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麦秋に麦酒を飲んで日本の家族 [2018年03月11日(Sun)]

fumihouse-2018-03-11T23_30_09-1-thumbnail2.jpg映画『麦秋』は1951年の小津安二郎監督作品である。季節は麦秋の初夏。舞台は鎌倉で、間宮家の日常が延々と描かれる。多少の波風はあるが平穏である。つい安穏すぎて眠りに引き込まれたのはご愛嬌。

突然降ってきた変化。いき遅れと言われていた紀子(原節子)は結婚することを決断した。それも、上司の勧めで周りは乗り気だった結婚話を断って、兄の勤める病院の矢部に嫁ぐと言い切る紀子。矢部は男やもめで幼い娘と母と暮らすが、戦死した次兄の親友だ。

長兄(笠智衆が例のごとく味のある棒読みで)はリアリストであり言葉の上っ面しか見ない。しかも惻隠の情が薄くて何事も論理で決めつけてしまう。その点、次兄は優しかった(死者の美化という要素もあるだろうが)。戦死したその兄と無二の親友だった矢部を重ね合わせたこともあるかもしれない。いずれにせよ、紀子は「この人ならば幸せになれる。きっとなる!」と決断した。

一方で家族はバラバラになる。結婚は嬉しいが、家族への想いが募り紀子は悩む。同じ家でまた一緒に暮らすことはないだろう。紀子が決断する前に父母が、今が一番いい時かもしれないね、とうなずき合っていた姿が印象に残る。いい時はいつまでも続かない。かけがえのないその時間を大切にしたいという気持ち。最後に残した間宮家の家族写真は、まさにその気持ちの表れだった。

あぐらをかいた時の目線。すなわち和室の目線、和の柔らかな視点から日本の家族を描く特徴はそのままに、固定カメラだけでなく、ズームや移動カメラを使っていたのが目新しい。小津監督の優しいカメラワークにも涙を誘われる理由があるのかもしれない。

(茎ごと摘み取った棉。これを紡ぐと綿=コットンになる。麦秋と同様に棉畑が広がる日本の風景もあったことだろう)