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1-09 目も耳も楽しませてくれるもの [2011年05月11日(Wed)]

音の行方を探すと、並木道の中に紛れ込んでいた
木のような柱のようなものが目に入った。

樹木に似せているのか、いくつもの枝に分かれている。
ちょっとユーモラスでかわいい形をしたオブジェだ。

さっき、展望台から見えていたのは
これだったんだ。


枝の先には何か筒状のものがついていて、
そこから、やさしい音が流れている。

時には大きく、時には小さく。

それぞれの枝から、音階の違う音が順番に出ていて、
美しい和音を奏でているのだ。


タブレットをかざしてみると、
表示されたのは意外な言葉だった。


 『福島2030年式 自家用風笛発電機』


これが、発電機?風笛型?

もうちょっと説明を見てみよう。
タブレットにタッチしてみる。


 「個人住宅なら数軒分の電力をまかなうための小規模風力発電機。
  街並みや庭の美観を損ねないデザインで省スペース。」


今度は、そのしくみが透視図で拡大表示された。

どうやら、枝の先についた筒状の部分に、
風を受ける縦型のファンが入っているらしい。


 「筒や風穴の大きさ、ファンの形状で、好みの音階と音色を楽しめる。
  組み合わせて、好きなデザインに出来る。ハーモニーも奏でられる。」


へえ。ただ発電するだけじゃないんだ。
自然の力を使った楽器なんだ。


今度は、家の庭に置かれた色々な発電機の画像と、
そこで録音された音色が、次々に再生された。

みんな違って、みんなおもしろいんだ。


父さんが、ぼくの耳元でささやいた。


 「すてきだろう?」

 「うん」

 「今度は、ここを見てごらん。」


父さんは、目の前の発電機の幹の部分を指差した。
そこには、2人の名前が国旗と一緒に書いてあったよ。

外観のデザインはフランス人で、音色のデザインはイギリス人みたい。
こんな田舎に、なんで外国人が...。


ちょうど風が吹いて来た。

あ、風の方向や強さで、微妙に音が変わるんだね。

風が奏でる音。今この瞬間だけの音。
ぼくは、しばらく目を閉じて耳をすました。


 「ほら、向こうにも発電機がある。
  見比べてごらん。」
 

父さんは、何メートルか先の発電機へと歩いていった。
ぼくも、そのオブジェを見上げながらついていく。


 「ほんとだ。
  少しずつ、形も音も違うんだね。」

 「そうだよ。パーツは共用しているけれど、
  組み合わせは自由なんだ。

  デザインする人の個性で、見かけも音も変わってしまう。
  だから、これを建てる人も、そばを歩く人も楽しいんだ。」


この発電機は、イスラエルとサウジアラビアのデザイナーの合作だ。
シンプルで力強いかたち。

さっきよりも、音数は少ないけれど、
静かな祈りの音にも聴こえるのが不思議。


試しに、タブレットをかざすと、2人の若い作者が現われた。


 『これは、ぼくらが一緒に作った作品です。

  ぼくたちの国の間には、哀しい争いの歴史がありました。
  しかし、この発電機は国境を超えて広まっていったのです。』


2人は、発電機に描かれた数字「1」を指差している。


 『ぼくたちは、同じナンバーが描かれた発電機を2台ずつ作りました。
  そして、それぞれの国の家庭に1本ずつ販売していきました。』


今度は、同じナンバーの発電機が建った家々と持ち主の写真が、
1番から順番に次々に映し出されている。


 『お隣の国の同じナンバーの発電機の持ち主に手紙を出そう。
  いつかはお互いに訪ねてみよう。

  私たちはそう、発電機のオーナー家族に呼びかけました。

  その結果、発電機の数だけ、憎しみが友情へと変わっていったのです。』


今度は、たくさんの握手をする人たちが、笑顔の家族と家族の写真が、
タブレットいっぱいに重なりながら、広がっていった。


ちょうど、その時、また風が吹いてきた。
そして、発電機が幸せそうな調べを奏でたんだ。

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