この本の著者である
田坂広志氏の講演やスピーチを何度か聴いたことがあるが、簡単な言葉で、非常に含蓄のあるメッセージを述べられるので、彼のファンは非常に多い。いや、ファンどころか、もう心酔してしまっている人も少なくない。少なくとも、「生きる」とか「働く」とかいう人間の基本的な行動に関して、彼の考えはとても気持ちよく我々の「腑に落ちる」のである。
本学の図書館には、田坂氏の数ある著作のうちわずか4冊しか所蔵されていないが、そのうちの1冊である
『仕事の思想〜なぜ我々は働くのか〜』は、学生諸君にも一度手にとってもらいたい本だ。
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我々はなぜ働くのか。基本的な問いである。これにあなたはどう答えるだろうか。ありそうなのは「生活の糧を得るため」「生き残るため」という回答である。お金を稼がなければ人間、食っていけない。それから、働きが悪いと思われてクビにでもされたらたいへんだ。だから我々は一生懸命働くのだ、という考えには理解できるところもないわけではない。
しかし田坂氏は、本書第1章において「
こうした「仕事の思想」が、逆に、私たちから本当の「仕事の喜び」を奪ってしまっていることを見失ってはならない」と指摘する。そして第2章で、彼は、
「仕事の報酬とは何か」という問いを提示する。
会社に就職して組織の歯車になることなどとんでもない、と思いながらも、それでも食べなければ生きてはいけないからイヤイヤながらに就職した人が、仕事の面白さに目覚める。そんなことはよくあることだ。最初は
「仕事の報酬は給料だ」と割り切ってやっていた仕事が面白くなる。仕事をやっていくことで自分の能力が高まり、仕事のしかたがわかってくる。田坂氏は、給料のその先に
「仕事の報酬は能力である」といえる世界が見えてくる、という。
そして、実はさらにその先に、
「仕事の報酬は仕事である」という、一見逆説的にも見える世界が見えてくるのだ、と田坂氏は指摘する。仕事のスキルやノウハウを磨いていくと、これまでできなかった面白い仕事に取り組めるようになる。つまり、能力が高まっていくほどに周囲からの期待も高まり、それに連動して任される仕事の大きさや重要度もまた高まってくるのである。
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人間、とかく給料とか昇進とかいう「目に見える報酬」にこだわりがちで、手っ取り早くそうした報酬を手にするための「おいしい仕事」や「面白い仕事」をしたい、できればそうでない仕事はやりたくない、と考えがちである。世の中、成果主義とか説明責任とか言って、「目に見える」ものを重視する傾向にあるから、よけいにそうなってしまう。「目に見える」ことが大切なのはわかるけれども、あまりそればかりに偏ると、実はもっと大切なことを見忘れてしまうことがある。注意しよう。