副題をつけるとすれば「沸騰悲恋の五日間物語」。『
ロミオとジュリエット』を観てきた。モンタギュー家とキャピュレット家の骨肉の争いに2人の愛が翻弄されたというよりは、争いがあったからこそ極限まで燃え上がり、後世に語り伝えられ、世界中の人から惜しまれた悲恋になったと言える。
日曜朝に恋に胸を焦がしていた青年は、日曜夜には一目惚れで新しい恋をし、一晩中バルコニー越しに互いの思いのたけを激情のままに確かめ合い、月曜朝に2人だけの結婚の儀を結んだ。月曜昼には親友が宿敵との争いで殺され、ただちに青年は仇を討ち、悲運の渦中に投じられた運命を呪う。火曜日朝にはヴェローナの町から追放処分を受け、慟哭の別離を経験する。その夜には神父の策略で少女は42時間仮死薬を飲み、翌水曜昼には一族の葬列が悲しみに暮れた。その夜にはせっかちで忠実な召使いから愛しい人の死を知らされた青年が遺体と信じたその前で後を追う。愛夫の体温が冷めないうちに愛しい妻は覚醒し、行き違いを知って、これも直ちに死出に旅立つ。最後の五日目には2人の亡骸を前に両家が関係を修復する。なんという急展開、なんという若者の激情、破天荒なる悲劇か。まさに劇的なる二人の短き人生だった。
テーマは運命の行き違い。そして一瞬に点火し燃え尽きる恋と憎しみ。身も蓋もない言い方をすれば、感情をむき出しにするのが青年だけでなく、時代そのものも若々しくむき出しのままの激しい昔の頃。野蛮とも言えようが、人間が人間らしく生き生きと輝いていた頃かもしれない。
オリビア・ハッセーの可憐で純真で、かつ豊満なこと。非の打ち所のない若いエネルギーと美しさで物語の悲運を盛り上げる。かつて見た学生の頃にはこんなうがった見方ではなく、もっと純朴に涙を溢れさせて見たものだった。それにしても、ロミオはもちろん、ジュリエットもすべての登場人物がよく詩を奏で、口から先に生まれてきたかのように言葉をあやつるのに驚嘆する。
◇ロミオ
では、動かないで下さい。祈りの劫(しる)しだけをいただく間。(接吻する)
さあ、これで私の唇の罪は浄められました。あなたの唇のおかげで。
◇ジュリエット
では、その拭(ぬぐ)われた罪とやらは、私の唇が背負うわけね。
◇ロミオ
私の唇からの罪? ああ、なんというやさしいお咎(とが)めだ。それは!
もう一度その罪をお返し下さい。(再び接吻する)