ゆく年くる年[2015年12月25日(Fri)]
このブログに登場するのは、今年の年始挨拶以来になります、イチマツです。宜しくお願いします。
その年始のブログで、「ヒツジは『黄金の蹄』を持つと言われます」ということを書きました。皆さんにとって2015年は、黄金の実りをもたらす年になりましたでしょうか?
さて本会の年内の業務も28日(月)を残すのみとなり、29日から1月3日の松の内まで休日となります。ブログをご覧の皆様も、日にちは違えど、年末年始にまとまった休みを過ごされる方が殆どだと思います。
そこで今回は、年末年始に予定がないよという方のため(?)、休日の何時間かを過ごすのに相応しい本や映画をいくつか紹介したいと思います。個人的な趣味からのセレクトですが、ブログの性格上、老若男女にお勧めできる穏健な作品ばかりです。
【新書、ノンフィクション】
◎「暗闇から世界が変わる ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦」志村真介(講談社現代新書)
→皆さんは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」というイベントを御存じでしょうか? ドイツ生まれのこのイベントは、一切光のない暗闇の空間の中で、視覚障がい者のアテンドによって、ゲームや飲食などさまざまな体験をするというものです。本書は、日本でDIDを企画開催している著者が、実現までの紆余曲折や、DIDが持つ意味・人間意識への影響などを語ったものです。読了時には、自分もDIDを経験してみたくなること請け合いですし、イベント等の企画を行ったことのある方には、著者の苦労への共感を禁じ得ないでしょう。
◎「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」平田オリザ(講談社現代新書)
→「現代口語演劇」という演劇理論を提唱し、今や世界的に活躍する演出家・脚本家である著者は、演劇の手法を用いたコミュニケーションワークショップを、全国の学校や社会福祉施設などで熱心に行っています。そんな著者による“コミュニケーション論”は、私たちが漠然とイメージするそれとは違い、本質的で技術的・更には非情緒的です。そしてそれは“日本語論”から、時代背景を踏まえた“日本人論”につながっていきます。私たちが普段何気なく行っている会話や対話が、どれだけの背景に依存しているか、改めて気づかされるスリリングな一冊です。
◎「弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂」阿部彩(講談社現代新書)
→人が人間らしく生きるとはどういうことか。それを文学的・精神的側面でなく社会学的側面から検討(「個」基点でなく「社会」基点の分析と言ってもいいでしょう)したとき、現代においてクローズアップされるのが「孤立」「貧困」「格差」などの問題です。
本書は、広い空間軸・時間軸から、社会学的なアプローチによって冷静でリアルな分析と批判、提言を行っています。情緒的・短期的に語られがちなこれらの問題について、違った視座を得られる好著です。
◎「時代の風音」堀田善衛・司馬遼太郎・宮崎駿(朝日文庫)
→評論家・歴史作家・アニメーション作家と言う違った立場ながら、大局的な文化観・歴史観を持った三人が、国家や宗教・日本人論を縦横に語る鼎談集。といっても語り口は難しくありません。歴史の激動期を経験している各々の人生体験を出発点に、文学者らしい想像力の広げ方を見せる会話は、飽くまで伸びやかであり話題の射程も大変に広く、知的好奇心を刺激されます。
【小説】
◎「光の帝国−常野物語」恩田陸(集英社文庫)
→東北某県に由来する常野一族。人間離れした記憶力、将来を予言する力、通常の寿命を超えて生きる力など不思議な能力を持つ彼らは、しかし飽くまで穏やかで、市井に埋もれて暮らしている。そんな一族の関わる大小さまざまなエピソードを描いた連作短編集。
超能力一族という伝奇小説風の設定に反し、小説のトーンは奇抜さを排した丁寧なもので、一昔前のいわゆる中間小説風でもあります。郷愁を誘う一編一編のなかに巧緻な伏線が置かれ、連作短編と言うスタイルを良く活かした最終話の温かい感動は、心地よい読後感をもたらします。「ノスタルジアの魔術師」の異名を持つ著者の代表作の一つです。
◎「わんぱく天国」佐藤さとる(講談社文庫)
→小人たちが大活躍するファンタジー『コロボックル物語シリーズ』で大変有名な児童文学者による、自伝的要素の強い作品。戦前の横須賀を舞台に、「ガキ大将」「ベーゴマ」「戦争ごっこ」「メンコ」など、昭和の少年文化を構築する要素がこれでもかと盛り込まれた物語。対立するふたつの少年グループはやがて、“人を乗せたグライダーをつくって飛ばす”というたった一度の最大の遊びのために力を合わせて行き…。 全体は回想録のかたちで書かれ、短いエピローグが爽やかながら苦い余韻を残します。大人も楽しめる児童文学です。
◎『シャーロック・ホームズシリーズ』コナン・ドイル(光文社文庫ほか)
→世界で聖書の次に読まれている物語と言われる、永遠の名探偵ホームズ。初登場からもうすぐ130年になりますが人気は衰えず、今も繰り返し映画やドラマで取り上げられています。せっかくですからこの機会に、原典を読み直しては如何でしょうか。
ホームズ物語は短編56編と長編4編からなりますが、手初めには、バラエティに富み小説的完成度も高い第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険」、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想」がお勧めです。
【コミック】
◎「11人いる!」萩尾望都(小学館文庫)
→宇宙大学入学試験のため、一定期間を宇宙船の中で生き延びなければならない、様々な星から集まった受験生10人。しかし、集まったメンバーは何故か11人だった…。
異常事態から始まった緊張感の中での試験。閉鎖空間の中で起こる様々なトラブル、疑心暗鬼と、裏腹に育まれる友情。11人の個性の描き分けも鮮やか、本質的にはミステリーであるストーリーも綿密に構成されており、一度読み始めたら最後まで本を置くことができません。40年前の作品とは思えない傑作です。
◎「レストー夫人」三島芳治(集英社 ヤングジャンプ・コミックス)
→毎年二年生7クラスにより「レストー夫人」という演劇が上演される伝統のある高校。しかも、台本は各クラスごとに書かれ、タイトルは同じでも中身の違う「レストー夫人」が7種類演じられる。芝居の完成に取り組んでいく高校生たちの姿を、日常と地続きの超自然的な出来事や幻想的な描写を交えながら切り取った、文学的な香りのするマンガです。簡素な絵柄と抽象的な描写が、このマンガ自体に舞台作品的な雰囲気を与えています。
【映画】
◎「遠い空の向こうに」監督:ジョー・ジョンストン(1999,アメリカ)
→1957年、ソ連の人工衛星打ち上げに触発され、手製ロケット打ち上げに励む小さな炭鉱町の男子高校生4人組。 町の少年は皆、将来は父と同じく炭鉱夫になるものと本人も周囲も疑わなかった時代にあって、彼らはやがて本気で“宇宙”を目指しだす。
夢に取りつかれた少年たちの遭遇する家族や地域の大人との軋轢と和解、ままならない現実との葛藤、そして成長。NASAの技術者による自伝「ロケットボーイズ」をベースに描かれる、感動的作品です。
◎「フォーエヴァー・ヤング」監督:スティーブ・マイナー(1992,アメリカ)
→第二次大戦前のアメリカ。陸軍パイロットだった主人公は、最愛の婚約者が事故で植物状態になったショックで、一年間の冷凍睡眠実験の被験体を半ば自暴自棄で引き受ける。しかし彼が目覚めたのは50年後だった。ある母子の助けを受けながら現代に適応しようとしていく主人公は、婚約者が意識を取り戻し現在も存命なことを知る。しかし…。
SF的な設定を使いながらも物語自体は普遍的なものであり、心温まるヒューマン・ラブストーリーです。ラストは感涙必至。
いかがでしょうか。年末年始に限らず、ふとした折にでも手に取って頂けたら幸いです。
皆様、良い新年をお迎えください。
(イチマツ)
その年始のブログで、「ヒツジは『黄金の蹄』を持つと言われます」ということを書きました。皆さんにとって2015年は、黄金の実りをもたらす年になりましたでしょうか?
さて本会の年内の業務も28日(月)を残すのみとなり、29日から1月3日の松の内まで休日となります。ブログをご覧の皆様も、日にちは違えど、年末年始にまとまった休みを過ごされる方が殆どだと思います。
そこで今回は、年末年始に予定がないよという方のため(?)、休日の何時間かを過ごすのに相応しい本や映画をいくつか紹介したいと思います。個人的な趣味からのセレクトですが、ブログの性格上、老若男女にお勧めできる穏健な作品ばかりです。
【新書、ノンフィクション】
◎「暗闇から世界が変わる ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦」志村真介(講談社現代新書)
→皆さんは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」というイベントを御存じでしょうか? ドイツ生まれのこのイベントは、一切光のない暗闇の空間の中で、視覚障がい者のアテンドによって、ゲームや飲食などさまざまな体験をするというものです。本書は、日本でDIDを企画開催している著者が、実現までの紆余曲折や、DIDが持つ意味・人間意識への影響などを語ったものです。読了時には、自分もDIDを経験してみたくなること請け合いですし、イベント等の企画を行ったことのある方には、著者の苦労への共感を禁じ得ないでしょう。
◎「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」平田オリザ(講談社現代新書)
→「現代口語演劇」という演劇理論を提唱し、今や世界的に活躍する演出家・脚本家である著者は、演劇の手法を用いたコミュニケーションワークショップを、全国の学校や社会福祉施設などで熱心に行っています。そんな著者による“コミュニケーション論”は、私たちが漠然とイメージするそれとは違い、本質的で技術的・更には非情緒的です。そしてそれは“日本語論”から、時代背景を踏まえた“日本人論”につながっていきます。私たちが普段何気なく行っている会話や対話が、どれだけの背景に依存しているか、改めて気づかされるスリリングな一冊です。
◎「弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂」阿部彩(講談社現代新書)
→人が人間らしく生きるとはどういうことか。それを文学的・精神的側面でなく社会学的側面から検討(「個」基点でなく「社会」基点の分析と言ってもいいでしょう)したとき、現代においてクローズアップされるのが「孤立」「貧困」「格差」などの問題です。
本書は、広い空間軸・時間軸から、社会学的なアプローチによって冷静でリアルな分析と批判、提言を行っています。情緒的・短期的に語られがちなこれらの問題について、違った視座を得られる好著です。
◎「時代の風音」堀田善衛・司馬遼太郎・宮崎駿(朝日文庫)
→評論家・歴史作家・アニメーション作家と言う違った立場ながら、大局的な文化観・歴史観を持った三人が、国家や宗教・日本人論を縦横に語る鼎談集。といっても語り口は難しくありません。歴史の激動期を経験している各々の人生体験を出発点に、文学者らしい想像力の広げ方を見せる会話は、飽くまで伸びやかであり話題の射程も大変に広く、知的好奇心を刺激されます。
【小説】
◎「光の帝国−常野物語」恩田陸(集英社文庫)
→東北某県に由来する常野一族。人間離れした記憶力、将来を予言する力、通常の寿命を超えて生きる力など不思議な能力を持つ彼らは、しかし飽くまで穏やかで、市井に埋もれて暮らしている。そんな一族の関わる大小さまざまなエピソードを描いた連作短編集。
超能力一族という伝奇小説風の設定に反し、小説のトーンは奇抜さを排した丁寧なもので、一昔前のいわゆる中間小説風でもあります。郷愁を誘う一編一編のなかに巧緻な伏線が置かれ、連作短編と言うスタイルを良く活かした最終話の温かい感動は、心地よい読後感をもたらします。「ノスタルジアの魔術師」の異名を持つ著者の代表作の一つです。
◎「わんぱく天国」佐藤さとる(講談社文庫)
→小人たちが大活躍するファンタジー『コロボックル物語シリーズ』で大変有名な児童文学者による、自伝的要素の強い作品。戦前の横須賀を舞台に、「ガキ大将」「ベーゴマ」「戦争ごっこ」「メンコ」など、昭和の少年文化を構築する要素がこれでもかと盛り込まれた物語。対立するふたつの少年グループはやがて、“人を乗せたグライダーをつくって飛ばす”というたった一度の最大の遊びのために力を合わせて行き…。 全体は回想録のかたちで書かれ、短いエピローグが爽やかながら苦い余韻を残します。大人も楽しめる児童文学です。
◎『シャーロック・ホームズシリーズ』コナン・ドイル(光文社文庫ほか)
→世界で聖書の次に読まれている物語と言われる、永遠の名探偵ホームズ。初登場からもうすぐ130年になりますが人気は衰えず、今も繰り返し映画やドラマで取り上げられています。せっかくですからこの機会に、原典を読み直しては如何でしょうか。
ホームズ物語は短編56編と長編4編からなりますが、手初めには、バラエティに富み小説的完成度も高い第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険」、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想」がお勧めです。
【コミック】
◎「11人いる!」萩尾望都(小学館文庫)
→宇宙大学入学試験のため、一定期間を宇宙船の中で生き延びなければならない、様々な星から集まった受験生10人。しかし、集まったメンバーは何故か11人だった…。
異常事態から始まった緊張感の中での試験。閉鎖空間の中で起こる様々なトラブル、疑心暗鬼と、裏腹に育まれる友情。11人の個性の描き分けも鮮やか、本質的にはミステリーであるストーリーも綿密に構成されており、一度読み始めたら最後まで本を置くことができません。40年前の作品とは思えない傑作です。
◎「レストー夫人」三島芳治(集英社 ヤングジャンプ・コミックス)
→毎年二年生7クラスにより「レストー夫人」という演劇が上演される伝統のある高校。しかも、台本は各クラスごとに書かれ、タイトルは同じでも中身の違う「レストー夫人」が7種類演じられる。芝居の完成に取り組んでいく高校生たちの姿を、日常と地続きの超自然的な出来事や幻想的な描写を交えながら切り取った、文学的な香りのするマンガです。簡素な絵柄と抽象的な描写が、このマンガ自体に舞台作品的な雰囲気を与えています。
【映画】
◎「遠い空の向こうに」監督:ジョー・ジョンストン(1999,アメリカ)
→1957年、ソ連の人工衛星打ち上げに触発され、手製ロケット打ち上げに励む小さな炭鉱町の男子高校生4人組。 町の少年は皆、将来は父と同じく炭鉱夫になるものと本人も周囲も疑わなかった時代にあって、彼らはやがて本気で“宇宙”を目指しだす。
夢に取りつかれた少年たちの遭遇する家族や地域の大人との軋轢と和解、ままならない現実との葛藤、そして成長。NASAの技術者による自伝「ロケットボーイズ」をベースに描かれる、感動的作品です。
◎「フォーエヴァー・ヤング」監督:スティーブ・マイナー(1992,アメリカ)
→第二次大戦前のアメリカ。陸軍パイロットだった主人公は、最愛の婚約者が事故で植物状態になったショックで、一年間の冷凍睡眠実験の被験体を半ば自暴自棄で引き受ける。しかし彼が目覚めたのは50年後だった。ある母子の助けを受けながら現代に適応しようとしていく主人公は、婚約者が意識を取り戻し現在も存命なことを知る。しかし…。
SF的な設定を使いながらも物語自体は普遍的なものであり、心温まるヒューマン・ラブストーリーです。ラストは感涙必至。
いかがでしょうか。年末年始に限らず、ふとした折にでも手に取って頂けたら幸いです。
皆様、良い新年をお迎えください。
(イチマツ)
Posted by
北海道社会福祉協議会
at 17:13
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