妖し過ぎ桜の気配にゾクゾクと [2016年04月02日(Sat)]
桜の妖気にあてられて妄想に満たされる。心が乱れていく。毎度のこと私たちは桜を愛でる一方で桜を怖れる。
≪桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二、三日不安だった。しかしいまやっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている≫ (梶井基次郎著『桜の樹の下には』) 桜の妖気は強面の山賊さえも怖がらせた。 ≪だんだん歩くうちに気が変になり、前も後も右も左も、どっちを見ても上にかぶさる花ばかり、森のまんなかに近づくと怖しさに盲滅法たまらなくなるのでした≫ (坂口安吾著『桜の森の満開の下』) 春には誰もが浮き立つ。木々や草が芽吹き、山が笑い、百花繚乱の舞台に立てば誰しも歌いたくなる。一方で憂鬱な季節でもある。新たな環境は新入社員や転勤者をひどく悩ます。花粉症に目や鼻をやられるのも悩みの種だ。 浮き立ってワクワクする気持ちも、強い刺激に滅入ってしまうのも、実は満開の桜がもたらすもの。松江でも出雲でもソメイヨシノは満開。木全体が花花花花。この異様な花の様が古今の日本人を眩惑させた。満開の桜がこの数日ひとを狂わせる。 (春の花、ムスカリも満開だ。別名グレープヒアシンス。遠くの惑星に建設された殖民基地のようで異相だが、桜のような妖気はない) |