどに加え、山菜として利用されるタラノキ(タラノメ)、オオバギボウシ、ワラビ、ゼンマイ、イタドリ、フキなどが見られます。勿論、こうした植物はほんの一部にすぎません。先日、保全林で植物の調査を行ったところ、約120種の植物が確認されました。これから季節ごとに調査を行えば、更に多くの種の植物が観察されるのではないかと、期待も高まります。 キノコとしては、珍しいソライロタケを始め、地域ではホウキタケ、ヌメリイグチ、ホコリタケ、トキイロラッパタケ、テングタケ、シロオニタケ、アカヤマドリ、エノキタケなどが見られます。野生のエノキタケはスーパーで販売されるものとは全く異なる姿をしており、初めて見る人はよく驚いています。 豊富なのは植物だけではありません。魚を主食とする猛禽類であるミサゴを始め、シジュウカラ、メジロなど野鳥が時折見られます。保全林の内側には窪んだ箇所があり、小さな水溜りになっています。この水溜りは周囲に降り注いだ雨水だけが頼りの不安定な水溜りであり、その水位は非常に不安定です。一見、生き物の利用に向いていないような水溜りですが、成体が林内で生活する両生類や、暗く小規模な水溜りを好む水生昆虫などにとっては、そうでもないようです。春先にはクロサンショウウオ、ヤマアカガエル、アズマヒキガエルなどが産卵に訪れます。これらの種の成体は水場を離れて生活しており、ヤマアカガエル成体は保全林の林内で、クロサンショウウオ成体は保全林の土の中から見つかっています。保全林はこうした両生類の、格好の棲み場所となっているようです。 水生昆虫としては、クロズマメゲンゴロウ、コセアカアメンボ、マツモムシ、サラサヤンマなどが見られます。コセアカアメンボは溜め池などの開放的な水環境にも出現しますが薄暗い環境を好むとも言われています。この水溜りばかりではなく、保全林内の轍に出来た水溜りにまで棲みついています。サラサヤンマ幼虫は、一見しただけでは水があるかどうかすらわからないような、極めて不安定な湿地や水溜りで生活しているとされていますが、未だにその生態は不明であり、幼虫の発見は極めて困難です。サラサヤンマ成虫は保全林周辺や味噌池ビオトープなど、珠洲市内では成虫が確認されていましたが、その幼虫が保全林で生育していたことが判明したのは、非常に興味深いことです。 こうした両生類は繁殖期に水域に集まり、水生昆虫は水域間を飛んで移動しています。こうした小動物が、林の奥に出来た、こんな小さな水溜りをどうやって見つけているのか、不思議なものです。一見なんでもない水溜りでも、保全林の生き物にとっては大切な棲み場所になっているようです。 クロサンショウウオの卵嚢です。石川県には広く生息しており、春先にはあちこちの溜め池や沼地で親と卵嚢が見られます。 サラサヤンマの抜け殻です。一度見つけたものを撮影しやすい場所に置いたものですので、実際の羽化の仕方とは違うことをご注意下さい。 保全林は農業用の溜め池に隣接しています。その溜め池ではサンショウモやイヌタヌキモなどの水生植物、更にクサガメやゲンゴロウ類、ギンヤンマ、キイトトンボなどが見られます。保全林の周囲には他にも多くの溜め池が広がり、水生昆虫を始めとした貴重な里山の生き物が多く見られます。その一方で荒れた里山も少なくありません。 能登の里山によって育まれた生物多様性が地域の生活を支えてきたことを通じて、里山の生き物と私達の関係、そして能登の里山の大切さを是非、いきものマイスターの皆さんには学んで頂きたいと考えています。まだ始まったばかりの2012年度ですが、どうか宜しくお願いします。 |




