小林立明訳『フィランソロピーのニューフロンティア』
[2016年02月27日(Sat)]
小生の師匠筋にあたるレスター・サラモン教授の新著の翻訳本が出ました。
『フィランソロピーのニューフロンティア』(小林立明訳)ミネルヴァ書房です。
とりわけ、日本の公益法人関係者には是非読んでいただきたい本です。
サラモン教授は25年以上、世界のNPO・公益法人・フィランソロピー研究を牽引した米国の研究者です。従来、専門的な寄付活動について多用されていた「フィランソロピー」という用語を、サラモン教授は「社会・環境目的への民間資金の提供」と定義しております。ここでの重要点は「寄付活動」に限定せずに「民間資金の提供」として投資を含む資金提供形態に広がりを持たせたことです。
「フィランソロピー」という用語は米国の大型財団と共にありました。20世紀初頭、いわゆる「金ぴかの時代」と呼ばれた時代に、カーネギー、ロックフェラーなど大金持ちが誕生し、続々と大型財団をつくっていきます。当時は所得税もなく、これほどの大金持ちが誕生した時代はありませんでした。以後ほぼ100年間、米国大型財団のスタイルは「伝統的フィランソロピー」(サラモン)として、助成金を提供するものとして存在していました。
ところが、今世紀に入って、従来とは全く異なる担い手・機関(アクター)が誕生し、全く異なる投資という手法(ツール)で、「フィランソロピー銀行」としての財団をはじめとして公益目的のための活動を行い出したというのです。
本書では、担い手としては個人・機関投資家が、手法としては金融が、世界の課題解決のために動き出している様子を丁寧に説明しています。
こうした動きは今世紀に入って顕著ですが、もちろんその予兆は古くからありました。たとえば、財団の運用をプログラムに連動させた「プログラム関連投資」(Program Related Investment=PRI)などがその一つです。内閣府公益認定等委員会でもそのことを議論しています(第10回公益認定等委員会議事録)
本ブログの読者からすると、日本の制度の中で本書で述べられていることを行うことが可能かどうかについて関心があると思います。たとえば、日本でも「社会的インパクト債券」(Social Impact Bonds=SIBs)に対する取組みが始まり、制度との擦り合わせが行われようとしています。結論から言えば、公益認定法上はそれほど大きな問題はないと思っております。もちろん、Fとりわけ、会計上の問題はすぐに生じてしまう可能性があり、十分な検討は必要です。実は私は「社会的投資」の最も古典的なスタイルは「奨学金貸与」だと思っています。これまでの公益法人の創意工夫の活動の中に、本書で述べられていることはかなり前例が存在すると考えています。
是非、公益法人・NPO法人等の関係者をはじめ公益の増進に関心のある方々は、本書を読んで世界最先端の潮流は何で、日本の制度の中で実現していく上での「障壁」は何なのか大いに議論していただければ幸いです。制度上の「障壁」は必ず越えられると確信しています。むしろ、民間サイド・監督サイドともに「心の障壁」が大きく立ちはだかるのではないでしょうか?
また、猪瀬直樹さんが大阪副首都構想に関連して「フィランソロピー首都」、「フィランソロピー資本」ということを提唱しており、「フィランソロピー」は本年の重要な用語の一つとなるでしょう。こうしたことを足掛かりに、一つ一つ成功例をつくることこそ大事ではないでしょうか?
なお、本書はNew Frontiers of Philanthropy:
A Guide to the New Tools and New Actors that Are Reshaping Global Philanthropy and Social Investingという大著のイントロダクション部分だけの翻訳です。
何しろ新鮮な潮流を紹介しており、日本の読者からすると用語を拾うだけで大変かもしれませんが、訳者の小林立明氏が最後に「訳者解題」として18ページにわたって解説をつけてくれています。また5ページにわたる用語解説をつけたり、本のレイアウトも読みやすく工夫されたりています。必読の書としての本書が公益の増進という公益法人制度改革の趣旨に合ったエンジン役として多くの公益法人の方々に刺激を与えていくことを祈念しております。
『フィランソロピーのニューフロンティア』(小林立明訳)ミネルヴァ書房です。
とりわけ、日本の公益法人関係者には是非読んでいただきたい本です。
サラモン教授は25年以上、世界のNPO・公益法人・フィランソロピー研究を牽引した米国の研究者です。従来、専門的な寄付活動について多用されていた「フィランソロピー」という用語を、サラモン教授は「社会・環境目的への民間資金の提供」と定義しております。ここでの重要点は「寄付活動」に限定せずに「民間資金の提供」として投資を含む資金提供形態に広がりを持たせたことです。
「フィランソロピー」という用語は米国の大型財団と共にありました。20世紀初頭、いわゆる「金ぴかの時代」と呼ばれた時代に、カーネギー、ロックフェラーなど大金持ちが誕生し、続々と大型財団をつくっていきます。当時は所得税もなく、これほどの大金持ちが誕生した時代はありませんでした。以後ほぼ100年間、米国大型財団のスタイルは「伝統的フィランソロピー」(サラモン)として、助成金を提供するものとして存在していました。
ところが、今世紀に入って、従来とは全く異なる担い手・機関(アクター)が誕生し、全く異なる投資という手法(ツール)で、「フィランソロピー銀行」としての財団をはじめとして公益目的のための活動を行い出したというのです。
本書では、担い手としては個人・機関投資家が、手法としては金融が、世界の課題解決のために動き出している様子を丁寧に説明しています。
こうした動きは今世紀に入って顕著ですが、もちろんその予兆は古くからありました。たとえば、財団の運用をプログラムに連動させた「プログラム関連投資」(Program Related Investment=PRI)などがその一つです。内閣府公益認定等委員会でもそのことを議論しています(第10回公益認定等委員会議事録)
本ブログの読者からすると、日本の制度の中で本書で述べられていることを行うことが可能かどうかについて関心があると思います。たとえば、日本でも「社会的インパクト債券」(Social Impact Bonds=SIBs)に対する取組みが始まり、制度との擦り合わせが行われようとしています。結論から言えば、公益認定法上はそれほど大きな問題はないと思っております。もちろん、Fとりわけ、会計上の問題はすぐに生じてしまう可能性があり、十分な検討は必要です。実は私は「社会的投資」の最も古典的なスタイルは「奨学金貸与」だと思っています。これまでの公益法人の創意工夫の活動の中に、本書で述べられていることはかなり前例が存在すると考えています。
是非、公益法人・NPO法人等の関係者をはじめ公益の増進に関心のある方々は、本書を読んで世界最先端の潮流は何で、日本の制度の中で実現していく上での「障壁」は何なのか大いに議論していただければ幸いです。制度上の「障壁」は必ず越えられると確信しています。むしろ、民間サイド・監督サイドともに「心の障壁」が大きく立ちはだかるのではないでしょうか?
また、猪瀬直樹さんが大阪副首都構想に関連して「フィランソロピー首都」、「フィランソロピー資本」ということを提唱しており、「フィランソロピー」は本年の重要な用語の一つとなるでしょう。こうしたことを足掛かりに、一つ一つ成功例をつくることこそ大事ではないでしょうか?
なお、本書はNew Frontiers of Philanthropy:
A Guide to the New Tools and New Actors that Are Reshaping Global Philanthropy and Social Investingという大著のイントロダクション部分だけの翻訳です。
何しろ新鮮な潮流を紹介しており、日本の読者からすると用語を拾うだけで大変かもしれませんが、訳者の小林立明氏が最後に「訳者解題」として18ページにわたって解説をつけてくれています。また5ページにわたる用語解説をつけたり、本のレイアウトも読みやすく工夫されたりています。必読の書としての本書が公益の増進という公益法人制度改革の趣旨に合ったエンジン役として多くの公益法人の方々に刺激を与えていくことを祈念しております。
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