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CANPAN CSRプラス コラム&ニュースリリースのバックナンバー


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企業CSR責任者インタビューシリーズ トヨタ自動車株式会社 大野さん 加藤さんに聞く [2011年02月02日(Wed)]
■女性管理職も増やしたい

 先ほど大野が申したCSR指標も、この枠組みを使って、会社方針とリンクさせ、個人レベルまで落としてやってみたいということです。
 社外から観ても方針がわかりやすいということは必要ですし、結果、社員にとっても方針を理解しやすいということになると思います。

(森)
 指標づくりというのは、いつから取り組まれるのでしょうか。

(大野) 昨年より進めておりますので、来年度に打ち出したいと思っています。

(加藤)
 CSRの指標が100個も項目があると、びっくりするような目標は、なかなか作れません。地に足がついたような物事の進め方をするので、到達できる目標も一つずつの積み重ねで、そこまでしかいきません。もう少し世界を広めて、ここに行きたいというところまで示したいと考えています。

(森)
 その100個の項目はISO26000ともリンクしていますか。

(大野)
 これからISO26000とのリンクも考えていきたいと思っています。
 トヨタの環境活動の方向性とあるべき姿を取りまとめた「トヨタ環境取組プラン」というものがあるのですが、言わばそのCSR版ですね。

(加藤)
 環境に関しては、現在第5次取組プランがあり、今までも繰り返しやってきました。環境は主に数値目標で、レギュレーションもありますし、さらに進んだ世界までやっております。

(森)
 環境の取り組みは数値目標で取り組みを進めていきやすいですが、CSRの数値目標というのは結構大変ですよね。どのようにされていくのか、何か一つ具体的に教えていただけますか。

(大野)
 例えば、会社における女性管理職の割合を増やす目標設定です。女性管理職の比率がまだまだ低いけれども、10年後にはこの数字を目指します、ということです。分かりやすい目標を設定し、トヨタはこういう姿を目指しますということを示して行けたらと思います。

(加藤)
 全部数字でなければいけないということではありませんが、「こうなっていきたい」という目標設定の仕方もあると思います。たとえば、会社方針も目標があって、それに対するプロセスがある。目標だけなら誰でも置けるけれども、目標に対してどう到達するかという線がなければ次へはいけない。だから線の書き方だけ定めるような目標もあって良いと思っています。

(大野)
 定量的な目標に定めたほうがはっきりしていて分かりやすいのですが、内容によってはなかなか難しいですからね。

(森)
 ちなみに、女性管理職の割合は今どれくらいですか。

(加藤)
 いわゆる管理職と呼ばれるひとたちの割合は5%未満です。弊社は七万人いますが、大きい割合を占める社員は工場で働いています。生産ラインをご覧いただくとわかると思いますが、重いものを持ち上げてやっている、工場は、もともと男性の職場です。昔は、一日にいくつものタイヤを運んだり、女性には大変でした。
 しかし最近では、機械が自動で重いものを目の前に持ってきてくれるように工夫したり、深夜勤務をなくしたりと、女性でも働ける環境になってきています。工場で働く女性や女性の技術者も徐々に増えてきています。ですから割合も徐々に増えてくるのではないでしょうか。

■CSR室の人員を3名増員へ

 また結婚に伴い、女性が早く退職してしまうことも今までの問題でした。特に豊田地区は働かれても、早い段階で結婚される方が多く、そのまま家庭に入られる方が昔は多かったのです。今はそういう方たちの職場復帰を支援するような制度をとっています。女性の割合も5─10年後には、だいぶ変わっていくと思います。

(大野)
 現状、他社と比べれば、見劣りする実績だと思いますが、これからだと思います。

(布井)
 今後CSRで新しくやっていきたいことは何でしょうか。

(大野)
 先ほど申しました、新たなCSRの重点目標の打ち出しは一番やっていきたいことです。それから、CSR室の人数が来年3名増えますので、従来やりたくてもできなかった社内従業員向けのCSR浸透活動なども、もっとやっていきたいと考えています。

(加藤)
 パンフレットなど、ツールを用意して配るという形だけだと、社員が読むか、覚えるか、というところが疑問に残ります。お互いに理解しているかどうかを確認するような双方向のものが望ましいです。eラーニングなどもやってみたいですね。

(森)
 今日のお話の中で興味深かったのは、CSR目標の数値化ですね。日本の会社で、CSR目標の数値化をされている会社は、まだ少ないのではないでしょうか。

(加藤)
 重点目標の打ち出しは、他社も結構やられていますが、数値化の部分についてはされているところは少ないかもしれないですね。
 最終的には、社員がどうしたいか、どうしようと思えるかが大事だと思います。それをどうやって伝えていくかをしっかりとやっていきたいです。
 冒頭にもありましたが、弊社のCSRは広報部寄りではありません。会社によっては広報部の中にCSR部がありますが、弊社ではCSRは本業を通じ、取り組むことだろうという考え方でやっています。
 たまたま私たちは環境の分野が先行していましたから、CSR・環境部という形でスタートしましたが、今は総合企画部の中のCSR室となりましたので、本業を通じてCSRに取り組むに
は、一番座りの良いところになったと思っています。

(森)
 つまり経営の中心にあるということですね。トヨタさんがこれからCSRを中心に据えたいという意思の表れといると思います。

一同 有難うございました。

原稿作成:日本財団CANPANチームインターン生
企画編集:株式会社オルタナ

トヨタ自動車 CSRへの取り組みウェブサイト
http://www.toyota.co.jp/jp/index_responsibility.html
企業CSR責任者インタビューシリーズ トヨタ自動車株式会社 大野さん 加藤さんに聞く  [2011年02月02日(Wed)]
企業CSR責任者インタビューシリーズ 
トヨタ自動車株式会社 室長大満野さん 加藤理さんに聞く


CSRの達成度を「数値目標」に


学生の視点から各企業のCSR責任者に「CSRの戦略と方針」を聞くインタビュー・シリーズ、第3回はトヨタ自動車の大野満さんと加藤理さん。会社方針にCSR目標を組み入れ、社外だけでなく、社員の普段の業務にもCSRの意識を高める工夫を企画されています。

(布井佑佳(早稲田大学国際教養学部三年))
 まず、CSRをどのように定義しているか教えて頂けますか。

(トヨタ自動車株式会社・大野満)
 CSRの捉え方は会社によって、広報をメインにしていたり、環境への取り組みや社会貢献活動をメインにしているなど、違いがあります。私どもの会社には環境部や社会貢献部が別にありますので、これらに関する実際の活動はCSR室では行いません。
 CSR室は豊田市の本社にあり、現在5名だけで運営していますが、来年から8名に増やす予定です。グローバルなリスクマネジメント機能に加え、広報をメインに活動しています。
 トヨタが考えるCSRとは、自動車及び住宅の本業を通じて取り組むことです。プリウスをはじめとする環境に優しい車を、手に届く価格で提供することも社会貢献の一つだと考えます。
 また、本業の延長線上で新規事業を展開し、さらに事業として関わりのないところでは社会貢献という形で取り組んでいます。社会貢献分野については、なるべくなら、本業・新規事業と関わりのあることをしたいと思っていますが、社会の要請に応じて広げていきたいと考えます。

(坂本菜穂子(日本大学文理学部三年))
 環境・CSR活動における社外への広報活動は、どのようにされているのでしょうか。

(大野)
 トヨタは自動車メーカーですから、次世代の環境対応車に力を入れています。弊社は、ハイブリット車ではすでにある程度の地位は築けたと思っています。またEV、プラグインハイブリット、燃料電池車と、次世代の環境自動車でもフルラインナップが揃っています。
 先日、トヨタの環境に対する取り組みを紹介するバーチャルイベントと連動して、環境技術取材会を行いまして、私どもの考え方をメディアに説明し、ご理解いただいたと思います。
トヨタ自動車株式会社・加藤理 環境に対する取り組みは、トヨタのビジネスそのものでもあるので、こういった形での活動が多いですが、特に一般の方に対しての広報活動といえば、トヨタのグローバルウェブサイトの立ち上げですね。

■コーポレートサイトを多言語化

 今までも日本語のコーポレートサイトではトヨタの活動が分かりやすいのですが、英語のサイトは分かりにくかったため、そこを見直しました。
オルタナ編集長・森 それは、今後環境・CSRのコンテンツを増やしていくということですか。

(加藤)
 はい、そこの部分も含め、見直しています。ただ、まだ完全なものではありませんので、2011年も第二、第三と手を加えていくつもりです。

(森)
 想定されている対象というのは、ファンドを含めた投資家や世界各地域でトヨタのことを知りたいという方たち、研究機関、もちろん顧客もということですね。

(加藤)
 そうですね。まだ現状では不十分ですが、少なくとも英語を主言語にする方たちが見て、その方たちが知りたいことと、トヨタが伝えたいことの垣根を少しずつ埋めていきたいと考えています。

(森)
 例えば、中国語のコーポレートサイトも今後必要になってきますよね。

(加藤)
 仰るとおりです。コーポレイトとして、グローバルでどうなっているかの部分はまだ弱いですから、まずは英語ですが、今後しっかりとやっていきたいと思います。
 報告書に関して言えば、現在、15の海外事業体でも作成しています。CSR、サステナビリティについては、各国によってニーズが違うので、本社のレポートだけではとても語れません。皆さんのニーズに対してどういったコミュニケーションをしているかを、それぞれの地域にそれぞれの言語で、現地が主体となってお伝えしています。

(森)
 これは、トヨタと各国の地域コミュニティとの距離を縮めたいという、良い取り組みですね。

(布井)
 次に、CSR室の中で新しい取り組みをする時に、会社の経営に提言することはありますか。

(大野)
 トヨタは2007年に、CSR委員会を設置しました。それは2004年ごろに、当時の会長だった奥田碩が「CSRの観点を会社方針に入れていくべき」と考え、議論が始まったのがきっかけです。
 委員長は社長で、代表権のある副社長以上で構成されています。委員会は通常、年三回定期的に審議を行い、この下に社会貢献活動分科会、企業行動倫理分科会、CSR企画分科会、リスクマネジメント委員会があり、総合企画部CSR室が全体の事務局になっています。ですので、新たな取り組みをする時は分科会を通じて委員会に提言することは可能です。

■各国との情報共有を深める

(坂本)
 2009年の品質不具合問題は、CSR活動をする上で影響がありましたか。

(大野)
 CSR的には目立った影響はありませんでした。SRI(外部評価機関)からの評価もその部分だけでは下がっていません。どちらかというと、リーマンショック以降の大赤字の方が、影響はありました。CSR室の業務でいうと、グローバルのリスクマネジメント業務が増えたという影響でしょうか。
 自動車メーカーなので、ある程度の確率で不具合は起きると想定しているのですが、もし不具合が起こった場合でも、リコール制度に基づき迅速に、丁寧に対応します。それはどこの国でも一緒です。ただ今回は、不具合に対する米国側の認識と日本側の認識に温度差がありました。今回の問題をきっかけに、品質保証部門では、日本と各国で情報共有を深め、温度差をなくし、きちんと対応できる仕組みを作ろうとしています。

(森)
 トヨタ社員の心構えである「現地現物主義」についてお教え頂けますでしょうか。

(大野)
 「〜らしい」「〜と聞いています」などの報告では駄目なのです。自分の目で見て確かめて報告するという姿勢を忘れるなということです。もちろん「ただ行けば良い」もダメです。
 これは先ほどの品質問題の温度差にも通じると思います。海外とのやり取りもTV会議などITを多く取り入れていますが、色々な効率化を進めるた結果、コミュニケーションが不足してしまうことがあると感じています。

(坂本)
 従業員にとってCSR活動がモチベーションアップにつながっているのでしょうか。

(大野)
 これは私共CSR室が発掘した話ではないのですが、雑誌「月刊自家用車」で、ウェルキャブという身体障がい者向け自動車の企画をした社員の話が掲載されました。
 CSRの取り組みは社外に対してこのような情報を発信する役割も多いですが、同時に社員が社会貢献をしているこういった記事を読むことで、社員のモチベーションも上がるという効果も多いと思います。

(日本財団CANPAN企画推進チーム木田悟史)
 世の中から自動車事故を無くしたいという思いで入社された社員の方もいらっしゃるようですね。

(大野) 
 みんながそのような志を持っているとは言えませんが、そういう意志を持った社員も多くいると思います。

(加藤)
 先ほどのウェルキャブは去年、社内表彰制度で受賞しました。社員たちはわざわざCSRとは言わないけれども、仕事を通じ会社や社会に貢献した人を褒めながら、その情報を共有しています。二年に一回の社内満足度調査も徐々に上がっています。

(大野)
 従業員が色々な部署、それぞれの立場で何らかの形で世の中の役に立ち、関わりを持っていることで、その取り組みが実はみんなCSRに取り組んでいるということを伝えていきたいです。
 今年で4年になりますが、弊社はCSR指標を100項目以上定め、各部署の方針の中に織り込んで取り組んでいます。これはあくまでも社内の取り組みです。しかしトヨタは250以上も部署があるため、どうしても人事や経理、生産など一部の人だけの取り組みになりがちです。
 だから、多くの従業員を巻き込むために、指標を大事な10項目ぐらいに絞り、10年先にトヨタはCSRでどのような会社になりたいかということを、社外に向けて宣言することもCSRレポートの中でやりたいと考えています。
 また、各従業員においても従業員のCSR宣言ということも、一緒にできればと思っています。

(森)
 やっぱりCSRを「自分ごと」として捉える、決して他人事ではないのだという認識が大事ですね。

(加藤)
 どうしても言葉がカタカナで入ってきたために、自分が何をやればいいのかというところへ落としにくいわけです。実際には全部分解して、「あなたのやっていることの中で何が重要ですか。その重要なことは、考え方としてはCSRの考え方ですよね」というようなことを一歩ずつ分かってもらわないと進みません。
 他社でも同じかもしれませんが、会社方針というものは、グローバル方針のように大きいものから始まり、各部署や、各室、各グループの構成員レベルのものもあります。各従業員らが今年何をやるかを、一枚の紙に宣言し、そして彼らのグループでもやるべきことをリンクさせます。
 そこで、では何をすべきか、というように流れていきます。会社の方針が最後には一人一人にまでおりていき、リンクしています。

(続きを読む)
企業CSR責任者インタビューシリーズ 株式会社損害保険ジャパン 関正雄さん(その2) [2011年02月02日(Wed)]
企業CSR責任者インタビューシリーズ
株式会社損害保険ジャパン 関正雄さん(その2)

■国際協力銀行とタイアップ

(日本財団CANPAN企画推進チーム・木田悟史)
 ちなみにインドやタイへのアプローチはトップダウンで始まった戦略なのでしょうか。

(関)
 タイは本社主導で、インドは現地法人主導、そういう意味ではボトムアップでした。タイのプロジェクトでは、国際協力銀行とのタイアップができたのがポイントです。私たちは、気候変動への適応や途上国における保険ニーズに対して役割を果たさなくてはいけないという問題意識を持っていました。
 国際協力銀行も同様の問題意識を持っていたため、共同で研究会を組成し、パイロットプロジェクトとして、天候インデックス保険を開発しました。これはまさに本社指導のトップダウンの案件です。
 一方で、インドでは、タイでのプロジェクトに携わっていた駐在員がインドに渡り、その経験を活かしました。そういう意味では、ボトムアップと言えます。タイとインドは繋がっていると言えるかもしれません。
斎藤 持続可能性を考えると、新興国でも利益や成果が上がっているのが望ましいと考えられるのですが、現状はどのようになっているのでしょうか。

(関)
 マイクロインシュアランスというのは、文字どおり小口の保険です。日本での保険料より一桁、または二桁も安い。
 このプロジェクトだけで大きな利益を上げていくのではなく、長い目でみて、新興国市場で信頼を勝ち得ることによって、海外オペレーション全体で利益を上げていかなくてはならないと考えています。
 ただもちろん採算面でも色々と工夫はしています。農民の皆さんの負担可能な保険料を算出して、その範囲内に抑えるようにしました。たとえば、販売コストや損害調査費をいかに抑えるか。事故が起こったときの実損調査の要らないデリバティブ商品にしたのもそのためです。私たちが赤字を累積していくのは望ましくないので、バランスが取れるように努力しています。

(斎藤)
 社会貢献的な意味合いが強いのでしょうか。

(関)
 社会貢献ではなくビジネスです。我々としては新たなマーケットを開拓したり保険に対するニーズを体得する良いきっかけになる。大きく言えばタイという国で、保険をもっと幅広くローカルに販売していく重要な一歩になっていると考えています。

(斎藤)
 日本では高齢者が増加して、運転操作を誤った事故などが発生してくると考えられますが、高齢社会のそのようなリスクに保険会社としてどのように対応していくか意見を聞かせてください。

(関)
 自動車保険に関して言えば、今でも保険料は年齢によって階段がついています。そこで、たとえば高齢者グループのリスクが高いとなればストレートに保険料率に反映していくことが考えられます。ただこれをあまり突き詰めてしまうと、「共助」という保険そのものの考え方を自己否定してしまう。
 たとえば米国では若い人がスピードを出すし、運転も未熟だから事故も多い。ものすごく高い保険料になっています。このため、若い人が保険料が払えないので車を買えないということが現実に起きています。
 保険というのは相互扶助という公助の思想で、「一人は万人のために万人は一人のために」みんなで助け合うものです。だから若者が危険な運転しているから高い保険料で、私たちは安全運転しているから安い保険料でとやってしまったらどうなるか。
 現実にアメリカで起こっていることなのですが、若者はとりあえず保険に入りますが、中には車を買ってしばらくしたら保険を解約してしまう場合があるのです。そうすると、その若者の運転する車にひかれたら、被害者が十分な補償が受けられなくなってしまう。そういうことまで考えて社会全体でリスクにどう対処するか、考える必要があります。
 また、高齢化社会に対しては、前から高齢社会対応の様々なサービスを損保ジャパンは提供しています。高齢化とはその人にとってリスクです。そのリスクを漠然とは感じているが、わが事としては考えていないのです。
 健康をいかに長く維持するか、これは本人にとっても、社会にとっても重要です。つまり損保ジャパンでは生活習慣病を予防していくヘルスケアの分野が社会的にも大変重要だと考えています。そこで、気づいていないリスクに対して気づいて頂いて、そのリスクに対して適切な措置を早めにしておく、そのためのヘルスケアサービスを提供しています。

■「エンゲージメント」を大事に

(斎藤)
 最後に損保ジャパンの今後のCSRについて、展望をお教え頂けますか。

(関)
 これから大事なのは「エンゲージメント」という言葉です。
 もはや持続可能な発展を本当に実現しないと、もたない世界になってきています。WBCSD(持続可能な発展の世界経済人会議)では2050年の社会のビジョンをみんなで議論しています。大体、2050年には途上国人口が80%で全人口は90億人。貧困層が今の割合で増えていっては大変なことになります。そこで生活水準を上げていくと同時に、一方で地球の資源の限界の中でみんなが暮らしていかなければいけない。
 この問題をWBCSDで議論をし、提言を行っていますが、企業は大きな力をもっており解決策を提案できると考えられます。しかし議論すればするほど企業だけでは駄目で、政府の適切な政策や消費者のライフスタイル変革なども伴わなければいけません。やることは山ほどあります。
 たとえば都市への人口集中も大きな問題で、90億の内60億人は都市に住むと考えられます。都市のインフラつまり低炭素型の都市をどうやって作るかも非常に大きな問題です。都市計画一つにとっても、いろんな専門家や企業が計画段階から解決に加わっていかなければならないと思います。
今後のCSRは先を見据えたうえで解決案を考え、色々なセクターを巻き込んでいくこと(=エンゲージメント)が非常に大事になってくると思います。お互いがお互いを巻き込んでいき、力を組み合わせていくことをエンゲージメントだと考えています。

(森)
 今の日本にはそういう組織はありませんが、これから生まれるべきものだとお考えですか。

(関)
 WBCSDに日本企業は30社ほど入っています。しかし日本での認知度はまだ低く、一方中国や途上国の企業などがどんどん入ってきています。日本でもWBCSDがやっているような政策議論を進めていくべきです。その枠組みとしてビジョン2050も有用でしょう。WBCSDのような活動を日本でも広めなければいけないですね。
一同 有難うございました。

原稿作成:日本財団CANPANチームインターン生
企画編集:株式会社オルタナ

損保ジャパン CSRへの取り組みウェブサイト
http://www.sompo-japan.co.jp/about/csr/index.html
企業CSR責任者インタビューシリーズ 株式会社損害保険ジャパン 関正雄さん(その1) [2011年02月02日(Wed)]
企業CSR責任者インタビューシリーズ
株式会社損害保険ジャパン 関正雄さん(その1)


CSRを本業に組み込むには


学生の視点から各企業のCSR責任者に「CSRの戦略と方針」を聞くインタビュー・シリーズ、第2回は損保ジャパンの関正雄さん。保険会社という本業に、いかにCSRを一体化して取り組んできたのか。今後、日本企業全体が進むべき方向までをも示唆しています。


(オルタナ編集長・森摂)
最初に、損保ジャパンのCSRに対する考え方について、ご説明いただけますか。

(株式会社損害保険ジャパン・関正雄氏)
1992年に今の私の組織の前身である「地球環境室」を設立しました。これは当時安田火災の社長だった後藤康男がリオデジャネイロ(ブラジル)の地球サミットに参加した後にできました。

 当時は、NPO/NGOや政府が中心のサミットであり、企業が参加することはほとんどありませんでした。しかし、当社は気候変動で自然災害が増えると保険金支払額も増えるという傾向を認識していたため、気候問題は経営上とても重要だったのです。そのため後藤が経団連のミッションを率いてサミットに参加しました。
 それまでにも環境リスクを研究する部署はあったのですが、後藤はリオから帰ってきて、地球環境問題自体を経営リスクとしてとらえるだけではなく、積極的に解決する側に回るべきであると痛感したのです。
 後藤はよく、社員向けの講話で持続可能性「サステナビリティ」について語っていました。「21世紀は市民の時代になる。目覚めた市民の時代になる」と。「スケールの大きいことをいう人だな」と感心をしていました。
 そこからトップダウンで組織を作り、翌93年から「市民のための公開講座」を「認識から行動へ」をコンセプトにスタートさせ、「市民のための」にこだわって今でも続けています。
 トップダウンでできた組織は、ややもすると社長が変わると終わってしまうことになりかねません。そこで初代の地球環境室長、北村必勝は「全員参加、地道・継続、自主性」の三つのキーワードをモットーにしました。1992年当時、金融機関ではこのような部署がなかった時代にできた組織ですが、現在まで継続し発展を続けているのも、じっくりと社内に根付かせようという当初の推進方針が正しかったからだと思います。

■ISO14001を積極取得

 1996年に環境マネジメントISO14001 の認証の仕組みができ、さっそく翌年に取得しました。取得したのは、電力や紙をたくさん使うコンピューターセンターで、損保ジャパンが国内金融機関初です。そして1999年には本社ビルで取得しました。これは会社の商品・サービス開発業務を担い、全国へ指示する立場の本社が認証取得することで、本業の中に環境という観点を組み込むのが狙いでした。
 「エコファンドぶなの森」というSRI商品も同じ年に発売し、環境に関する保険販売やグループの損保ジャパンリスクマネジメント社によるISO14001の認証取得コンサルティングなどが、本社の中の新しい企画として生まれてきました。
 CSRとは本業とは別なもの、+αなどと言う向きもありますが、そうではなく、本業の活動の中に環境や社会への配慮を一体化させ組み込む(=インテグレーション)ことを追求していくべきだと思います。

 当時の私は、地球環境部とは別の部署にいましたが、保険会社だけど地球環境を何とかしようとする経営者の下で働くことはうれしく、また誇りにも思っていました。

(森)
 どうして当時の後藤社長は地球環境に関心を抱かれたのですか。

(関)
 経営者としての直感があったと思います。当時は今と違ってどこの会社でも保険商品は値段も内容も同じ。商品で差別化することができませんでした。後藤はこんな風な言い方もしていました。「どこで差をつけるのかと考えたときに、世の中を良くしようと思っている魅力のある営業マンから買いたくなるだろう。だからこれは戦略なんだ。」と。
 もう一つよく言っていたのは、「徳と力」。企業として、力だけでなく徳もなければダメで、逆も真なり、その両方が必要なのです。地球環境の持続可能性はCSRの本質で最後に行きつくもの、そのことを直感して別の表現で言っていたのだと思います。

(坂本菜穂子(日本大学文理学部三年))
 損保ジャパンでは、CSR活動をどのように位置づけていますか。

(関)
 CSRというものは特別なものではありません。極論をいうと、CSR推進部署が不要で会社からなくなることが一番だと思っています。社員一人一人が普段の業務で「徳と力」を実践すること。社員の行動や事業活動そのものの中にCSRの考え方や判断基準が入ってくるべきだと思います。

■全員参加と自主性を大事に

(斎藤太一郎(早稲田大学大学院会計研究科修士一年) )
では、損保ジャパンのCSR戦略はどのようになっていますか。

(関)
 まず第一に、推進の基本は変わりません。私たちが一貫して言ってきたのは、「全員参加、地道・継続、自主性」。あくまでもこれを実践していくということです。
 これは口で言うほど簡単ではありません。社員は毎年どんどん入れ替わりますし、損保ジャパン全体で15,000人いる社員が同じ意識レベルで行動するというのは到達不可能な目標かもしれない。
 しかしこれがないとCSRは根付いていかないので、戦略としてはこれを継続して行っていくことです。

 もう一つは、CSRレポートの中でも掲げていますが、我々の保険会社としてのコアビジネスの強みを、いかに地球・社会の持続可能な発展という大きな実現目標の中で発揮していくか、です。

 なかでも重要なのが、気候変動です。気候変動対策には「緩和」と「適応」の二つがあります。
「緩和」とは、CO2排出を抑制しようとすることです。一方、たとえば日本の国内でも既に農産物の不作、海流の変化による不自然な大漁など様々な現象が生じている。そういった気候変動のもたらすいろいろな影響に対して賢く対処していくことが重要で、これを「適応」といいます。
 気候変動によって大きな影響を受けてしまうのは、社会インフラや経済面で脆弱な途上国です。途上国は農林水産業、第一次産業に依存していますが、既に気候変動の影響をだいぶ受けています。大事なのは、そういう問題に我々保険会社の知見やリソースを活用して、サービスをどのように提供していけるか。その一つが、干ばつに備えるタイでの天候インデックス保険、つまり農業に関する天候デリバティブの開発・販売であり、この分野は今後も引き続き取り組んでいかなければいけません。

 もうひとつは、「安全・安心のリスクマネジメント」です。様々なリスクに対してソリューションを提供していく。これが我々にとって社会的使命です。気候変動でもそうですが、事が起こってからでは遅い。早いうちに対処すること、また予防的な処置を講じておくことが大事です。
 当社では、「環境リスク管理と予防原則」に関する研究会を設置して、研究会の成果を環境財団から出版し、つい先日出版記念のシンポジウムを行いました。たとえば、地球温暖化にも懐疑論があります。CO2が原因だというのが国際的合意になっていますが、科学的に気候変動のメカニズムは100%解明されているわけではなく、一部には、原因が科学的に完全に究明されていないものに対して膨大な資金とエネルギーを投入して対処することは無駄ではないか、という議論があります。

 しかし、完全な科学的解明を待って対処したのではもう遅く、取り返しのつかない致命的な影響が出てしまいます。こういう、科学的には不確かであっても予防的な措置を取るべきだ、というのを、「予防的アプローチ」といいます。これは環境の重要な原理原則として、各国の政策にも導入されています。

 私たちは、いち早くリスクを発見し、それに対して適切な措置をしておくという保険会社としての観点から、予防原則の考え方を世の中に広めるために、それに関する議論をもっともっと活性化した方がいいと考えています。賢く使えば「予防的アプローチ」はもっと世の中・社会のためになりうると思います。

(斎藤)
 先ほど、新興国向けの商品を扱っているという話がありましたが、BOPビジネスというものに対してどのように考えているか教えて頂けますか。

(関)
 私たちが行っているのは、タイでの天候インデックス保険と、インドでのマイクロインシュアランスです。いずれも対象は農村地帯の貧困層であり、経済基盤の安定化は大きなテーマです。
 インドでは国営銀行とタイアップをして、保険を販売し始めています。彼ら農民の生活改善と安定にとって、保険を含むファイナンス機能はとても大事です。稼ぎ頭の病気や怪我、死亡、あるいは牛などの家畜という大事な資産に保険を掛けておくことが、生活の安定化につながるので、彼らのニーズに合った保険を開発して販売を行っています。
私たちは、アジアの成長市場を大事にしています。保険業界は国内での売り上げは頭打ち、いわゆる成熟市場です。既に人口の減少が始まっていますし、今後市場拡大は難しいでしょう。損保ジャパンはまだ現状では国内主体の会社ですが、既にアジアでの成長を会社の戦略に掲げて力を入れています。
 ひと昔まで、駐在員派遣といえばニューヨークとかロンドンが多かったですが、今は中国の駐在員数は、損保ジャパンの各拠点の中でも一番多いです。

(森)
 何人くらい駐在されていますか。

(関)
 40人くらいいます。アジア市場はご存知の通り、大きくなってきており、そういう国々が抱えている課題に対してソリューションを提供できるかどうかが重要だと考えています。マイクロインシュアランスは、それだけをとらえれば商品開発のコストを考えると収益がどんどん上がっていくものではありませんが、重要な一歩です。
 これまで日本の損害保険会社は、海外進出する日系企業の保険ニーズに応えようとしてきました。平たく言うと日本企業の海外進出のお世話をしていたということです。
 これからは、発展する各国の保険ニーズにいかに対応していくか。いわゆる現地に根付いた営業活動をしていかないと我々の発展もありません。その観点からもマイクロインシュアランスというのは重要なアプローチだと考えています。


(続きを読む)
企業CSR責任者インタビューシリーズ ソニー株式会社 冨田秀実さん(その2) [2010年11月17日(Wed)]
CSR Frontier 1 企業CSR責任者インタビューシリーズ(その2)


CSRをビジネスに連動

佐藤 どれぐらい寄付は集まりましたか。

冨田 日本だけで金額にすると400万円くらい。人数は5000人ぐらいですね。あとは、手を動かすボランティアも当然あって、さらに上の段階では、プロボノ(専門的な知識を生かすボランティア)的にその人の技能を使ったこともやっています。ソニーではサイエンスプログラムといって科学のワークショップの講師をやってもらったり。様々なレベルで参加できるボランティアを用意していて、なるべく高いレベルまでいってもらうようにしています。

須田紫織(聖心女子大学文学部3年) CSRフォーラムはどれくらいの規模ですか。

冨田 3年前ぐらいから20回ほど開催して、少ないときは500人、多いときは1000人以上の社員が参加しています。その場の感動にとどまらせず、例えば障がい者雇用の問題をテーマにした場合であれば、社会福祉施設でクッキーを焼いているようなところがありますから、出店を出してもらって、帰りがけに買ってもらうなど聞くだけでなくすぐにアクションに移せるような工夫をしています。

坂村 CSRに対する取り組みが、本業にどのように活かされているのかを教えて頂けますか。

冨田 我々は今、社会貢献活動とビジネスとの連携を意識してやるようにしています。お金をただ寄付するだけだと、お金だけの価値しかない。でも、技術であったり、ノウハウであったりといった企業の持ち味は、お金以上のものが生まれます。
 それが、企業が参画する価値ではないかなと常々思っています。この典型的な例が、ワールドカップですね。ソニーがFIFAのオフィシャルパートナーであることもあって、この機会を使って何か面白いことができないかなと考えていました。
 例えば、ガーナとカメルーンは、どちらもワールドカップに出場した国ですが、まだまだテレビの普及率が低く、実際に自分たちの国の選手が出場していても、活躍の姿を見られないという現状がありました。
 もう1つが、こういった国というのは、まだ多くの解決しなければならない社会課題を抱えているということです。この2つをうまく抱き合わせてやろうということで、パブリックビューイングを実施しました。
 テレビのあまり普及してない所に、大型のスクリーンとプロジェクターを持って行き、サッカーの生中継をしたのですが、こうすることで人が集まります。だいたい1回あたり千何百人が集まったのですが、その時にHIV/エイズの啓発教育や検査を実施しました。
 これは、JICAやUNDPと組んで行ったのですが、どちらも普段からHIV/エイズの啓発や検査に人を集めようと思ってもなかなか集まらない。
 でもサッカーは、というと、皆サッカーが好きですからサッカーを見に来るのです。これで通常の3倍ほどの人数が集まりました。このように、コンビネーションによって大成功したという例があります。
 この例では、ソニーが技術を持っていること、ソニーがFIFAのオフィシャルパートナーであったために映像を使用する権利が得られたということをうまく使い、社会貢献の効果が倍増しました。
 くわえて、ガーナやカメルーンはソニーのビジネス拠点のない地域です。その時に、ソニーの社員が実際に行くことで、新しいマーケットを自分たちの肌で感じてくるというのが、ある種の新しいビジネスに結び付いたり、社員のモチベーションに結びつくという側面が出てきます。
 社員が参画できるということが、会社としてのCSRの領域を高められる秘訣だと思います。この移動図書館車の例もそうです。ソニーはグローバルで活動しているので、英語圏の国がたくさんあります。そういう所の社員にお願いしていらなくなった英語の本を集めて、南アフリカに送ります。何万冊という単位で毎年集まるんですが、それを各地域から送ってもらって、この移動図書館車に積むという、一種の社員参画を行っています。

創業時から「働きやすさ」を大事に

須田 エレクトロニクス業界全体のCSRの現状と、今後の方向性について教えて頂けますか。

冨田 環境的な側面でいうとエレクトロニクス業界は、CO2の直接排出が非常に少ない業界です。つまり、我々が実際に工場やオフィスで使用する電気とそれに起因するCO2排出量よりも、消費者が製品を使用することによる排出量の方が圧倒的に多いということです。
 ソニーの場合、だいたい概算すると、LCA(ライフサイクルアセスメント)で、製品からの排出量が、製造時の排出の約10倍にもなります。しかし、この対策は既にかなり進んでいて、5年ほど前の液晶テレビに比べると、現在の消費電力は半分以下です。
 こういった製品に対する取り組みは継続的に行っていく必要があります。もう一つは、サプライチェーンの問題です。サプライチェーンでの人権の問題や労働条件の適正化が課題になっています。
 直接取引があるわけではなくても、ソニーのようなエレクトロニクスの末端の企業が問題を起こすこともあります。こうした現状から、サプライチェーンにおける問題が、我々の問題とし
て話題になりやすいのです。そういった所にも目配りをして、対応していくことも大切です。

佐藤 働きやすい会社1位に選ばれた理由はどこにあるとお考えですか?

冨田 ソニーの「働きやすさ」は何かというと、長い歴史があります。創業者の井深大と盛田昭夫が先進的な人事制度を実施し、学歴不問制度を導入しました。それから、今は比較的一般的になったと思いますが、フレックスの休暇制度を非常に早い段階から導入していました。
 最近では、育児支援制度・研修制度の充実や、ダイバーシティプロジェクトを発足させ、女性の積極的な登用に関して取り組んでいます。くわえて、ソニーのカルチャーは非常に社員の自由度が高く、伝統的に上下関係を気にしない所があり、言いたいことを自由に言える雰囲気があります。そういう所が、こういった結果に結びついてきているのではないでしょうか。

佐藤 就職活動の際にCSRの観点から企業を選ぶ学生が増えていますが、CSR担当部長の立場からそのことについてどうお考えですか。

冨田 健全なことだと思っています。一時、利益至上主義というか、お金だけにとらわれる時代がありました。しかし、働くこととは、給料をもらってお金を儲けるということが唯一の価値ではありません。
 最近の学生は、自分が会社で働くことが社会のためになるといった部分を求める傾向があると感じます。そういうマインドセットの学生が会社に入ってくることによって、どんどん会社の方向性も変わっていくはずだと思うので、現在の傾向は非常に大事なことだと思いますね。

佐藤 ソニーのCSRに関する次期戦略について教えてください。

冨田 まずはビジネスとの連携というところを強めていきたいし、社員の参画をより深い形にしていきたいというのが大きくあります。我々がフォーカスしている開発領域や環境では気候変動、生物多様性の問題、国際貢献ではMDGsを核としてやっていこうと思っています。
 ソニーはエレクトロニクスもありますし、エンターテイメントや金融系の会社などの様々なビジネスアセットがあるので、それらのいろいろなビジネスアセットが使えると思っています。例えば3Dなど、最先端のものを使うことによって今まで撮られていなかった、より臨場感溢れる映像になるという応用展開は可能です。そのようなことを今後とも模索していきたいです。
 もう一つは、ソニーはコンシューマー相手の会社なので、一般のお客様と比較的接点がある会社です。そのような意味では、我々が一種のコミュニケーションメディアとしての役割を果たせると思っています。
 例えば、一般の人はガーナやカメルーンといってもどんな国か全く知らなかったり、アフリカのどこにあるのかも知らない人が多いです。このようなプロジェクトによって少しでもアフリカの課題に人々の目を向けてもらえたり、認識するための教育に貢献することができると思っています。

5人のうち3人が女性部長に

須田 社内でのCSRフォーラムに500名─1000名も集められる秘訣は何ですか。

冨田 やはりエンターテイメント性を入れれば人は集まりますが、テーマによっては人が集まりにくいものもありますね。そのときにどのようにプログラムを組んでいくかで全然違ってくると思うので、意識して常に考えてやっています。

佐藤 ソニーとして女性の役員の方はどのくらいいらっしゃいますか。

冨田 現在、取締役も執行役も一人ずついます。

佐藤 今の日本企業の課題として、女性役員の方が少ない現状があると思うのですが、これは今後どのようなタイミングや状況で変わっていくと思われますか。

冨田 ソニーの場合、単に世代交代ではないかと思っています。雇用機会均等法が導入された以降の年代が役員に相応しい年代になれば、自然に出てくるのではないでしょうか。
 ソニーでいうと、40歳代の女性部長や部門長クラスという役員の一歩手前ぐらいまで何人もいますので、もう少し経てば自然とだんだんに増えてくるでしょう。
 本社関連の業務だと女性の方が優秀だと一般的に評価されていて、本社社員の人数も男女半々ぐらいですね。CSR部も女性の方が多く、また広報センターでは部長5人中3人が女性部長ですね。これから女性役員も自然に増えてくるのではと思います。

坂村:これから私たちが社会に出るにあたって、メッセージをお願いします。

冨田:CSRに関心を持っておられること自体、すごく大事なことです。このような有意義なことをやり、社会との接点を持つことは大切です。大学やサークルの枠組みから出ていくことが最近のトレンドだと思うので、違う大学の人や素晴らしい社会人の方と会える経験はすごく幅が広がってくるのでやるべきですね。
 慣れていないと偉い人にすごく近付き難かったりしますが、日頃から目上の人たちに接していると全然苦にならなくなってきたりするので、それを続けていけば、将来、必ず身になると思います。
一同:有難うございました。


ソニー CSR・環境・社会貢献ウェブサイト
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr/?j-short=csr

オルタナのウェブサイト
http://www.alterna.co.jp/
企業CSR責任者インタビューシリーズ ソニー株式会社 冨田秀実さん(その1) [2010年11月17日(Wed)]
CSR Frontier 1 企業CSR責任者インタビューシリーズ(その1)

ソニー株式会社 冨田秀実さん
CSR部統括部長

〜社員の参画がCSRを高める〜


 CANPANではオルタナ社と連携し、CSRに高い関心を持つ大学生の協力を得て、各企業のCSR責任者に「CSRの戦略と方針」を聞くインタビュー・シリーズを展開します。第1回目はソニーの冨田秀実さん。常に「ソニーらしさ」が問われる会社ですが、CSRにも「ソニーらしさ」の数々を垣間見ました。

佐藤萌美(法政大学社会学部3年) 最初に、ソニーのCSRの根本的な考え方について説明して頂けますか。
ソニー・冨田秀実 CSRという言葉が出てきたのは比較的最近で、2003年が日本におけるCSR元年だと思います。
 ソニーの場合、そこからCSRというのが始まったのではなく、創業者の一人の井深大が、終戦直後の1946年、会社を設立する際に書いた設立趣意書にそれが表れています。そこには「自由豁達ニシテ、愉快ナル理想工場ノ建設」とあります。
 要するに、単なる儲けではなく、エンジニアの人たちが自由闊達に楽しいことをやるというのがまず一つの目的だったのです。



ソニーに2つの持続可能性

 それから、終戦直後だったこともあり、いかに日本の再建に貢献するか、国民の科学知識の普及を行うかということも書かれています。「イタズラニキボノダイナルヲオワズ」や、得た利益は従業員に配分するなど、最近のいわゆる株主至上主義というのとは違います。
 会社を非常に社会的な存在として捉えるという、CSRの根っこのようなものがソニーには最初からありました。それをソニーではDNAと呼んでいます。
 現在は「ソニーグループ行動規範」があるのですが、「イノベーションと健全な事業活動を通じて、企業価値を創造していくこと」が、ソニーのCSRです。
 それを実現するために、さまざまなステークホルダーに配慮しましょうと書いてある文章です。それが最終的には企業価値に結びつくのですが、それを実現する過程で、ステークホルダーに配慮することが大事ですよ、ということです。

 私たちがCSRで目指していることは、「広い意味でのサステナビリティの実現」です。いろんな見方や解釈があるでしょうが、私たちは「2つのサステナビリティ」があると思っています。
 一つは会社のサステナビリティ。ソニーという会社が持続可能であるということです。コンプライアンスの問題であったり、ガバナンスの問題であったり、倫理的な経営をして不祥事を起こさないとか、製品の品質を保っていくとか、社員に対しても教育を行っていくだとか、会社のサステナビリティに関することです。
 ただ、それだけで十分ではありません。先ほどの井深の話ではないですが、やはり日本の復興の話とか国民の科学知識の普及というのは、会社だけが持続的であっても社会が持続的でなければ意味がないのですね。ですので、地球と社会の持続性にいかに貢献できるかという点を2つ目のサステナビリティと考えています。
 当然、ソニー1社だけで地球を救うなんてことはありえないので、ソニーが持っているイノベーションの力を使って、何らかの形で地球とか社会の持続性に貢献していきたいと考えています。

 坂村優(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士1年) ソニー出身の方が南アフリカへ移動図書館車を寄贈するプロジェクトを率先して行っていると伺ったのですが、社員の方に対してどのようなCSR教育を行っているのか教えて頂けますか。

 冨田 そうですね、いわゆる一般的な堅苦しい研修は避けようとしています。新入社員の研修や管理職に登用されるときに受ける研修にCSRの内容は入っていますが、あくまでCSRの基礎知識を蓄えてもらうためにやっています。
 どちらかというとわれわれの考え方は、社員参画を重点において、それを教育に位置づけています。参画の段階をいくつか考えていて、まず基本的な段階は「課題を知る」ことです。CSRに対する知識や認識を深めるために、2ヶ月に1回、本社ビルの大会議場で、定期的にCSRフォーラムというのをやっています。
 夕方6時とか6時半ぐらいから、会社の業務とは別にやっています。CSRはいろんなテーマがあります。例えば環境問題、障がい者雇用の問題、女性の参画の問題や父親の育児の問題などですね。
 いくつかのテーマを設定して、なるべく社員が来たくなるような講演会だったり、それと組み合わせて映画の上映などをしています。CSRは間口が広いので網羅的に理解してもらうというより、個人的に関心のあるところを深めてもらいたいと考えています。
 人によって関心は違うので、無理に押し付けないで内発的に関心を持ってもらうように工夫しています。次の段階が、「参画する」という段階です。募金や献血など何らかの形で参画をするという段階です。災害が起こったりするとわれわれは社員募金をしたりするのですが、メールで寄付の案内をして、クレジットカードやEdy(電子マネー)で、すぐに寄付ができるようにしています。


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とよた日本語学習支援システム [2008年12月11日(Thu)]
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 とよた日本語学習支援システム(愛知県豊田市)
       
執筆者:鈴木暁子(ダイバーシティ研究所)
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愛知県豊田市は、自動車産業が集積する東海地方の中核都市であり、欧米からのビジネスパーソンの来訪も盛んな「国際都市」である一方、人口の3.9%にあたる約1万6千人の外国人の住民が暮らす「多文化共生都市」でもあります。外国籍住民を国籍別でみると、2008年5月1日現在で、ブラジルが最も多く7,896人、次いで中国が2,839人、韓国・朝鮮が1,575人となっています。

この背景には、1990年の入管法改正で、日系人に就労制限のない「定住者」の在留資格が与えられたことにより、中南米からの日系人が急増したことがあります。彼ら/彼女らは、東海地方の自動車産業を支える人材として派遣や請負といった形態で、製造現場で働いています。

当初、外国人は数年で帰国するとみられていましたが、現実的には滞在が長期化してきており、言葉の問題や子弟の教育、労働、医療等の問題が顕在化しています。また、雇用の面でも、外国人の多くは派遣や請負といったいわゆる「間接雇用」であり、景気によって左右される不安定な雇用形態や、雇用期間が短いために熟練した技術が身につかない、正社員化への道筋が見えないために日本での将来の展望が開けないといった課題があります。
一方で、同様な課題は、外国人が働く企業の側にも生じています。多くの外国人が製造現場で働いているものの、外国人の日本語能力を客観的に評価する指標がないために、意欲のある外国人を採用・登用することができないという悩みを抱えていました。

豊田市はこうした声を踏まえ、一定の検討期間を経た後、2008年4月年6月より「とよた日本語学習支援システム」のモデル事業を始めました。これは、市内で国際交流や外国籍住民支援に取り組む(財)豊田市国際交流協会や国立大学法人名古屋大学、豊田商工会議所、、NPOといった関係機関の協力を得て、豊田市が立ちあげた同市における日本語学習支援のプラットホームです。実際には、日本語学習の教材開発やガイドラインの策定、専門人材の育成・派遣、日本語能力の判定方法の開発、インターネット学習のための環境整備を行い、2010年からの本格運用をめざしています。


 

企業内の日本語教室(写真提供:とよた日本語学習支援システム事務局)




誰でも、どこでも、いつでも 学べる 日本語学習環境づくり
 

このシステムの最大の特徴は、包括的かつ持続可能な日本語学習の環境づくりを、地域全体で構築しようとしている点です。学習内容も、地域で暮らす生活者の視点が強く意識され、地域コミュニティでのトラブル防止や相互理解が進むよう、外国人が日常生活で最低限必要な日本語能力を習得できる構成となっています。

また、日本語教室の運営のノウハウもガイドライン化される予定で、多様な教材や学習方法、教室の運営方法を想定し、日本語教室の主催者がガイドラインに沿ってカスタマイズできるように設計されています。今まで、地域のボランティアグループ、国際交流協会、学校、企業といった関係団体が別々に担ってきた日本語教室を、地域のしくみとして構築しようとしている点が目新しいといえます。

 2008年度には2社で、企業内での日本語教室がスタートしています。その中には、外国人従業員を受け入れている企業と従業員を派遣している派遣会社が協力して、日本語教室を開催しているケースもあります。日系ブラジル人の多くは間接雇用のため、勤務先の企業での日本語教室への参加には送りだし側である派遣会社の協力が欠かせないのですが、現状ではまだ課題が多く、企業内の日本語教室の開催は、先駆的な事例といえます。
さらに、今年11月にはe-ラーニングによる日本語学習サイト(ポルトガル語版)がウェブサイト上にオープンし、どこでも、いつでも学ぶことができる環境が整備されました(図表1参照)。現在の多くの日本語教室は、時間や場所が限られており、学習者が継続的に通うことが難しいのですが、e-ラーニングシステムステムはそれらの課題を解決できる手段として期待されています。次年度以降は、会話場面を増やすとともに、中国語、スペイン語、タガログ語にも対応する予定です。

図表1 とよた日本語e-ラーニング 画面



地域全体で取り組む 日本語能力の可視化

このシステムでは、独自の日本語能力の判定基準「とよた日本語能力判定」の開発を行っています。今まで外国人労働者の基礎的な日本語会話能力を判定できるような尺度はほとんど存在しておらず、このことが、外国人労働者次のキャリアを描きにくいことの要因ともなっていました。今後、就職の際に活用できる尺度が開発されれば、メリットとして次の点が挙げられます。
まず企業にとっては、採用や登用等、人事制度の基準として活用することが可能となります。加えて、企業内でのコミュニケーションの改善が製品の品質管理の向上にもつながることが期待できます。また外国人労働者にとっては、日本語能力が雇用に直結すれば、学習への大きなモチベーションとなり、日本語を習得することにより将来にも展望が開けてきます。このように、全員がメリットを実感できる制度設計は、多文化共生というテーマに、地域いう横軸を通したことで初めて可能になったといえます。




日本語の習得で、ひろがる仕事の選択肢

米国に端を発した世界的恐慌により、東海地方の製造業の現場においても、日系ブラジル人をはじめとする非正規雇用者が解雇され、地元自治体では、解雇された外国人労働者への対応が急務となっています。派遣会社の寮からの退出を迫られている外国人も多く、住宅の確保や当面の生活維持が喫緊の課題です。
とよた日本語学習支援システムでコーディネータを務めている土井佳彦さんはこう指摘します。
「この危機的ともいえる状況に直面し、自治体は緊急性が高い課題への対応に追われていますが、しかし長期的に見た場合、日本語を学び認定を受ければ、働くことができる職種の範囲が広がると思います。また、製造業以外にも選択肢が広がったり、正社員として採用されることは、日本での生活の安定を考えるうえで大きな強みになります。」

生活が安定するということは、子どもの教育にも良い影響をもたらしますし、地域のトラブル防止にも役立ちます。このような意味からも、当システムの果たす役割は大きいといえるでしょう。


【参考資料】
 とよた日本語学習支援システムウェブサイト http://www.toyota-j.com/


 いろいろな人と人との関係が、このシステムを支えています。



今の職場にきて6年目になります。日本語はまあまあできるのですが、仕事で、班長さんと日本語で話せるようになるのが、とても役立ちます。楽しいです。
 (参加者イノウエ タイチさん 来日13年)
 
ブラジル人の人たちは仕事で疲れているのに、日本語へのモチベーションを高く保つのは大変だと思います。私自身は、終了後は充実感があり、がんばろうという気持ちになります。毎週、自転車で来るので雨の日は大変ですが(笑)(日本語パートナーの門間美智子さん)


教えるという感覚はなくて、何かを共有できればという思いが大きいです。ここで生活する上で、大変な問題もたくさんあると思うのですが、日本語教室に通うことで、少しでも問題が解消できて、日本が好きになってもらえれば。(同・大山琴代さん)

「日本語パートナー」とは、日本語会話のパートナーとなるボランティアです。

他で関わっていた日本語教室と比べて、笑顔が多いです。コミュニケーションの取り方や相互のやりとりが重層的なので、関係性も深まるのだと思います。(プログラム・コーディネーターの北村さん )


企業内の日本語教室(写真提供:とよた日本語学習支援システム事務局)



森林ノ牛乳(後編) [2008年12月09日(Tue)]
自然と人間の関係を見直すきっかけに


 森林ノ牧場の隣には、アミタが3年半前から運営委託されているバイオガス発電施設がある。日本でも有数の大規模施設だが、ここでは、集められた食品残渣をメタン発酵させて、ガス発電が行われている。
 メタン発酵の副産物として得られる堆肥や液肥は、現在、冬季牛たちが食べる保存用の草の肥料として用いたり、近隣の田畑に還元され米や野菜づくりの一助となっている。

「現在日本では、過疎化により、8000近い限界集落があると言われています。こうした地域に、収入源となる仕事をつくることで、過疎化の流れを食い止めることができるのではないでしょうか。そのためには、多くの人が仕事に携われるよう、持続可能な収益事業にすることが必要です。日本の林業や農業を促進するには、まずは林業や農業が、経済的に成り立つものでなくてはなりません」(佐藤さん)

 京丹後で行っているバイオガス発電や森林ノ牧場は、自然と人が関わるなか、地域内で資源を循環し、人が経済的に自立していく関係をつくるための試みだという。


牛乳から食文化を見直す

森林酪農を見て、まず驚くのは、なんといっても、森に牛がいること。
「一般に売られている牛乳パックにも、草原で飼育されている牛のイラストが使われていますが、実際、草原で放牧されているケースはほとんどなく、多くの場合、牛は牛舎につながれて飼育されています。」(佐藤さん)
急斜面に牛が放牧されていることについては、「45度の傾斜でも大丈夫」(佐藤さん)とのこと。さらに、365日野外に放牧していることにも驚く人が多い。気温がマイナス20度程度まで下がっても、大丈夫。牛は結構強いようだ。

「よく、搾乳のときに、どうやって牛を呼び寄せるのかという質問を受けます。森林ノ牧場の牛は、決まった時間になると自然に搾乳する牛舎前に集まってくるのです。朝と夕方、これを繰り返し、搾乳が終わると森に帰っていきます。広い敷地で酪農をやると、一頭一頭呼び寄せるのが大変なのでは、と思われるのですが、牛は、はったお乳を搾ってもらいたくて、自然に集まってくるようです」(鎌田さん)と、森林酪農の特徴を話してくれた。




(写真説明)牧場のとなりに建てられた牛乳プラントは、
地域で採れた藁に土を塗って建てられた「ストローベイルハウス」(藁の家)。
温度と湿度を平準化する特徴があり、夏涼しく、冬は暖かいそうだ。




最も驚いたのは、多くの酪農牧場にはオス牛がいないということだった。ほとんどの場合、「授精師」による人工授精によって、メス牛は妊娠する。オス牛の存在は、牛乳の生産においては収入には結びつかない。と考えれば、オスのいない牧場というのは、合理的なのだろうが、違和感は否定できなかった。

一方、森林ノ牧場では、オスとメスの牛を飼い、自然交配をさせているとのこと。牧場は当初、オスとメスの牛、約10頭でスタートし、一年で子牛が6〜7頭生まれている。
話を聞けば聞くほど、一般的な多くの酪農においては、牛乳が食卓に届くまでに、いかに牛の飼育や出産が自然な形ではなく、人間によって操作されているかということを痛感せずにはいられない。

「事実を知り、自然な方法で生産された食品に目をむけていけば、一般に流通している食品よりもコストがかかることを、お分かりいただけると思います。牛乳の価格が水よりも安いのは、どういうことなのか、おかしいと思いませんか。私たちは食文化を軽視しすぎてきたのではないでしょうか。今こそ、『食』というものを見直し、生産者は自然と人間の持続可能なバランスのなかで、第一次産業を成り立たせていく。消費者は供給される食べ物に、適正な価値を払っていく。そうでないと、農業や林業をはじめとする第一次産業の担い手はいなくなってしまうでしょう」(佐藤さん)

数年以内に、森林酪農を成功例として社会に提案したいと佐藤さんは語る。現在の収益源は乳製品だが、森林空間を活用したキノコ類の生産や、自然体験教室などの開催も、今後の視野に入れている。(フリーライター 奥田みのり)


【関連情報】

アミタ株式会社
本社 :〒102-0075 東京都千代田区三番町28番地
Tel :03-5215-8274 Fax: 03-5215-8505
ウェブサイト:http://www.amita-net.co.jp/
森林ノ牧場 http://www.amita-net.co.jp/ushimori/

森林ノ牧場でとれた牛乳を使ったアイスクリームは、ウェブサイトで販売中。
森林ノアイス http://www.rakuten.co.jp/ushimori/


終わり


森林ノ牛乳(中編) [2008年12月09日(Tue)]
こだわりのノンホモジナイズ  クリームラインのできる牛乳


自然放牧のなかで、野草などを食べて育つ牛からできる牛乳、「森林ノ牛乳」を飲んでみた。牛乳特有の匂いはなく、さっぱりしているが、コクのある味だ。「人によっては、昔の牛乳の味がすると言ってくださる方もいらっしゃいます」(佐藤さん)

牛乳瓶のフタをあけると、牛乳の上部が豆腐のように固まっている。これは、「クリームライン」と呼ばれるもので、塩の入っていないバターのような味がした。イギリスで「クロテッドクリーム」と呼ばれるクリームラインは、パンやクラッカーとも相性がいい。どうして、一般に流通している牛乳は、クリームラインができないのだろうか? その秘密は、「ノンホモジナイズ」という方法にあった。


飲むだけでなく、食べる牛乳

 「ノンホモジナイズ」とは、生乳に含まれる成分を「均質化」(ホモジナイズ)する処理を行わないこと。均質化しないため、生乳に含まれる軽い脂肪球は、牛乳の上のほうに固まる。これが、「クリームライン」になる。しかし、一般の牛乳は、均質化を行い、他の成分と混ざった状態であるため、細かくされた脂肪球は、上部に浮くこともなく、クリームラインはつくられない。森林ノ牛乳は、飲むだけでなく、食べる牛乳でもあるといえる。

また、森林ノ牛乳は、63度で30分時間をかける低温殺菌を行っている。「低価格化と効率化を考えると、30分かけるよりも、120℃以上で1秒から3秒間殺菌する超高温瞬間殺菌のほうが手間がかかりませんが、牛乳本来の風味を味わっていただけるよう、低温殺菌をしています」(佐藤さん)

ホルスタイン牛に比べて、森林酪農に適していると言われるジャージー牛の乳は濃厚だと言われている。さらに濃厚な飼料を与えると、乳はより濃厚になるが、森林ノ牧場では、森林に生える自然の草を主に食べて生活している。農薬とも無縁の天然の草である。

「夏草が青々としている時期に牧場を訪問した際、牧場で働くスタッフが、『今日の牛乳は草の味がする』と言うので、半信半疑で飲んでみたら、本当に草の香りがしたのには驚きました。牛が食べたものによって牛乳の色が微妙に変わるようです。緑の草をたくさん食べる春や夏は、若干黄色っぽくなりました。夏と冬では牛乳の色が違っていますね」と、経営戦略本部・カンパニーデザイン部・広報チームの鎌田紗織さんは説明する。

現在、森林ノ牛乳は、森林ノ牧場と、ジェイアール京都伊勢丹のみで販売している。「おかげさまで、伊勢丹さんではお昼頃には完売してしまうようです」(佐藤さん)関東圏の人にとっては、欲しくても買うことができない森林ノ牛乳だが、2008年11月には、栃木県那須郡に新たに森林ノ牧場がオープンしたこともあり、2009年の夏頃には、関東地方でも、森林ノ牛乳が購入できるようになる予定だという。
                                                 
                                         鎌田紗織さん      
                         (経営戦略本部・カンパニーデザイン部・広報チーム)


アニマルウェルフェア(動物福祉)の視点から

「全国に向けて大量生産、大量供給するのではなく、地産地消をモットーに、近くの山の恵を、近くに住む人に味わってもらう。そんな自然と人間の関係性をつくりたいと考えています。また、牛乳の産地を見たいと思ったときに、実際に足を運ぶことができる場所に牧場があることも理想です。」(佐藤さん)

牛が自由に放牧されていることは、「アニマルウェルフェア」(動物福祉)の観点からも新たな価値を社会に提示している。「そうでなければ、この値段で買ってはもらえないでしょう」(佐藤さん)森林ノ牛乳は500mlで630円で販売されている。
森林ノ牛乳の味はもちろんのこと、日本の森林、農村の営みと、そこから享受する自然の豊かさも一緒に味わってほしいという。「牛乳を介して、豊かな時間をご提供できれば」と、佐藤さんは言う。



森林ノ牛乳(前編) [2008年12月09日(Tue)]
ケーススタディ:CSRな一品

このシリーズでは、CSRの考え方がギュッと詰まった「商品」や「サービス」を、「CSRな一品(逸品)」として、市民をはじめとした読者の皆様に分かりやすく、ご紹介していきます。



 森も牛もハッピーに

人間と自然の共生から生まれた「森林ノ牛乳」



牛乳がどうやって生産されるのか、考えたことがありますか?
広い草原に、放牧されている牛が、のんびりと草を食べている。そんな風景をイメージする人が多いのではないでしょうか?

今回ご紹介するのは、アミタ株式会社の「森林ノ牛乳」です。名前から想像されるように、森林で酪農を行い、生まれた牛乳です。牛は、草原ではなく森林に放牧されて、のびのびと育ちます。自然にオス牛とメス牛が交尾して子牛が生まれ、お母さん牛のお乳を、できるだけ自然なかたちでビンにつめたのが、森林ノ牛乳です。

森林ノ牛乳のように、放牧された牛で牛乳を生産しているところはごく一部で、ほとんどの牛乳は、牛舎で飼育され、人工受精で妊娠した牛のお乳を使っています。
森林ノ牛乳を知れば知るほど、「こんな牛乳、ちょっとない」と思うでしょう。今回は、そんな森林ノ牛乳が生産されている京都府・京丹後市にある「森林ノ牧場」について、うかがってきました。



                        アミタの「森林ノ牛乳」



廃棄物に新たな価値を与える技術を応用して、
「森林酪農」で、森林を甦らせる


「廃棄物」という一度役目を終えた資源に、もう一度価値を与える事業(再資源化・リサイクル)を行ってきたアミタ。こうした事業を行うアミタが、「森林ノ牧場」をオープンし、自然放牧型の酪農を森で行っているという。なぜ、廃棄物のリサイクルを行うアミタが、酪農に着手したのだろうか。

アミタの持続可能経済研究所・地域デザイン部部長の佐藤博之さんに聞いてみると、「ものづくりの国、日本は製品づくりに欠かせない原材料や燃料を海外からの調達に依存してきました。アミタはものづくりの現場で『廃棄物』だと思われているものを原料や燃料に加工・転用する技術やノウハウで、捨てられているものを資源に変えてきました。同じ考え方で、放置林に価値を与えるため、森林での酪農を始めました。」そこで、放置さている森林についても説明してもらった。

「かつて人間は、里山から薪炭材や山菜類といった自然の恵を享受していましたが、今では、里山が必要とされなくなり、放置され、荒れてしまっています。また、日本の森林の約4割を占める人工林も、林業の衰退に伴い管理されず、材も空間も利用されずに荒廃が進んでいます。そこで私たちは、価値がないと思われている森林に価値をつけ、山の利用が経済的に成立するしくみをつくることができれば、放棄も荒れることもなく、森林と人間のバランスのとれた関係を取り戻せると考えたのです」(佐藤さん)


日本初となるFSCの認証事業に着手

森林に価値をつける営みとは−−。アミタは1999年、日本で初めて、持続可能な森林を認証するFSC(森林管理協議会)の認証事業に着手した。FSCは適切な森林管理を認証する制度で、環境に配慮した森林経営が求められるだけでなく、地域に働きやすい場所を提供したり、木材以外の収入源の確保に努めるなど、社会的、経済的な配慮も求められている。日本で初めてFSC森林認証を取得した三重県の速水林業の森林をはじめ、アミタは、日本における数多くのFSC森林認証の審査を手がけている。



「FSC森林認証に関わるなかで、森林の大きな価値や可能性を知ることができます。一方で、燃料が木炭から石油に取ってかわり、木材の多くを価格の安い輸入に頼る昨今、木材のみに森林の価値を十分に見出すことが難しいという現状に直面し、森林の価値は木材の供給源としてだけではないはずだと考え始めました。

そんなとき、『山地(やまち)酪農』と出会ったのです。山地酪農は、山間地で行う放牧型の酪農のこと。ここから発想を得て、林業と酪農を組み合わせ、林間で酪農を行えば、経済的に成り立たないだろうかと考えたのです。アミタでは、これを『森林酪農』と名づけ、実行することにしました」(佐藤さん)

「森林酪農なんて、成り立つわけがない」というのが、世間の評価だったという。「アミタが成功モデルを示さなければ、誰もやりたいと手を上げてくれないと思い、手探り状態で始めたのです」(佐藤さん)そして2007年、酪農事業に着手し、同年12月には、京丹後に森林ノ牧場をオープンした。

      
佐藤博之さん
(アミタ持続可能経済研究所・地域デザイン部部長)



相性のいい林業と酪農

「牛を森に放牧すると、草を食べてくれるので、林業に必要な下草刈りを代行してくれるのです。その他にも、牛(1ヘクタールに1〜2頭の割合)が野山を歩くことで地ならしが行われますし、適度な糞尿は山に栄養を与えてくれます。牛を放し飼いにすることで、これまで人がやっていた作業が軽減され、管理しやすい環境になるのです。」(佐藤さん)

林業は樹齢50年以上の大木でないと、収入にならないことが多い。木が大きくなるまで、借金で食いつなぐことも厳しい。一方、酪農は、乳製品の販売など、短期的な収入を得ることが可能。よって、酪農で日々の暮らしを成り立たせ、長期的に森林を管理していく−−というやり方に、アミタは可能性を見出した。

「林業で行われる間伐は、大径木を育てるために行われますが、成果が現れるのは50年以上先のこと。しかし、間伐によって、太陽の光が森の中に届き、草木の生育を促進することは、酪農にとって、牛の餌が継続的に得られるというメリットになります」(佐藤さん)

半世紀以上先のために行ってきた間伐が、日々の収入につながることで、間伐を行うモチベーションが強まる。放置林の減少にも一石投じることになる。
また、森林酪農は里山で深刻化している獣害の軽減にもつながる可能性がある。牛を自然放牧するようになってから、イノシシは牧場内の森からは姿を消したという。牛が草を食べて茂みがなくなったこともあるが、大型動物の牛の存在は、イノシシにとって脅威なのだろうと、佐藤さんは言う。

こうして、潅木や倒木で人間が歩けるような状態ではなかった山は、牛が草木を食べ、地ならしをすることで、人間が作業しやすい状態になった。「牛は一日30〜40キロくらい草木を食べるので、放牧から一週間くらいで、1ヘクタール程が見違えるほどきれいになりました。人間の作業は牛の助けによってだいぶ軽減されました。山の管理は、人間と牛の共同作業ですね」(佐藤さん)

地元の人からは、山に人がキノコ採集や、薪拾いで入っていた頃の、きれいな山が戻ってきたね、と言ってもらえた。




(写真説明)森林ノ牧場の日常風景。
山には、牛の餌となる草も木の葉も生息している。
輸入飼料に使われている場合の多いポストハーベスト農薬の心配もない。


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