第87話 芦生の森の古老の話[2008年05月15日(木)]
5月8日五月晴れの 芦生の森を散策してきました。ここ数年、新緑と紅葉の季節に、滋賀県高島市朽木村から観光協会主催の 芦生森自然観察会には参加していますが、京都府美山町から歩くのは初めてでした。
正式名は京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション・ 芦生研究林というそうです。資料館前のトロッコ軌道の出発点から由良川橋を渡り、深山に入っていきました。
由良川の源流に向かってトロッコ道を往復約3時間半あまり、森林浴を満喫してきました。
帰り道、研究施設を出たところで、80歳は超えていると思われる老人が薪割をしていていました。新緑のいまの時期に薪割りをしているのを不思議に思い、声をかけてみました。古老から3つの話題を聞くことができました。
梅雨前には冬の備えを
芦生研究林は京都府の北東部、由良川の源流の位置し、福井県と滋賀県に接する奥深い山の中です。
芦生の森へは途中1車線の狭い道もありますが、研究林の入り口まで自動車で深山へ入っていけます。石油や電気が普及している時代ですが、古老はこの地区で冬に薪ストーブ用を使っているのは1軒だけだと話し始めました。
未だ生乾きのミズナラの丸太を割って薪を作るのは、冬に備えるためです。
梅雨が来る前に薪を確保して天井に格納しておくのだそうです。梅雨時期に雨にあたると火持ちが悪く、いまの時期にし終えなければならない作業だったのです。

写真1 芦生の森で薪を割る古老
インターネットで「ホダギ ミズナラ」を検索すると、「“ミズナラ”は木が乾燥するのに時間がかかるので、あまり薪には向いていない」と書いていました。
ミズナラの利用するために、乾燥に時間がかかるから、今の時期から、冬の準備をしているのだと理解できました。
炭の話をすると、古老はいままでずっと 芦生の森でミズナラを使って炭焼きをしていたそうですが、いまは市販の炭を購入していると話していました。
リョウブの樹皮と鹿の食害
トロッコ道を歩いている道すがら、写真2上段のように、樹皮がきれいに剥ぎ取られた倒木がトロッコ道を塞いでいました。かなり大きな木で、先端や地面に接したところはまだ樹皮が残っていたのでおそらく鹿が食べたのでしょう。
芦生の森では鹿の食害が深刻だと朽木観光協会の自然観察員から聞いていたので、古老に尋ねてみました。
鹿は川べりのネムノキの樹皮を好んで食べているそうです。箕面の山ではリョウブの樹皮がよく食べられていると話すと、「リョウブは樹皮を剥がされても、また再生してくる。鹿は再生した樹皮をまたはがして食べるが、木は枯れないで育っている。だから、鹿が食べる範囲は細いままだが、その上の幹は太くなっている」と興味のある話をしてくれました。
写真2下段は「体験学習の森」で、鹿に食べられたリョウブを写しました。
インターネットの「箕面の木々の物語」には「リョウブは薄く剥げる樹皮を鹿が好んで食べ、剥げ跡はサルスベリの樹皮に似て美しい」と書いていましたが、このほかの検索では、古老の話のような事実を見つけることはできませんでした。
古老が話したように、鹿が食べたリョウブの幹がどう変化していくのか、興味を持って追跡していきたいと思います。

写真2上段:トロッコ道でみた鹿の食害
下段:鹿が好んで食べるリョウブ(体験学習の森にて)
椎茸のホダギはミズナラ
薪を割っているすぐ近くに写真3のように、ミズナラの丸太が積んであり、これらは椎茸のホダギに使うということでした。
椎茸のホダギは北摂山地では一般的にクヌギやコナラを使っているので、ミズナラが使われていることを初めて知りました。

写真3 椎茸のホダギとなるミズナラ
芦生の森ではクヌギは探してもほとんど見つからないそうで、木炭も椎茸のホダギもこの地で産出するミズナラを使うということでした。
古老は「クヌギの樹皮は厚くて椎茸菌を確実に植えるにはミズナラのように樹皮の薄い方が確実である」とも説明してくれました。
そこで「北摂山地では昔から菊炭作りが盛んで、クヌギが多く植林されているのだろう」と返事をしましたが、ミズナラやクヌギが育つ気候風土をもう少し調べなければならないだろうと思います。
シイタケとツキヨタケ
昨年10月、朽木村から 芦生の森へ入る地蔵峠近くで、写真4下段のキノコを見つけました。誰かが「シイタケだ」と話していましたが、シイタケにやや似ているが、シイタケなら道に捨てられているはずもなく、「有毒のツキヨタケ」と説明がありました。
山中でうっかり見間違いないように、写真4上段にはクヌギで栽培しているシイタケの写真と併せて掲載しておきました。

写真4上段:クヌギで栽培したシイタケ
下段:有毒のツキヨダケ
フリー百科事典『ウィキペディア』によると、「椎茸(椎茸)とは、キシメジ科シイタケ属の食用キノコ。日本、中国、韓国などで食用に栽培されるほか、東南アジアの高山帯やニュージーランドにも分布する。
日本では食卓に上る機会も多く、最もよく知られたキノコの一つである。
自然界では、クヌギやシイ、ナラ、クリなどの広葉樹の枯れ木に生える。短い円柱形の柄の先に、傘を開く。枯れ木の側面に出ることも多く、その場合には柄は大きく曲がる。傘の表面は茶褐色で綿毛状の鱗片があり、裏面は白色。なお、よく似た条件で発生し、やや姿が似たものにツキヨタケがあるが、これは有毒である。これをシイタケと間違えて食べて中毒になる例が多い」と説明していました。
ナラ材で検索してみると、「椎茸栽培の原木に最適だそう」と書いている記事もありました。
芦生の森は「若狭の海の魚付き林」
古老の3つの話題は上記の通りですが、 芦生の森の感動を伝えるために3枚の写真を選びました。写真5上段と中段は5月8日、トロッコ道で写しました。
下段は2005年11月に杉尾峠から若狭湾を写しました。かつて杉尾峠には4度行きましたが、靄がかかったりして若狭湾を見ることができたのはこのときだけでした。
同じ杉尾峠から写した写真が、美山村自然観光村の「芦生の森はワンダーランド・ガイドブック」の最後のページに掲載されていました。
その写真の解説文には、「芦生の森は若狭の海の“魚付き林”である。 芦生の原生林から絶えることなく流れ続ける豊かな水は、この流域を、そして若狭の海を潤し養っている。由良川源流を踏み越えて杉尾峠から眺める若狭の海。それは山と空がひとつにつながる瞬間である。水のないところに生命の存在はなく、水は生命を養いながら永遠の循環のなかにある。水は生命の源につながっているのだ」。

写真5上段:源流に近い 芦生の森の由良川(2008年5月8日)
中段:左側の由良川と山に挟まれたトロッコ道(2008年5月8日)
下段:杉尾峠から若狭湾を望む(2005年11月14日)
ガイドブックの最後のページには杉尾峠から若狭湾を望む写真と上記の説明文の下には
「人間の感動は、自然から生まれる。そして、静かな心の状態もまた、同じように自然の賜物である」 ウイリアム・ワーズワース
の詩を掲載してまとめられていました。
前回の記事「第86話 花見山に下草が顔を出し始めた!」の中で「魚つき林」のことを書いていただけに、上記ガイドブックの説明文は納得できました。
その説明文の下に書いてあったイギリスの代表的なロマン派詩人のウイリアム・ワーズワースの詩も併せて引用しました。



