南京事件への取り組みI [2008年01月05日(Sat)]
2006年3月、私は東京財団の片山調査役とともに上海と南京を訪れた。
私は中国の専門家たちを前に、 「戦闘員が戦闘員を殺害したら英雄、戦闘員が非戦闘員を殺したら殺人犯なのである。仮に南京で非戦闘員が戦禍で亡くなったらこれは大変遺憾なことであり、詫びるほかない」 といった立場と趣旨を明確にして、 お互いに胸襟を開いて話し合おうと呼びかけた。
同様に、 「日米戦争においては、米軍の空爆で東京、広島、長崎、その他で数十万人もの民間人が殺害された。これは当時の国際人道法に照らして明らかに戦争犯罪であると確信するのはいうまでもない」 とも伝えた。
中国側もそれに素直に対応してくれたと自負している。
上海では程兆奇研究員と、南京では張連紅教授とお会いした。お二人とも、学者としては少壮ないし中堅という世代に入るのかもしれないが、現代史研究の専門家であり、責任ある地位を持っている人である。
程研究員は、 「ここにあるように」と膨大な量の文献を示しながら、 「日本人の手になる南京事件に関する既存の文献はほぼすべて目を通した。中国側資料としては、自分も編纂に加わった『南京大屠殺資料集』(張憲文編集、鳳凰出版社・江蘇人民出版社、全28巻)がある。この問題を理解するには、資料に基いた議論が重要だ。中国では民族的感情に基いた議論をする研究者が多いが、自分はあくまでも中立の立場で学術的見地から議論する。最近若者の間に反日感情が高まる傾向があるが、彼らに最も重要な点は歴史問題をよく勉強することだ。まず結論ありきの研究ではなく、資料の検証から結論に達するのでなければならない」 と述べ、 「政治的観点ではなく学術的観点に立つことが重要と思う。南京事件で何人の中国人が殺されたか、それが合法的であったか非合法的であったかというような議論では、侵略した者の立場と侵略された者の立場の違いがあるので、判断が難しい」としつつも、「研究者としては<何人殺されたか>ではなく、<史料から確認できる限り何人か>という議論しかできない。資料から見る限り、30万人は多すぎる」 と述べた。
面談のため私が案内された場所は、程研究員の「自宅」ということだったが、やや高級な集合住宅。全体が書庫という感じで日本の各種総合雑誌と学術書がずらりと並び生活臭が全くしない。
家族もいない。案内したのは、かつて東京財団に研究員として滞在した明らかに情報筋の人。こうした人を前にしての発言であることに、中国共産党ないし中国政府の対日姿勢のある種の変化を感じないわけには行かなかった。
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吹浦 忠正
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南京事件への取り組みG [2008年01月03日(Thu)]
「南京事件の事実の解明ではなく、南京事件が日本および中国によって、それぞれどのように利用されてきたか、という問題が重要だ」
「米国には、日本政府は<歴史的事実を隠蔽しようとする企みを持っている>と疑う者がかなりいる。他方、戦後の中国政府が南京問題を政治的に利用してきたことを認める学者もいる。しかし、このことと歴史的事実とは別問題だ」
「アジア研究学会(Association for Asian Studies)の年次総会でシンポジウムのようなことをやってはどうか」
「西洋の男性歴史家は、世界史の中でレイプ(rape)という言葉を2度使った。一度は、ローマに滅ぼされたカルタゴ、次は日本軍に占領された南京だ。この言葉には、陵辱のニュアンスが込められており、単なる虐殺とは異なる」
「日本は対外広報(Public Diplomacy)の面で大きな遅れをとっている。特に歴史認識の問題では中国の方がはるかに強力な対外広報を展開しており、米国民の理解と共感を勝ち取っている。米国にとって、日本が中国に比べてはるかに好ましいパートナーである点をアピールすることが重要だ」
「中国は現代日本を過去の日本と結び付けて批判する。日本が対抗できるのは、日本の現在を日本の未来へ向けて主張することだ。軍国主義の過去へ戻るようなことはありえないことを米国民に確信させることだ。中国の未来は不確実性に満ちているのに対して、日本の未来は豊さとで安定性に満ちている。日本は決して過去の歴史を否定してはならない。過去は過去として潔く認めた上で、現在と未来を強調すべきだ。中国政府が日本の歴史認識を問題視するのは、決してその問題の解決を望んでいるからではなく、政治的に利用しようとしているだけだ。中国は日本に対して、対外広報戦という戦い挑んでいるのだ」。
(つづく)
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吹浦 忠正
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南京事件への取り組みF [2008年01月03日(Thu)]
2006年2月、東京財団の片山調査役がアメリカ、カナダを訪問し、内外の関係者にインタビューして周ったときの、主な意見を紹介している。
○△■○△■○△■○△■○△■○△■○△■○△
「南京事件についてもこれまでは日本の外務省は日和見主義であり、世界に誤解を与えている。これからは日本の立場を主張すべだ」
「南京虐殺があったことは否定できない歴史上の事実だ。加えて米国にはユダヤ人が多いため、南京虐殺をホロコーストと同一視する傾向が強い。またスターリンによる<カティンの森の虐殺事件>とも同一視する。したがって、南京虐殺はなかったとする主張は、ホロコーストはなかったとする歴史修正主義者の主張と同様、米国民には受け入れがたい。 しかし、反面、米国の歴史研究者の大半はアイリス・チャンに批判的であることは付け加えたい。彼女の主張は、一般大衆にはアピールするものの、客観的裏づけに乏しいからだ。歴史研究者の間では、客観的な証拠に基いた議論が尊重されるのは当然である」。
「南京虐殺はホロコーストとは全く次元の異なる問題であることを米国人パネリストに言わせることが重要だ。なぜなら、南京虐殺を否定する議論は、ホロコーストを否定する議論と受け取られるからだ。したがって、シンポジウムの表題も、”Historical Perspectives on Nanjing Massacre” あるいは”Re-Examination of Iris Chang’s Legacy” など、中立的なものにしなければならない」
「米国でこの種のシンポジウムを行うことには賛成しない。それより、南京虐殺に関する本の出版を行う方がよい。米国民に南京虐殺に関するさまざまな議論を紹介し、アイリス・チャンの著作がすべてではないことを訴えるのが適当だ」・・・(つづく)
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吹浦 忠正
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南京事件への取り組みA [2008年01月02日(Wed)]
東京財団は理事会の決定に基づき、 その内部に独自の研究特別委員会を設置した。 メンバーは橋爪大三郎東京工業大学大学院社会理工学研究科教授、 原野城治ジャパンエコー社長(元時事通信パリ支局長)、 夏川和也元自衛隊統合幕僚会議議長、そして、 『25歳が読む南京事件』の著者である稲垣大紀平和祈念事業特別基金研究員。
私が責任者となり、ほかに同僚の柴崎治生総務担当常務理事で構成、 片山正一調査役が事務局長的な役割を果たした。
橋本、夏川両名は東京財団の役員でもあった。 研究会では、南京事件に関する「大虐殺派」「まぼろし派」「中間派」の 代表的な論客すなわち、 秦郁彦日本大学教授、 北村稔立命館大学教授、 笠原十九司都留文科大学教授、 東中野修道亜細亜大学教授、 吉田裕一橋大学教授といった 立場や結論は異なる研究者や専門家を順次招聘し、 その見解を忌憚なく語っていただき、 きわめて積極的に意見交換を行なった。
また、 楊大慶ジョージワシントン大学教授にもお越しいただき、 程兆奇・上海社会科学院歴史研究所研究員と 張連紅・南京師範代教授(侵華日軍南京大屠殺研究中心主任)を 中国からお招きするということもした。
さらにまた、デイビッド・アスキュー立命館アジア太平洋大学助教授、 姜克實岡山大学教授、 趙軍千葉商科大学教員にも議論に加わっていただいたことがある。
それらの個々の話の内容は詳細には公開しない約束になっているので、 ここでの引用を憚るが、 これらの人々はかねて著書、論文などで、 自説を大いに展開されておられるので、 内外の大方の研究者や照覧の読者には 論旨の基本をご理解いただくことができよう。 (つづく)
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南京事件への取り組み@ [2008年01月02日(Wed)]
東京財団は、 海外における日本への偏ったイメージや誤解を正し、 日本理解を促すことを活動指針の1つとしてきた。
その一環として、内外で過熱気味な、 「南京事件」を巡る論争に何らかの役割を果たすべく、 イデオロギーや事件の解釈に中立な研究機関として、 2006年末までの2年余り、 この問題を整理してみようという取り組みを行った。
その立場は、「虐殺」を初めから否定するというものではなく、 また中国側や一部の日本人がいう 大虐殺を既成事実とするものでもない、 実事求是に努めるという立場であった。
基礎的な予備調査を別として、具体的な事業としては、 @ 財団内に独自の研究特別委員会を設置すること A 日本人専門家の関係書の英訳とその刊行・配布、 B 米国や中国で動向を調査し、シンポジウム開催の可能性を探ること C 中国やアメリカなど内外のさまざまな研究者を招いて交流の場を設けること D 若い研究者の論文の刊行を支援 などから成っていた。 (つづく)
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吹浦 忠正
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西新宿へお越しを! [2007年05月12日(Sat)]
山季布枝(やまきのぶえ)先生のプロフィールです。
☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆
ピアニスト。高校卒業後、ウィーン国立音楽大学ピアノ科に留学。‘80年、ベートーヴェン・ハウスでの演奏を機に、ウィーン国連音楽クラブに招かれ演奏。同年一時帰国して東京ゾリステンとモーツァルト・ピアノ協奏曲でデビュー。
リサイタルや歌曲伴奏、室内楽などの活動を開始。‘86年に同大学を首席で卒業した後、同大教育科にてアシスタントを務める。帰国後の演奏活動は国内外におよび、来日演奏家からの共演依頼も多いが、企業のVIPサロン、音楽サロン、病院、など、彼女の絶妙なトークと、その高い演奏テクニックでの判りやすい演奏には定評がある。一方、ピアノ専門誌への執筆も多く、‘90年から「全国でピアノ奏法」や「バッハ鍵盤音楽作品(バロック音楽指導法)」「ブルグミュラー指導法」等のレクチャーコンサートも展開している。
初心者からコンクール出場者まで大勢のお弟子さんを指導している。末弟子が筆者・吹浦忠正。ほかはみなさま「善良なる紳士」か「妙齢の美女」。
CD録音は「山季布枝ピアノリサイタルvol.1,vol.2,」「江戸でピアノを」「山季布枝クリスマスCD2005、2006」、DVD「山季布枝トークコンサート(ライヴ録音)」〜クラシックピアノ音楽の聴き方〜。ピアノの秘密(共著)立風書房などがある。‘01にスロヴァキアに招かれ、ベートーヴェンの「月光ソナタ創作200年記念」で演奏し、R・バロバー賞を授与される。
現在、音楽プロデューサー中野雄先生の企画で、相次いでCD製作準備中。初秋に完成か。
日本J.N.フンメル協会常任理事、スロバキア・ベートーヴェン協会名誉会員。 現在、「正当なウィーン奏法を継承する演奏家のひとり」として評価されている。 山季布枝オフィシャルサイト:http://salondeart.com/yamaki/
後援会発足記念演奏会とパーティは、5月26日(土)午後6時より、西新宿の白龍館で。食事付き、一般6千円(後援会員5千円)。お申し込みは吹浦忠正の個人メールアドレスへ。
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アジアの人権と日本の役割 [2007年04月08日(Sun)]
アジアには未だ「自由の女神」は微笑まないのか。 4月6日午後4時30分から、東京財団で「アジアの民主化、自由・人権の拡大と日本の役割」研究プロジェクトの報告会が開かれた。
これは2006年度の研究プロジェクトであったため、異例ではあるが昨年末に退任した私が挨拶と総合司会をした。
アジアではかなりの国において未だ人権が抑圧され、平和と安寧を求める人々が日本に大きな期待をもちつつも、十分どころかほとんどその期待に応えていない日本という姿がある。
この研究は残念ながら一年間で終焉となったが、極めて中身の濃いものであった。いずれかの研究機関が引き続きこうした研究を継続し、より活性化してほしいものと願うほかない。
この研究プロジェクトのリ−ダーは、畏友・山田寛嘉悦大学教授。読売新聞特派員としてサイゴン、バンコクで勤務、さらにパリ支局長、ワシントン総局長などを務めた国際問題ジャーナリスト。いまは、国際関係論、アジア現代政治、カンボジア政治などを研究し、後進の育成にあたっている。私とは1973年、私が国際赤十字インドシナ駐在代表だったとき以来の濃いお付き合いが続いている。
山田教授以外の参加メンバーはそれぞれの専門家として著名な方々ばかりである。以下の面々だ。50音順。
●田辺寿夫氏(NHKのビルマ語ラジオ番組の制作を長く担当。ミャンマー(ビルマ)問題専門家) ●藤田幸久氏(前衆院議員・民主党国際局長。紛争、民主化、人権、難民、災害など国際問題を広範にフォロー。7月の参院選に茨城地方区から立候補の予定) ●ペマ・ギャルポ氏(桐蔭横浜大学法学部教授。チベット文化研究所長。日本・日本人の生き様への鋭い評論でも知られる) ●水谷尚子さん(中央大学非常勤講師・近現代日中関係を研究。中国の反日運動家への直撃インタビューなど活発な調査活動を展開) ●アン・タムさん(元ベトナム難民。研究者) ●李英和氏(関西大学教授、RENK<救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク>代表。北朝鮮民衆の支援のため活動)
ほかに、佐伯奈津子さん(上智大学非常勤講師。インドネシア民主化支援ネットワ−ク事務局長)と私がオブザーバーということで常時出席した。
参加メンバーがこぞって感謝しているのが、研究会のお世話をしてくれた朝倉恵里子さん(翻訳家)。私を含めわがままなメンバーが山田先生にご迷惑をかけるところを救ってくださった。感謝したい。
研究報告会で配布された報告書「アジアの民主化・自由・人権の拡大と日本の役割」の要約(提言一覧)をご紹介したい。
☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆
<総論> 提言1.日本は、アジアの民主主義、自由・人権の拡大のため、これまでよりもずっと積極的に行動し、協力し、貢献すべきである。それにはまず、政府も私たちもアジアの状況をもっと知ることだ。
<ODA> 提言2.ODA(政府開発援助)も、一定以上の割合をはっきり民主化支援・協力の分野に充てる。
<難民受け入れ> 提言3.より公正に、難民と認められるべき者を、政治的配慮とは無関係に、粛々と難民認定すべきである。
<留学生の受け入れ> 提言4.留学生政策の柱を量的拡大から質的改善へと転換する。より学問をすること、日本を知ることに意欲的な留学生を増大させる。そのため国費留学生の枠の拡大、私費留学生への学習奨励費の増額を図る一方、例えば留学生を対象とした無料見学バス旅行や、大学内でのアルバイトへの国庫補助など、キメ細かな施策を導入する。
<宗教分野での人的交流拡大> 提言5.アジア諸国からの留学僧や宗教者留学生の受け入れなど、仏教、キリスト教、イスラム教など宗教分野での人的交流拡大を図る。
<海外放送> 提言6.日本版「自由アジア放送」を考えよう。例えば、対北朝鮮拉致被害者への呼びかけ放送「しおかぜ」を支援、北朝鮮国民向けのニュース、解説なども含めて番組を強化しよう。
<メディア> 提言7.日本の新聞やテレビも、政治的遠慮を減じて、アジアの民主化や人権問題をもっときちんと報道すべきである。それと同時にアジアのジャーナリスト、民間人の活動に具体的に連帯、協力、貢献する。例えば、民主化や人権擁護、テロとの闘いなどで頑張っているアジアのジャーナリストへの賞を設ける。
<子どもとの交流> 提言8.教員や指導員派遣、文化・スポーツ交流といった現地の子どもとの直接交流を強力に進める。アニメ、マンガなどによる間接交流でも、さらに日本文化に接してもらう。それが、将来の日本との関係だけでなく、民主化インフラの一部となることが期待される。
<外交、政策的課題> 提言9.民主化、自由・人権をより重視して外交理念、戦略、政策を再構築し、自由民主主義諸国の国際基準に則ったものに改める。国際条約の加入、批准の基準にも民主化を導入する。
提言10.NGO、シンクタンク、宗教団体、メディアなどと連携した多角的な民主化、自由・人権支援外交を展開する。現地の野党勢力、民主活動家、反体制活動家などにも一層の目配りを怠らず、アクセスのパイプを拡大し、維持する。
提言11.公的資金により、議会や政党関係の民主化支援団体(財団、NGO、シンクタンク)設立を支援する。
<北朝鮮情勢関連> 提言12.北朝鮮人権法を活用し、一般脱北者を受け入れる。
提言13.韓国に亡命を果たした脱北者の日本留学を支援、促進する。
提言14.北朝鮮人権法に基づく啓発行事を活性化する。
提言15.国交正常化に備えて「日朝基本条約」の草案策定を急げ。
<ミャンマー(ビルマ)情勢関連> 提言16.日本政府はビルマ国民の願望である民主主義の実現と人権を保障するためにビルマ政府、NLD、諸民族代表による三者対話の実現、1990年総選挙結果の具体化を働きかけよ。
提言17.日本のメディアはもっとビルマの人びとの顔が見えるような、ビルマ情勢を正確に知りえるビルマ情報を継続的に伝えるべきである。
提言18.日本政府や国会議員は在日ビルマ人とくに母国民主化の活動をつづける人たちの声に耳を傾け、対ビルマ政策に反映させる努力をすべきである。また日本のNGOはこうしたビルマ人たちと交流を深め、実情を知り、理解を深めて、そこから民間レベルでビルマの民主化、人権状況の改善につながる共同作業に取り組むべきである。
<インドネシア情勢関連> 提言19.日本の進出企業は、汚職や人権侵害に手を貸さないよう、民主化の障害にならないよう努める。
<ベトナム情勢関連> 提言20.ベトナムにおける人権弾圧の事実に、もっと目を向けるべきである。
提言21.対ベトナムODAは今増大しつつあるが、ベトナムの人々の基本的人権が尊重されるよう、人権重視をODA政策の中に反映すべきである。
<カンボジア情勢関連> 提言22.カンボジアの民主化に向けて、フン・セン政権に対し、「友情ある意見表明」「友情ある助言・説得」「友情ある働きかけ」をためらわずに行う。かつてのイニシアチブによる「国際政治的財産」を食いつぶしてはならない。ポル・ポト派裁判、汚職防止法のような、この国の民主化への当面の必要条件がきちんと実現するよう、協力する。
提言23.民主化や人権問題に取り組んでいる現地のNGOの存続と活動拡大のために一層の支援に努める。
<チベット情勢関連> 提言24.中国の人権抑圧に対し、日本が非難決議を採択することは難しいであろう。まず「EUや米国の決議を支持する」という決議を採択することが望ましい。
提言25.日本がアジアでリーダーシップをとるには、まずアジアの問題に勇気を持って発言することである。その対象が中国であっても、基本姿勢を貫くべきだ。それが、国際社会から尊敬される重要な条件である。
提言26.チベットに鉄道が通り、日本のマスコミでも取り上げられている。鉄道開通は決して悪いことではないが、それでチベット人が得るもの、失うものに関心を持ってほしい。関心を持つことも、中国の植民地化に対して警告を発する一歩である。
提言27.先進7か国では、日本以外、ほとんどの首脳がダライ・ラマ法王と会っている。日本の首脳もまず法王との会談を実現してほしい。
<新疆ウイグル情勢関連> 提言28.情報能力が高く、ある程度社会に情報を還元できるようなインテリジェンス機関を設置する。ただし、官僚が主体でなく(!)、民間や学術界から広く人材を求めるべきである。まずは、正確な現状把握が大切。
提言29.「日本・アジア・世界の近現代史」を高等学校の必修科目にする。間違った論理が、まるで真実であるかのように社会に流通してはならない。現在の国際社会が形成されていく過程・近現代について、基礎的知識が必要である。
提言30.民主国家として日本は、政治犯・政治亡命者をもっと受け入れるべく努力すべきである。
☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆〃☆
さらに、研究チームは以下の付設を述べているので、これも合わせて、ご紹介したい。
☆━━━━…‥・ ☆━━━━…‥・
以上の提言は、原則的なものと具体的施策とがミックスされている。提言1、9、10、16、17、18、20、25、26、28、29などは、日本政府や日本国民が、もっとアジアの中の現状に関心を持ち、知り、発言や行動につなげて行くべきだとの原則に関わっている。まずは問題を知ること、知ろうとすることが重要だと強調したい。 提言9は、日本の外交理念、戦略の再構築を求めている。これまでのままの原則では駄目なのだ。
具体策の提言も、もちろんみな原則に関わっている。ODAに民主化、人権支援をもっと反映させること、民主化や人権に関わるNGOやシンクタンクの強化、難民、政治亡命者や北朝鮮からの一般脱北者、の受け入れ、留学生受け入れの質的改善、人的交流の拡大における配慮、日本の首脳もダライ・ラマ14世と会談すべきこと――どれもそうである。
すでに十分判っていると思われることもあるだろう。だけど、実際には難しくてそう簡単にはできないのだと言われるかもしれない。しかし、アジア諸国の現実問題をタブー視したり、目をつぶったりしていながら、自分だけが民主主義大国だ、人権立国だなどとうぬぼれているのは無責任だ。そうした思いが、これらの提言の土台となっている。
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吹浦 忠正
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感謝とともに去る [2006年12月28日(Thu)]
まもなく東京財団を後にします。
思えば5年9ヶ月、お世話になりました。私の前任者は竹中平蔵さんでした。ですから引継ぎは、大臣室で行いました。後任は、私にはまだわかりません。すばらしい人が来てくださることを期待しています。
新しくできる「ユーラシア21研究所」の代表として、東京財団の弟分の団体をしっかり盛り上げてゆきたいと思います。
みなさまから花束と記念品をいただきました。御礼申し上げます。加藤秀樹会長からも身に余る送辞を頂戴しました。
東京財団の益々の発展を祈ります。ありがとうございました。 写真中央は、阿曽村智子、森絵里沙(ヴ・ティ・キム・スアン)両博士(東京財団リサーチ・フェロー)に囲まれて記念写真。お二人にはお世話になりました。 写真下は、東京財団きっての?「妙齢の美女」(なぜか背中からの写真であるのはカメラマンのイジワル?)から、花束と記念品をいただき、ご機嫌の筆者。
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吹浦 忠正
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ユーラシア21をよろしく [2006年12月22日(Fri)]
ちょうど今日、本欄をご覧くださった方がのべ15万人を超えたそうだ。「恐れ入ります」というほかない。
今、引越しのさなかである。東京財団からユーラシア21研究所へ。
笹川陽平会長をはじめとする日本財団の特段のご高配と、海洋政策研究財団、ビル管理会社BMCのご温情により、どこかの会長をやめた人の渋谷よりはるかに「一等地」である虎ノ門で、ロシア、日露関係を焦点とする研究所を開設することが出来、仲間とともに、わが師・末次一郎の衣鉢を継ぎ、引き続きこの課題に挑戦することが出来るようになった。
まずもって日本財団、海洋政策研究財団、ビル管理会社であるBMCに最大の謝意を表したい。
この10日間、私は、よんどころのない所用が重なり、1時間ほど前に初めて「現場」を見てくることが出来た。東京財団からは私の短足で631歩。ごく近い。総務のプロ・宮本事務局長が関係団体のご協力をえて、内部を完璧に準備してくれた。いい人を得たと紹介してくれた日本財団の尾形理事長に感謝している。
常務理事はきわめて若い。小欄恒例の表現をもってすれば「妙齢の美女」。ロシア語と英語に堪能な吉岡さん。袴田茂樹青山学院大学教授の「秘蔵っ子」であるからして、研究上は私ははるかに及ばないが、研究推進上の私のパートナーである。「若手の育成」「次世代への継承」は、笹川会長の「至上命令」であると心得ている。
ほかにもう一人「妙齢の美女」多賀谷さんが鎮座ましましているが、これまた私が家族ぐるみでご指導いただいている西原正前防衛大学校長(平和安全保障研究所理事長、ユーラシア21研究所理事)のご紹介だ。「変なムシ」が付かないようにするのが、こちらの「至上命令」か。
このほか私と同世代の月出皎司前県立新潟女史短大教授は在宅勤務の形で引き続きロシア語のHPの編集長をしてくれる。
「美男美女」なんて期待しない。「善男善女」であってくれればいい。そんなたわごとより、「老若男女」が談論風発する雰囲気を大事にしたい。
とここまで書いたところで、
「車が」でますよ〜っ」の声。これにて初日の紹介はおわり。
「すぐ行きま〜す」。私の声も弾んでいるようだ。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
年内はあと数回来ますが、とりあえず、みなさんに感謝しながら、日本財団ビルを去ります。5年半、お世話になりました。
ありがとうございました。
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吹浦 忠正
at 18:44 |
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東京財団をよろしく [2006年12月22日(Fri)]
東京財団が中国青年報別冊『氷点』前編集長・李大同氏(り だいどう/Li Datong)講演会を開催したことは小欄でもご紹介しました。
これはひとえに担当した星野晶子さんのご尽力とバックアップした関係者の方々の努力によるものです。そこで、小欄では皆さんに是非、内容のエッセンスに触れていただきたく、星野さんのブログから一部「盗用」して、お伝えしたいと思います。(ここまで書いたところにちょうど星野さんが私の部屋に現れましたので、お許しをいただきました。)
星野さんは、まず、直前のご案内だったにも関わらず大勢の方にご参加いただいたことをみなさまに感謝し、講演会のほんの一部が、21日(木)NHK-BS「きょうの世界」で放送されたことを伝えています。
以下が、星野さんのブログにある報告です。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
中国青年報は共産党の下部組織共産主義青年団の機関紙です。1994年に『氷点』は創刊されました。2006年1月24日に中国の歴史教科書の記述を批判した中山大学袁偉時教授の論文「現代化と歴史教科書」を掲載したことを理由に中国当局より停刊処分を受けました。停刊処分をめぐって、多くの知識人や中国共産党の元高官らが公開書簡などで抗議、復刊を要求し、2月16日に、党は李編集長、副編集長を解任し、復刊を認める決定を行いました。
今回、その解任された編集長の李大同先生からは、今の中国の言論と社会についてお話をいただきました。
まず、『氷点』の停刊と、李先生ご本人、有識者、言論OBなどの正式な抗議により、初めて復刊に至ったことについての経緯、背景についてお話がありました。
『氷点』は、人々の求めに応じて記事を作る、嘘をつかない、ことを基本方針として普通の人々の生きた真実を伝えることを目標に編集され、中国のジャーナリズムに新しい視点を提供したとのことです。
私が李先生のお話の中で印象的だったのは、以下のご発言です。
「法律に基づき、ルールにのっとって、中国共産党内で抗争することは、もはや夢物語ではない。問題は、それをやる勇気を持つ人がいるかどうかということです。民主・言論の自由という権利も、誰かが与えるものでも、天から与えられるものでもない、私たちががんばって、それを貫いて勝ち取ることだと思います。」
李先生は中国のメディアの将来には希望があるとの見方をされています。
反中、親中、眉中、嫌中、こうしたレッテル貼りではわからない、中国のメディアをめぐる生の情報、そしてそこから伺える中国社会の変化の実像を知る大変貴重なお話をしていただきました。
他にも、これまでの中国のイメージが変わるような大変率直なお話を伺いました。
☆ .。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
私は今朝から引越しの真っ只中(12月28日まで在籍)です。ですから、いかにも手を抜いたような小欄の書き方で恐縮ですが、東京財団ではこれからもさまざまな機会をつくってゆくはずです。東京財団のHPとともに、各職員のブログなどにも目を通してみてください。
虎ノ門DOJOは258回をもってこのほど終了しました。これからは私も司会者としてではなく、気楽な参加者としてときどき顔を出そうと思っています。
たぶん今日中に、小欄もトップページが新しくなるかと思います。今年の1月からでしたので、1年近く、みなさまがご愛?読くださったことに心から御礼申し上げます。はからずもしばしば「人気ブログ」のリストにも登場したようで、カンパンブログの「紙価」を下げたことを案じております。
これからは、ユーラシア21研究所の理事長となりますが、引き続き、思いのたけをカンパンブログの場で書き綴って参りたいと思います。
小欄同様、大刷新を進めている東京財団を今後とも、よろしくお願いいたします。
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吹浦 忠正
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