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俳優が体現する社会の真実[2008年10月20日(Mon)]
皆様

演劇は娯楽なのだとシンプルに片付けられることが少なくないのですが、
私としては演劇、とりわけ現代演劇は社会にチャレンジするものなのじゃ
ないかと考えています。
でも、いま現代演劇がどれだけ社会を映し、社会に生きる人々の生身の
思いや真実を体現しているのか? 演劇がどのような役割を持つのか?
助成金申請のシーズンということもあり(これはアートマネジメントの生身
です)、自分たちのプロジェクトの公共性や現代性を、文化・経済・社会・
経済、様々な視点から問わなければならないわけですが。

助成金云々ではなく、現代演劇に働くものとして、本質的に、私たちは
どのように社会にコミットしていくのだろうということは、つねに考えてしま
います。かつてムーブメントとして吹き荒れた政治演劇のシーズンの
トラウマなのか、現代演劇はどんどん社会や政治から切り離された存在
になっているように感じています。

大きなことを言う立場ではないのですが、非営利のアートマネジメントに
携わり、演劇に働く人々の人材育成に携わるものとして、社会との関係
性をただ「需要がある」とか、「役に立つ」という功利主義的な視点から
ではなく、考えていきたいと望んでいます。

その一つが俳優のあり方であり、俳優トレーニングのあり方です。
俳優は劇作家の世界を演出家のヴィジョンを体現する道具あるい
は人形と考えられているかもしれません。でも、果たしてそうなのか。
俳優という個人は社会に生きていないのか?

バーバティム・シアター(別名ドキュメンタリー・シアター)にはじめてであ
ったのは、「パーマネント・ウエイ」という作品でした。英国でその作品が
上演される一年前、その取材が行われていたときのことです。ちょうど
イラク戦争が勃発した数日後のことです。
英国国鉄の民営化がもたらした列車事故の連鎖に巻き込まれた様々な
当事者のインタビューを再構成して作られた芝居です。
演出家マックス・スタッフォード=クラークとそのカンパニーの一人であり、
博士号を持つ女優ベラ・マーリンとの出会いでもありました。

マックスは英国演劇を代表する演出家であり、スタニスラフスキイへの
造詣も深く、「アクショニング」と呼ばれる自身の手法はスタニスラフス
キイの彼自身の応用だと理解されています。また、ベラはロシアにまで
スタニスラフスキイを学びにいき、その記録をまとめて、博士号をとった
女優であり、いま英国を代表する気鋭のスタニラフスキイ研究者です。

最初、スタニスラフスキイの自然主義の演技とバーバティムシアターの
求める演技が食い違わないのだろうか…と純粋な疑問をもったものです。
というのは、『パーマネント・ウエイ』では俳優同士が目をあわせて、対
話するシーンが一切なく、観客に向かって(設定では劇作家に向かって)
インタビューの当事者が語るというものだったからです。

でも、彼らといくつかのプロジェクトをご一緒させていただいて、そこに
何の矛盾もないということが見えてきました。ベーシックはスタニスラフス
キイだというわけです。俳優としては「流れ」に酔えないわけですが。

また、2006年にベラを招聘した際、俳優たちがそれぞれの当事者にイン
タビューにいき、取材してきたものを、それを劇作家や演出家の前で演じ
ながら報告するというプロセスを紹介していただきました。
劇作家が取材に行くのではなく、俳優がインタビューし、俳優が人間とし
て受け取ってきたものを劇作家がまとめたとのこと。
つまり、俳優がどう当事者たちの人生の「悲劇」や「喜劇」を受け取ってき
たかがすべてだったということです。

自分でも『パーマネント・ウエイ』を翻訳してみたりして、この演劇形態に
関心をもつようになりました。来月、「スタニスラフスキイとブレヒト−二つ
の真実を演じわける」のセミナー&ワークショップの指導にあたっていた
だくことになっているロンドン大学のクリス・メグソン博士は、バーバティ
ム・シアターの専門家としても知られる方です。

演劇を少しかじったことがあるかただと、スタニスラフスキイとブレヒトは
相容れないものだと思われるかもしれません。政治的な理解なしには
演じられないという指摘もあります。でも、俳優としては色んな真実を
自分の心と身体で演じていかなければならない…。

うまくまとめられないのですが、今回の「俳優トレーニングの科学的アプ
ローチを探る」と題した一連のプロジェクトに託す思いの一端です。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~tpn/actortraining.htm

シアタープランニングネットワーク
中山夏織
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