にせラブストーリー(第壱拾話)
[2008年08月06日(Wed)]
どうも、相談担当です。
また、新しい出会いです。
ある寒い日、終了時間ぎりぎりに飛び込んできた彼は、20代前半、茶髪のいわゆるイケメン、ギャル男タイプでした。頭に白い毛糸の帽子、首に同じく白い毛糸のマフラーをぐるぐる巻きにしたまま椅子に座っています。職業欄には「飲食業」と書かれています。
「オレ、今してる契約、解約したいんですけど・・」
「何を契約しているのですか?契約のキッカケから詳しく話してください」
そう言うと、彼は売買契約書と信販会社のローン契約書を机の上に出しました。契約はダイヤのルース(石のみ)となっています。
「半年前ぐらいかなあ、電話かかってきたんですよ、アイツから、あ、アイツって女の担当者なんですけどね、なんだかが当選しただのいろいろ言って会社に来てくれって、もう怪しいと思ったんだ」
「怪しいと思ったのに、何で出向いたんですか?」
「いや、まあ、とりあえず会ってみようかなって、会社に行ったら幾つかのテーブルと椅子だけが並んでて、それがカーテンで仕切られているんだ、それだけの部屋で、アイツと話していたら、何だか男が出てきちゃって、案の定、宝石を熱心に勧めてきたんだ、もうこれはヤバイ思った通りだって思って・・」
「思った通りってどういうことですか?」
「うん、だって、オレ、前に似たような会社にいたから・・その会社はキャッチだったけどね、手口なんかほとんど同じようなものだったし、テーブルの置き方とかも・・もうヤバイヤバイって」
何だか、いまいち掴みどころの無い会話が続きます。
「そこまで分かってて、じゃあ何で契約しちゃったのかしら?強引だったとか、帰してくれなかったとか、何か理由があるのですか」
「いや・・、そうだなあ、何となく」
本当に掴みどころのない会話が・・。
「何となくじゃあ解約の理由になりませんよ・・、しかも前職が同業者だったのなら、そういった契約にはクーリングオフがあることも知っていたのでは無いですか?」
「まあ、ただ、アイツとやり取りできればそれでいいかなって、だけど、3ヶ月ぐらいしたらアイツと連絡取れなくなっちゃったんですよ、それで、ああ、これは本当に騙されたんだなって、ホントアイツムカつく」
彼と会話をしながら、何か解約や取消事由が無いかどうか、頭をめぐらして聞きだそうとするのですが、彼は、なかなかわたしが期待するような答えを返してはくれません。
「もう、騙されたんだ、って思って、ローン払うの止めたんです」
「あら、既に信販に申し出て、支払いを止めているのですね」
「え、いや、普通に支払うの止めた、だって騙されたんだから、払わないの当たり前じゃないですか」
そう考えますか。なかなかストレートな対応です。同業にいた割には、彼は三者間契約をあまり理解していない様子でした。
「ちなみに信販会社に何も言わないで支払いとめたら、どうなるか分かりますか」
「そういえば、払えって、催促のハガキが着てます」
「当たり前です、信販会社はあなたに何が起きているのか分からないのですから、当然支払いの約束を守らないあなたに催促状や督促状を送りつけてきますよ」
「ああ、だからこんなにハガキが来てるのかあ」
彼は、改めてカバンの中を除き、数通の「督促状」と赤字で書かれたハガキや振込用紙が同封された封書をドサッと机の上に出しました。
「困りましたね、これでは、あなたは単に支払いのお約束を守らない人になってしまっているんですよ、このままじゃあ、将来、あなたがまたローンを組んだりクレジットカードを作ろうと思った時に、過去にお約束を守らなかった人は信用できないって言って、確実に撥ねられてしまいますよ、しかも信販会社からは訴訟を起こされかねませんよ」
「あー・・」
「売買契約がおかしいって思ったら、勝手に支払いを止めるのではなくて、きちんとおかしい契約だったんだって信販会社に主張して、今度は消費者の権利として請求を止めてもらわなければならないんですよ、権利の主張は自らしないと誰も救ってはくれませんよ」
「はあ・・」
「しかもあなたは、前にキャッチの会社にいたって言っていましたよね、分かっててなんで契約してしまうのでしょう・・ともかく・・」
もう、情けないやらなんやらで、さっきから説教モードに入り込んでしまっているのを、ハッと我に返って彼を見ると、彼はすっかりうなだれていて、首にぐるぐる巻きにしたマフラーに顔が半分めり込んでしまっています。毛糸の帽子とマフラーの間に目だけを出して、しょんぼり下を向いて椅子から滑り落ちそうです。
そんな彼の姿を見て思わず苦笑です。彼はどうしようもないけど、でもどこか憎めない人間だということが良く分かりました。
「じゃあ、とりあえず業者には解約の意思表示をしましょう、それと信販会社には、今度こそきちんと、支払いを止めてくれるよう主張しましょう」
「はい」
彼は、マフラーに埋もれていた顔をようやく上げて笑いました。
彼と話をして、彼が帰るとき「オレこれから仕事なんだ、これ、オレの勤め先」と言って、わたしに名刺を渡しました。
名刺には、彼の本名とは全く違う、なんだか宝塚に出てくるような名前が書かれています。
「オレ、ホストなんだ、良かったら来てよ」
営業時間がPM11時から翌5時って・・。無理だってば。
次週に続く。
また、新しい出会いです。
ある寒い日、終了時間ぎりぎりに飛び込んできた彼は、20代前半、茶髪のいわゆるイケメン、ギャル男タイプでした。頭に白い毛糸の帽子、首に同じく白い毛糸のマフラーをぐるぐる巻きにしたまま椅子に座っています。職業欄には「飲食業」と書かれています。
「オレ、今してる契約、解約したいんですけど・・」
「何を契約しているのですか?契約のキッカケから詳しく話してください」
そう言うと、彼は売買契約書と信販会社のローン契約書を机の上に出しました。契約はダイヤのルース(石のみ)となっています。
「半年前ぐらいかなあ、電話かかってきたんですよ、アイツから、あ、アイツって女の担当者なんですけどね、なんだかが当選しただのいろいろ言って会社に来てくれって、もう怪しいと思ったんだ」
「怪しいと思ったのに、何で出向いたんですか?」
「いや、まあ、とりあえず会ってみようかなって、会社に行ったら幾つかのテーブルと椅子だけが並んでて、それがカーテンで仕切られているんだ、それだけの部屋で、アイツと話していたら、何だか男が出てきちゃって、案の定、宝石を熱心に勧めてきたんだ、もうこれはヤバイ思った通りだって思って・・」
「思った通りってどういうことですか?」
「うん、だって、オレ、前に似たような会社にいたから・・その会社はキャッチだったけどね、手口なんかほとんど同じようなものだったし、テーブルの置き方とかも・・もうヤバイヤバイって」
何だか、いまいち掴みどころの無い会話が続きます。
「そこまで分かってて、じゃあ何で契約しちゃったのかしら?強引だったとか、帰してくれなかったとか、何か理由があるのですか」
「いや・・、そうだなあ、何となく」
本当に掴みどころのない会話が・・。
「何となくじゃあ解約の理由になりませんよ・・、しかも前職が同業者だったのなら、そういった契約にはクーリングオフがあることも知っていたのでは無いですか?」
「まあ、ただ、アイツとやり取りできればそれでいいかなって、だけど、3ヶ月ぐらいしたらアイツと連絡取れなくなっちゃったんですよ、それで、ああ、これは本当に騙されたんだなって、ホントアイツムカつく」
彼と会話をしながら、何か解約や取消事由が無いかどうか、頭をめぐらして聞きだそうとするのですが、彼は、なかなかわたしが期待するような答えを返してはくれません。
「もう、騙されたんだ、って思って、ローン払うの止めたんです」
「あら、既に信販に申し出て、支払いを止めているのですね」
「え、いや、普通に支払うの止めた、だって騙されたんだから、払わないの当たり前じゃないですか」
そう考えますか。なかなかストレートな対応です。同業にいた割には、彼は三者間契約をあまり理解していない様子でした。
「ちなみに信販会社に何も言わないで支払いとめたら、どうなるか分かりますか」
「そういえば、払えって、催促のハガキが着てます」
「当たり前です、信販会社はあなたに何が起きているのか分からないのですから、当然支払いの約束を守らないあなたに催促状や督促状を送りつけてきますよ」
「ああ、だからこんなにハガキが来てるのかあ」
彼は、改めてカバンの中を除き、数通の「督促状」と赤字で書かれたハガキや振込用紙が同封された封書をドサッと机の上に出しました。
「困りましたね、これでは、あなたは単に支払いのお約束を守らない人になってしまっているんですよ、このままじゃあ、将来、あなたがまたローンを組んだりクレジットカードを作ろうと思った時に、過去にお約束を守らなかった人は信用できないって言って、確実に撥ねられてしまいますよ、しかも信販会社からは訴訟を起こされかねませんよ」
「あー・・」
「売買契約がおかしいって思ったら、勝手に支払いを止めるのではなくて、きちんとおかしい契約だったんだって信販会社に主張して、今度は消費者の権利として請求を止めてもらわなければならないんですよ、権利の主張は自らしないと誰も救ってはくれませんよ」
「はあ・・」
「しかもあなたは、前にキャッチの会社にいたって言っていましたよね、分かっててなんで契約してしまうのでしょう・・ともかく・・」
もう、情けないやらなんやらで、さっきから説教モードに入り込んでしまっているのを、ハッと我に返って彼を見ると、彼はすっかりうなだれていて、首にぐるぐる巻きにしたマフラーに顔が半分めり込んでしまっています。毛糸の帽子とマフラーの間に目だけを出して、しょんぼり下を向いて椅子から滑り落ちそうです。
そんな彼の姿を見て思わず苦笑です。彼はどうしようもないけど、でもどこか憎めない人間だということが良く分かりました。
「じゃあ、とりあえず業者には解約の意思表示をしましょう、それと信販会社には、今度こそきちんと、支払いを止めてくれるよう主張しましょう」
「はい」
彼は、マフラーに埋もれていた顔をようやく上げて笑いました。
彼と話をして、彼が帰るとき「オレこれから仕事なんだ、これ、オレの勤め先」と言って、わたしに名刺を渡しました。
名刺には、彼の本名とは全く違う、なんだか宝塚に出てくるような名前が書かれています。
「オレ、ホストなんだ、良かったら来てよ」
営業時間がPM11時から翌5時って・・。無理だってば。
次週に続く。



