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オンラインで紛争解決(Online Dispute Resolution) [2016年08月03日(Wed)]
先月(2016年7月)開催された国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)総会で、「国境を超えたEコマースのためのオンライン紛争解決」に関する文書が採択されました。テクニカル・ノートという位置付けで、少額の越境紛争に対応するODRが満たすべき諸原則等について述べられています。

2010年に設置されたWorking Group III(ODR作業部会)で検討されていたものです。諸原則の主な内容は早い段階で合意されていたようですが、最終化までに足掛け6年もかかった背景には、例によって米国と欧州の法制度の違い=消費者との取引において仲裁の事前合意を認めるか否か=がありました。事前の仲裁合意が有効であれば、紛争が起きても裁判に訴えることはできないので、米国事業者は、クラス・アクションを避けるためにもできるだけ仲裁に持っていきたい。米国には、それを妨げる法律はありません。一方、欧州は、消費者の裁判を受ける権利を奪う仲裁合意は認めない、という法制です。(日本の仲裁法も同様で、附則第3条に消費者は仲裁合意を解除できると規定されています。消費者契約法見直しの議論でも、不当条項リストに仲裁条項を挙げる提案がしばしば出されています。)

ODR作業部会では、双方の法制と矛盾しない統一ルールとすべく、あれこれ模索を重ねてきましたがいずれも実らず、最終的には、EUが、ADR指令とODR規則を採択して域内の権限を集約したことを背景に強硬姿勢を強め、消費者仲裁を含むグローバルな統一ルールをUNCITRALで合意することは断念されました。・・・と、自分で見てきたように書いていますが、この間の事情は全て、本作業部会に日本代表として参加し、両陣営の調整役としても活躍された立教大学の早川教授からお聞きしたものです。今年1月にも、NPO法人消費者ネットジャパン(じゃこネット)のセミナーで講演していただきましたので、こちらも是非ご参照ください。

仲裁のようなカッチリした手続きは(時には裁判以上に)コストもかかり、Eコマースの紛争には馴染まないと個人的には思っています。なので上記のような米欧の対立は、理念としてはわかりますが、なんだか不毛だなーと感じていました。それよりも、実質的に役に立つ&外国語の不得意な日本人でも使いやすいODRを日本でも実現させる契機として、国際ルール化を待っていたところがあります。拘束力があろうとなかろうと、諸原則が明確になったのは良かったです。

かれこれ15年ほどEコマースのトラブルに関わってきましたが、主張が真っ向から対立しているとか、感情的にこじれきっているなど、当事者間の交渉ではどうしても解決できず、ここから先は利害関係のない第三者の関与が必要・・・と思う場面がたびたびありました。「中立」や「公正」という言葉は定義が難しいので使いたくないのですが、最低限、「どっちの味方でもない」という第三者の判断が欲しい場合があります。相談を受ける立場は、相談者の味方になって助言をする(時には相談者の代理として交渉する)役割なので、もちろんその有効性は十分に認識するところですが、ADR/ODRでいう「第三者」とは異なるものと考えています。

しかし、「利害関係のない第三者」がボランティアで他人の紛争に関わってくれるとは考えにくく、そこには報酬が発生します。必要が生じた時に第三者にすぐに依頼できる体制の整備や、記録保存などの事務費用も必要です。つまりADR/ODRにもコストはかかる訳ですが、消費者の関わる少額紛争では、紛争当事者から高額の手数料を取ることはできず、「運営費用を誰が負担するか」が永遠の課題です。

国際消費者連盟(Consumers International)等の提言では、消費者救済に役立つADRは、消費者には負担を負わせず、かつ中立で、専門的で・・・といろいろ注文がついています。しかし、これを実現するには、公的資金をどーんとつぎ込むか、紛争解決の仕組みを持つことにメリットを感じる事業者が費用負担するしかありません。費用をできるだけ節減するためにも、オンラインでの手続きが必須です。将来的には、企業のカスタマーサポートで既に活用されているように、定型的な紛争には、第三者の役割の一部をAIで代替できる可能性も高まるでしょう。

そんなことを検討したく、昨年から今年にかけ、前述のNPO(じゃこネット)でODRをテーマにした研究会を実施し、主査を務めました。と言っても初年度は、これまでどのような議論や取り組みがされてきたかを整理するにとどまっています。主に相談を受けてきた立場から、越境Eコマースだけでなく、シェアリングサービスなどC2C取引、オンラインゲーム、インバウンド等々、ここにODRがあったら良いのになー、という場面をあれこれ夢想していますが、それらはごく入り口の検討に過ぎず、これから本格的にみんなで考える場を設けませんか?という提案をするところで終わっています。(報告書は近々公開します。)

提案をしただけではなかなか動かないので、今年度も研究会は継続します。関係する少しでも多くの方に興味を持っていただけるよう、また続報を書こうと思います。
Posted by 沢田 登志子 at 12:45 | 沢田登志子 | この記事のURL | トラックバック(0)
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