日本財団公益コミュニティサイト CANPAN CANPANブログ:公益法人,NPO,CSR,社会貢献活動のための無料ブログ

プロフィール


カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
佐藤千秋@橘高校
7-24 守ることは生きること (11/19)
555sugar555
5-29 前代未聞の返上式 (09/09)
とある編集者
1-01 卒業記念の父子旅行 (06/16)
羽沖
2-13 ロビーでの再会 (05/27)
對馬好一
1-07 2人の釣り人 (05/09)
リンク集
この作品は、福島と日本中の人々を不安と悲しみに陥れ、世界にも多大なご迷惑をかけた「愚行=原子力発電所事故」を二度と繰り返さないために書き綴るSFファンタジー=親子で読める童話です。世界で一番危険な場所で、命をかけて、「人災」の収拾に取り組んでいる方々に、心からの敬意と感謝を込めて、何かを書かずにいられません。未来の子供たちに、少しでも安心で安全な世界と、美しい自然を残せるように、「こんな世界になったらいいな」という祈りをこめて、キーボードを叩きます。
1-01 卒業記念の父子旅行 [2011年04月29日(金)]

「卒業記念に旅行に連れて行く」

父さんが、突然切り出したのは3日前。
しかも2人だけで行くって言うから驚いた。
 
「どこに行くの」って聞いても、教えてくれない。
小学校を休んで、朝一番で出かけるって言うんだ。


だから、どこか海外の秘境にでも
連れてってくれるのかと思ってた。

でも、着いたのは空港ではなくて上野駅。
乗るのは新幹線だった。

ちょっと残念な気分。


でも東北は好きだし、北海道もいい。「まあいいか」って思ってたら、
たった1時間!乗っただけで降りてしまったんだ。


そして、もっと驚いたことがある。

だって、ここからはレンタサイクルで行くって言うんだ!
なんだか、父さんもケチだなあって思ったよ。


それでも、ちょっと自転車で走り出したら、
なんだか気持ちいい。

やっぱり、東京よりも景色がいいしね。
風もいいにおいがするんだ。

道も広くて、信号もなくて、
いつもよりスピードも出せる。


意外に、父さんも自転車を漕ぐと速いんだよ。

父さんと2人きりで電車や車に乗っているより
楽しいかもね!

いろいろ聞かれて話なんかしなくて済むしね。


ところどころで休んだり、昼ご飯を食べたりして、
そうだなあ、3〜4時間はlこいだかなあ。

おひさまも少しずつ傾いてきて、
もうそろそろ疲れて来たなあと思った頃、
父さんが突然自転車を停めた。


なんだか、道ばたに看板を見つけたみたいだ
1-02 古びたゲートと恐ろしい看板 [2011年04月29日(金)]

それは古びたゲートだった。
一番目立つところに看板が立っている。

ところどころ塗料がはげかかっていた。
古い看板だ。

でも、その看板の注意書きを読んで、ぼくはふるえがきた。


 「これより先、無断で立ち入ることを禁ずる。

  1.入区許可証 2.防護装備 3.放射線計 
 
  を全て有する者だけが、自己責任で入ること。

  これより先で起こるであろう、あらゆる事故、
  健康障害等のトラブルに対して
  私たちは一切責任を負わないこととする。  

   2012〜 福島環境実験特区 住民一同」


ここは、教科書でならった、
あの「フクシマ原子力村」の入口だったんだ。


「ここから先にも...行くの?」


ぼくは、おそるおそる父さんに尋ねた。

父さんは即答した。


「そうさ。ここから先に、おまえに見せたいものがある。」


その時の父さんはいつもと違っていた。
「何が何でも連れて行くぞ」って顔をしていたんだ。


「...大丈夫なの?」


父さんは、さっきのおっかない看板の下を、
だまって指差した。

そこには、真新しい小さな看板があった。


 「2040年3月11日より
  福島環境実験特区の出入りは自由になりました。
  ただし、すべての行動は自己責任でお願いいたします。

  なるべく放射線計を持参して計測しながら行動してください。
  何かを触ったり持ち帰る時にはご注意ください。

  2040〜 福島環境実験特区 住民一同」


なんだか、もっと怖くなってきた。
ぼくの顔を見て、父さんはリュックから何かを取り出した。


「大丈夫。ほらガイガーカウンターも持って来た。
 これはお前の分だ。」


突然、放り投げるから、危うく落とすところだったよ。
父さんは、もうペンダントのように首にかけている。


「危なかったら、アラームがなるから大丈夫。さあ行くぞ。」

「ちょっと待ってよ」


父さんは、もう自転車にまたがって漕ぎ始めている。
なんで、そこまで燃えているんだ。

やれやれ。

気乗りはしないけれど、しょうがない。
ぼくも父さんを追いかけることにした。

やだなあ。
1-03 ゲートを走り抜ける [2011年05月01日(日)]

振り返ると、ゲートがどんどん遠くなる。
大丈夫だろうか。

山の間を縫うように作られた道は、車も自転車も走っていない。
もちろん人だって歩いていない。

緑が深くて清々しいはずだけど、深呼吸するのがこわい。
ついつい首にぶらさげたガイガーカウンターを見てしまう。


でもね。少し走ったら、小鳥のさえずりが聴こえてきたんだ。
それはかわいい歌声。とても気もちいいハーモニーだった。

ちょっとだけ安心したよ。

どこからか聴こえる歌声の主を探しながら、
あたりを見回してみる。

初めて来たはずなのに何だか懐かしい風景。

こういうのを里山って言うのかなあ。


父さんは、口笛を吹いているみたい。
こんな怖いところを走っているのに、なんでごきげんなんだろう。


坂道を、いくつもいくつも越えた後、
突然、視界が開けたんで驚いた。

その景色を見て、ぼくは圧倒されてしまった。
こんな景色は今まで見たことがなかったから。


父さんは自転車を停めた。
ちょっとした展望台になっているみたいだ。

いつごろ作られたのだろう?

古びた木のベンチに腰掛けて、
ぼくを手招きしている。


見わたす限りの田園風景。
その先には、海も見える。
きらきら輝いている。


最初は、ごく当たり前の田舎の景色に見えた。
だけど、なぜか吸い込まれるように見入ってしまう。

ここは、ぼくがこれまで見た
どんな景色とも違って見えたんだ。
1-04 不思議なオブジェと世界遺産 [2011年05月02日(月)]

「まるで絵本みたいだね!」


ぼくの一言に、父さんは、にっこりしながらうなずいた。

里山に囲まれて、田んぼや畑がきれいに並んでいる。

田植えはまだだったけど、並木道が縁取りをしているみたいで美しい。

そうか、電柱がないんだ。
それだけで、村全体が美しく見える。


 「あれ? …なんだろう?」


ぼくは、父さんに指を指して尋ねた。

田んぼや畑のところどころに、不思議なものが建っている。
色も形も少しずつ違うみたい。

並木道にも、何本かに一本ずつ建っているんだ。

懐かしいけれど、どこかが違う。

見たことがあるような無いような新しい風景に見えたのは、
不思議なオブジェのせいだと気づいた。


「はは。面白いだろう。
 もっと、近くに行ってから答えを教えるよ。」


なんだか、もったいぶってるなあ。

でも、父さんの横顔は、いつもと違った。
笑っているけど笑っていなかった。


「それより、あの海岸沿いの建物を見てごらん。」


父さんは遠くを指差した。

きらきら光っている海の前に、一つだけ異様な建物があった。

ちょっと見ただけで、この風景にふさわしくないってわかる。
そんなおどろおどろしい形をしている。


「あれは…ぼくだって知ってるよ。教科書で習ったもの。」

「そうか。それじゃあ話が速い。この旅のゴールは、あの建物だ。」


やっぱり…。

ぼくだってバカじゃない。
ゲートをくぐった時点で、そんな気がしていた。

それは、ふたつの「負の世界遺産」のひとつ。
小学生ならみんな知っている建物だ。


フクシマとヒロシマ。

ふたつの「負の世界遺産」から人類が学んだから、
今、君たちは生きていられるんだって、
くりかえしくりかえし教わったからね。


でも、まさか、卒業旅行で、
それも父親と一緒に
ここに来るとは思ってもみなかったんだ。

1-05 卒業記念のプレゼント [2011年05月03日(火)]

「そうそう。卒業記念のプレゼントを持ってきた。」


父さんは、リュックの中をごそごそ探している。
そして、ぼくにプレゼントを手渡した。


「わあ!…ありがとう!」


ぼくは、うれしくて思わず叫んでしまった。

それは最新式のスマートタブレットだった。

カメラやビデオ、電話やコンピュータ...
とにかく何でも入っている。

友だちはみんな持っている。
もっと簡単なものだけどね。

だから、ずっと欲しかったんだ。

でも、どんなにねだっても、
なぜか父さんは決して買ってくれなかった。


なんでまた突然?

でもいいや。くれるって言うんだから。


「使い方はわかるか?」

「うん!」 


友だちが使っているのを、
いつも横目で見てたし、時々触らせてもらっていた。


「それじゃあ、使いながら練習だ。

 今、これから目に映るもの、感じたものを、
 なんでもかんでも記録してごらん。」


「よし!」


ぼくはうれしくて、まずは、
ここから見える景色を映すことにした。


レポーターの気分で、
目に映るものの実況中継をはじめたんだ。

一度やってみたかったのさ。

ひととおり、美しい景色をタブレットに収めた後で、
最後は、遠くに見える福島原発にズームした。

そして、つぶやいた。


 「この旅のゴールは、
 負の世界遺産、福島原発です。」

1-06 川の力、水の力 [2011年05月06日(金)]

父さんは、ぼくの自転車のハンドルに何かの
ホルダーをつけてくれている。


「ここにタブレットをセットしてごらん」


言う通りにすると、タブレットはカチッとはまって、
自転車ナビゲーターの地図画面に変わった。

充電用のソーラーパネルもついている。
見とれていると、父さんの声がした。


「よし、もっと先に進んでみるぞ。」


父さんは、もう自転車にまたがってる。
ぼくもあわててついていった。

これからは、どうやら
ゆるやかな下り坂みたい。

川沿いの道は、木陰の陽射しが美しい。
風と一緒に走っている感じ。


突然、タブレットに案内のメッセージと
写真が表示された。

父さんは自転車を道沿いに停めた。

画面には「福島第一水力発電所」と書いてある。


「え?どこにあるの?」


川を見回しても、それらしきものは見えないんだ。
小さな滝が見えるけれど、ごく自然な景色。

父さんは笑いながら、タブレットを
滝の方にかざしている。

上下左右に動かしているうちに
一点にとまって、つぶやいた。


「あの小さな滝の横…
 草や苔に囲まれているあたりだよ」


父さんの画面を、横からのぞき込んでみる。
滝の斜面のあたりに、どうやら発電所があるみたい。

タブレットを叩くと、景色が消えて、
そこに設備の設計図面が現われた。
 

「わ、この滝の中は、こうなってるんだ。」

ぼくは思わず叫んでしまった。
小さなタービンがモーターを回している。

それから、この発電所ができるまでの様子が、
次から次へとスライドショーで映しだされたんだ。


「あれ?」


不思議だ。

できる前の景色と、今と比べても
ほとんど変わっていないよ。

さすがに工事中は、岩が削られたりしてみにくかったし、
完成前は、小さなコンクリートの固まりのようだった。

でも、ちゃんと工事の後で、きれいに緑が復元されているんだ。
まるで庭師が、昔のお城やお寺のお庭を作っているみたいに。


父さんが、もう一度、画面を叩くと、
説明文と地図が現われた。

この「見えない発電所」の発電能力と、
電力を供給しているエリアが表示されている。


「小さな発電所だけど、この村だけでなく、
 近くの3万世帯の電気をまかなっているらしいね。」

「ほんとだ!」

 驚いたよ。
 このちっぽけな発電所やるなあ。


 続いて、数十年前に作られた大きなダムや
 発電所の写真も現われた、

 放水の動画はすごいけど、
 村が沈んで悲しんでいる人たちの顔は悲しい。

 それから、山々を延々と結んでいく
 大きな電柱と電線の写真も...見たことのない風景だ。

 ぼくは、さっき見た原発のシルエットも
 うっすらと思い出していた。


「昔は、発電所は、大きくて、美しくないものだったんだ。
 そして、自然にも、人間にもやさしくなかったんだよ。」

 父さんは、ぼくに何かを伝えたいんだなって思った。


 でも、ぼくが本当にすごいと思ったのは、
 次の説明だった。

 「2014年3月11日に完成した福島第一水力発電所をモデルにして、
  日本全国の小川を持つ地域で発電所の建設が続いた。
  そして、電力を地元で自給自足できる自治体が急増した。」

すごい!
これが第一号なんだ!

画面には、同じタイプの小さな水力発電所ができた順番に、
日本地図に青い点が打たれていった。

画面上のカレンダーもどんどんめくられていき、
発電所の数もどんどん増えていくんだ。

最後は日本中、青い点だらけになった。
そして、カレンダーは、2023年3月11日で止まった。

この後、発電所は必要なくなったんだって。


ぼくが生まれる20年以上も前に、ここから…

誰も来ない場所にある、
誰も気づかない発電所から...
何かが始まったんだ。


ちょっと、どきどきしてきた。

なにかすごいものを見つけた感じ。

なにがどうすごいかは、
まだよくわからないけど。
直感ですごいって思ったんだ。


「あ、そうだ。」

ぼくは、自分のタブレットものぞいてみた。


「あ、ぼくの画面にも、今のデータが!」

「そうさ、この場所に来た人のためのプレゼントなんだよ。」


ぼくの感じたことをメッセージとして残す画面も現われた。
今の気持ちを残さなきゃ。

声で残すのは恥ずかしいから、
あわててタブレットの上に手で書いた。


「ここは、はじまりの場所。
 ちっちゃな発電所と、ぼくの冒険の!」
1-07 2人の釣り人 [2011年05月09日(月)]

ふと視線を感じて、滝の下流を見ると、釣り人がいた。
ずいぶん長いひげを生やしたおじいさんだ。

父さんも気づいたみたい。近づいて声をかけている。


「どうですか? 釣れますか?」

「ああ、今日はいい調子だ!」


返事が二重唱になって返ってきたので驚いた。

よく見ると、ちょっと離れたところに、
もう一人そっくりのおじいさんがいたんで、またびっくりした。


「父さん…双子かな…」


ぼくは、耳元で小さな声でつぶやいた。


「ああ、そうだよ。この村は、双子が多いんだ。」


「え? 双子が多い?

 なぜ?」


「まあ、そのうちわかるよ。」


父さんは、ぼくにウインクをした。


双子のおじいさんの一人が、
父さんに遠くから話しかけてきた。


「おや、君は、ひょっとしたら…」

「ええ…そうです。先生。」

「おお、おぼえていてくれたか。
 息子も随分と大きくなったな。」

「ええ、今日は、
 この子の祖父との約束を果たしに…」

「そうか。うむ、約束の日か…」


2人同時に腕時計を見ている。
なんだか不思議だ。


「おお、ついに
 その日が来たんだな」


ぼくには話の意味がまったくわからない。

父さんのジャケットの袖を
ひっぱりながらたずねたよ。


「ねえ、約束ってなに。その日ってなに」


今度は父さんだけじゃなくて、
双子のおじいさんも一緒に笑っている。


「まあ、そのうちわかるさ」


なんだか仲間はずれみたいでイヤな感じ。


「それでは、また後で、お会いしましょう!」


父さんが手を振ると、
また二重唱で返ってきた。


「おお、また後でなあ。」

1-08 並木道の秘密 [2011年05月10日(火)]

手を振って見送ってくれる双子の老人。
そのしわくちゃの笑顔が、なんだか素敵だった。

すかさず写真を撮影して、メッセージを残した。


 『この村は双子が多いらしい!謎だ!』


父さんは、メッセージを書き終えたぼくを見て、ニヤニヤしている。


「これだけで、驚いちゃいけないよ。」


なんだよ。ちょっと、やな感じ。
いろいろ知っているなら教えてくれればいいのに。


「さあ、これからは、おまえが宝探しをする番だ。
 前を走ってごらん。」


「ええっ。無理だよ。
 道だってわからないもの。」


「大丈夫、興味をひかれたものが目に入ったら、そこに向かえばいい。
 もしそばに何かポイントがあればタブレットが教えてくれるさ。」


やれやれ。

まあ、いいか。

それも面白いかもしれないね。


自転車にまたがって、
ぼくは、また坂道を下りはじめた。

スピードを出しながら、右へ左へ曲がっていく。

父さんの背中を見ているより、
たしかに気持ちいいや。


やがて、木立に囲まれた道から抜け出し、
視界が開けた。目線と地上が近くなっている。

目の前には、美しい並木道が海に向かって伸びていた。

まるで、ぼくたちを出迎えてくれているようだ。

最後の直線の坂道をジェットコースターのように降りていく。
並木道に吸い込まれるように飛び込んでいく。


すると、あっと驚くことがあったんだ。

どこからか、心地よい音が聞こえてくる。
そして、後ろへ後ろへと流れていくんだよ。


ぼくは、気になって、ブレーキをかけた。
そして、あたりを見渡したんだ。
1-09 目も耳も楽しませてくれるもの [2011年05月11日(水)]

音の行方を探すと、並木道の中に紛れ込んでいた
木のような柱のようなものが目に入った。

樹木に似せているのか、いくつもの枝に分かれている。
ちょっとユーモラスでかわいい形をしたオブジェだ。

さっき、展望台から見えていたのは
これだったんだ。


枝の先には何か筒状のものがついていて、
そこから、やさしい音が流れている。

時には大きく、時には小さく。

それぞれの枝から、音階の違う音が順番に出ていて、
美しい和音を奏でているのだ。


タブレットをかざしてみると、
表示されたのは意外な言葉だった。


 『福島2030年式 自家用風笛発電機』


これが、発電機?風笛型?

もうちょっと説明を見てみよう。
タブレットにタッチしてみる。


 「個人住宅なら数軒分の電力をまかなうための小規模風力発電機。
  街並みや庭の美観を損ねないデザインで省スペース。」


今度は、そのしくみが透視図で拡大表示された。

どうやら、枝の先についた筒状の部分に、
風を受ける縦型のファンが入っているらしい。


 「筒や風穴の大きさ、ファンの形状で、好みの音階と音色を楽しめる。
  組み合わせて、好きなデザインに出来る。ハーモニーも奏でられる。」


へえ。ただ発電するだけじゃないんだ。
自然の力を使った楽器なんだ。


今度は、家の庭に置かれた色々な発電機の画像と、
そこで録音された音色が、次々に再生された。

みんな違って、みんなおもしろいんだ。


父さんが、ぼくの耳元でささやいた。


 「すてきだろう?」

 「うん」

 「今度は、ここを見てごらん。」


父さんは、目の前の発電機の幹の部分を指差した。
そこには、2人の名前が国旗と一緒に書いてあったよ。

外観のデザインはフランス人で、音色のデザインはイギリス人みたい。
こんな田舎に、なんで外国人が...。


ちょうど風が吹いて来た。

あ、風の方向や強さで、微妙に音が変わるんだね。

風が奏でる音。今この瞬間だけの音。
ぼくは、しばらく目を閉じて耳をすました。


 「ほら、向こうにも発電機がある。
  見比べてごらん。」
 

父さんは、何メートルか先の発電機へと歩いていった。
ぼくも、そのオブジェを見上げながらついていく。


 「ほんとだ。
  少しずつ、形も音も違うんだね。」

 「そうだよ。パーツは共用しているけれど、
  組み合わせは自由なんだ。

  デザインする人の個性で、見かけも音も変わってしまう。
  だから、これを建てる人も、そばを歩く人も楽しいんだ。」


この発電機は、イスラエルとサウジアラビアのデザイナーの合作だ。
シンプルで力強いかたち。

さっきよりも、音数は少ないけれど、
静かな祈りの音にも聴こえるのが不思議。


試しに、タブレットをかざすと、2人の若い作者が現われた。


 『これは、ぼくらが一緒に作った作品です。

  ぼくたちの国の間には、哀しい争いの歴史がありました。
  しかし、この発電機は国境を超えて広まっていったのです。』


2人は、発電機に描かれた数字「1」を指差している。


 『ぼくたちは、同じナンバーが描かれた発電機を2台ずつ作りました。
  そして、それぞれの国の家庭に1本ずつ販売していきました。』


今度は、同じナンバーの発電機が建った家々と持ち主の写真が、
1番から順番に次々に映し出されている。


 『お隣の国の同じナンバーの発電機の持ち主に手紙を出そう。
  いつかはお互いに訪ねてみよう。

  私たちはそう、発電機のオーナー家族に呼びかけました。

  その結果、発電機の数だけ、憎しみが友情へと変わっていったのです。』


今度は、たくさんの握手をする人たちが、笑顔の家族と家族の写真が、
タブレットいっぱいに重なりながら、広がっていった。


ちょうど、その時、また風が吹いてきた。
そして、発電機が幸せそうな調べを奏でたんだ。

1-10 大好きな風笛を探してみる [2011年05月12日(木)]

 「1つ1つの発電機に、物語があるんだね。」


ぼくの言葉に、父さんはにっこり。
うれしそうにうなずいた。


 「ひょっとして…」


今度は、タブレットを並木道の出口に向けてみた。

すると、ここには、100本も発電機が建っていることがわかった。
しかも、一本ずつ、かたちも音も違うんだ!


 「一番のお気に入りを探そうか?」

 「うん!」


ぼくたちは、自転車をおりて、ゆっくり歩きながら、
特別な一本を探すことにしたんだ!

同じパーツを使っていても、
よく見れば、みんな違う。

太くて、しっかりした幹を持っているもの
細かい枝がくねくね曲がって美しい形になっているもの。

きれいな色が塗られていたり、
小さな模様がびっしり描かれているのもあった。


楽しいなあ。

これが、みんな同じだったら、きっとつまらない景色だね。
それに、ちょっと冷たく感じるかもね。


 「こんにちは」

 「こんにちは」


一本一本に見とれ、感じたことをタブレットにつぶやいているうちに、
いつの間にか、歩いている人、自転車ですれちがう人が増えてきた。

みんな、やさしくあいさつをしてくれる。
だから、ぼくもあわててあいさつをする。


 「こんにちは」


最初は、ちょっと恥ずかしくて、声も小さかったけど
だんだん、声も出るようになった。

あいさつが、ちょっと得意になってきた。

すれ違う人全員とあいさつをするのは、
ちょっと気持ちいい。

なんだか、山歩きをしているみたいだね。


おじいさん、おばあさんだけでなく
ぼくより小さい子供たちも、
お母さんやお父さんと歩いている。

ちょっと、びっくりした。

色々な人が、ここには住んでいるんだね。


オブジェからコードを引いて
電動の三輪車に充電をしているおばあさんもいた。

タブレットをのぞいたら

 『この並木道で電池が切れたら
  誰でも無料で自由に充電できます』

だって!

なんだか、いいなあ。


世界の人たちが作ったオブジェと
自然の木が仲良く並ぶ不思議な並木道。
 
初めて見た景色だけど、なんだか懐かしい。
不思議な村だね。ここは。

あいさつを交わした人たちも
みんな笑顔を浮かべて
ゆったりしている。

だから、どこかであった
気がするのかな?


オブジェを見上げたり、振り返ったり
時には、目をつぶって音を聴いたりしながら
ぼくたちは、並木道の切れ目まで歩いて来た。

そこには、今まで見た中で、
一番古くて、素朴なオブジェが建っていた。

なぜか、ぼくは、その前で足を止めた。
見上げて立ちつくした。

なんだか、ぼくに語りかけているみたいに見えたんだ。
| 次へ