「花」は源氏物語から [2006年06月30日(Fri)]
挿画は、石田良介画伯のご厚意で掲載させていただいております。禁無断転載。 花 作詞 武島羽衣 作曲 瀧廉太郎 一、春のうららの隅田川 のぼりくだりの船人が 櫂のしずくも花と散る 眺めを何に喩うべき 二、見ずやあけぼの露浴びて われにもの言う桜木を 見ずや夕ぐれ手をのべて われさし招く青柳を 三、錦織りなす長堤に 暮るればのぼる朧月 げに一刻も千金の 眺めを何に喩うべき ●田辺聖子さんからのご教示 2002年に、歌い継ぐべき愛唱歌を調べていた過程で、作家の田辺聖子さん(1928〜)から貴重なご教示をいただいた。 『花』(武島羽衣作詞、瀧廉太郎作曲)の歌詞の一番が『源氏物語』からの「本歌取り」であるということだ。 『文藝春秋』(2002年9月特別号)での永六輔(1933〜)との対談によれば、長年介護に努めたご主人・川野純夫(通称・カモカのおっちゃん)を2002年1月に亡くされたばかりの時に、ご指導をいただいたことになる。感謝に耐えない。 田辺さんは「歌い継ぎたい日本の愛唱歌」の筆頭に『花』を挙げられた上でのことである。まずは、田辺さんからいただいたお手紙の全文を紹介しよう。 「花」は日本の誇る天才の一人、瀧廉太郎が明治三十三年に作曲したものですが、日本の歌曲第一号であり、誠に美しい曲で、世界に発表して誇るにたるもの。子どものうちから歌わせ、日本人ならすぐハーモニーよろしく合唱できるようにしたいものです。 なお、作詞の武島羽衣さんが、一番の歌詞を『源氏物語』から採っているのをご存知でしょうか。『源氏物語』の【胡蝶】の巻、六条院の宴のところ、女官の一人が歌います。歌は横書きでは書けませんので下に書きます。(ちなみに、私は日本語の横書き反対派の一人です)。 「花」と『源氏物語』が美しいハーモニーを奏でているところも、われわれ日本人を誇らしく、力づけてくれます。 春の日のうららにさしてゆく舟は 棹のしづくも花ぞ散りける 田辺聖子さんの『新源氏物語』(3巻。新潮文庫)を私は以前、読んだことがある。タイの難民キャンプに向かう機上でだったので、よく憶えている。タイムスリップしたような気分だった。 しかし、これまた古典文学の素養に乏しく、加えて感度の悪い私は、その「中巻・春の夜の夢に胡蝶は舞う」の章に、この歌が取り上げられていたことにまったく気づいていなかった。 六条院の宴での出来事が見事に描かれているところだ。そこで、今回あらためて、日本古典文学大系15『源氏物語』(山岸徳平校注。岩波書店)にあたってみた。 (つづく) |