丹念に話を聞けや君と僕 [2018年08月10日(Fri)]
人の縁を、庭の大木が織りなすファンタジーであらわしたのが、映画『未来のミライ』。細田守監督の最新作。実存した過去、実在するかもしれない未来……赤ちゃん返りした甘えっ子「くんチャン」が、異次元で血縁者と接しながら成長する物語である。
血縁だけではない。地縁、仕事縁、いろんな縁がある。加えて日本に暮らし、この地球に棲むという縁も大切にしたいとする見方がある。横浜を遠くから俯瞰して、現在と過去、さらに未来をも描いた。 子供の感情は大きく振れる。あれはイヤ、それならこれだぞ、と諭せばこれもイヤ。「好きくない!」とくんチャンは大騒ぎしてばかりだ。そんなくんチャンが、超未来の東京駅で迷子になった。もちろん時空の旅先での話。 遺失物受付センターのAIロボットはくんチャンを認識してくれない。お名前は?「くんチャン」。お母さんの名前は?「おかあさん」。お父さんは?「おとうさん」。 固有名詞がない。住所だって覚えていないのだ。彼を彼たらしめる情報がない。妹が近くでハイハイしていた。「未来ちゃん、妹の未来ちゃん」。彼女のおかげで、彼のアイデンティティが定まった。自分を自分と規定するものって何だろう? ずしりと心に残る。 谷川俊太郎の詩『かなしみ』を思い出した。 あの青い空の波の音が聞こえるあたりに 何かとんでもないおとし物を 僕はしてきてしまったらしい 透明な過去の駅で 遺失物係の前に立ったら 僕は余計に悲しくなってしまった くんチャンは悲しくなりはしたが、幸いに困難を乗り越えて生きていくことができそうだ。福山雅治演ずる曾祖父に、怖い時こそ前を向けと教えられたから…。続いて彼の成長ぶりを見てみたい気がする。 だがファンタジー。先祖や父母の追体験はできない。手に取るように気持ちがわかるわけはない。だからこそ、大切な人と丹念に誠実に対話を繰り返していくしかないのだ。 (オニユリを題材にしたら奇想天外なファンタジーができるかもしれない) |