水落ちて溺れる間もなく母の愛 [2015年04月06日(Mon)]
空が見えた。水の底から見えた。日の光がきらめいていたが、ボクは溺れそうだった。たすけて、おかあちゃん……、と助けを求めた。やがてボクは体ごと抱きかかえられて水から上げられた。地上に立つと張りつめた気持ちがゆるんで、幼いボクはベソをかいた。ほんの一瞬だったことだろう。でも水に落ちた時間は長く感じられた。
何歳の時のことかは分からない。朝だったのか昼だったのかも覚えていない。明るい時分であったことは確かだ。わたしの原初の記憶(大袈裟過ぎだが)である。 ほんのせせらぎにできた小さな淵。三面をコンクリートで固められることなく、今も当時の面影を残す。深さは50センチもない。しかしボクにとっては深甚の恐ろしい深みであったのだ。そして温かい母の愛に守られたひとときだった。幼いボクは幸せだった。 |