恋人か魔物か如何目が曇る [2017年09月18日(Mon)]
遠く離れた村の祭りで、娘は若者と恋に落ちた。
しかし、まつりが おわってみれば、 むすめと若者はあうこともない。 むすめは、ぼんやりと 山をみている日が おおくなった。 あの山さえ なかったら…… (絵本『つつじのむすめ』より) 娘は山を5つ越えて走った。胸は苦しく膝はふるえ足がもつれた。愛しさをエネルギーにひたすら走った。朝まで睦まじくすごす二人は幸せだった。愛しあう若い二人が毎晩のように密愛し翌朝も当たり前に仕事をすれば異変は起こる。痩せて青白くなった若者を見て仲間は心配した。 そりゃ、魔ものだ、魔性のものだ。 人間の女じゃあねえぞ。 若者の心に疑いが生じた。愛おしさがいとわしさに変わった。娘の言葉が信用できなくなった。ある夜、若者は山で待ちぶせした。髪をふり乱し風のように走る娘は、月光に照らされて魔性のものに見えた。若者の目は曇ってしまったのだ。 おのれ 魔ものめ、おもいしれ! 娘は真っ逆さまに崖から転落した。哀れな娘の血がしたたって真っ赤な躑躅(ツツジ)が咲き乱れるようになったとさ。 松谷みよ子作の絵本『つつじのむすめ』は悲しいお話だ。正視眼で物事を見ることの大切さを訴える。絵本の教訓。何ものかを評価する際に必要なのは、隣人の評判ではない。自分を全開にして五感を働かせることなのだ。 (日日草は新しい花が次々に咲き代わって、この夏も日照りのなかで元気に咲いていた。娘の血はもっと赤かった) |