かれこれ1年以上にわたり、栃木県日光市で、地元企業によるCSRプロジェクトに関わってきました。このプロジェクトは、日光市、日光市社会福祉協議会、日光商工会議所の3者による
日光CSR推進連絡会が、日光市の地元企業を中心としたCSR・社会貢献活動への取り組みを促進することを目的に立ち上げられました。もともとこうした動きが出てきた背景には、日光市の地元企業の中から、事業を行っている地域に愛されなければ意味がないという思いが湧き起こってきたことがあります。商品を購入していただくお客様に対し、また将来、社員になってくれるかもしれない地域の人たちに対し、共に地域の課題に取り組み、地域に愛される存在になることは不可欠だということです。
日光のCSRの定義として、以下の5つを定めています。
(1)企業のファンを増やすこと
(2)地域において企業が存在する(在る)ことが大切(意義)
(3)地域(日光)の一員として地域とのつながりがあること
(4)企業の役割として地域課題の解決に目を向けること
(5)コストではなく戦略的な投資であること
つまり、
CSRに積極的に取り組むことにより、企業の価値が上がり、人(従業員)が育ち、同時に、地域の一員である企業が発展することで、日光市(地域)全体が良くなるという循環を構築することが狙いとなっています。私は、講師/アドバイザーとしてプロジェクトに参画。2013年12月に、『
CSRコトハジメ』というテーマで第1回目の研修を行い、CSRについての基礎概要をお話しました。年明けの2014年3月には、具体的なCSR推進の方向性を決めるためにディスカッション形式の研修を行いました。一連の議論の中で、社会的責任に関する国際規格「ISO26000」でも取り上げられている組織統治や労働慣行などの漠然としたものよりも、CSRに馴染みが薄い中小企業にとっては、より直接的に地域を知り、地域に知ってもらえるような取り組みが良かろうということになりました。その中でも、本業(売上)にも直結する「
寄付つき商品」を展開することに決定しました。
2014年7月には、『
コーズマーケティング・コトハジメ』と題し、第3回目の研修を実施。コーズマーケティングの市場動向や実践事例を中心にお話をしました。またその中で、具体的に寄付つき商品の企画作りに着手しました。企画には、
ターゲットの設定、特定の寄付つき商品の選定、販売価格と寄付金額(率)の設定、店頭での接客手法やパッケージ開発、商品の陳列方法などを含む、売上拡大に向けた販売・プロモーション戦略の策定、寄付に対する見返り(お礼・報告・特典)の検討、販売目標・指標の設定、そしてプロジェクト全体としての広報戦略の検討などを行いました。ちなみにこの段階では、参加企業数は7社。そして、プロジェクトの名称は
『スマイル日光プロジェクト』に決定しました。
こうした半年以上にわたる準備期間を経て、2014年9月から2015年2月までテストマーケティングを実施。その間、10月と年明け1月に進捗報告会を開催し、設定した目標・指標に対する実績の振り返りと、成功・失敗事例の共有、目標達成に向けたリカバリー策の検討などを行いました。特に1月の報告会では、プロジェクト後半での盛り上げ(追い込み)に向けた企画として、2月11日に日光市今市で開催された「花市」でのブース出展『花市DEスマイル』について議論しました。具体的には、
ブースの設計(商品・パネル展示と販売の2面展開)、募金箱の設置と市内高校生の協力による募金活動(2時間おきにカウント&実績表示)、甘酒のふるまい(無料)による呼び込み拡大と見込み客の獲得(対価としてFacebookいいね!/アンケート回答/募金のいずれかを推奨)などを決定しました。
テストマーケティングを兼ねた5ヶ月のプロジェクト実施の結果、
当初目標10万円に対し、14万円強を獲得することができました。肝心の寄付先についても参加企業間で議論を重ねましたが、最終的には、日光市社会福祉協議会が推進する日光市内の高校生ボランティアネットワーク「縁人(えんびーと)プロジェクト」に寄付することにしました。
最終的にプロジェクトに参加した企業数は、
当初の7社から15社へ倍増。参加企業からの口コミや評判が奏功した結果となり、目標金額の達成に繋がりました。参加業種も、印刷会社、弁当屋、酒店、呉服店、タクシー会社、農園など多岐にわたっており、寄付の方法も、注文を受けた名刺の売上の5%、日本酒1本につき100円、洗顔ミトン1個につき10円など、各企業の販売戦略が反映されたものになっています。
<スマイル日光プロジェクト参加企業と寄付つき商品企画一覧(2015年2月現在)>
・
株式会社成文社 <名刺の売上の5%>
・
池田種苗店 <種小袋の売上の約3%>
・
池田農園 <苺の売上の3%>
・
有限会社大津屋(べんとう屋ごち) <しもつかれ汁1杯につき10円>
・
片山酒造株式会社 <「大吟醸ほほえみ」1本につき100円>
・
有限会社サカモト(珈琲豆とうつわ大和屋) <日光大和屋珈琲(ドリップパック)1個につき3円>
・
有限会社ひしや呉服店 <絹洗顔ミトン1個につき10円>
・
株式会社渡邊佐平商店 <「純米酒 尊徳」1本につき100円>
・
株式会社鬼怒川タクシー <子育て/ユニバーサルデザインタクシーのご利用1回につき50円>
・
株式会社三興社彫刻店 <「キャラクター入り朱肉・ネームペン」の売上の約3%>
・
沼尾油店今市インターSS <洗車料金の3%>
・
株式会社けっこう漬本舗 <「日光けっこう水」500・1本につき5円など>
・
有限会社皇漢堂薬局 <煎じ薬のレトルトパック手数料の3%>
・
有限会社梅屋商店 <こだわりの生そば『匠シリーズ』1パックにつき20円>
・
有限会社エネックスつるや <灯油20・につき10円>
このプロジェクトの特徴、そして成功要因の1つ目は、大企業が日本全国を対象に大規模な広告展開をしながらコーズマーケティングを仕掛けるのではなく、あくまでも“
地域密着”である点です。上述のとおり、参加企業にとっては、事業を行っている地元に愛されなければ意味がありません。プロジェクト全体の調整役を務める成文社の小栗卓常務は、当初から「地元企業は地域がなければ成り立たない。恩返しするつもりで取り組んでいきたい」と言われていました。
2つ目として、1社だけで実施するのではなく、
複数の企業が協業している点です。特に地方や中小企業においては、社会的なインパクトを創出するためにも、複数の企業で取り組むほうが効果は高いと言えます。『スマイル日光プロジェクト』に参加した企業は、共通デザインの幟やポスター、チラシを使用したり、共同でイベントに出展するなど、プロジェクト露出を効果的に行ってきました。結果として、下野新聞やCRT栃木放送などの地域メディアにも何度か取り上げられることとなりました。
また、複数社で取り組むことは、売上の拡大及び寄付目標金額の達成に向け、参加企業同士の競争心を育んだり、ノウハウを学び合うなどのメリットをもたらします。もともと地元の学生時代の友人であったり、先輩後輩の間柄であることもあり、議論を重ねる中で全員で合意形成をしながらプロジェクトを進めることができました。プロジェクト全体の寄付目標金額と各社ごとの目標金額の2つを設定し、小まめに進捗状況を共有し合うことで、参加企業全員の状況がガラス張りとなり、目標必達の意識が芽生え、販売面での工夫にも繋がっていきました。
最後の点が、
プロジェクト全体を先導する旗振り役が必要だということです。前出の成文社の小栗卓常務がプロジェクトの発起人の1人でもありますが、当初から献身的にプロジェクトの企画や調整に携わってきました。自社が印刷会社ということもあり、無償でプロジェクトのロゴやチラシを製作したり、参加企業のコーディネートをしたりと、当初から率先してプロジェクトを主導しています。その姿に他の参加企業も影響を受け、プロジェクトが着実に拡大していったように思います。
CSRというと、一部の大企業では実践されているものの、中小企業では取り組みが進んでいないことが指摘されています。中小企業にとっては、CSRという概念自体が抽象的なため、「どこから手をつけていったら良いのか分からない」というのが実態ではないでしょうか。本プロジェクトでは、CSRに馴染みの無い企業、特に地方で活躍する中小企業にとっての入り口として、本業(売上)にも直結する寄付つき商品の販売を実践してきました。今後は、プロジェクトの参加企業をさらに拡大していくとともに、寄付先や寄付方法の拡充、寄付以外の手段による地域貢献などについて模索していくことになります。
CSRへの取り組みは継続しなければ意味がありません。そのためにも、地域コミュニティと地元企業との間に無理のない関係性を維持し、お互いが支え合うような仕組みの構築が不可欠です。長浜洋二 著
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