柳風おとつい来いと悲しんで [2016年07月27日(Wed)]
出雲弁に「おとつい来い」という言い回しがある。標準語で言えば、おととい来い。あるいは、おととい来やがれ。招かれざる客が玄関を出た瞬間に小さく罵声を浴びせたり、胸くそ悪い客に面と向かって切る啖呵である。過ぎ去った一昨日に出直すことはできないから、二度と来るなという意味になる。
室生犀星にこんな詩がある。 「昨日いらっしって下さい」 きのう いらっしってください。 きのうの今ごろいらっしってください。 そして昨日の顔にお逢ひください、 わたくしは何時も昨日の中にいますから。 きのうのいまごろなら、 あなたは何でもお出来になった筈です。 けれども行停り(いきどまり)になったきょうも あすもあさっても あなたにはもう何も用意してはございません。 どうぞ きのうに逆戻りしてください。 きのういらっしってください。 昨日へのみちはご存じの筈です、 昨日の中でどうどう廻りなさいませ。 その突き当たりに立っていらっしゃい。 突き当たりが開くまで立っていてください。 威張れるものなら威張って立ってください。 柔らかい言い回しながら、いらだちがある。あなたをあんなに思って忠告したのに言うことを聞いてくれなかった、恨み節もある。好きなだけ後悔すればいいさ!と啖呵を切りたい恋人か妻か。今どきこんなに思ってくれる人に恵まれたなら、有り難く思わなくてはいけないね。 (瑠璃柳(るりやなぎ)は南米原産。琉球経由で伝わったことから琉球柳とも。瑠璃色の花が透明感があって涼し気。葉っぱが柳に似ている。忠告を柳に風、と受け流してはいけないよ) |