酸に浸けあなた好みになる細胞 [2014年01月31日(Fri)]
奥村チヨは歌謡曲『恋の奴隷』(作詞:なかにし礼)でこう歌う。≪あなた好みのあなた好みの/女になりたい≫。はるか昔、昭和40年代半ばの歌だ。生後一週間のマウスのリンパ球を弱酸性溶液に30分間浸すだけで万能細胞ができると聞いて、この歌を思い出した。
刺激惹起性多能性獲得(STAP)細胞と名づけられたこの細胞は、受精卵と同じようにさまざまに変化することができるという。生物学の常識を覆す画期的な成果と言われている。iPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)に比べ、簡単で短時間に作れるということで世界中の注目を集める。完成の暁には、病気ごと患者ごとに適切な細胞を培養することによって、再生医療の技術は格段に進歩するだろう。言うなれば「あなた好み」の細胞を使ってオーダーメイドの治療をすすめ、自己再生力を最大限に発揮することができるわけだ。 理化学研究所の研究ユニットリーダーは小保方(おぼかた)氏。時の人となったこの女性研究者はまだ30歳の美形。会見時のハキハキぶりで好感度も高い。ネット上でさっそくアイドル的扱いを受けているという。この方が女性だったからというわけではないが、この歌を思い出してしまった。 『恋の奴隷』で奥村は、≪あなたと逢ったその日から/恋の奴隷にな≫ったと歌い、こんなふうにあなた好みになりたいと言う。 悪い時はどうぞぶってね/あなた好みのあなた好みの/女になりたい 好きな時に思い出してね/あなた好みのあなた好みの/女になりたい 好きなように私をかえて/あなた好みのあなた好みの/女になりたい おっと!強烈だ。今の時代には考えられない。今でも、「自分好みの女であってほしい」という幻想に支配された男が存在していることで、DV被害に悩む女性は少なくない。もちろん、この歌詞だって作詞家は皮肉たっぷりの意図があるのかもしれないし、当時だって相当の反発があったのに違いないけれども、相対的に力の弱い女性が手ひどい仕打ちを受けるのは、時代錯誤である。 STAP細胞は酸性液に浸されたり、極細の狭所を通ったときに生まれるという。そうしたストレスが細胞に変化をうながし、質的な大転換を起こす。言うなれば、化けるわけである。「オレ好みの女になれよ。言うことに逆らうな。甘えさせろ!暴力だって辞さないぞ。ただしオレは勝手気ままにやるからそのつもりでな!」。そんな男がまだ生息しているようなら許せない。ともあれ、STAP細胞が早く実用化されることを願っている。 |