ユスフ・ギラニ新首相就任と今後のパキスタン政治情勢 [2008年03月27日(Thu)]
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パキスタンでは、ブット元首相に対する自爆・暗殺テロ事件(07.12.27)から53日後に下院総選挙が実施(08.2.18)され、野党第1党のパキスタン人民党(PPP)と第2党のパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)が圧倒的な勝利を収め、現ムシャラフ政権を支えてきたパキスタン・イスラム教徒連盟カイディザム派(PML-Q)は、第3党となり惨敗した。
主要野党はこの結果を受けて、ムシャラフ大統領弾劾に向けた動きを活発化させたが、当面の国内政治の混乱を避けるために、ムシャラフ政権を支持するPML-Qとの連立政権の樹立を目指すのではなく、野党結集を最優先する動きを踏襲してきた。 しかし、野党第1、第2党間の政策方針については、双方の政治的利害が対立し、結局、PPPの共同総裁で故ブット元首相の夫であるザルダリ氏とPML-Nを率いるシャリフ両氏との間で、3月9日になってはじめて連立政権の樹立合意に至った。 この間、パキスタン情勢の悪化を回避するために、米英両国と、おそらくサウジアラビアがムシャラフ大統領、軍、そして野党各勢力間の調整に積極的に関わって、対立を回避したのが実状であろう。 そして、下院総選挙から実に34日目の3月24日に、PPPのユスフ・ギラニ副総裁が下院(定数342議席)の3分の2を超える指名を受けて、新首相に選出され、翌25日の宣誓式を経て、正式に新首相として就任した。 このような中で、ギラニ新首相が率いる内閣の政治運営が安泰であるのか、そしてムシャラフ大統領の去就がどのようになるのか、その舵取りが注目される。 現時点で、ムシャラフ大統領が政権の求心力を失い、敗北したわけではなく、軍部は未だに大統領に忠誠を示しているとみられるが、ギラニ新首相との関係をどのように構築していくのかもこれからの課題であろう。 もちろん、ムシャラフ大統領の立場が油断できない状況にあることは、総選挙の結果からも明らかなように、国民的支持を失っていることは周知の事実である。 また、PPPとPML-Nの両党は、連立政権樹立に関する合意の中で、昨年11月の非常事態宣言発令時に解任されたチョードリー最高裁長官を含む60人以上の判事を復職させることを決定している。 シャリフ氏は選挙運動中、判事の復職とムシャラフ大統領の弾劾を主要な政治的争点にしてきたため、この決定がシャリフ氏にとっては大きな勝利であり、宿敵であるムシャラフ大統領の罷免に大きく前進したと見ているであろう。 ところが、故ブット元首相の夫であるザルダリPPP共同総裁は、これまで以上に自己のあらゆる発言に慎重で、判事復職問題についても自らの政策を述べることをこれまで差し控えてきたほどである。 連立政権がムシャラフ大統領の弾劾に動かないとしても、判事の復職は、大統領に深刻な打撃を与えることは確実であり、大統領は最終的には辞任せざるをえない状況を迫られるかもしれない。しかし、そのような事態が直ちに訪れることはないであろう。 ザルダリ、シャリフ両氏の思惑は、判事を復職させれば、大統領弾劾に必要な議席数を確保することによって二人の政治的影響力のすべてと引き換えに、大統領の弾劾を目指す必要はなく、その代わりに、復職した判事らの法廷がムシャラフ大統領の再選の違憲性を主張して、結果的に大統領排除に取り組むことが可能になる自然の道筋ができるというものである。 ところが、このような思惑が、逆効果に働くこともあり得る。それは、両氏に対する汚職に対する大統領による免責措置の違法性が問われかねないからである。 このような情勢の中で、両者の思惑通りに情勢が進展するのかどうか、政治的混乱は終わったわけではないというのが実状であろう。 現在のムシャラフ大統領の動きも、明らかではない。与党となったPPPとPML-Nが今後の政治運営で対立を避け、どの程度協力していけるかどうかも未知数である。 かつてブット両元首相とシャリフ氏は、激しく対立した経緯が過去にあり、双方の党内にはその溝が残存したままであり、二つの主要政党が協力することを約束してはいるものの、両党間の政治運営と方策にはかなりの隔たりがあることには変わりがない。 その実態は、対立の火種をはらんだままであり、それが噴出して連立が崩壊する可能性も否定できないところであろう。 その中で、最も明らかで大きな相違点は、ムシャラフ大統領に対する対応を巡るものである。 シャリフ氏は政治的理由を超えて個人的な理由から、いかなる手立てをしてでもムシャラフ大統領を失脚させたいと考えている。 一方で、ザルダリ氏を動かすものは現実的な対応と打算だけであり、ムシャラフ大統領を攻撃することが自らの政治生命と自党の路線に有益であり、それが可能であるとの判断に至ればそれに応じるであろうが、その妥協には慎重に慎重を期すであろう。 現在、ザルダリ氏は、政治的混乱を招くことや対立を引き起こす決定的な動きをしないように、状況の成り行きにまかせておいたほうがよいと考えているのではなかろうか。 他方シャリフ氏は、PPPと手を組むことで、解任された判事を復職させ、おそらくムシャラフ大統領を実質的に排除する最良の機会を得たと判断している。 しかし、これが実現した時点で、ムシャラフ大統領側からの反動が皆無であろうか、そして連立政権が崩壊することもなく、政治情勢が安定を維持できるかどうかの予想はつかないのが実情であろう。 実際、第1党のPPPでは、党内における主導権をめぐって既に意見の不一致に直面しているといわれる。総選挙後、ザルダリ氏は首相候補者の指名を先送りしてきた。 党内では当初、アミン・ファヒム党副総裁の指名が最有力であると予想されていたものの、ファヒム氏がザルダリ氏にとっては脅威となる存在であり、伝統的にブット家の本拠地であるシンド州に築かれてきたファヒム氏の大きな権力基盤を怖れていることは明らかであろう。 しかし、シンド州以外から適当な首相候補者はおらず、ザルダリ氏自身が国会議員ではないため、首相になる資格がないことは紛れもない事実である。 首相候補者選出を巡るPPP党内の主導権争いが、今後のパキスタン政局に影響を及ぼす危険性を内在しているだけでなく、PPP指導部に対する支持者のイメージが失望となり、対外的な期待も評価も落ち込むことが懸念される。 |



