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フィナンシャル・インクルージョン研究会公式サイト

世界のすべてのひとびとに、必要な金融サービスを届けるための総合的な取り組みであるファイナンシャル・インクルージョン(financial inclusion:金融包摂)について、研究成果を紹介し、ともに考えていくサイトです。


2020年度第1回小関隆志明治大学教授著「外国人(移民)の金融排除・金融包摂に関する予備的考察」ご紹介 [2021年03月25日(Thu)]
日本における外国人在留者が年々拡大する中、特にコロナ禍で日本における外国人(すなわち、日本国籍を持っていない人)の金融排除の深刻さが表面化してきている。外国人技能実習生への本国の送り出し機関からの違法な手数料の徴収、多額の借金を背負って来日した技能実習生の実習実施機関からの逃亡など、昨年はメディアでも大きく取り上げられた。明治大学小関隆志教授の2021(令和 3)年 3 月 23 日発行 明治大学経営学研究所 経営論集 第 68 巻 第 4 号「外国人(移民)の金融排除・金融包摂に関する予備的考察」は、在留外国人がいかに金融排除に苦しんでおり、日本社会は、彼らをどのように金融面で包摂していくべきかを欧米諸国の取り組みも紹介の上、予備的考察を行っている。今後の調査・研究を踏まえた続編が大いに期待される。見出しは次のとおりである。まず、ご一読願いたい。
経営論集-68-4-06-小関隆志先生.pdf
はじめに
第1 節 外国人に対する社会的排除
第 2 節 外国人に対する金融排除
(1)送金
(2)銀行口座開設
(3)金融排除と社会的排除
第 3 節 欧米諸国における移民の金融排除・金融包摂
(1)移民の金融排除問題
(2)金融包摂の取り組み
おわりに

(参考)厚生労働省の外国人雇用状況統計(2020年10月末現在)によれば、
• 外国人労働者数は1,724,328 人で、前年比 65,524 人(4.0%)増加し、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新したが、増加率は前年 13.6%から 9.6 ポイントの大幅な減少。
• 外国人労働者を雇用する事業所数は 267,243 か所で、前年比 24 ,635 か所(10.2%)増加し、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新したが、増加率は前年 12.1%から 1.9 ポイントの減少。
• 国籍別では、ベトナム(注1)が中国を抜いて最も多くなり、443,998 人(外国人労働者数全体の25.7%)。次いで中国 419,431 人(同24.3%)、フィリピン184,750 人(同10.7%)の順。一方、ブラジルやペルーなどは、前年比で減少している。
(注1)ベトナムは「技能実習」が 49.2%、次いで 「資格外活動」のうち「留学」が 28.7%を占めている。留学生は、学期中は、週28時間までの就労が可能。
• 在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格」の労働者数が 359,520 人で、前年比 30,486 人(9.3%)の増加。また、「技能実習」は 402,356 人で、前年比 18,378 人(4.8%)の増加となっている。一方、「資格外活動」(留学を含む)は 370,346人で、前年比 2,548 人(0.7%)減少となっている。
1.労働者数が多い上位3資格
@身分に基づく在留資格(注2) 546,469 人 (全体の 31.7%) 〔前年 531,781 人〕
A技能実習 402,356 人 (同 23.3%) 〔同 383,978 人〕
B資格外活動(留学含む) 370,346 人 (同 21.5%) 〔同 372,894 人〕
(注2)「身分に基づく在留資格」には、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」が該当する。
2.増加率が高い上位3資格
@特定活動 45,565 人 [前年比 10.9%増] 〔前年 41,075 人〕
A専門的・技術的分野の在留資格(注3) 359,520 人 [同 9.3%増] 〔同 329,034 人〕
B技能実習 402,356 人 [同 4.8%増] 〔同 383,978 人〕
(注3)「専門的・技術的分野の在留資格」には、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職 1 号・2 号」、 「経営・管理」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術・人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興行」、「介護」、「技能」、「特定技能」(注4)が該当する。
(注4)特定技能資格者:2019年4月に新たに施行された在留資格で、出入国在留管理庁が公表している特定技能外国人数は令和2年9月末時点で 8,769 人
文献紹介 目次 [2016年05月16日(Mon)]
2016-6「相互扶助の経済-無尽講・報徳の民衆思想史-」
2016-5「マイクロファイナンス事典」
2016-1「G20サミットで紹介された途上国発の金融包摂イノベーション」

2015-16「ミャンマーのファイナンシャル・インクルージョンとマイクロファイナンスを巡る状況」
2015-13「マイクロクレジットの危機回避:バングラデシュのケース」
2015-10「2014年度カンボジアのマイクロファイナンス」
2015-6「シャリア適格マイクロファイナンス商品の費用と持続可能性に関する理解」
2015-4「Financial Inclusion(金融包摂)〜最近のG20を中心とした動向〜」
2015-3「善意で貧困はなくせるのか?−貧乏人の行動経済学−」
2015-2「貧乏人の経済学−もう一度貧困問題を根っこから考える−」
2015-1「最底辺のポートフォリオ−1日2ドルで暮らすということ−」



文献紹介2016-6a「相互扶助の経済-無尽講・報徳の民衆思想史-」 [2016年05月11日(Wed)]
社会デザイン学会 ファイナンシャル・インクルージョン研究会文献紹介2016年第3号を公表します。http://fields.canpan.info/report/detail/19001
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(内容)
本書は、カリフォルニア大学プレスが2009年9月に刊行した著者:ナジタ・テツオ
「ORDINARY ECONOMIES IN JAPAN-A Historical Perspective, 1750-1950-」 http://www.ucpress.edu/book.php?isbn=9780520260382
の日本語翻訳版で、みすず書房から2015年3月発行された
(監訳者:五十嵐暁郎、訳者:福井昌子)。
http://www.msz.co.jp/book/detail/07889.html
(趣旨)
ナジタは、我々が貧困問題への対応において、1970年代バングラデシュにおいてモハンマド・ユヌスらが貧困女性を対象に、グループ連帯責任、集会方式という社会的関係性を担保に金銭的・物的担保を取らない当時としては画期的な融資・返済方式を採用してマイクロクレジットを提供して貧困削減への取り組みを開始したことを知るずっと以前に、日本国内において、民衆が飢饉や自然災害あるいは病気や葬式等の緊急時に、さらには投資のために、必要な資金を民衆の間で調達するためのメカニズムが存在していたことを紹介している。それは、かつて、西日本では頼母子講、東日本では無尽講とよばれていた相互扶助組織である「講」である。

本文献紹介では、日本の民衆経済の手段として活用されてきた無尽講や頼母子講と世界の貧困削減のツールとして、実践されてきたマイクロファイナンスやファイナンシャル・インクルージョンの取り組みとの共通性をさぐってみる。

(参考)その他の書評
1) 講・報徳が歴史の表舞台に登場しない理由や二宮尊徳が徳川末期に始めた報徳運動に焦点をあてた書評 http://www.msz.co.jp/topics/07889/ 
2) 杉田敦史法政大学教授 http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2015042600014.html
3)濱田武士東京海洋大准教授http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20150610-OYT8T50293.html
文献紹介2016-5a 「マイクロファイナンス事典」 [2016年05月03日(Tue)]
社会デザイン学会 ファイナンシャル・インクルージョン研究会文献紹介2016年第2号を公表します。http://fields.canpan.info/report/detail/18981
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(内容)本書は、MF欧州研究センター(CERMi)が2011年に刊行した「The Handbook of Microfinance」の日本語翻訳版で、明石書店から2016年1月発行された。監訳者は、立教大学教授を経て、現在跡見学園女子大学マネジメント学部教授である笠原清志教授、訳者は翻訳家の立木勝氏である。 本書のオリジナルは、MF分野の研究の最先端を走る48名の学者・実務家の論文を集大成したもので、世界20数か国のMFの現状、金融の相互扶助組織、共同組合等を対象に行われたリサーチに基づき、理論的整理を行った内容となっている。日本語版はオリジナルの刊行から実に4年の歳月を経て発行された。全体で700頁以上におよぶ大作である。

本文献紹介で紹介した関連サイト

◆マイクロファイナンス事典 明石書店紹介サイト
http://www.akashi.co.jp/book/b217165.html
◆オリジナルmicrofinance handbook CERMi紹介サイト
http://www.cermi.eu/documents/TheHandbookofMicrofinance-Announcement-updated.pdf
◆CGAP(貧困削減諮問協議グループ)のフォーカス・ノート・サイトhttp://www.cgap.org/publication-type/focus-note
◆CGAPフォーカス・ノート アンドラ・プラデシュ州のマイクロファイナンス危機(2010年11月No67号、Andhra Pradesh 2010 : global implications of the crisis in Indian microfinance)
https://www.cgap.org/sites/default/files/CGAP-Focus-Note-Andhra-Pradesh-2010-Global-Implications-of-the-Crisis-in-Indian-Microfinance-Nov-2010.pdf
◆社会デザイン学会ファイナンシャル・インクルージョン研究会サイトhttps://blog.canpan.info/finclsg/
◆辻一人埼玉大学教授(CGAP経営委員長)執筆、2015年11月23日付CGAPブログ“The Five Most Dramatic Changes in 20 Years of Financial Inclusion”
http://www.cgap.org/blog/five-most-dramatic-changes-20-years-financial-inclusion
◆2013年2月19日世銀発行新マイクロファイナンスハンドブック(The New Microfinance Handbook
https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/12272/9780821389270.pdf
文献紹介http://fields.canpan.info/report/detail/16781
文献紹介2016-1a 「G20サミットで紹介された途上国発の金融包摂イノベーション」 [2016年01月15日(Fri)]

社会デザイン学会 ファイナンシャルインクルージョン研究会文献紹介2016年第1号を公表します。http://www.iima.or.jp/Docs/topics/2015/274_j.pdf

(内容)最近急速に普及しているモバイルマネーサービスの決済メカニズムに焦点を当て、この分野の金融包摂(FI)イノベーションの現状と課題を簡潔にまとめたGPFIレポート。2015年11月のトルコG20首脳コミュニケに添付されていたもの。FIイノベーションが金融インフラや経済・社会インフラ整備の牽引役となりうるとの視点をあらためて提供。

(公益財団法人 国際通貨研究所 2015年12月8日、執筆者:福田 幸正)

紹介者:福田 幸正


文献紹介2015-16a「ミャンマーのファイナンシャル・インクルージョンとマイクロファイナンスを巡る状況」 [2015年11月04日(Wed)]
社会デザイン学会ファイナンシャル・インクルージョン研究会文献紹介第8号を公表します。
この資料は末尾の文献からミャンマーの金融包摂、マイクロファイナンスに関する注目される点を整理したものです。
http://fields.canpan.info/report/detail/18688
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本件文献紹介に対して、辻一人顧問から包括的なコメントを、ミャンマーの現場でMF関連の活動を行っている黒柳英哲さん(リクルージョン(株))から現場での経験に基づく示唆に富むコメントを頂きましたので、文献紹介と対比してご一読いただけますようお願いいたします。

1. 辻先生コメント
ミャンマーの事例は、他国と異なって、@金融セクター全体の市場経済化と、A包摂的金融・マイクロファイナンスの発展とが、同時進行している面白いケースだと考えます。
@のボトルネックのせいでAが進まない部分があるだろうし、@のボトルネックはさておいてAが進んでいる部分もあるでしょう。
すなわち、@の進展があってこそAの発展がもたらされ、あるいはAの発展が@の進展に刺激を与える可能性もあります。Aだけでなく@(金融セクター全体の市場経済化)にも注目する必要があります。

2. 黒柳氏コメント
(1)文献紹介のスライドの説明に関するコメント
スライド7:ミャンマーマイクロファイナンスを巡る状況(その1)
MFI免許は、内外に開放。免許取得の要件となる最低資産額は大きくなく免許取得のハードルは高くない(通常型約1.47万ドル、貯蓄受入型で約2.94万ドル)。(為替レートは、2014年末の1$=1020MMK)

→法文上はそうなっていますが200機関を超えたあたりから当局側が抑制的なライセンス発給に移っています。実際には数倍から10倍程度の資本を要求される。収益性の低い地方や農村での支店開設を条件として提示される。1年間限定の仮ライセンスしか発給されないなど。

※ちなみにここ数ヶ月の為替レートは、1$=1280MMK前後です。
(新興国通貨下落がひと段落して、一旦下げ止まりしています)

MFIは、融資、貯蓄、送金、保険、内外からの借入ほかが理論上可能。但し、中心は融資。インフレ率が高く、貯蓄のインセンティブは乏しく、預金者の保護のための法整備も不十分

→法文にはありますが、FRDの運用上は「送金」と「保険」はまだ認められていません。

スライド8:ミャンマーマイクロファイナンスを巡る状況(その)/strong>
MFサービス金利には制限あり(融資金利上限は年利30%、月利2.5%。預金金利下限は年利15%(参考:商業銀行の最低金利は8%)、月利1.25%。

→「融資金利上限は年利30%、月利2.5%」ですが、FRDの通達により2015年1月からFlat Rateが禁止されDeclining Rateに移行。つまり実質金利は限りなく年利15%に近い状態にあります。

最低預金金利と最高融資金利の差は小さいため、預金受入型のMFIの経営は容易でない。

→金利差の課題に加え、融資中のローン金額の5%までと預金の受け入れが(顧客保護の観点から当局の運用によって)制限されています。また融資実行中の顧客以外からの預金受入れも認められていません。

1件あたりの貸付上限額が、0.5百万MMK(約490ドル)から5百万MMK(約4,900ドル)に拡大(2014年10月より)

→全てのローン商品にはFRDの認可が必要なのですが、5,000ドル近い高額のローン商品はほぼ認められず、私の知る限り500〜1,000ドル程度が最高と思われます。(ほとんどのMFIのローン商品構成は50〜150ドルが中心価格帯です)

スライド12:MFI免許付与先は多様化、しかし顧客数では国際NGOが圧倒

→これはINGOが強いというよりも、PACT (PACT Global Microfinance Fund)という米系NGOが顧客60万人と一人勝ちしているためです。(PACTは、MF法ができる以前からUNDPの開発プロジェクトとして全国に展開して、ミャンマーのマイクロファイナンスをほぼ独占してきました。)

スライド24:今後のミャンマーMFIに関する筆者注目点次のとおり。
5.カンボジアのAcledaやバングラデシュのBRAC等有力な外国MFI・銀行が進出しているの国内MFI発展への影響。

→当地で感じるのは、ミャンマー人のマイクロファイナンス関係者と、外から入ってきたマイクロファイナンス専門家(外資MFIやコンサルタント)との情報格差です。
ミャンマー人のマイクロファイナンス関係者はほとんど、PACTか協同組合省の出身者。長らく競争市場ではなかったため疑うことなく伝統的な方式を踏襲している印象を受けます。一方、他国市場を知る外国人関係者の方がビジネス的視点を持ちグローバルな情報にも詳しい。運営方法も洗練されています。(参考:但し、一部外資MFIにはやや強引な手法等問題点も看取される趣き)

(2)現場からの視点
ミャンマーのマイクロファインス市場は開放後4年あまり。まだ発展途上で様々な課題がありますが、私(黒柳氏)の感じている今後の課題については下記の通りです。

1.優良な事業者が残り、顧客ニーズとのギャップを埋める市場環境整備 

 当局の抑制的な運用により収益性の高い市場環境には全くなっていません。そのため(健全な経営を行う)優良なプレーヤーが参入しにくい状況にあり、またコストのかかる地方へのリーチ拡大の障壁にもなっています。
 また本来融資との両輪となるべき貯蓄サービスが、消費者保護の観点から過剰な規制下にあり、逆に利用者の利便性を損なっています。

2.民間企業中心の市場における社会性の担保
 
 NGOと民間企業の両方に事業が認められていますが、民間企業に有利な制度体系になっています。直近2年では企業が倍増(72社→143社)し、逆にNGOは微減(36機関→31機関)しました。
 企業の思惑は様々ですが、国際的な潮流となりつつあるSPM(Social Performance Management:社会的経営管理)や社会的インパクト評価、貧困削減へのコミットなどといった話題はあまり聞こえてきません。

3.MIS(Management Information System:MF向けITシステム)の普及 
 ミャンマーではMISの入手経路が限られ、また多額の初期投資が必要になります。ほとんどの事業者は紙台帳とエクセルで業務と経営の全てを管理しており、エクセルすら導入していないMFIも多いのが現状です。
 MFIに求められる「事業の持続性」と「社会的成果」、そのどちらの目的のためにも経営情報と顧客情報の正確な把握が必要不可欠でありMISの普及が求められます。
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(引用文献)
・CGAP Blog: Eric Duflos, “Low Financial Inclusion, High Cash Usage in Myanmar”, 22 April 2015
http://www.cgap.org/blog/low-financial-inclusion-high-cash-usage-myanmar-1・Giz: “Myanmar’s Financial Sector A Challenging Environment for Banks ”(Updated Version), February 2015
https://www.giz.de/en/downloads/giz2015-en-myanmar-financial-sector.pdf
・LIFT: “Wholesale Microfinance Support Facility: Myanmar”  11/11/2013
http://lift-fund.org/Publications/Wholesale_Microfinance_Support_Facility.pdf・CGAP/IFC: “Microfinance in Myanmar Sector Assessment” Jan., 2013
http://www.cgap.org/sites/default/files/Microfinance%20in%20Myanmar%20Sector%20Assessment.pdf・Making Access Possible MAP,“Myanmar Financial Inclusion Roadmap2014-2020”
http://www.uncdf.org/sites/default/files/Documents/myanmar_fi_roadmap.pdf・The Microfinance Law(The Pyidaungsu Hluttaw Law No.13) 
 The 5th Waxing Day of Nadaw, 1373 M.E.(30th, November, 2011)
https://www.google.co.jp/#q=uncdf+myanmar+microfinance+law
(紹介者)八木正典



文献紹介2015-13a「マイクロクレジットの危機回避:バングラデシュのケース」  [2015年09月23日(Wed)]
社会デザイン学会ファイナンシャル・インクルージョン研究会文献紹介第7号を公表します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
著者: グレッグ・チェン、スチュアート・ラザフォード
 (CGAPフォーカス・ノートNo 87、2013年7月、20頁)
Greg Chen, Stuart Rutherford, “Microcredit Crisis Averted: The Case of Bangladesh,” July 2013, CGAP Focus Note No.87
http://www.cgap.org/sites/default/files/Focus-Note-A-Microcredit-Crisis-Averted-July-2013.pdf
(文献紹介本文) https://www.dropbox.com/s/rhjnlfgxd7cs0f7/literature%20introduction%20on%20CGAP%20focus%20note%20The%20Case%20of%20Bangladesh%20No.87.pdf?dl=0
(canpan事業成果物リンク)http://fields.canpan.info/report/detail/18553
本稿に関連して、当研究会辻顧問(CGAP経営委員長)から、バングラデシュのMFIが抱える課題として主として次の4点が考えられるとのご指摘を受けた。
1) 預金ライセンスの発行促進と監督体制強化、
2) 融資への偏りの是正と商品・サービスの多様化、
3) 金利上限に象徴される建前としての非営利性・NGO性と、金利上限設定の結果一件当り融資規模が大きくなり社会性が損なわれていることとの矛盾、
4) 商業性を抑えている結果としての(4大MFIの)寡占状態。

紹介文献の共著者のひとりで、先日当研究会勉強会でお会いしたラザフォード先生は、貧困層が直面するお金の管理に関する3つの大きな問題は、@日々のお金のやりくり(貧困層は収入が不定期であることが多い)、A緊急時(稼ぎ頭の急病、失業、自然災害による収穫激減等)への対応、B大きな資金形成(出産、結婚、教育、葬祭あるいは起業に備えるため)、であると指摘されている。そして、この3点をすべてカバーするカギは預金であり、預金と融資(ローン)の連携を高めることによって、貧困者はその資金ニーズに関する問題を克服できる可能性が高まると指摘されている。

MFIが提供する商品・サービスは、顧客の様々なニーズにきめ細かく応えることが求められており、なかでも預金の重要性が近年強く認識されている。預金は、顧客の側の債務負担を軽減するだけでなく、MFIにとっても内部資産の比率を高めることによって彼らの経営の安定に寄与すると思われる。預金取得型MFI制度創設が議論されているが、まさに辻顧問指摘のとおり、MFIへの預金ライセンスの付与とMFIの健全性・透明性を確保する観点からの監督体制の強化に今後ますます焦点があてられていくものとみられる。

一方、バングラデシュ政府が貸出金利の上限を27%に設定したことには、ジレンマがある。ひとつは、上限設定により、顧客である貧困層が過大な負担から保護されるという社会的側面が指摘できる一方で、MFIにとっては、顧客に上限を超えて負担を転稼できなくなるため、持続的経営が悪影響を受ける可能性が出てくる。そのため、MFIは、1件当たりの融資規模を拡大するか、コスト削減による経営効率を高める必要が出てくる。BRACは、もはや1件あたり125ドル以下の少額融資を提供しておらず、最貧困層の資金ニーズにどう応えるのかが課題となっている。ASAは、徹底的に経営効率を高めることによって危機を乗り越えようとしている。当然、スタッフにとっても、顧客にとってもルールが厳格に適用され、ゆとりが損なわれることになる。グラミン銀行は、バングラデシュの中で最も預金を集めているMFIであり、そのため、貸出金利を22%にとどめている。

バングラデシュのMF市場が4大MFIの寡占状態にあることも多様性とダイナミックな発展を妨げている可能性がある。ラザフォード先生は貧困世帯の金融生活を、定期的にフォローし、長期間にわたってその実態に迫ろうとするファイナンシャル・ダイアリィ(FD)の調査を実施しているが、バングラデシュにおいては、そのような調査結果も参考に、ますます多様化する貧困層の資金ニーズに応えることができるよう、部分的にはMFIに商業性を許すような規制緩和も検討する時機に差し掛かっていると考えられる。

(八木正典)
文献紹介2015-10a 「2014年度カンボジアのマイクロファイナンス」 [2015年08月17日(Mon)]
原著名:National Bank of Cambodia, "Supervision Report 2014"

カンボジア国立銀行(NBC)から、待望のSupervision Report 2014が発行されました。
http://www.nbc.org.kh/download_files/supervision/sup_an_rep_eng/Annual-EN_OK.pdf
同レポートは、NBCが管轄する銀行、マイクロファイナンス機関の業績、活動状況を網羅的に集計し、年1回英文で公表されています。今回のレポートの注目点を中心に、カンボジアのマイクロファイナンスの現状をご紹介します。
http://fields.canpan.info/report/detail/18483
マイクロファイナンス機関については、NBCが免許を付与した(通常型)免許取得MFI(Microfinance Institutions)33機関、預金免許取得MDI(Microfinance Deposit Taking Institutions)7機関の40機関のうち、2014年中に報告を行った39機関について、内容を確認することができます。
カンボジアでは、外貨(とりわけドル)が流通しており、また、マイクロファイナンスの原資も外貨の割合が極めて高く、政府もMF関連の規則整備に積極的に取り組み、透明性の確保にも努めてきています。同国は、MFに関心を有する国外の投資家、金融関係者、企業、開発関係団体にとってアクセスしやすい国であると考えられます。

(紹介者)八木
文献紹介2015-6a「シャリア適格マイクロファイナンス商品の費用と持続可能性に関する理解」 [2015年05月27日(Wed)]
社会デザイン学会 ファイナンシャルインクルージョン研究会文献紹介第6号を公表します。

(著者)マヤダ・エルゾアビ、ケイレネ・アルバレズ
(CGAPフォーカス・ノートNo 101、2015年2月、12頁)
(原書名)Mayada El-Zoghbi and Keylene Alvarez,“Understanding Costs and Sustainability of Sharia –Compliant Microfinance Products”Feb.2015, CGAP

(内容)シャリア(イスラム法)適格マイクロファイナンス(MF)商品に関するフォーカス・ノート最新作。2013年のフォーカス・ノートで取り上げられたシャリア適格(sharia-compliant)のマイクロ金融商品は、大型のイスラム金融商品に比べて浸透しておらず、サービスを多様化していく必要があるとの指摘をうけて、2つのシャリア適格商品の可能性をケーススタディしている。ひとつはアルジェリア・バラカ銀行(Baraka Bank Algeria)が提供する所有権逓減型ムシャーラカであり、他のひとつはパキスタンのワシール財団(Wasil Foundation)が提供するシャリア適格商品であるサラームである。本文献紹介においては、フォーカス・ノートNo84(Mayada El-Zoghbi and Michel Tarazi, 2013, “Trends in Sharia-Compliant Financial Inclusion”, CGAP Focus Note84, Washington D.C)http://www.cgap.org/sites/default/files/Focus-Note-Trends-in-Sharia-Compliant-Finanicial-Inclusion-Mar-2013.PDFで指摘された点を押さえたうえで、今回のフォーカス・ノートNo101の注目点を紹介する。
(紹介文)http://fields.canpan.info/report/detail/18322
紹介者:八木 正典

文献紹介2015-4a 「Financial Inclusion(金融包摂)〜最近のG20を中心とした動向〜」 [2015年05月10日(Sun)]
社会デザイン学会 ファイナンシャルインクルージョン研究会文献紹介第4号を公表します。

(内容)マイクロクレジットはマイクロファイナンス、さらにはファイナンシャル・インクルージョン(FI)へと進化。グローバル金融危機を境に、経済・金融に関する国際協調のプラットフォームがG7からG20にシフトしていく中で、従来G7では扱われなかったテーマが国際的な議題として上がるようになった。その一つがFI。今後のG20などでの進展を見る際の視点を提供。

(公益財団法人 国際通貨研究所 2010年8月24日、執筆者:福田 幸正)
http://fields.canpan.info/report/detail/18289
紹介者:福田 幸正

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