仙台市営バス「蒲の町」停留所の目の前に「おにぎり茶屋ちかちゃん」はある。家族と仲間たちで作った地元の米を使い、ふわふわの大きなおにぎりをむすぶのは佐々木こづ恵さん(38)。夕方、仕事を終え、3人の子供のうち、一番下の娘を幼稚園に迎えに行った時、寂しげに言われた言葉がある。
「ママ、どうしておにぎり屋さんになっちゃったの?」
東日本大震災の影響で、仕事や農地を失った仲間が大勢いた。震災後、あらためて仲間の大切さに気付き「被災した仲間と共に働ける場所を作る!」と決意。震災から2年後の2013年5月2日、父・佐々木均(ひとし)さんが代表理事を務める農業組合法人「仙台イーストカントリー」の直営店として、家族や仲間10名と共に店を立ち上げた。
午前5時、スーパーなどの販売先に届けるおにぎりをむすび、午前11時の開店以降は、店頭に立って客の注文に合わせておにぎりを作る。仕事はそれだけではない。店舗の運営管理や田んぼに出て農作業も行う。自由な時間はなくなり、一番下の娘は幼稚園の延長保育を利用している。
「娘に寂しい思いをさせたかもしれません。だけど『おにぎり屋さんをやめて』とは言わないんです。職場が家の近くなので、子供たちは私が働く姿をいつも見ています。幼いなりに、母親のしていることの意味が分かっているんでしょうね」
こづ恵さんは嬉しそうに語った。自然の力を借りて命の糧を育てること。心を込めておにぎりを作り、食べた人の腹と心を満たすこと。地味でもしっかりと働く大人の姿を、こづ恵さんは背中で伝えてきた。
「子供たちには、まっすぐ元気に育って欲しいです。そしていつの日か、私と同じように、農業を支え、地域を支える大人になってくれると嬉しいです!」
子供たちは今日も元気に、こづ恵さんの背中を見ながら成長している。
▲ 自慢のおにぎりを手にこづ恵さんは「娘はサンドイッチが大好きです」と大笑い
(仙台市青葉区 米田久光)