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にこにこと尻尾を振ってご機嫌に [2013年08月05日(Mon)]

__tn_20130805172008.jpg尻尾を振るという言葉には、相手の言うままに動き、風下に立つ屈辱感がある。イエスマンになり、ご機嫌とりをしてゴマをすり、子分になったかのような弱さを感じるのだ。だから、ひとの意見に異を唱えたり、言葉を遮ったりしがちだ。ところが、この小説のあとがきで著者はこう語る。

≪尻尾を振ろうと思います。突然だな、でも、そう、尻尾を振ろうと思う。
 恋人の肩に触れたとき、眠っている誰かを見たとき、月が綺麗に半分に割れているとき、雲間から光が差したとき、久しぶりに友達に会ったとき、いただきますを言うとき、新しい靴を買ったとき、自転車で立ち漕ぎをするとき、お母さんに手紙を書くとき、皆が、笑ってるとき。私は全力で、尻尾を振ろうと思う。≫

西加奈子著『さくら』は悲しい物語だ。この世の幸せを一身に集めたかのようだった長谷川家。アーモンドの目と柳腰をもった美しい母、若くして広い家を買い仕事師として充実の生活を送る家族思いの父、頭脳明晰でかっこよくモテまくっている兄、母に似て世界で二番目に美形ながら破壊的にワイルドな妹。そして「僕」。その中心にはメス犬サクラがいて、女の子らしく楚々と尻尾を振る愛犬だ。その幸せが崩れていく。家族たちも壊れていく。幸いにもサクラがご機嫌に尻尾を振ってくれるおかげで、皆が新しいスタートラインに立つことができた。

≪「な、な、な、な、な、に、に、に、に、に?」
 今度はミキが扇風機に顔を近づけて、知らない星の言葉を話し始めた。僕のそれが何かごつごつと岩場の多い灼熱の言葉だとしたら、ミキのそれは、透明な水が流れていて、見たことも無いような美しい花や木が生い茂っている、そんな豊かな星の言葉みたいだった。≫

こんなふうに幸せに日常が過ぎる家族に暗転の舞台が用意されているとは痛ましくて、歯噛みしたくなった。そして、小説のもつ豊かな比喩表現に感心しながら読み進めた。

■ふわふわと生えた金色の毛は風が吹くと消えて無くなりそうだった
■ちらりと見える真っ赤な舌は、見たことも無い美味しそうな果物みたいに僕を魅了した
■母さんが世界で一番幸せなら、父さんは宇宙で一番幸せな男
■紫陽花の花びらが散るときみたいな、少し切なくて、そして途方も無く優しい声で
■流れ星を待つ人達みたいに、じいっと天井を眺めた
■女同士、同性の悪口を言っているときの醜い顔ったら無い(中略)何か気味の悪い妖怪みたいで怖い
■長かった髪をばっさりとショートにしていて、若い鹿のような、溌剌とした美しさをたたえていた
■ひとたびミキに見つめられると、雨が降っていることを忘れて裸足で地面を踏みしめたくなるような、不思議な気分になる
■曇り空の浜辺で、雲の切れ間からまるっきり奇跡みたいに差し込んでくる日の光みたいな、母さんの声
■宇宙一幸せに輝いていた男は、今では母さんのタロットカードの死神みたいに、僕らの悲しみや苦しさだけに敏感な男になってしまった
■綺麗な赤が輝いていた唇は、キャラバン隊長の皮膚みたいにごわごわとしていて、涼しげな青が乗っていた瞼は、鬱蒼とした森の影みたいに黒い

ペットが持つ癒しの力に驚くとともに、ご機嫌にしてサクラのように「尻尾を振って」いきたいと思った。