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保全林の生物多様性 [2012年05月25日(Fri)]
能登いきものマイスター養成事業の母体の1つである、「NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海」は、保全林と呼ばれる雑木林を管理しています。この保全林は、いきものマイスターの野外実習でも、利用しています。3期生の皆さんにも、実習で保全林を見て貰いたいと思います。
雑木林の樹木や落ち葉は、かつては貴重な燃料や材木として利用されていました。適度な伐採は樹木の世代交代による林の若返りを促進します。地掻きにより適度に片づけられた地面には、食用となるキノコも生えます。しかし里山資源に依存しない今日では、こうした雑木林が放置されています。放置された雑木林では、伐採されず老木化した樹木が過密にひしめき合って光も差さない為、動植物にとって棲み辛い環境になります。
NPOおらっちゃが管理する保全林も、かつては放置されて荒れていましたが、今ではNPOおらっちゃのボランティア「里山里海メイト」らと共に保全活動に取り組み、間伐や地掻きに励んだ結果、生き物豊かな雑木林として再生されました。保全だけではなく、資源としての利用も行われています。伐採した樹木の薪としての利用や、椎茸の原木栽培など、かつての里山でごく普通に行われていた取り組みも行われています。
保全作業20120414_188_01_01.JPG


実習の為、またお客様を案内する為に私達は何度も保全林を訪れていますが、今でも訪れるたびに、新たな発見に驚かされています。保全林にはアカマツを始め、ヒサカキ、ヒノキアスナロ(石川県の県木。能登では、アテと呼ばれる。)、コシアブラ、スダジイ、カシワ、ウワミズザクラ、ネズ(別名、ネズミサシ)、アケビなどの樹木が見られます。野草ではタチツボスミレ、シュンラン、ノミノフスマ、ミソハギ、オオバノトンボソウ、ニガナ、エゾタンポポなどに加え、山菜として利用されるタラノキ(タラノメ)、オオバギボウシ、ワラビ、ゼンマイ、イタドリ、フキなどが見られます。勿論、こうした植物はほんの一部にすぎません。先日、保全林で植物の調査を行ったところ、約120種の植物が確認されました。これから季節ごとに調査を行えば、更に多くの種の植物が観察されるのではないかと、期待も高まります。
エノキタケ保全林20111112_724.JPG

キノコとしては、珍しいソライロタケを始め、地域ではホウキタケ、ヌメリイグチ、ホコリタケ、トキイロラッパタケ、テングタケ、シロオニタケ、アカヤマドリ、エノキタケなどが見られます。野生のエノキタケはスーパーで販売されるものとは全く異なる姿をしており、初めて見る人はよく驚いています。

保全林の水溜り20120512_137_01_01.JPG

豊富なのは植物だけではありません。魚を主食とする猛禽類であるミサゴを始め、シジュウカラ、メジロなど野鳥が時折見られます。保全林の内側には窪んだ箇所があり、小さな水溜りになっています。この水溜りは周囲に降り注いだ雨水だけが頼りの不安定な水溜りであり、その水位は非常に不安定です。一見、生き物の利用に向いていないような水溜りですが、成体が林内で生活する両生類や、暗く小規模な水溜りを好む水生昆虫などにとっては、そうでもないようです。春先にはクロサンショウウオ、ヤマアカガエル、アズマヒキガエルなどが産卵に訪れます。これらの種の成体は水場を離れて生活しており、ヤマアカガエル成体は保全林の林内で、クロサンショウウオ成体は保全林の土の中から見つかっています。保全林はこうした両生類の、格好の棲み場所となっているようです。
水生昆虫としては、クロズマメゲンゴロウ、コセアカアメンボ、マツモムシ、サラサヤンマなどが見られます。コセアカアメンボは溜め池などの開放的な水環境にも出現しますが薄暗い環境を好むとも言われています。この水溜りばかりではなく、保全林内の轍に出来た水溜りにまで棲みついています。サラサヤンマ幼虫は、一見しただけでは水があるかどうかすらわからないような、極めて不安定な湿地や水溜りで生活しているとされていますが、未だにその生態は不明であり、幼虫の発見は極めて困難です。サラサヤンマ成虫は保全林周辺や味噌池ビオトープなど、珠洲市内では成虫が確認されていましたが、その幼虫が保全林で生育していたことが判明したのは、非常に興味深いことです。
こうした両生類は繁殖期に水域に集まり、水生昆虫は水域間を飛んで移動しています。こうした小動物が、林の奥に出来た、こんな小さな水溜りをどうやって見つけているのか、不思議なものです。一見なんでもない水溜りでも、保全林の生き物にとっては大切な棲み場所になっているようです。

クロサンショウウオ卵 上野ビオ120301_00_01.JPG

クロサンショウウオの卵嚢です。石川県には広く生息しており、春先にはあちこちの溜め池や沼地で親と卵嚢が見られます。

サラサ抜け殻 保全林_20120517_169_01.JPG

サラサヤンマの抜け殻です。一度見つけたものを撮影しやすい場所に置いたものですので、実際の羽化の仕方とは違うことをご注意下さい。

保全林は農業用の溜め池に隣接しています。その溜め池ではサンショウモやイヌタヌキモなどの水生植物、更にクサガメやゲンゴロウ類、ギンヤンマ、キイトトンボなどが見られます。保全林の周囲には他にも多くの溜め池が広がり、水生昆虫を始めとした貴重な里山の生き物が多く見られます。その一方で荒れた里山も少なくありません。
能登の里山によって育まれた生物多様性が地域の生活を支えてきたことを通じて、里山の生き物と私達の関係、そして能登の里山の大切さを是非、いきものマイスターの皆さんには学んで頂きたいと考えています。まだ始まったばかりの2012年度ですが、どうか宜しくお願いします。
珠洲の音(2012年5月13日) [2012年05月18日(Fri)]
今回のブログでは、いきものマイスター修了生の活動を紹介します。

2012年5月13日(日)、珠洲市上戸町寺社で「珠洲の音」という催しがありました。これは元々、アースデイ珠洲として実施されてきたものを、今年度から「珠洲の音」と改称して実施されたものです。
アースデイとは、地球環境を考える記念日として1970年から始まったイベントです。現在では毎年、全世界で、日本でも全国各地でイベントが実施されています。石川県では1990年から開催されており、金沢(金沢市湯涌、小松市など)や中能登地域(七尾市)、そして奥能登ではこの珠洲市などで、アースデイが開催されています。珠洲市では2010年から、開催されており、今年度が3度目の開催となります。
この、珠洲市でのアースデイを企画しているのが、いきものマイスター2期生の高田利栄子さんです。高田さんは自身が結婚前に一人旅で行ったインド旅行でフェアトレード(発展途上国の原料や製品を適正価格で購入することにより、立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立を目指す運動。過去のブログでも、紹介しています)に関心を持ち、フェアトレード製品の販売店「HOOP」を設立しました。現在ではフェアトレード製品の販売やアースデイの企画の他、金沢市湯涌や七尾市など石川県各地のアースデイにも参加し、フェアトレード製品や手作りの衣類販売などを行っています。今年度からは、このアースデイをもっと地元の市民らに親しみやすくすることを目的として、先述のように「珠洲の音」と改称することになりました。


会場は、珠洲市上戸町寺社の「湯宿さか本」で開催です。「湯宿さか本」は、周囲を水田、竹林、溜め池など、珠洲らしい里山に恵まれた、知る人ぞ知る湯宿です。イベント会場には洋服、雑貨、陶器、ポストカードなどの小物、塩麹や醤油、などを販売するブース、更にエスニック料理などの屋台村が並びました。小物販売の多くは手作りで、細やかな作りや自然素材の持ち味を堪能しつつ、更に製作者と膝を交えて話が出来るのは、とても魅力的です。更にイベント当日には、自然素材を用いたアート作り、雑穀を植える体験、裏山探索、ライブなどのプログラムが実施されました。
珠洲の音_20120513_80_01.JPG
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雑穀体験を指導したのは、いきものマイスター1期生で珠洲在住の、小林農園の小林さんです。このプログラムで利用されたのは、南米原産の擬似雑穀、アマランサスです。このアマランサスはカルシウム、鉄分、タンパク質などを豊富に含み栄養価に優れた食品として注目されています。このアマランサスは会場の一画に植えられ、後日の収穫時期には収穫イベントが予定されています。この日の体験の成果は、後日改めてのお楽しみというわけです。
珠洲の音_20120513_83_01.JPG


11時からは「裏山植物探検隊」と称して、植物を観察しながら会場の裏山歩きを実施しました。このプログラムを率いるのは、いきものマイスターの母体の1つであるNPO法人能登半島おらっちゃの里山里海の研究員であり、いきものマイスターのスタッフである赤石大輔です。赤石はコシアブラ、イタドリなど山菜として利用される植物などについて説明を行いながら、裏山を進みます。植物だけではなく、時折クロサンショウウオの卵嚢、ヤマアカガエル、カワトンボ、ハナムグリなど里山の小動物も見られ、参加した子供らは興味津々の様子です。このプログラムには親子を中心に20人程が参加し、親子揃って野山の身近な自然に親しみました。珠洲は豊かな里山が広がる地域ですが、山遊びや虫捕りをしたことがない児童や親は意外に少なくありません。子供達は初めて見る動植物に旺盛な好奇心を見せ、親御さんらは身の回りの自然を再認識する、大切な機会になったようです。
珠洲の音_20120513_13_01.JPG


午後からは、石川県で活動する歌手、小杉奈緒さんと石川征樹さんによるライブがありました。自然豊かなさか本の環境で、伸び伸びと演奏出来た模様です。尚、小杉さんは5月20日には、金沢市の夕日寺健民自然園で開催される「森の小さな音楽会」にも出演するそうです。ご興味のある方は、是非どうぞ。


「珠洲の音」の参加者は地元の市民らが多く、プログラムも地域や周辺の自然に関係するものが多く含まれました。アースデイの理念は本来、地球規模で環境問題などを考えるものですが、高田さんが意図する、珠洲の魅力を伝える為の、地域色豊かなイベントになりました。
珠洲市では過疎高齢化と共に若い世代の減少が今も進んでいますが、珠洲を含む奥能登の若い力を集めれば、こんなに面白く、そして地域を元気づけるイベントが出来ることを、教えて貰ったみたいな気持ちになります。ブログ担当の私、野村は石川県外の出身ですが、奥能登以外の人にも羨んで貰えそうな魅力あるイベントが出来たことは、奥能登の住民として、またいきものマイスターが現場で地域の魅力を伝え活躍していることはスタッフとして、非常に嬉しく思います。
2012年度いきものマイスター修了課題発表(2) [2012年05月10日(Thu)]
前回のブログでは、4月28日(土)に実施した、いきものマイスター2期生の修了課題発表会の前半についてお伝えしました。今回は、後半の残り3名の発表についてお伝えします。前半の2名に負けず劣らずの、素晴らしい発表でした。


【発表3】「自然栽培を生物多様性保全の視点からみるためのアプローチ」
発表者は、口能登(能登の入り口とされる、南部)の羽咋市に住んでいます。羽咋市を含む能登の里山里海は2011年に世界農業遺産(GIAHS)に認定された一方で発表者は、地域による農業遺産登録への実感の薄さ、現在も進む過疎高齢化による農業人口の減少、更に安全性に不安を抱えつつ原発に頼らざるを得ない疲弊した羽咋市の現状などに対する危機感、食物の生産現場を描いたドキュメンタリー映画「いのちの食べかた」を観て、食の安全を含めた地域の将来に不安を持っていました。現在では、青森県の農家、木村秋則氏が提唱する無農薬・無施肥の農法「自然栽培」に強い関心を持ち、羽咋を含む能登の地域活性化に繋げたいと考えています。
自然栽培は、無農薬・無施肥を前提とし、植物の特性を活かして管理を行い、収量増加を目指す栽培方法として、現在注目を集めています。羽咋市とJAはくいは2011年に、提唱者の木村秋則氏を塾長に招いた「木村秋則自然栽培実践塾」を開始しました。羽咋市は地域活性化の自然栽培の普及により、安心・安全の国産無施肥・無農薬の販売競争力の強い農産物生産を推進して農業による地域活性化を図っています。また、羽咋市はこの自然栽培を世界農業遺産のアクションプランに盛り込みました。市民の自然栽培に対する認知度も高まっています。自然栽培実践塾生らが実施した映画「降りてゆく生き方」上映会自然栽培に関するアンケートを実施したところ、多くの市民が自然栽培を知っており、農業の現状に対する危機感を持っていることがわかりました。この上映会には食や農業の問題に関心の強い市民が集まった為、一般市民の関心とするには偏っている可能性を挙げつつ、市民の間で自然栽培に対する期待が高まっていることもわかりました。
自然栽培は生物多様性を利用する栽培方法でもありますが、一方で生物多様性との関わりについて科学的な調査はあまり行われていません。そこで発表者は自然栽培を行う水田において、トンボ類、クモ類、カエル類の種数や個体数について調査を行いましたが、調査可能な自然栽培水田の数が少なかったことから、明確な結果は得られませんでした。発表者はこれを踏まえつつ、一般市民である発表者が水田の生き物とその同定技術を獲得する意義を知ったこと、今回の結果を予備調査として今後も自然栽培水田における生物多様性を明らかにする方法と意義を考え、伝えていきたいと今後の展開に言及しました。更に、今後は自然栽培塾生らと結成した任意団体で能登の里山里海保全に繋がる活動をしたいと言及しました。

水田生物調査の結果については、「凄く正直な結果」とのコメントがありました。現在、各地で専門家・非専門家を問わずこうした水田の生き物調査は多く実施されていますが、農法による影響や水田による保全効果を実証するのは容易ではないことから、結果から「何も明らかに出来なかった」ことを明言するのは非常に正直で、意味のあることだと述べました。更に日鷹准教授は自然栽培について、「自然は正直、農薬などを使って病害虫を抑えてしまうと、その圃場で起こっている問題まで見えなくなる」として、自然栽培に取り組む発表者を評価しました。また、調査の続行を勧める助言がありました。

無施肥・無農薬の農業は一般的に自然に優しいとのイメージがありますが、それを証明するのは専門家でも容易ではありません。難しいテーマに挑んだ発表者の姿勢は素晴らしく、今後も自然栽培と水田生物との関係を広く伝えて欲しいものです。


【発表4】能登の雑穀の利用と可能性について
発表者はアースデイの主催や、フェアトレード製品の販売などの取り組みを奥能登で行っています。2011年に能登の里山里海は世界農業遺産に認定されましたが過疎高齢化や農地の荒廃など、課題は少なくありませんが、発表者はアースデイやフェアトレードの取り組みの中で、自身が住む珠洲市の地域の課題、特に里山の荒廃を意識するようになったことから、以前から興味を持っていた雑穀の栽培や利用を発展させる方法を検討しました。
尚、雑穀とは、白米以外で日本人が主食以外に利用している穀物をさします。雑穀はビタミンB群、特にナイアシン、B17、B6、葉酸、カルシウム、鉄分、カリウム、マグネシウム、亜鉛が豊富とされ、近年では健康食品としても注目される他、食物アレルギーの代替食品としても利用されています。
このテーマに取り組む為に発表者は、文献調査、聞き取り調査を行いました。石川県内の雑穀利用やニーズを調査する為、金沢市と珠洲市で雑穀の販売店や雑穀レストランを回り、聞き取り調査を行いました。調査した結果、国内の雑穀栽培の9割は岩手県であり、県内の商店で扱われる雑穀も殆どが岩手県産ですが、2011年3月の震災以降は、石川県内産の雑穀へのニーズも出てきているとのことでした。他に、客層は健康に意識の高い女性が中心ですが客層は固定気味であること、能登ではタカキビなどが栽培されているが殆どが自家消費であり若い世代が雑穀に触れる機会は少ないことがわかりました。
今後の展開としては、発表者が現在主催しているイベントなどでアマランサス(南米産穀物の1種)の栽培体験、発表者の実家の商店での珠洲産雑穀の販売や生産の拡大、雑穀を広める活動(食育活動や料理教室などを通じて)を行うとしました。

審査員からは、雑穀があまり売れていないということに対し、栄養価など情報を伝える努力をすれば売れるようになるのでは、との意見がありました。特定農業法人を経営する審査員は、雑穀はなかなか主役にはならないが、これから商機が増えるのでは、とコメントしました。他に、まず自分の周囲に食べて貰って、雑穀について理解を広めては、との助言や、雑穀というのは地域の風土などの違いの為、地域が異なると栽培方法が通用しない、雑穀栽培の難しさに関するコメントがありました。

雑穀は近年では健康食品として見直されつつありますが、その知名度は決して高くありません。若年層が雑穀に触れる機会は減少している、と発表者が述べているように、ブログ担当の私、野村も今回の発表がなければ、雑穀の現状について知ることはありませんでした。発表者の実家の商店に雑穀コーナーが出来るのが、楽しみです。


【発表5】漆器から見る生物多様性
発表者は、かつて輪島塗関係の事務をしていたことから、輪島塗をテーマに選びました。
輪島塗は全国的にも有名な輪島市の伝統工芸であり、能登の世界農業遺産の1つにも挙げられています。輪島塗の素材や加工に用いられる道具など、多くの過程で生物資源が利用されています。例えば、発表者の調査では、輪島塗製作の過程では利用される生物資源は、動物30種、植物42種に相当することも明らかになりました。輪島塗の木地にはケヤキ、ホウノキ、アテ(ヒノキアスナロ)、キリ、クワ、クリ、イタヤカエデ、ヒノキなど16種の植物が利用されています。他の過程でもマダケ、牛や豚の皮なども利用されます。輪島塗の蒔絵の為に使用される筆の素材には、琵琶湖湖畔産のクマネズミの毛が最適とされていますが、一方で近年はクマネズミの個体数減少、供給者の高齢化などにより素材獲得が困難になっており、輪島塗もまた生物多様性に支えられる伝統工芸であるとも言えます。
これまでに生物多様性の観点から輪島塗を評価した例は少ないことから、発表者は輪島塗を支える生物多様性、生態系サービスを紹介し、輪島塗により生まれた地域の景観や生態系など、人間と自然との相互関係について考察を行いました。更に発表者は、本テーマの研究によって得られた結果を地域の児童や、輪島塗に関わる人々らと共有することで輪島塗の価値向上に繋がると考え、その為に教育機関での教材としての活用や広報について提言を行いました。

審査員からは、中国産漆に押されてしまった背景や、国産の良質な漆の生産など自給の可能性について知りたいとの意見がありました。また、今回のテーマの為に調査にご協力頂いた漆器業者からは、漆が縄文時代から既に人に利用されていたという漆の歴史、更に琵琶湖湖畔産のクマネズミが筆の素材に選ばれた理由などについて解説をして頂きました。

生物多様性が支える地域資源には、地域の農林水産業の他に、こうした伝統工芸や文化も多く含まれます。輪島漆器もまた生物多様性に支えられる事実を伝えることもまた、いきものマイスターにとって重要なテーマといえるでしょう。

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全員の修了課題発表の後、いきものマイスター運営委員会による審査が行われ、無事に全員の修了が決定しました。いよいよ、修了式です。修了式では1期生と同様に、修了証書と共に受講生各自の名前入りベストが贈呈されました。修了生全員でベストを着て、記念撮影です。
2期生の皆さん、大変お疲れ様でした。これからの、皆さんのいきものマイスターとしての活躍に期待大です。3期生の皆さんのこれからも、楽しみです。
2012年度いきものマイスター修了課題発表(1) [2012年05月09日(Wed)]
4月28日(土)午前に行った、3期生の入講式とガイダンスについては、前回の記事でお伝えしました。今回は、同日午後に実施した、2期生の修了課題発表会の前半部分をお伝えします。

この日の午後からは、いきものマイスター2期生の修了課題発表会を行いました。課題発表会では、2期生の5名が発表を行いました。各自の持ち時間は15分と、質疑応答の時間5分です。発表者はこの1年をかけて、それぞれのテーマについて、スライドを見せながら説明を行います。
発表については、いきものマイスター養成講座運営委員を務める各方面の専門家らが審査員を務めます。特に農業事情や農山村に詳しい専門家が多く集まり、研究方法への質問やコメント、更には農業や地域活性化などに対する貴重な助言が挙がりました。


【発表1】里山メイト拡大プロジェクト「能登の里山メイトへようこそ!」
発表者は、いきものマイスターの母体の1つであるNPO法人能登半島おらっちゃの里山里海の保全活動の為のボランティアである、「里山里海メイト」の参加者でもあります。

NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海は、能登の里山の保全活動により地域活性化を目指しており、その為のボランティア「里山里海メイト」を募りました。一方、里山里海メイトの登録者100名に対して実働的な参加者は数名程度であり活動規模は停滞しています。この活動を活性化するには仕組みが必要です。そこで発表者は、里山里海メイトの為の体験学習プログラムを実施することで、生物多様性保全の意義に目を向けるきっかけを作り、更に里山里海メイト同士の連携を強めることによる、保全活動の持続化と活発化を検討しました。

発表者はまず、NPOおらっちゃが活動する珠洲市で体験学習プログラムが実施可能な場所を探す為、NPOおらっちゃが管理するビオトープ水田や保全林の他、珠洲市三崎町を流れる紀ノ川沿いのコース、更に珠洲市宝立町と輪島市町野町の境にある宝立山を歩き、そこで見られる動植物と景観を調べ、実施可能な体験学習プログラムを検討しました。
課題として、これらのコースでプログラムの準備を行い、実際にプログラムを実施する体制を作ること、実施の為の人材確保、プログラム進行や解説を務めるスタッフのスキル向上、実施後の振り返りや評価によるプログラムの質の向上が必要であるとしました。更にプログラム実施による里山里海メイト同士の連携強化、NPOおらっちゃへの参加意欲向上による、より活発な保全活動の推進を目指すべきと言及しました。

審査員からは、登録のみの里山里海メイトが保全活動に来ない理由についての質問などがありました。更に、里山里海メイトの登録者100人の構成を明らかにした分析結果などがあれば、更に良い発表になったとの意見がありました。
この発表は、体験学習プログラムの下見の為に行った調査で見られた、クロゲンゴロウヘビトンボ幼虫、トノサマガエルナツアカネヒメミズカマキリ、オミナエシ、シュンラン、アミタケ、サンショウモ、ミズオオバコなど興味深い生き物を写真を交えて、こうした生き物に巡り合えた感動と楽しさを伝えたいという姿勢が伝わる発表でした。発表者の姿勢に共感を覚えた審査員からは、自分も参加したくなったとのコメントが挙がりました。伝えたいテーマに聴き手を引き込む為に、発表者の気持ちがいかに大切かがわかる発表でした。


【発表2】ユネスコエコパーク白山の課題と白山木滑地区の里山再生
発表者は、白山市木滑地区で活動する木滑里山保全プロジェクトのスタッフを務めています。

石川県白山市木滑地区は、石川県に7ヶ所存在する先駆的里山保全地区の1つとして選定されましたが、過疎高齢化は著しく、2010年の時点では目立った保全や活性化の活動は行われていませんでした。そこで現在、イベント会社と広告代理店が共同で、石川県の緊急雇用事業に里山保全の企画案を提出し、2010年秋より木滑里山保全プロジェクトが発足しました。

また、白山はユネスコにより1980年に日本初のエコパークに指定されました。エコパークとは生物圏保護地域(Biosphere Reserve)のことで、自然と人間の共生による持続可能な地域経済の発展を目指すものですが、コンセプトの分かり辛さ、知名度の低さ、活動実績の少なさが問題視され、現在ではエコパークの登録抹消を危惧されています。

現在、このプロジェクトを通じ木滑地区では現在、定住人口の増加を目標とし、若者のIターン、Uターンを目指した交流人口の増加を図る交流イベント「山笑い」の年4回の開催、耕作放棄地の再生、景観整備、環境配慮型農業の実施、伝統文化の聞き取り調査などを行っています。
こうした木滑の活動は環境保全と持続可能な経済の発展を目的とする点ではエコパークの理念と一致するものであり、木滑での活動は非常に重要なものです。発表者は、今後は里山の問題に対して企業や地域外の団体など広く社会全体で連携して活動を進めたいと説明しました。


審査員からは、白山が登録されている国立公園のシステムに問題があり、保全や利用の為のシステムがしっかりしていないことをコメントしました。中村教授からは、この木滑などが折角の資源を活用し切れていないこと、どう稼げばいいかを考えていくことの重要性についてのコメントがありました。他の審査員からは、この活動に必要な支援についての質問があり、発表者からは資金不足や、企業などの支援が欲しいとの回答がありました。

過疎高齢化や地域活性化の大変さや、国立公園、エコパークなどによる認定の仕組みの複雑さなど課題は少なくありませんが、非常に良くまとまった発表であり、今後の発表者の取り組みでこの木滑がどう変わるのか、非常に興味深い発表でした。


修了課題発表20120428_392.JPG修了課題発表20120428_395.JPG

残り3人の発表については、次回のブログでお伝え致します。
いきものマイスター2012年度(3期生)入講式 [2012年05月08日(Tue)]
2012年4月28日(土)に、2012年4月の講義を行いました。午前には2012年度受講生(3期生)の入講式とガイダンスを行いました。同日午後には2011年度受講生(2期生)の修了課題発表会、および修了式を行いました。今回のブログでは、午前中に行った入講式とガイダンスについて、報告します。

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今年度の受講生(3期生)は、環境配慮型農家、染色家、県の農業関係者、調理職経験を持つIターン移住者、大学院で生物学を学んだ会社員ら6名が集まりました。ガイダンスとして、初めにスタッフの赤石から、能登いきものマイスター養成事業の概要と目的についての説明を行いました。ここでは、事業の背景として能登の生物多様性と現状について触れた上でいきものマイスターの将来像『里山里海の豊かな「いきもの(生物多様性)」の保全と活用』を説明し、今までの講義や受講生のテーマなどについて説明を行いました。
次に、ブログ担当の私、スタッフの野村から、いきものマイスターの講義を実施するフィールドや、これまでに実施した講義、先進地視察についての紹介を行いました。いきものマイスターの講義では、座学として自然学校構内で行う講義の他に、野外での実習を多く行います。フィールドとしては、いきものマイスターの母体の1つであるNPOおらっちゃが管理する保全林、ビオトープ2ヶ所(味噌池ビオトープ、小泊ビオトープ)などの他、講義に合わせて能登各地のフィールドで実習を行います。こうした能登各地のフィールドでは、時にいきものマイスターの修了生らが講師を務め、フィールドの説明を行いました。2011年度の講義では、輪島市三井町市ノ坂の里山歩き「まるやま組」の体験講座、羽咋市神子原の自然栽培実践田の見学、白山市木滑地区で実施した里山イベント「山笑い」見学、自然学校近隣の海で実施した伝統漁法「たこすかし」の体験講座などで、いきものマイスターの受講生や修了生らに説明をして貰いました。勿論、今年度も修了生や受講生らに講義のお手伝いをして貰いたいと考えています。
先進地視察の事例としては、2012年3月12日・13日に実施した視察旅行の様子を紹介しました。この時の視察旅行では滋賀県高島市で実施されているかばたツアー高島いきもの田んぼ米水田見学などを見学して地域資源の活用方法について学び、更に愛媛大学の日鷹一雅准教授らによるプレワークショップ(後に開催された日本生態学会第59回大会での、日鷹准教授らによる企画集会自由集会の為)に参加し、「内なる生物多様性」をテーマに意見交換を行いました。今年度の視察旅行についても、受講生の皆さんからの意見を募りたいと考えています。
赤石、野村からのガイダンスの後にはスタッフと3期生らを交え、自己紹介を兼ねた意見交換を行いました。各受講生には応募理由、いきものマイスターで学ぶ目的について話して貰い、活発な意見交換を行いました。染め物をしている受講生は、かつて能登の一般家庭などで染料に使われてきた植物を通じた、能登の生活と生物多様性との関わりに対する興味を話してくれました。県の農業関係の仕事をしている受講生2名は、農業指導の業務では病害虫という目でしか見ていなかった能登の里山の生き物を改めて学び、地域に伝えていきたいと語りました。受講生各自のテーマについては、これからも議論を行っていきたいと考えています。

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午後からは、2期生の修了課題発表会と修了式を行いました。午後のプログラムについては、次回のブログでお伝え致します。
いきものマイスター講義:能登の野鳥 [2012年04月06日(Fri)]
ようやく4月に入りましたが、ここ奥能登では寒暖差が激しく天候も荒れやすい日が続いています。稀にみぞれ混じりの雨も降ります。この冬は雪が多かっただけではなく、寒さが長引いているようです。

3月24日(土)に、いきものマイスター2011年度最後の講義がありました。今回の講義では日本鳥類保護連盟石川支部の時国公政支部長にお越し頂き、能登の野鳥についての講義をして頂きました。

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時国氏は石川県内で鳥類の保全や観察、調査などをしている他、七尾市七尾市野生動植物生息等調査委員会の委員長も務めています。北陸の自然を紹介や文化を紹介する「自然人」や、能登の地産地消文化情報誌「能登」でも、能登の野鳥を伝えるコーナーへの寄稿などを行っています。

時国氏はミサゴ(環境省・石川県準絶滅危惧)、オオタカ(環境省準絶滅危惧・石川県絶滅危惧T類)、サシバ(環境省・石川県絶滅危惧U類)、ハヤブサ(環境省・石川県準絶滅危惧)、コウノトリ、オオヒシクイ(ヒシクイの亜種、環境省準絶滅危惧)、ハチクマ(環境省・石川県準絶滅危惧)などの能登で見られる野鳥について、写真を示しながら生態について、詳しく説明を行いました。

ミサゴは主に海岸沿いに生息し、海で魚を採る、白みがかった外観が特徴的な猛禽類です。ミサゴは留鳥(季節による渡りをしない鳥)とされていますが、時国氏によると、能登では夏鳥だそうです。

ハチクマはスズメバチやアシナガバチを襲うことで有名な猛禽類です。時国氏によればハチクマは糞を巣の下に溜めないことから、巣を見つけるのが非常に困難な鳥とのことです。ハチクマの巣を見つけることが出来るようになれば、野鳥観察者としては一人前だと、時国氏は話しました。


時国氏は能登半島の各地で野鳥の観察を行っており、それ故に、本だけでは得ることが出来ない、体験に基づいた野鳥の興味深い話をしてくれました。

時国氏は、自然学校のある珠洲市でも、野鳥観察などを行っています。珠洲市では2004年と2008年にタンチョウが目撃されています。時国氏は、(普通は北海道の鳥である)タンチョウが杉をバックにした写真は、他の地域では撮れないと語っていました。
時国氏は、珠洲市三崎町にある雁の池という溜め池が、コハクチョウやオオヒシクイなど貴重な野鳥のスポットとして重要であると話しました。尚、雁の池は環境省の「日本の重要湿地500」に選定されています。この雁の池ではマガン、マガモ、コハクチョウ、オオヒシクイ、アオサギなどの野鳥が見られる他、フナやメダカ、オオヤマトンボ、コフキトンボ、リスアカネ、オオアオイトトンボなどの水生動物、キクモなどの水生植物を含めた様々な生き物が見られます。

時国氏の話によれば、講義を行った3月24日頃には通常であれば既にツバメの初飛来やハチクマなどが見られる時期だそうですが、この時点ではまだ確認されていなかったそうです。寒さが厳しかった為か、春の野鳥の活動が少し遅れていたのかもしれません。尚、野鳥に限らず人間以外の生き物は、こうした気温の変化に敏感です。冬の終わりから春にかけてはニホンアカガエルヤマアカガエルが産卵を開始しますが、自然学校周辺では産卵開始が少し遅れたようです。

他にも時国氏は、とある地域で白鳥を誘致する為に白鳥の模型を浮かべる試みを行ったところ、100羽以上もの白鳥がやって来た話など、貴重なお話をしてくれました。

最後に時国氏は、野鳥の他にも、ニホンカモシカ、ニホンザル、イタチ、テン、ハクビシン、タヌキ、キツネ、ウサギなどの哺乳類についても説明を行いました。

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いきものマイスターとして能登の自然を紹介する上で、能登の野生動植物について学ぶことは非常に重要です。当日は野外観察も予定していましたが、天候が悪く、野鳥の観察も期待出来なかった為に残念ながら中止となりましたが、今回学んだことを活かして、能登における野鳥と自然の関わりについても考えていきたいものです。
日本生態学会第59回大会 [2012年04月04日(Wed)]
2012年3月17日から21日の5日間、滋賀県大津市にある龍谷大学瀬田キャンパス日本生態学会第59回大会 (ESJ59)が開催されました。ブログ担当の私、野村は、いきものマイスターの取り組みを発表して来ましたので、報告します。

生態学会全国大会は、日本生態学会が主催する催しです。生態学会全国大会には全国から生態学の研究者が集まり、研究発表などが行われます。尚、今回の生態学会では、第5回東アジア生態学会連合大会 (EAFES5)も同時開催されました。

いきものマイスターの発表は3月20日(火)に行いました。発表方法はポスター発表です。ポスター発表は、A0サイズの用紙に研究や発表の内容をまとめたものを、発表日に会場内のポスター発表コーナーに貼って行います。見学者はポスター発表コーナーのポスターを自由に見て回ります。発表者は、コアタイムと呼ばれる時間帯には必ずポスターの前に待機し、見学者への説明を行います。

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いきものマイスターは、「石川県能登地域における里山を伝える人材の育成と生物多様性を理解する教材の開発」という発表を行いました。この発表ではまず背景として、過疎高齢化などにより地域の里山が荒廃して地域の生物多様性が失われつつある、地域の生物多様性に根差した生活を理解して伝える人材育成のプログラムであることを説明しました。次に、いきものマイスターの組織図、講義内容、カリキュラム概要、修了生の修了課題などについて触れました。成果として、修了生の活動を伝え、更に修了生らがいきものマイスターとして地域の生き物を見分けて伝える為の教材「能登のいきもの大図鑑」について説明を行いました。これらを踏まえた上で大学とNPOが人材育成に関わる意義についても触れました。たとえば、能登半島は2011年度に、国際連合食糧農業機関によりGIAHS(世界農業遺産)に認定されています。世界農業遺産は、生物多様性に根差した地域固有の伝統的な農業を評価するものであり、いきものマイスターが能登の自然を伝える上でも大切なことではありますが、GIAHSにより認められた能登の農業と自然を地域に知って貰うには大学が持つ知的資源が欠かせません。また、大学と地域を繋ぐ為にも、現場で地域住民らと活動を共にするNPOの役割は大切です。最後に、いきものマイスターの今後の課題である、地域におけるいきものマイスターの活躍の場の拡大、里山の生物多様性について学んだスキルによる生業への付加価値などについて、説明を行いました。

この日のポスター発表には、大学生や研究者ら10数名が、いきものマイスターの発表を見学してくれました。見学者からは、地域の自治体や企業との連携の有無、対象となる人々の職業や年齢層、資格や修了後の受け入れ先の有無、「能登のいきもの大図鑑」を使用しての成果などについて、様々な質問が飛び交いました。

この日には取り組み紹介の為、いきものマイスターの資料と「能登のいきもの大図鑑」を配布しました。特に「能登のいきもの大図鑑」は好評で、発表終了前にはなくなってしまいました。「能登のいきもの大図鑑」に関する成果への質問もあったことから、今後は利用者からの意見(見分けやすさ、説明しやすさ、持ち運びなど)を集めることも必要でしょう。

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尚、18日にはいきものマイスタースタッフの赤石が、能登の水田の生き物について野村と共同で研究した結果について、「Conparison of insect fauna in paddy field between a conventional farming method and new labor-seving method in a hotspot of diving beetle in Ishikawa Prefecture.」というポスター発表を行いました。この研究では、奥能登が全国的に希少なゲンゴロウ類が分布する生物多様性のホットスポットであることを踏まえ、こうした希少ゲンゴロウ類がどんな棲み場所をどのように利用するかを探る為、従来の農法(慣行農法:従来から行われる農法の総称。調査した水田では、中干しと呼ばれる水抜き作業を6~7月頃に行う為、湛水期間は短く水量は不安定)と作業省力化の為の新農法(直播農法:育苗をせず直接の播種による農法。湛水開始は慣行水田より遅いが、中干しを行わない為に水量は安定し、湛水期間も長い。)の2つの異なる農法を行う水田における水生昆虫相を比較しました。結果として6目16科38種の水生昆虫が確認され、ゲンゴロウ科、ガムシ科、コガシラミズムシ科が優占していました。種数は直播水田で多くなりました。一方、ニホンアマガエルのように繁殖時期を6月までの期間に殆ど済ませてしまう生き物は、慣行水田(湛水期間は短いが、水入れ開始が早い)で採集された個体数が多くなりました。このことにより、水田の水管理がこれらの水生昆虫の種数や個体数に影響したものと考えられたことを発表しました。


当日は全国から生態学の研究者が集まりました。2011年度11月の講義で「市民による生き物調査の意義」についての講義をしてくれた、日本自然保護協会(NACS−J)の高川氏は、3月19日に「市民調査のデータを生物多様性の評価・政策決定につなげ!研究者の果たす役割とは」という自由集会を開いていました。3月12日・13日に実施したいきものマイスターの視察旅行でも触れた愛媛大学の日鷹一雅准教授、農村工学研究所の嶺田拓也氏による自由集会や企画集会もありました。他にも、「社会的な意思決定における生態学の役割「持続可能な社会づくりに向けた生態系ネットワークの再生を目指す」など、いきものマイスターの活動にとって重要と思われる発表は他にも多くありました。今回の大会は第5回東アジア生態学会連合大会 (EAFES5)との同時開催である為、会場には外国の研究者も見られ、英語による発表も多く見られました。

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生態学会の全国大会は最新の研究発表に触れる機会でもあり、また研究者同士の交流の場でもあります。あっという間の5日間でした。



*現在、いきものマイスターは2012年度の受講生(3期生)の募集を行っています。詳しくは、こちらの募集概要をご覧下さい。
Posted by 野村進也 at 18:41 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
視察旅行(5)2日目のワークショップ [2012年03月31日(Sat)]
今回の視察旅行は2月12日・13日の2日間の予定で実施しました。1日目はかばたツアーたかしま生きもの田んぼ高島市新旭水鳥観察センター上原酒造を見学した後、ワークショップを兼ねた夕食を摂りました。今回の記事では、視察旅行2日目に実施した、ワークショップの様子を報告します。

2日目は、今回のワークショップのテーマである「内なる生物多様性」について、愛媛大学の日鷹一雅准教授が説明を行いました。この「内なる生物多様性」とは、日鷹准教授と農研機構 農村工学研究所の嶺田拓也氏らが3月17日に、日本生態学会全国大会の自由集会「Biodiversity in ours  −外からの生物多様性と内なる生物多様性−」と企画集会『序:なぜ今、里山の在来知?暮らしの中に潜む「内なる生物多様性」』で発表するテーマです。日鷹准教授はこの「内なる生物多様性」について、「生物多様性えひめ戦略(案)の概要について」の中で、『人の暮らしの中には、多様な生物と結びつく知恵や技能が内包されています。

例えば、里山に暮らす夫人が五感を活用し600種にも及ぶ植物を分類し、それを食物やクスリとして生活に利用するとともに、その手法を後世に伝承するなど生物と暮らしを結ぶ知恵。このような、ありふれた暮らしの中に生物多様性の構造や機能が潜んでいることがあります。それらを総称し「内なる生物多様性」と呼ぶこととします』と説明しています。生物学者らがこの生物多様性の維持について訴えるようになる前から、地域資源を活用して暮らしてきた地域の生活の中には、こうした「内なる生物多様性」が取り込まれ、受け継がれてきたのです。

日鷹准教授は、この「生物多様性えひめ戦略」を通じて「内なる生物多様性」を地域戦略に盛り込んだ事例を紹介しました。
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日鷹准教授による「内なる生物多様性」についての説明の後は、静岡県農林技術研究所の稲垣栄洋氏による「静岡県民の内なる生物多様性の評価」、琵琶湖博物館の中井克樹氏による「外から内への生物多様性」など、他の参加者による取組みや課題の紹介がありました。

稲垣氏は静岡県が全国一のの農作物品目数167品目を誇る「ものづくり県」であることを踏まえ、こうした静岡県の農業が地域の自然風土や生物多様性に依存するものであり、特に農業生産の現場である農村には必ず希少種が存在する、生物多様性の豊かな地域であると説明しました。一方、地域住民は希少種よりも、ホタルやドジョウといった身近とされてきた生き物が分布することを喜びます。こうした農村の生物多様性を評価するには、研究者による外部評価ではない、「内なる生物多様性」の評価が必要になります。内なる生物多様性の評価の為には、地域らしさや思い入れ、利用方法を、地域から地域外へと発信することの必要性を、稲垣氏は説明しました。

中井氏は、生物多様性を内と外の2つに分け、「農業の現場における既存の価値観の多様性」を農学における「内」と説明しました。長い時間をかけて地域の気候風土や歴史により育まれたものであり、その生物多様性を伝えて守っていくことの大切さを説明しました。



盛んな意見交換が行われた2日目ですが、この日の昼食でも、初日同様に、琵琶湖の魚や味噌汁を参加者で頂きました。食を通じた生物多様性は、味わって学ぶことが出来て、一石二鳥です。
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視察旅行2日目を終え、いきものマイスターは帰路につきます。今回の視察旅行は、奥能登と滋賀県高島市の間をマイクロバスで片道約6時間かけて往復した、ちょっとした強行軍でした。私達の活動する能登でも、「内なる生物多様性」を利用して生活する人たちが大勢います。漁師は、同じ魚でも成長段階や季節(旬)によって、異なる資源として利用します。春先には能登のあちこちで山菜摘みが行われますが、これも内なる生物多様性の1つと言えるでしょう。私たちいきものマイスターは、生物多様性に根差した能登の暮らしが「内なる生物多様性」に支えられたものであることを理解して、伝えていく必要があるでしょう。


*現在、いきものマイスターは2012年度の受講生(3期生)の募集を行っています。詳しくは、こちらの募集概要をご覧下さい。
視察旅行(4)プレワークショップ夕食 [2012年03月17日(Sat)]
かばたツアー、たかしま生きもの田んぼ、高島市新旭水鳥センター、上原酒造の見学コースを終え、ワークショップの会場である針江生水の郷体験処へと移動です。ここからは夕食を兼ねたワークショップの開始です。
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このプレワークショップは、日本生態学会により3月17日(金)から21日(水)にかけて龍谷大学瀬田キャンパス(大津市)で開催される、第59回日本生態学会大津大会において、愛媛大学農学部の日鷹一雅准教授らが企画する自由集会「Biodiversity in ours ―外からの生物多様性と内なる生物多様性」(3月17日)、企画集会「里山における在来知と生物多様性管理」(3月20日)の開催に先駆けて、関係者が集まって今回のテーマ「内なる生物多様性」についての議論を行うものです。


こう書くと堅苦しくなってしまいますが、この日のワークショップは夕食を交えて始まりました。この日の夕食では、ビワマス、イワトコナマズ、琵琶湖原産のコイ(トンボ、と呼ばれる)、ハス、アユの稚魚(氷魚と呼ばれる)、ホンモロコ、ニゴロブナなど琵琶湖特産の魚料理やセタシジミの味噌汁などが多数並び、更にいきものマイスターの参加者の1人が持ち込んだ甘エビが加わりました。これら夕食の魚を通じて、琵琶湖の生物多様性を題材に今回のテーマである「内なる生物多様性」についての意見交換を行おうというものです。
この日並んだ琵琶湖特産の料理には、地元でも知る人ぞ知る魚が多く含まれていました。この料理の1つ1つについて解説を受け、地域の生物多様性を学びながらの夕食となりました。

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コイ(琵琶湖特産):現在の日本国内に分布するコイの中でも本当に在来種と呼べるコイは琵琶湖水系のコイのみと言われており、滅多に採れない珍種とされています。竹生島周辺で越冬します。琵琶湖北部ではトンボ、南部ではゴンボと呼んでいます。煮付けで頂きました。

イワトコナマズ(環境省準絶滅危惧・滋賀県絶滅危惧U類):琵琶湖と瀬田川の一部、余呉湖にのみ分布。マナマズ、ビワコオオナマズが藻場や泥底に棲むのに対し、岩礁地帯に棲む琵琶湖水系固有のナマズです。日本産ナマズでは最も美味とされ、琵琶湖周辺では消費されていますが、多くは漁師らの自家消費に回る為、食卓に上がるのは大変貴重です。煮付けで頂きました。

ビワマス(環境省準絶滅危惧・滋賀県情報不足):琵琶湖固有亜種、現在はヤマメの亜種とされています。近縁種のアマゴが琵琶湖に放流されった為の交雑への危惧や、オオクチバス(ブラックバス)などの外来種の侵入により保全状態が危ぶまれましたが、中層から深層を利用する生態を持つ為に打撃を受けることなく今でも多く生き残っています。この日は塩焼きなどで頂きました。

ニゴロブナ(環境省絶滅危惧TB・滋賀県準絶滅危惧):琵琶湖固有亜種。琵琶湖および流入河川や用水路に棲息します。鮒寿司の原材料として水産上では重要な魚ですが、産卵場所の減少や、ブラックバス、ブルーギルなどの外来魚による影響で、数を減らしています。

ハス(環境省絶滅危惧U類・滋賀県準絶滅危惧):自然分布は琵琶湖・淀川水系、三方五湖のみですが、現在の分布は全国各地に広がっています。完全な魚食性の魚です。夏に沢山採れます。

他にゴリ(ヨシノボリの子供)、ホンモロコ、豆エビ、アユの子供(氷魚)、更にはいきものマイスターの受講生が持ち込んだ甘海老などが食卓にあがりました。
今回食卓に上がった琵琶湖の特産種には、絶滅危惧種などとして扱われる希少種が多く含まれました。元からの希少種に加え、近年数を減らした為に保護策が打ち出されている種もあります。


この後は、今回のプレワークショップ及び見学の案内人を務めて下さっている、アミタ持続可能経済研究所の主任研究員である本多清氏による「湖国の農家・漁師に学ぶ生物多様性」と題した発表がありました。現在、生態系サービスの基礎である生物多様性の維持は国レベル、更には世界レベルの大きな課題となっていますが、地域の自然に根差した食生活ほど、地域の生物多様性の意味を伝えてくれるものはないでしょう。この日の夕食と発表では、専門家らが「生物多様性」という言葉を提唱してその大切さを訴える前に、地域の農家や漁師らは地域資源という形で土地の生物多様性を肌身を持って実感し、利用してきたことを学びました。

初日のワークショップはこれで終わりですが、終了後も参加者らによる意見交換は深夜まで続きました。いきものマイスターにとって、各方面の専門家と膝を交えて話が出来る機会は、大変貴重なものです。プレワークショップは2日目の昼過ぎまで続く予定ですが、話は尽きず、誰もがつい時間を忘れてしまったひと時を過ごしたようでした。
(次回に、続きます)

*現在、いきものマイスターは2012年度の受講生(3期生)の募集を行っています。詳しくは、こちらの募集概要をご覧下さい。
視察旅行(3)水鳥観察センター、上原酒造 [2012年03月15日(Thu)]
3月12日(月)の見学コースの後半は、琵琶湖湖畔にある高島市新旭水鳥観察センター上原酒造です。

高島市新旭水鳥観察センターは琵琶湖湖畔で水鳥を観察する為の施設です。水鳥センターにはカフェが設けられています。カフェの窓の下には琵琶湖湖畔のヨシ原が広がり、水鳥が集まっています。ここでは、カフェに取り付けられた双眼鏡でバードウォッチングをしながらコーヒーなどを楽しむことが出来ます。この日はチュウダイサギなどが見られました。
施設内には、雛を拾わないで!!キャンペーンのポスターが貼られていた他、フェアトレードのチョコレート、地域の野草による写真ハガキなどが販売されていました。

他にも水鳥センターは、カヌーを使った自然観察ツアー、木登りツアー ツリーカフェ(木登りをして、樹上でじっくり過ごすツアー)、カヌー製作教室など様々な自然体験の取り組みを行っているようです。

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水鳥観察センターの次は、この日の見学コースの最後にあたる、上原酒造へ行きました。
上原酒造は、新旭町にある老舗の蔵元です。この上原酒造の山廃仕込みは酵母の仕込を一切行わず、天然酵母が自然に入るのを待つという、手間をかけたこだわりの酒造りを行っています。通常の山廃仕込みより時間がかかり、更に温度管理も大変だといいます。
この拘りの酒造りに加え、かばたツアー見学でも触れたように、良質な水が豊富な琵琶湖湖畔の環境が、この上原酒造の強みでもあります。見学者らには試飲用の酒が回され、見学者一同は拘りの酒を堪能しました。その場でお土産にお酒を買う見学者も少なくありませんでした。

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この日の見学コースを終え、ワークショップの会場である針江生水の郷体験処へと移動です。この後は夕食を兼ねたワークショップが始まりました。


(次回に続きます)
*現在、いきものマイスターは2012年度の受講生(3期生)の募集を行っています。詳しくは、こちらの募集概要をご覧下さい。
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